60話Five/陽動

「只今、到着しました~。って、シーラさんなんで居るんですか?」


 魔法少女の格好で現れたアンナは、真っ先にこの場に居るシーラに疑問を持つ。

 そう言えば、説明一切してなかった。


「ジェームズー。ホドホフのおっちゃんから音花火もろーって来たよ」


 馬を駆けてきた彼は、音花火なるもの物を詰めたリュックをジェームズに投げ渡した。


「さんきゅー! ユニー達は先行ってくれ。俺達もコレ配ってバラけるからよ」


「おう、了解だ。2人共行くぞー」


 俺達も出発し、捜索に入り移動中にテレパシーでシーラが居る理由をアンナに掻い摘んで説明していく。


『なるほどー。ユニーちゃんが待ってたのは連携優先だからです?』


『と言うより、ツバキ、リアちゃんは機動力がありすぎて付いて行くのが大変なのと、ガリアード達はいらんだろ。だからといって単独で出ても今の俺1人じゃどうにもならんし』


 特にあの2人は本気で動かれると付いて行けない気すらする。そして、現状エミリアは先に動かした方が存分に生きる。ジェームズもそれが分かった上で、先に出したのだろう。そして、先程煙が上がった所へは行くなと釘も刺された。此方は恐らく陽動と踏んだと思われる。


「一度上がって周囲見ながら飛ぶから、シーラ。移動中アンナの護衛頼む」


「任されたよ」



「っと、っと! やりづれぇ」


 伸びる腕を駆使して繰り出される斬撃を的確に防ぎながら、ガリアードは後ろに跳び後退していく。

 リアには、2人も此処で足止めされるのは不味い。と言いこの場から離れるように指示を出していた。


「さっさと切り刻まれてくれよ、なぁ!!!」


「やな━━」 


 腕ごと横薙ぎに振られた剣を、しゃがんで避けると槍を構え直し前方に向け跳躍する。


「━━こった!」


 この伸びる腕は伸縮性もさることながら、皮膚が固く傷を付けるには少々骨が折れる、と言った状況であった。

 奴は勢いよく伸ばしていた腕を元に戻し、突かれた槍を手元にまで戻ってきた大剣を盾のように扱い防いだ。

 一度槍を引き、足に向け続けて突く。体勢を変えられ掠める程度であったが、傷口から鮮血が流れ腕ほどの強度はない事を確認する。


「ちぃ!」

 

 大剣を振り下ろされガリアードは体を傾け避けるも、即座に剣を手放し体当たりされ彼は吹き飛ばされた。


「がっ!?」


 衝撃が全身を走り抜け、仰向けに倒れ込む。

 

「くっそ。手こずらせやがって」


 パトリックはそうぼやきながら、腕を伸ばし地面に突き刺さっている剣の柄を握る。

 意識が飛んでいる分けではなかった。動けないほど体が痛む分けでもなかった。ただ。


「久々にまともにサシで戦ってる。気がする」


 そう呟きながら彼はゆっくりと立ち上がる。

 この戦闘を楽しんでいた。


「あぁ?」


 彼は狂気じみた笑みを浮かべながら、血反吐を吐き捨てる。


「平和だとか、平穏は大好きなんだが、ちぃっとばかし暇でよ。あんたが良いガス抜きになるな。と考えてた通りだと思っただけだ。気にするな」



「ふむ……」


 土の鎧で身を包んだ奴に、青い肌の化物が殴り掛かり盾で受け流しつつ後ろ下がる光景をツバキは屋根の上から観察していた。

 どういう分けか化物が彼女を襲う素振りは見せない。

 そして、攻撃の捌き方を見るにアイツならば土の鎧を砕ける可能性が高いときている。


「一応見に来たけど、これは中々すごい状況ね」


 背後から知っている気配と一緒に、聞き慣れた声が聞こえてくる。


「うん。利用して、倒したいから、鎧先で」


「了解。にしても、脱獄した奴って大物?」


 声の主はゆっくりとしゃがみ、屋根に手を付ける。


「さぁ? 知らない」


「そりゃそうよね。ガード」


 鎧を纏っている奴の背後に土の壁がせり上がり、退路を塞ぎ激突して動きが止まる。


「なに!?」


 雄叫びと共に、地面を踏みしめ化物は太い腕を振りかぶった。

 咄嗟に盾を差し込み、繰り出された拳を受け止めようとするが、砕かれソレは鎧まで達し接触箇所を中心にひび割れていく。


「ぐ……!」


 距離を取りつつ、剣を振るうが避けられ空を切るだけであった。

 次の瞬間、鎧が割れている箇所に矢が飛来し突き刺さる。血は流れては居ない様子だが、欠片がぱらぱらと地面に落下していた。


「まだ届かない」


 次の矢をつがえようとしている間に、発生した土の壁を伝って剣を生成しながら移動するエミリアの姿があった。

 端まで来ると、手に持っていたナイフを投げ飛ばし。


「ダッシュ」


 壁を蹴った次の瞬間、標的の横っ腹にしゃがむようにして着地。

 そして、奴はナイフに気を取られ彼女の姿を数瞬見失いその隙に鎧に触れる。


「ブレイク!」


 土の鎧が触れた箇所を中心に崩壊し始め紳士服が顔を出し、そこに目掛けて突き出された片手剣を土の剣で受け流すように軌道を変え切り返すも紙一重で避けられる。


「これはっ、魔法の無力化か!!」


 更に彼女の触れる手から逃げるように距離を取るが、今度は青い化物が両手を振り上げ待ち構えていたのだ。

 力任せに振り下ろされたソレを避けるため、転がるようにして無理に跳び家の壁に激突する。と、再生成され投擲されたナイフと直上から引かれた矢が、それぞれ無効化され修復の終わっていない足、腹部へと命中し、同時に化物の真正面で砂煙が舞い上がり衝撃が周囲に伝わっていく。

 男は即座に矢を抜き、ナイフを振り払うと再び土の鎧で身を包み、追い打ちとばかりに再び引かれた矢を弾いた。


「流石に、分が悪すぎるな。撤退すらも危うい。だが」


 動かない足を、纏っている土で無理矢理動かし立ち上がると盾を再生成していく。

━━……汚れた者は此方は眼中にないって感じね。

 筋肉隆々の青い化物と鎧を纏う男性を交互に見ながら、構え直し次の一手を考える。


 魔法の無効化は変身中1回が限度。変身しなおせば再び使用出来るが、魔力が勿体無い。

 先程の攻防で倒しきれれば良かったのだが、生憎とそう上手くはいってくれない。

 あの鎧を貫くほどの火力は、ランスを使用しての突撃ならば期待出来るだろうがコレも今土人形に所持させていて今は使えないうえに、変身を解いてしまったら消えてしまう。

 よって再変身の道は完全に手詰まりを起こした時のみ。此処から誘導して……。


 すると、道を隔てていた土の壁が突然砂煙と共に破壊され、1体の新たな両腕がランスのような形状となっているフェーズ4の姿が現れる。


「旦那様。そろそろお時間です。お戻りを」



「ゲホッ、ゲホ……」


 折れた槍が路地に鎮座し、その先に肩で息をし家の壁にもたれ掛かりボロボロのガリアードの姿があった。


「よく頑張った。と褒めてやる。息抜きにはなったか?」


 折れた槍を踏みパトリックはゆっくりと彼に近づいていく。


「十分。満足した」


「ならば、思い残す事はないなっ!!!」


 剣を持つ腕が伸ばされ、ガリアードに急接近していく。


「が、死ぬつもりもねぇよ!!!」


 屋根の上から何者かが現れ、着地すると剣を弾く。


「……門の、君とは戦いたくはなかったのだがな!!」


 天高く振り上げられた剣は、まるでギロチンのように振り下ろされ現れたエミリアの身体を切り裂いた。

 胸まで刃が通っていたが、そこから先は甲高い金属音と共にランスにより遮られていた。


「大胆だねぇ」


 そして、走り出す彼に渡すようにランスを地面に斜めで突き刺し、朽ちゆく体で大剣を抑え込む。


「なっ、離せ!?」


 剣を引きのこうと、腕を力一杯引くもびくともしない。

 更に地面から引き抜いたそれを全面に押し立てたガリアードが近づき、舌打ちをしながら剣から手を離した。


「るぅらァ!!!!」


 ランスの先が彼の腹部にめり込み、次の瞬間戻された腕を鞭のように扱い彼の体を武器ごと吹き飛ばす。


「まだっ━━!」


 体勢を横に、壁に足をつけランスを振り上げ。


「━━だ!!!」


 壁を蹴って接近し斜めに振り下ろした。

 ソレは鞭のような腕を地面へと叩きつけ、鈍く軋むような音が奏でられる。

 同時に彼も上手く着地出来ずに地面を転がっていく。


「くぅ……そが!」


 悪態を付きながら、腕を元に戻し状態を確認しつつ後ずさりする。


「勝負はこっから、ってな」


 ランスを地面に突き刺し杖のように扱い立ち上がる。エミリアの身体は完全に朽ち、土へと変わると大剣を支える事が叶わず音を立てて地面に落ちた。


「折れては、ないか」


 すると、小さく爆発したような音と共に上空で色のついた煙が舞っていた。


「あの方向は……ッ! っち、結構この町面倒だな」


「そりゃどうも!!」


 ガリアードは、そう返し前に出るもパトリックは右腕を後ろに向け、伸ばすと家の煙突を掴む。そして、腕を縮めると身体が煙突に向かって引っ張られ始め、突かれたランスは攻撃対象を失い空を貫く。


「悪いが、此処までだ」


 突如飛来する矢を、腕をしならせ体を傾け避けると屋根の上に着地し身を翻して走り去っていく。


「おいコラ、待て!?」


「ガリアード、平気か!?」


 1人の兵士が屋根を伝って近づき、そう叫んだ。


「アハティか! 今の状況はどんな感じか分かるか!?」


 これ軽っ。と呟きつつその場に座り込むと、屋根を飛び降りる彼に現状を問いかける。


「先程新たに脱走犯の2人をとっ捕まえた所だ。だが両方共、くだんのバケモノじゃなかった」


「つーことは、さっきの合図が」


「あぁ、本命だ」

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