61話Five2/本命
「もう補足されたか」
近くで打ち上がった色がついた煙を見上げながら、フードを深く被った男が呟いた。
動きが予想以上に早く、人気の多い表通りは警戒され、数は少なくはあったが兵が捜索に入っていた。よって、他に逃がした連中を四方に散らして囮とし、人気の少ない裏路地をメインで通っていた。
「牢屋の中の奴全部出した方が良かったんじゃないのか?」
歩を進ませながら、脱獄したラウスは口を開く。
「お前から見ればそうであろうな。だが、"我々"から見れば事態を大きくしすぎるのは不都合でしかない」
「……そうなのか。もう手遅れに思えるのだが」
「立場が違えば見え方が違うものだ。覚えておくといい」
「それはどういう……」
路地を曲がると1台の馬車が2人の瞳に映る。
「詳しい話は後だ。まずは屋敷の方に向かわない事には━━」
すると、何かが馬車の上に落下し轟音と共に破壊しながら砂煙を巻き上げる。
「なんだ!?」
砂煙が晴れ、蟹のような甲羅に覆われた1体の化物の姿がそこにあった。
腕には盾のようなモノが生え、口からは白い煙が吹き出していた。
「フェーズ4!?」
「だと、どれだけ良かった事か。気をつけろ。俺の推測通りなら、コイツは俺達を追っている連中いや、恐らく魔法少女より手強いぞ」
化物の目が、2人を捉えゆっくりと口を開く。
「見ツけタ。……許さナい」
◇
煙を確認し、降下して合流した俺達は打ち上がった目印に向かって裏路地を突き進んでいた。
「先程の音はなんだろうね」
先程鳴り響いた轟音に対しシーラは口を開く。
「もう、戦闘が始まったんじゃないか!?」
だとするとまずい。早く現場に着かないと。
すると、家を挟み反対側で何かを破壊するような音が聴こえ、急速に此方にに向かって何者かが迫っている事を感知能力で察知した。
俺は敢えて止まり、受け止める形になるように位置取った。
「ユ、ユニーちゃん!?」
「プロテクト!」
次の瞬間、変異した汚れた者が2体家の壁を突き破って現れ、一方が俺の張った防壁に押し込まれる形で激突した。
「ッ!? 魔法少女か!!」
変異体は素早く周囲確認するとそう呟き、一緒に突き破ってきた変異体を押しのけると逃げるように跳びのけた。
この様子、戦ってるのか!? 変異体同士で!?
と、思考を巡らせていると突き出されていた拳がプロテクトに直撃し、金属が擦ったような音と共に押しのけられるように飛ばされる。
「まじかよ!?」
向かいの壁に激突し衝撃が体を走りぬける。
「コーンサンダー!」
振られたワンドの先から雷撃が、まるで斜めに振り下ろした剣の剣筋のように走り抜け甲羅に身を包んでいる変異体を襲った。
直撃はしたもののダメージが入っている様子は見受けられない。
「ゲホッ、ゲホ……」
『大丈夫ですか?』
デフォルメされた犬の炎の玉を生成しつつ、アンナはテレパシーを送ってくる。
しかし、甲羅に身を包んだ変異体は彼女を無視するかの如く背を向け、傷だらけで肩で息をしている変異体に目を向ける。
『なん、とか』
シーラの姿はいつの間にか消えており、4人を不気味な静けさが襲う。
この様子、目的はやはりあの変異体。仲間割れなら楽だが、そう安々と此方の思惑通り事が運んじゃくれないだろうな。
『アンナ、動きがあったら奥の方の変異体に攻撃を集中してくれ。攻撃されそうなら後退して時間稼ぎ優先で頼む』
エミリアがこの場にいない以上、落とせる奴から先に削っていって戦力を
『分かりました』
最悪時間稼ぎが出来れば、戦力は集まってくる。俺がやるのは盾役かエミリアがよくやる行動の制限。いや、まずは居るかもしれないもう一体の索敵か。下に居たほうが感知能力が活かしやすいと思ったけど、上に居た方が良かったかなぁ。
一番最初に動いたのは、甲羅を纏った変異体であり雄叫びと共に前に出た。それに合わせて、アンナがワンドを振り上げ、距離を一定に保とうと追われている変異体が後退を始める。
「ユニ」
雷雲を標的となる変異体の"やや後ろ"に発生させ、俺は上空へと飛び上がった。
「サンダー!!」
振り下ろされたワンドに連動するようにして一筋の落雷が発生し、後退していた変異体の身体に直撃し、動きが著しく鈍くなる。
すると、甲羅を纏った個体が間合いを詰め両腕で挟み込み。
「こノまま、潰レろ」
力を込め、胴体を潰し切ろうとする。
その光景を見下ろして、すかさずテレパシーを送る。
『アンナ、すまんが甲羅の方を攻撃してくれ!』
『了解です』
返事と共に予め準備していたファイアキュートを放ち、コーンサンダーを甲羅の隙間を縫うように当てる。
だが、びくともせず雄叫びが周囲に響く。
まずい。このままだと浄化する前に、死━━。
突如家のが破壊され、砂煙は舞い上がり、変異体2体を飲み込む。そして、上空から見下ろしていた俺の視界は、突然地面へと差し替わった。
直後、何者かに抱きかかえられ話しかけられる。
「突然で済まないけど、此方に呼ばして貰ったよ」
声の主はシーラであった。となれば、テレポートさせられたのだろう。
そして、移動しながら話は続く。
「見つけたのは良いんだけど、これが結構厄介でね」
周囲は民家の中であり家具や装飾品が滅茶苦茶になっていた。そして、先程壁がぶち抜かれた箇所と思われる前に立つと俺を手放す。
穴の向こうでは、新たに加わった変異体が挟まれていた個体を庇うように立っている光景が映る。
その変異体は片腕がカマキリのような鎌になっており、足がバッタの後ろ足のような形状となっており身体の大部分は人の形状を保っているモノであった。
「"見たことない"タイプでちょっと、混乱してるんだけれども、ユニー君は何か知っているかい?」
「……いいや」
目だけが此方を捉え、背筋が凍るような感覚が襲った瞬間、攻撃が迫っていることを理解しまたもや視界が突然切り替わった。直後、すぐ下で爆発したような音と共に砂煙があがる。
「何も、知らない」
今度は屋根の上であり、シーラは顎に手をあて下の様子を伺い始める。
「ふむ。だとすると、アレが特異個体なのかな?」
「特異個体?」
下では甲羅を纏った個体を挟む形で、アンナと2体の変異体が睨み合っている状態であった。
「詳しい事はボクも知らないのだけれどね。そういうのが居る見たいなんだよ。けど、そうなると甲羅の方が何かって話になるし、何かボク達が知らない所でややこしい事になってそうだね」
◇
「たす、かった……」
甲羅に挟まれ、絶命の危機に直面していたが、半分ほど変異した個体の乱入時による攻撃で解放され難を逃れていた。
「気にするな。それより、この状況は少々まずいな」
そして、猪突猛進の如く攻撃していた甲羅の個体は、周囲の状況を確認し始め魔法少女は火の玉を生成して隙を伺っていた。
「確かに。何かいい案はないのか?」
「ない事も、ない」
「あるなら、ならその案を使って切り抜けよう」
「……分かった。お前が"それでいい"ならば」
彼はそう言いながら、服の内ポケットから筒状の何かを取り出し蓋を開けると針が顔を出す。
「加担していた薬の成果を、その身で堪能してくれ」
そして、針を彼に突き刺し、何かを注入する。
嫌な予感を感じたアンナが火の玉を放つが、鎌で切り払われた。
「がっ!? 何、を……!」
ボコボコと肉体が肥大化と縮小化を繰り返し、肉体が更に変異を始め。
「何、安心しろ」
異変に気がついた甲羅を纏った変異体が走って間合いを詰める。
「ただの"促進剤"だ」
半分ほど変異した男は簡易の注射器を投げ捨て前に出ると、近づく甲羅を纏った個体の前に立ちはだかった。
だが、雄叫びと共に振るわれた腕を避けると、バッタのような足を使い甲羅の身体を蹴って後ろに大きく跳び相方を捨て撤退を始めたのだ。
「存分に時間を稼いでくれよ」
発生した雷雲から発生した落雷が、更に姿を変える変異体に命中しダメージを負わせる。が、すぐに別の姿へと変わりダメージを受けた箇所を覆い隠していく。
「助手君! 今攻撃してもあまり意味はないよ!」
屋根の上からシーラがそう叫び、一服置くとこう続け。
「このタイミングで都合よく、悪化するわけはないよね。ユニー君。悪いけどボク達はあの逃げた個体を追うよ」
彼女は俺を掴むと走り始める。
「ちょ、ちょ! あれはどうするんだよ!!」
「気は進まないけど助手君達に任せる他ないよ。それ以上にあれは逃がしちゃいけない存在だからね」
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