62話Five2/さらなる変異

「グ、アアアアア!!!」


 変化が止まり複数の細長い腕や足、自重を支えられないほど肥大化した身体へと姿を変えた変異体を見てアンナが嫌そうな声を漏らした。

 この見た目、動けなさそうですけど。


 細長い腕や足を器用に扱い、甲羅に身を包んだ個体を抑えこもうとする光景見ながらファイアキュートを再び生成しつつ更に距離を取る。

 奴の腕はよく見ると、伸縮しており見た目よりも射程が長い。そして、数が多く例に漏れず力も強いようで、甲羅に身を包んだ個体は足を絡めとられ無理矢理押し倒されたのち、立ち上がろうにも押し込まれ立ち上がれずにいた。


 出来れば射程外から削りたいですね。

 ユニーちゃんの謝罪の言葉がテレパシーを通じて頭に響く。

 そう、現状1人だけになってしまっている。前衛が誰か来てくれれば気兼ねなく攻撃に専念出来るのだが、今はそうもいかない。現状は変異体同士が争っている状態だが、2対1の構図となってしまった場合、勝てる見込みはまずないからである。


「とはいえ、ただこうやって眺めている分けにも行きませんし」


 狙いを定め、ファイアキュートを放った。

 甲羅を纏っている方は、彼女を無視しており敵意が感じられない。つまり、この場合は下手に刺激せず此方に擦り寄る形で攻撃して行くこととなる。

 放たれたソレは、細長い腕に命中し弾き飛ばすと燃え塵のように消えていく。

 これまでと様子が変な事が引っかかりつつも、甲羅を纏っている個体に攻撃を当てないよう注意を払い、押さえつけている腕を少しづつ削っていく。


 程なくして、押さえつけていた腕を振り解き甲羅を纏った変異体が雄叫びを挙げながら立ち上がると、距離を取るようにして此方に近づいてくる。

 思わず身構えると、アンナを庇うような位置取りをし、伸びる腕を掴み引きちぎっていく。


「アり、ガトう」


「えっ、え? ……あー、ど、どう致しまして?」


 想定外の言葉に、アンナの顔が引きつる。

 一応、敵のはずですよね……?

 すると、1本の矢が飛来し、伸びる複数の腕の1つに突き刺さる。が気にも止める様子はなく、千切られた腕や、燃えたはずの腕が随時再生し回復能力がある事が伺える。


「思ったのと随分と違うな……」



 そうぼやきながら、屋根伝いに1人の弓を装備兵士


が現れる。そして、何処かで見た事がある顔であった。


「それを言うなら、状況"も"だな。アンナ、そこの硬そうなのは仲間でいいのか?」


 背後からガリアードの声が聞こえ、ファイアキュートを左手に出すと質問に答える。


「仲間という分けではありませんが、敵でもないようですので流れでこのような状態に」


 彼が隣に立ち、了解。と短く答え目線だけを向け、彼の姿を見ると思った事をそのまま口にする。


「随分とボロボロなご様子ですが、大丈夫ですか?」


「問題ねぇ。それよか、スノージュームの時みたく同士討ちは困るぜ」


 彼は更に歩を進ませ、手に持つランスで迫る細長い腕を振り払っていく。


「分かってますよ!」


「ならいい、頼りにしてる。おい、そこのも急に俺らに攻撃すんなよ」


「はイ。分かっテ居まス。"隊長"」


「……ならいい。この後リネが来るか━━」


「おい、バカリアード!! 早く動きやがれこちとらもう矢が切れそうなんだよ!!」


 ずっと弓を引き援護していた兵士が叫び、ガリアードは接近した腕を蹴り落としランスを突き刺すと消えていく。


「わーってるけど、まだリネが回り込めてねぇんだよ!」


「うるせぇ!! なんとかしやがれ!!! それがてめぇの仕事だろがよ!!!」


「へいへい」


 っち、態度でけーな。と、彼がぼやくと聞こえてるぞ。と、返答が来て苦笑いを浮かべる。

 すると、化物を挟み路地の向こうから肩で息をするリネの姿が映った。


「お、んじゃま」


 ランスの先を身動きの取れない化物に向け。


「やるとしますか」


 格好をつけつつそう言い放った。


「化物と魔法少女!! そこの格好つけてるバカの援護してやれ!!」


 叫び、射られた矢はガリアードに迫る腕弾き地面に突き刺さる。


「おい!! 名前省略すんじゃねぇ!」


「あ、はい!」


「了解」


 始めに、甲羅に身を包んだ変異体が動き進行方向の腕を薙ぎ払っていき、アンナはその動きに合わせコーンサンダーとファイアキュートを残っている腕目掛けて放っていく。

 そして、矢が無くなったのか屋根からの援護射撃が止む。


「まっ」


 腕を引き、狙いを定め走りだす。


「いいか!!!」 



 進行上の腕は全て消え、残った腕も引き続き攻撃をしているアンナに浄化され消滅していく。

 間合いに入り腕を突き出し、変異体の丸く肥大化した肉体にランスが突き刺さる。


「よし、思ったより━━」


「……バカリアード! 一旦離れろ、なんか変だぞ!?」


「は?」


 ランスの周囲が浄化されていき朽ちていく中、新たなに生成された腕が彼の得物を掴み、そのうちの1つが横薙ぎに振るわれ。


「なっ━━がはっ!?」


 ガリアードはランスから手が離れ、弾き飛ばされてしまった。


「言わんこっちゃない!」


 わざと残していた矢をつがえ、狙いを定め倒れこんでいる彼に這い寄るように近づく細長い腕を射抜く。

 次の瞬間、1本の落雷が変異体の本体に落ち、追い打ちをかけるようにして飛び上がったリネが体重を載せた拳を振り下ろした。


「ッ!?」


 しかし、本体はしぼんだ風船のように潰れてしまい、拳は"皮"の部分を挟んで地面に到達していた。そして、彼女の真横から、れていく本体の中から悪魔のような生物が顔を出した。

 体長は1メートルほど。体毛に覆われ、背中には羽のような物が見受けられる。


「ギョエアアア!!!」


 リネに向け鋭い爪を要する腕を振りぬくが、寸前の所で後ろに飛び退けソレは空を切る。


「おいおいおい、なんか出てきたぞ!? ありゃなんだよ!!!」


「知らないでありんす!」


 着地しつつ答え拳を作り、同時に彼女に気を取られている隙を狙って放ったファイアキュートが悪魔を襲う。


「私も知りませんよ!」


 だが、まだ残っていた皮を盾のように扱い防がれた。


「いってぇ……あんじゃありゃ」


 皮は燃え、朽ち消えていき中から出てきた変異体は鼻を鳴らしながら警戒するように周囲を見渡していく。


「フェーズ、5」


 甲羅に覆われた個体が呟き、唸り声を上げると片腕がはさみの形状へと姿を変えた。


「どうしますか? 力押しです?」


「待て待て待て、数は此方が有利でも連携なんざまともに出来ねぇだろうが!」


 屋根の上に居る兵士が叫ぶようにして返答する。

 確かに彼の意見はもっともだ。アンナから見ると初めて一緒に戦う人しかいない。連携が取れるとしてもこの様子だとリネとガリアードの2人が関の山。下手をすると、この2人もまともに連携が出来ないかもしれない。

 だからと言って、このまま睨み合っていても。


「ユニ」


 ワンドを振り上げ雷雲を生成すると、悪魔のような変異体は背の羽を広げた。

 このまま逃げられますよね。


「ま、選択肢は元よりないでありんすな」

 

「当たっても知らねぇぞ!?」


「平気デす」


「避けるでありんす」


「ま、なんとかなんだろ」


「……まじかよ」


 羽ばたき、変異体の足が地から離れた時。


「サンダー!」


 振り下ろされたワンドと連動するようにして落雷が発生し、地面に叩き落とした事を皮切りに各々動き始めた。

 挟むようにして左右からリネと鎧を纏った変異体が迫り、弓が引かれていた。


「ファイアキュート」


 そしてアンナはワンドを左手に持ち変え、右手にデフォルメされた犬の火の玉を生成していく。

 ユニサンダーは邪魔をせず攻撃に参加出来るが、攻撃までワンテンポ遅れるうえ攻撃位置が固定されるため扱いにくく、コーンサンダーはある程度は操作が効くとはいえ同士討ちの危険がある。


 射られた矢は立ち上がろうとしている悪魔のような変異体が振るった腕に弾かれるも、一瞬の隙を生んでいた。

 リネは滑りこむようにして懐に飛び込み、振い伸び切った腕を左手で掴むと引っ張り、腋に向け掌底を放ち即座に体勢を持ち直して、立ち上がりながら投げ飛ばそうとする。

 だが、羽ばたかせ身体を浮かせたソレを投げる事は叶わなかった。


「っち、だめ、でありんすか」 


 変異体は腕を振り上げ、彼女に向け振り下ろそうとするが迫っていた甲羅に身を纏った変異体に左の羽ごと大きな鋏で挟まれてしまった。

 そして、鋏が閉じられメキメキと低い音を響かせ、その隙にリネは手を離し地面に落ちているランスを拾い上げると放り投げた。


「サンキュ!」


 柄を掴み、ガリアードがお礼を述べると唸り声を挙げながら鎧のように硬い甲羅を蹴り続ける悪魔のような変異体の姿が映る。

 次の瞬間、パチンッと言う音と共に腕と羽が切断され呻き声が周囲に鳴り響き、再び地面に音を立てて倒れこむ。

 そしてゆっくりと、足が振り上げられ踏みつけようと一気に振り落とされるが、転がり避け逃げようと画策する。


「リネ!!」


 だが、立ち上がり逃げようとした先にはリネが先回りしており、変異体の顔を蹴り飛ばした。再び身体は転がっていきガリアードの目の前に仰向けで倒れこむ。


「ナイスコントロール」

 

 ランスは胸に向かって振り下ろされ、貫き地面にまで到達する。


「グギ、ギャアアアアアアアア!!!」


 悪足掻きをするように腕を突こうとするが、火の玉が飛来し腕に命中、燃やし腕が朽ち始める。同時に刺さっているランスを中心に身体も朽ち始め動作が次第に無くなっていく。


「連携はガタガタだったが、なんとかなったか?」


「大丈夫デす。倒セてイマす」


 鋏の形状を象っていた腕を元に戻しながら、甲羅に身を包んだ個体がガリアードに話しかけた。


「後は、そいつだけだな!」


 最後の矢をつがえ、屋根の上に居る兵士は残った変異体を狙う。


「……今日は助かった。いけ。ほら早く」


 が、彼は逃げるように促し、化物は一礼すると走って逃げていく。


「お、おい! いいのかよ!?」


「多分あれ攻撃通らねぇし、今の俺とお前ほぼ戦力外だろ? で、ユニーの話だとアンナも万全じゃないとなると下手に敵対するより見逃した方がいい」


 その場に座り込むアンナに目線を向けながらそう言いこう続ける。


「殺り合うなら、万全の状態ってな。っと、やっこさんの顔を改めて拝んで」


 目線を朽ちていく変異体に向ける。


「やらねぇ……と、あら?」


 だが、話にあった"人"が出てくる事はなかった。


「何も居ないでありんすな」


 周囲を見渡すリネに。


「あぁ~? もう、俺何も知らねぇ……」


 屋根の上の兵士は、呆れ声でそう返す。

 そんな中、アンナの脳内ではてろり~ん。という音が鳴り響き、当たらな情報が開示されていた。


★新規の情報が追記されました。

 フェーズ5:フェーズ4から進行した状態です。完全に変異し、元の姿には戻れません。理性もなく、こうなってしまった場合、暴れ狂います。また[浄化]効果を持つ魔法少女の魔法が毒となり、浄化できずに消滅してしまい死亡します。よって助ける手段はありません。


「……え?」

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