59話Five/脱走、捜索

 ギルド正面の路上には、多くの傭兵に訪れていた冒険者が数人。更に状況説明をしに訪れている憲兵が幾人かいる姿が見えた。

 ガリアードから聞いた話によると、面会人の案内をしていた人及び脱走者を案内していた人の2人が死亡。牢獄の一部が破壊され、他にも数人怪我を負ったそうだ。

 重症の奴は居るが、不幸中の幸いにも怪我人に命に関わるような傷を負った者はいない。

 が、現在人数が足りていない兵士の数が更に減り辛くなっているのもまた事実。という事で、傭兵の出番となった。という流れだ。


 面会者も加わり更にエミリアの時の連中も合わせ、脱獄犯は合計で6人。そして、うち2人が異形の形をしていたそうだ。前回の首謀者であるユリアンと呼ばれる青年は、置いて行かれたようでまだ投獄されていると報告を受けた。

 汚れた者。しかもフェーズ4か。あの時の連中は浄化してるから、フェーズ4なのは……。

 話した方がいいのだろうが、素直に話したモノかとつい悩んでしまう。 


 その中、エミリアは変身。と呟き体が光に包まれると、魔法少女の姿へと変わる。そして、地面に手を付くとドールと囁いた。


「さて、ユニー君どうするかね? そろそろ捜索が始まってしまうみたいだが」


「……皆、待ってくれ」


 俺は所々をぼかしながら、汚れた者の事を話した。

 彼らを元に戻すのにエミリア達の魔法が必要な事も。


「なるほど。店の時やエドモン達の話はこれか。なら、見つけたらユニー達を呼べばいいんだな?」


 ガリアードがそう問いかけ、俺は首を縦に振る。


「ああ、厳密にはエミリアだけど」


 今、俺は変体が出来ない。浄化を行う事が出来ないのだ。


「とりあえず知らせればいいなら、ドホドフのおっさんが前作ったアレを使えばいい。ルチア、おっさんの所に行ってきてくれ」


「ええけど、なんてゆえばええん?」


「音花火寄越せでいい。ガリアード、腕の経つ奴連れて確保等々の動きを任せる。リネちゃんとツバキちゃんは屋根から先に捜索初めてくれ。接敵した場合は任せる」


 各々了解。と返事をするとそれぞれ行動を開始する。

 あいつは指揮能力が高く、こう言う場ではかなり便りになる。変態でなければだが。


「ジェームズ。エミリアの話だとゴールドの冒険者が来てるらしいんだが」


「俺もそれは聞いてる。が、この場にいねーんだよな。臆して逃げた。ならゴールドまでいってねぇだろうしなんか引っかかるよなぁ」


「なら、敵か?」


「短略的だ。とも言い切れないタイミングだから始末が悪い。しかもエミリアちゃんにいいよったんだろ? 死んじまえそんな奴」


 スカートをめくろうとした、奪い取る勢いだったお前が言えたことじゃないぞ。


「先に動かした連中には気をつけるようには言ってる。お前らも気をつけてくれよ。話が本当ならかなねなんだしよ。……今更だがアンナちゃんは?」


「わかってるよ。アンナは昨日負傷して休ませてる。無理にでも呼んだ方が良いか?」


「アンナちゃんには悪いけど、動かせるなら頼んじゃいたいな。後発組動かす時、極力戦力が欲しい」


「これ以上被害を拡大させないためにな」『アンナ、すまんがギルドまで来てもらってもいいか?』


 喋ると同時にテレパシーを送った。


『え、あ、はーい! 今行きますー』


『ごめんな。助かる』


「ねぇ、変態さん。あたし先動いても良い?」


 耳が動き、周囲を見渡しているエミリアがそう進言する。


「いいけど、空に何かが立ち昇って、パーンって弾ける音がしたら」


「合図ね。了解。ガード」


 そう言って、足元から土の壁を生成し、跳び上がり屋根の上に移動し早々と捜索を開始する。


「……なぁ、1つ聞いていいか? エミリアちゃんが2人居るのも魔法なのか?」 


 ジェームズは消滅していく土の壁の先に、ランスを持って佇むエミリアを見て俺に問いかけ。


「そう」


 俺は短く返答した。

 彼女の話では土人形という魔法らしい。本人そっくりの分身を1体作れ、自立や操作をある程度行え一見すると使いやすい魔法である。だが、生成までに時間を要し魔力も結構食うらしく本人曰く使いにくいだそうだ。


「ん、シーラは先に行かないのかー?」


 分身体を、興味津々に顎に手を当て眺めている彼女に向け質問を投げる。


「助手君が万全でないのならば、ボクは彼女の補佐に回るだけさ。そういう君も先にいかないのかい?」


「おう。単独で動いても意味ないしな。付いて行っても微妙そうだし」


「なるほど。おっと、忘れる前に」


 彼女は上着のポケットから何かを放り投げ、俺は慌てながらそれをキャッチする。


「それ、大切に持っててくれよ。お節介君」


 ソレは小さなチェーンであった。



「さて、捜索。と言っても」


 時計塔の上に立ったツバキは周囲をざっと見渡す。

 相手の思考、性格が分からない。一応、隠れていそうな場所や通りそうな箇所は分かるが、敢えて外すルートを通った可能性も捨てきれない。結局の所は以上手当たり次第に探す他ない状況だ。

 それに、探索や捜索と言った行動は苦手であった。


「地味に広いの、ほんと……」


 大通り、西地区、北地区と見渡していくがソレらしい人物は見当たらない。

 すると、ガーエーションで居るように言い渡していたはずのウメの姿が見え、ため息を付き時計塔を降りていき彼女の元まで走っていく。


「ちょっと、ウメ」


「お、ツバキ。ど? みっかった?」


「見つかってない。ウメこそ、戻って」


 そう言って、彼女を睨みつける。


「あはは、ごめんって。ぺっちゃんこになるぐらい気になったんだからさ」


「はい、はい。分かったから」


 すると、壁が崩れるような音がし、2人はそちらに視線を向ける。


「およ、派手だね」


「いいから、戻ってって!」


 ツバキは、矢筒から1本の矢を取り出しつがえながら走りだす。


「ほ~い。……ちょぉっと、ぺっちゃんこなお級据えたらスグに戻るからさ」


 路地を抜け、河原の近くに出ると土で出来たフルプレートアーマーを装備し、盾と剣を持った何者かが民家の壁を破壊している光景が眼光に広がる。


「な、ちがっ━━」


 そいつは彼女の姿を確認した途端、剣を振りかぶって急接近し弓を引くが鎧に弾かれてしまった。

 間合いに入り剣を振るうも、ツバキは彼の足元に滑り込みながらソレを避け、足を払おうとする。が、土の鎧から杭が伸び、足を固定し叶わない。


「っち」


 剣を逆手に持ち変え突かれ、避けるため一旦距離を取り体勢を整え直す。攻撃対象を失った剣は地面に突き刺さった。


「ほう。噂は伊達ではないな」


 杭を外し、剣を引き抜きながら彼は話しかけてきた。


「どうも」


 背中の矢筒に手を回し、奴の動きを観察する。

 まともにやり合ったとして、現状の装備では有効打を与えられる可能性はない。だからと言って簡単に逃してくれる。とも思えない。

 先程の破壊行為。明らかに此方を誘い出すためのもの。と、なれば倒すか注意を引くのが目的。簡単に見逃すわけがない。


 ツバキは息を深く吐く。

 そもそもの話、逃げた所で同じ事の繰り返し。此処で相手をする他ない。

 奴は、振り向きざまに盾を持つ手を振るい、棘のような物が複数投げ飛ばされた。合わせて彼女も家の壁に向かって跳躍し、矢筒から矢を1本抜き取るとつがえる。


 幾ら鎧自体が硬かろうと。

 土の棘は誰もいない道を駆け抜け、弓が引かれ関節部目掛けて矢が飛んで行くが、弾かれ矢は宙を舞った。


「ダメ、か」

 

 家の壁を蹴り、奴に向かって飛ぶと袖からナイフを取り出し逆手で握る。


「此処で寄るとはな!」


 腕を振りかぶり、タイミングを見計らうと横に薙ぎった。

 ガキンッ。という金属音と共に剣を受け止め欠けたナイフの破片が宙を舞う。そして、彼の力を利用し、彼の横っ腹に着地するとそのまま背後を取りナイフを投げ捨て肩を掴む。

 振り払うような行動を取りつつ振り向こうとする奴と同じ方向に向かって地面を蹴り、身体を押し上げ足を引くと兜を思いっきり蹴り跳び上がった。


「ぐおっ……!」 


 奴はよろめいたのち頭を振るい、ツバキは一回転すると屋根の上に着地する。


「倒れない、か」


「今のは効いた。身軽なうえやり辛い。こう言う手合にも手馴れている。後学にご教授願いたい所だが」


 奴は見上げそう言い放ち。


「断る」


 矢をつがえそう返した。

 家を壊して来たり、引く素振りを見せない限りはこのまま上を取って時間を稼ぐ。

 と、ツバキは考えていると奴が路地の奥で何かを見て鼻で笑う。


「貴殿はお呼びではないのだがな?」


「お互イ様ダロう。七賢人」


 老婆のような応答が聴こえ、警戒したままゆっくりと移動していき視線を路地に落とす。すると、腕が筋肉により肥大化し、牛の頭を持ち青色の皮膚に覆われた化物が瞳に写った。


「……この短期間で、どうなってるんだか」


「今度コそぺっチャんこにシテやル」



「ふぅ。いっちょあがりでありんす」


 パンパンと手を叩き、倒し気絶した脱走者2人を見下ろす。


「とりあえず、この2人を連れていけば……」


 首根っこを掴み引きずって移動しようとした時、ガリアード達が現れ掴んだそれを手放し、手を振った。


「いい所に来てくれたでありんす~♪」


「おう。って、こりゃまたコテンパンにやったな」


 伸びてる2人の様子を見た彼の顔は引きつっていた。


「徹底的にやるスタンスでありんす。何事も……」


「ん、どうかしたか?」


 リネは無言で指差し、彼はその方向に目線を向けると知った顔があった。


「朝振り、だなぁ」


「エドモン。こいつらの連行頼んでもいいか」


 小声で指示を出し。


「了解した。うけたまわろう」


「頼んだぜ。よぉ、自己中野郎。どうしたんだ。呼びかけに乗らないでよ」


 一歩前に出て、対峙するように立った。


「何、単純な話だ。"俺様の協力者"の意向でな。約束より随分と早いが」


 奴は背負っている大剣の柄に手をかけた"腕だけ"が変異を始める。


「此処で貴様をバラそうかと思ってな」


「へぇ、やれるもんならやってみろよ。化物さんよ」

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