57話Reasoning/タネ明かしといこうか
調査結果の報告。という名目でシーラは次男以外の家族を居間に集めた。
その際、アンネさんに夫さんが化粧するかどうかの質問し答えはしないと返って来ていた。
お礼を言い全員が集まるのを待ってから、咳払いをしゆっくりと話を始める。
「さて、早速調査結果を話そうと思うのだけれど、結論を述べれば君たちの父親もしくは夫のラウス氏が、犯人という事になる。つまり、もう投獄されてしまっているため既に解決している」
「そ、それは本当ですか?」
「ボクの推理……いや、仮説だとね。今回とはあまり関係はないが、一応伺おう。春にニリンソウを食べよう。と持ちかけた事がなかったかい?」
「ありました。確か母さんと、ケフィンが怖いからと、ナシとなって」
ヘルラウさんが答え、正解だったね。とシーラが返答し更に続ける。
「トリカブトの新芽とニリンソウの葉は形が似ていてね。それを利用するつもりだったのだろうね。ちなみにニリンソウは美味しいから火を通して、トリカブトと間違えなければ大丈夫だよ。生食は絶対にしちゃいけないけどね。おっと、話しが逸れたね。それで、祖母であるマレインさんの死因は包丁により刺殺ではなく、バイケイソウの毒による毒殺」
シーラは俺が見つけたを何かの欠片取り出す。
「これが台所の食器棚の下に落ちていた。これだけだと何か分からないけど、花壇のバイケイソウが植えられていた近くが掘り起こされた形跡があってね。多分掘り起こした
「ええ、最近ずっとだったからあまり気にしてはいなかったけど、すごく気分が悪そうで嘔吐までしていたから早めにベッドまで運んだわ。でも、お祖母ちゃんが毒殺なら包丁や刺殺傷はどうなるの?」
「ありがとう。それは後から説明するよ。次に毒殺と言ってもバイケイソウは……えーと」
「血圧降下剤、血管を広げて血圧を下げる薬として稀に使われますね。場合によっては嘔吐剤にも」
言葉に詰まったシーラをフォローするようにヘルラウさんが口を開いた。
「流石、欠点として副作用が酷いんだよね。嘔吐や手足の痺れ、悪感や
そう言って、次は1枚の枯れ葉を取り出す。
「これは
そう言って、お茶っ葉が入った小袋をテーブルの上に置く。
「こうしておけば、トリカブトの毒を定期的に摂取させることが出来る。場合によってはコレでも死亡するだろうけど、効果は正直ボクじゃ良くわからない。まぁ、体調が悪かったという事はあったんだろうね。次に死因を誤認させた刺し傷。それは別の誰かが、祖母さんの死体を刺して書斎に隠した。今回の場合、毒殺だと分からないからね。状況的に衰弱死と誤認される恐れがあって、それを防ぐためじゃないかな。そうだよね。ヘルラウ君」
布団に血が付着していなかった理由。それは、単純にベッドの上で刺されていなかっただけ。
もし争ったとしても、他の家族が気がつくうえに争ったにしては部屋が綺麗過ぎる。
彼は覚悟を決めたように、深呼吸をするとゆっくりと口を開いた。
「……バレてたんですか」
「状況的に一番気が付きやすいのは君だからね。知識的に見ても、ね。まぁ、どうやって気がついたのかはボクには分からないから、話して貰えるとすっきりするんだけれど」
「花壇を掘り起こしてるのを見かけたんですよ。それで、翌日夕飯を作って、そしたらばあちゃんが倒れて、もしやって様子を見に行った時は平気で。翌朝、ばあちゃんの死体を見つけて。台所に行ったら他にも破片が少し残ってて確信しましたよ。父さんが殺したんだって」
「ねぇ、なんですぐに知らせ━━」
「信じないだろ!? ……誰も。例え、父さんがばあちゃん毒殺したって言っても、最近体調よく崩してたしそのせいだろうって。それなら、明確な他殺の要因を作ってしまえばいいと。なんで薬草茶にニリンソウが入ってるんだろう。って思ってましたけどなるほど、そういう事かって思いましたね」
声を荒げて妹の言葉を遮り、ゆっくりと元の口調に戻しながら続きを喋った。
「だからって、仲のいいしかも肉親を刺すのはどうなんだ? 例え遺体だったとしても」
「辛かったけど、他に考えつかなかったんですよ」
「うーん、それこそ名探偵にでも頼んでって思ったけど、この町いないな」
「此処に居るじゃないか」
そう言って、シーラがアピールしてくる。
「今回は解決してくれたけど、お前は違うだろ!? ……って、明るみになってない事を明らかにはしたけど、事件自体は既に解決してるじゃねぇか」
「おや、気が付かれてしまったか」
俺は、あっ。と声を漏らしおっほん、と咳払いをし話の続きを始める。
「ま、まぁ他にこうしろ、他にこうしとけば良かった。とは俺には言えんけど、後悔はないのか?」
「後悔……」
彼は言葉を反復すると、顔を落とす。
後悔がありそうな反応を示し、俺は言葉を選びながら口を開く。
「多分、やった事は自体はずっとついて回るし、褒められる事じゃぁ決してない。でも、正しいと思っての行動なら……」
「おや? 正しいと思ったら、例えば犯罪を犯してもいいのかい?」
「うーん、罪償うなら場合によっては已む無しじゃないかな。避けられるならそれが一番いいけど、どうしようもない状況って在るわけだし。てか今回って罪に問われるのか?」
「知らないな。ボクは専門外だし」
「てか、シーラさんや? ちょくちょく話しかけて脱線させるのやめてくれませんかね?」
「おやおや、失敬。少々手持ち無沙汰なもので。とりあえず、ボク達からの話は以上だ。今度どうするかは、家族で話し合って決めてくれたまえ」
そう言うと、彼女は俺を捕まえシルクハットを被るとアタッシュケースを手に持つ。
「お、おい!?」
「これ以上は野暮だよ。ボク達はあくまで、解決を依頼されて来ただけの身だ。深入りのし過ぎはご法度。では失敬するよ」
シーラは玄関に向け歩を進ませる。
「あ、前までお見送りを」
終始黙っていたアンネさんが立ち上がった。
「不要さ。あ、そうそう。紅茶ご馳走様。とても美味しかったよ」
そう言い残すとシーラは家を後にした。
ギルドに向かう道すがら、俺は機嫌が悪く彼女のシルクハットに座っていた。
「そ、そろそろ降りてはくれないかな。ボクも宿に戻りたいのだが」
「分かった。けど2つ質問いいか」
「どうぞ?」
「まず、なんで彼処で止めたんだ?」
恐らくだが、話が途切れるようにちょくちょく口を挟んでいたのはわざとだ。
「言い過ぎると逆に良くないと判断したまでだよ。結局の所、行動理由の是非はどうあれ、
「だとしても、吹っ切る手助けぐらいはいいんじゃないか?」
「何か勘違いをしていないかい? ボク達が当人であればそれも大いに結構。好きなだけ言ってやればいい。しかしだね、アノ場でのボク達は所詮、部外者なんだよ。憲兵で事情を聞く立場でも、やった事に対する懺悔を聞き導く立場でも、ましてや裁く側の人間でもない。せがまれたら言えばいいし、どうこう言う行動自体は否定はしないけれど、言い過ぎるなって話さ。だから遮った。個人的には、あれでも言い過ぎだと考えているがね」
そう言われ、俺は黙りこけた。
言い過ぎるな、か。
「とは言え、あの手の、第三者機関として完結する任務は非常に珍しいから、深くは考えないでくれ。普段は警備や護衛、討伐やら厳密に言えば部外者ではあるが、任務中は当人となり得る任務ばかりだろうからね。……人の事は言えないね。この事自体、大きなお世話だったかも」
「いや、寧ろ有り難い。忠告ありがとう。後はなんでトリカブトで毒殺しなかったのか気になったんだ」
「あぁ、それか。理由は幾つかあるのだけれど、即効性があるからだろうね。医学知識や犯人自身の事をよく知っている人物が居る中での使用は、不向きだと考えたのだろう。家でも言ったけれど、バイケイソウならば衰弱死と彼が誤認してしまう可能性が高いだろうからね。まぁ、総じて運がなかった」
俺はそれを聞くと、パタパタと飛びシルクハットの上から飛び立つ。
「にしても、とてもシュールな光景で会話をさせられたものだね」
「すまん。それと今日は手伝ってくれてありがとう。俺1人じゃどうにもならんかった」
「どういたしまして。ついでにユニー君に1ついい事を教えておこう。ボクの憶測が正しければ、今回の事件もしかしたらまだ発展するかもしれない」
「……どういうことだ?」
「ファンデーションを犯人の書斎で見つけてね。奥さんに聞いたけど彼は化粧をしないと返答が来た。それに一個人だけを殺すためだけに有毒植物を集めた花壇を造り育てはしないだろう。変だと思わないかい?」
後半は他の目的で育てていた事はわかる。憶測だが、祖母さんに感づかれたか、そういう素振りが見え犯行に及んだ。仲のよかったヘルラウさんもそれとなく話を聞いて疑り深くなっていたと考えると、偏見とも取れる考えからの行動に少しだけ納得はできる。
問題はファンデーションだ。何が言いたいのか分からない。
「花壇は言いたい事は分かるが、ファンデーションはなんでだ? 後投獄されてるしもう平気じゃないか?」
「ファンデーション。本来何をするための化粧用品か。それは、ほくろやそばかすと言ったものを覆い隠すのに使うのだけれど、それをもしクマを消すために使っていたとしたら?」
「……汚れた者だって言いたいのか!?」
「憶測だけれどね。だから、かもしれない。なんだよ。とはいえ、毒殺のために状況作りまでしていた人間にしては、爪が甘すぎる。そして、感情の制御がうまく出来ずに、暴走しかかってるなら辻褄があう。個人的には、可能性は高いと思うな」
(※バイケイソウを使用した血圧降下剤及び嘔吐剤は現在は使用されていません)
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