56話Reasoning/探偵でもやってみようか

「まぁ、この事件は推理小説のような凝ったトリックがある。って分けではないだろうからね。単純に擦り付けをしているだけで。先程も言ったけど問題は、二度手間になるようなやり方を取ったのか。って点さ」


 彼女を話を聞きながら、殺人があった部屋を後にする。


「気になるのか?」


「そうだね。これ如何によってはボクが考えている事がちょっと違ってくる。ま、犯人が変わるかどうかってだけだろうけどね」


 この口調から察するに、犯人はまだ絞れていない様子であった。

 考えを聞こうにも、ヒントは与えてるから自分で考えてみてくれ。と言われるだけで教えてはくれない。

 悩みながら居間に戻ると、この家の3兄妹が戻ってきており、母親と一緒に表情は暗かったが各々寛いでいた。

 長男と長女は十代後半から二十代前半。次男は一桁から十歳ほどであった。


「おやおや、これはちょうどいい。お話を聞きながら部屋を見て回りたいからお時間宜しいかな?」

 

「……母さん、この人は?」


「傭兵の方々よ」


「いや、ボクは違うかな」


 アンネさんの言葉を否定し、おっほんと咳払いをするとシーラはこう言い放った。


「ボクは名探偵さ!」


「おい!?」


「ん? 何か問題でもあるかい? あながち間違ってはいないと思うのだが? 稀代の名探偵の方が良かったかな?」


 彼女の耳元にまで飛んでいきこう囁く。


「一応、傭兵って事で来てるんだから前提から崩すなって」


「そうは言われてもボクは傭兵ではないからね。本当の事を言って何が悪いんだい?」


「いや、お前は名探偵じゃないよな? 一応は大道芸人だよな?」


「何を言っているんだい。嘘も方便という言葉があるだろう」


「なら、傭兵って事を方便ですませよ!!!」


「ねぇ、本当に大丈夫?」


 気が付くと言い合っている構図となっていた俺達を見て、娘さんが怪訝けげんそうな表情を浮かべながらそう呟いた。


「ああ、大丈夫。何も問題はないよ。さぁさぁ、君達のお部屋拝見させて欲しいな」


 不安そうな彼らを押し切って長男であるヘルラウさんの部屋から見て回る事となった。

 彼が遺体の最初の発見者でもある。

 2階の一番奥の部屋で、家族以外の女性を入れるのは初めてで照れくさいと言っていた。


 彼の部屋に入ると、色々な参考資料が入った本棚にベッドとテーブル。窓際には、殺害現場にもあった小さい鉢に植えられたスズランがあった。

 テーブルの上には、羽根ペンとインク、何かが書かれた大量の紙があり、床にも散らばっていた。


「すみません。散らかっていて」


 彼は先に中に入り、散らかっている紙を片付け始めた。


「気にする必要はないよ」


 足を踏み入れ、彼女は本棚に収めてある本を見ていく。

 その多くは医療関係の本であり、残りは花に関する資料、活植族アクティプラントに関する資料、料理本もあった。


「医者でも目指してるのかい?」


 花の本を一冊取り出しパラパラをめくり始める。


「え、ええ」


「こいつ、アニエスさんに憧れて目指すようになったのよ」


 空返事を返すヘルラウさんの代わりに、長女であるステファナさんが答える。

 そして、スッと俺の腋に手を回し触り始める。


「おぉ、もふもふ。ケフィンも触ってみ」


 そう言ってしゃがみ母親の後ろに隠れている弟に俺を差し出す。


「いい」


「その紙には何を書いているんだい?」


 手に取っていた本を本棚に戻すと、彼の元に近づき手に持っている紙束を覗き込む。


「あ、えっと勉強してまして。見ます?」


「うん。ぜひ」


 手渡された紙束を受け取り、彼女は目を通していく。

 書かれていた内容は医療に関する事がほとんどであった。他は花の育て方を記したものが数枚。


「うーん。もふもふなのになぁ。えーと、名探偵さん? 何か分かりそうです?」


 俺を掴んだまま立ち上がり、振り向くとシーラに問いかける。


「欲しい情報は粗方手には入ってるかな。後は、スズランの花は好きなのかい?」


「は、はい。ばーちゃんの部屋にあったのも俺が世話してました」


「なるほど、ありがとう」


 紙束を渡しそのまま片付けると言う彼を置いて、次は長女であるステファナさんの部屋に行く事となった。

 彼女の部屋は如何にも女の子という感じで、可愛いぬいぐるみや明るい色のカーテン、可愛いテーブルやベッド。装飾品も多く、この部屋だけ別世界のようであった。

 アンナやエミリアの部屋は質素であり小物やぬいぐるみの類が少ない。あってもアンナの部屋に色鮮やかな小鳥の置物があるくらいだ。セシリーも方向性が違い、新鮮であった。


「うん、すごいね!」


 シーラの第一声はこれであった。

 続けて釘を差すように、ユニー君はあげれないからね。と言って部屋に入る。


「うぐ……。本音をいうと動くぬいぐるみほしいなって思ってた所でね? 噂では聞いてたけど、ほんとに、ね? 分かって?」


「俺はぬいぐるみじゃねぇぞ!?」


 分かってるって。という彼女の目は何処か泳いでいた。


「それより、動かして見ても良いかな?」


「丁寧に扱ってくれればいいわよ」


 断りと入れ、ぬいぐるみを持ち上げ捜査を始める。

 同時刻、次男であるケフィンくんがぐずり2人は居間へと降りていった。


「なぁ、シーラ俺は」


「君はその子の相手でもしていてくれたまえ。時に先程の彼は祖母さんとの関係は良かったのかい?」


「やったー♪ うん、あいつはおばあちゃんっ子だからすごい仲がいいわね。特に最近は体調よく崩してて看病してたし、正直あいつは犯人じゃないと思う」


 彼女はぬいぐるみを扱うように俺を触り、見回し始める。


「や、やめい!」


 俺は彼女の手を振りほどく。


「でも許可はおりてるよ?」


 手をワキワキさせ、悪い顔をした彼女が近寄ってくる。


「それくらい我慢してくれたまえ。タンスを開けてもいいかな?」


 まじかよ。

 おっけー。と返事をしながら俺を捕まえるとへっへっへと笑い始める。

 この子何処か怖いんだけど!?


 タンスのを開け、中の物を確認しては閉める。

 すると、日記のようなものを発見し手に取った。


「これ、見ても良いかな? ダメなら諦めるけど」


「ん、どうぞ~。別に恥ずかしい事は書いてないし~」


 嫌がる俺を無理矢理もふもふするステファナを横目で確認するも、無視し手にもつ手帳を開く。

 中身は兄が祖母と一緒に花に水をやっている光景が、微笑ましい。とか父親の花壇がすごい。とか今日の夕飯は一味ちがう。と言った具合に自身の日記と言うより家族の日記に近い代物であった。


「これは、いいね。確認する手間が省ける」


 ペラペラとページをめくり、確認したい事。

 彼らの祖母が死亡する前日から数日に目を通していく。

 そこには、父親であるラウスが前日調理場に立っていた事や、一度倒れ、処方してもらった薬草茶をヘルラウさんが最近祖母に飲ませていた事を確認する。

  目を通し終え日記を仕舞いお礼を言うと、騒がしい2人を置いて居間へと歩を向けた。


「包丁が見つかったという書斎を見たいのだが、案内してもらっても宜しいかな?」


「ええ、いいですよ」


 1階にある書斎へと案内され、ドアを開け中に入る。

 幾つもの本棚があり様々な本があった。そして、1つの引き出しのついたテーブルに羽ペンとインクの入った小さな瓶が複数置いてあった。

 

「私は居たほうがいいでしょうか?」


「お子さんの相手に戻ってくれて問題ないよ。ありがとう」


 周囲を見渡し、本の種類を見ていく。

 毒草の本に、薬調合関連の本、推理物の小説、詩集や子供用の絵本。様々な物が置かれていた。

 彼女はそのままテーブルの元へと歩いて行く。


 周囲を調べるが、これと言った物は見つからず、諦めようとするとテーブルの下にとある枯れ葉が1枚落ちている事に気が付き手に取る。

 

「ふむ、これは━━わひゃ!?」


 いきなり背中に何かがぶつかり、シーラは思わず声を上げていた。


「やっと逃げてこれた……」


 小さい肩で息をしていたユニーの姿を見て、胸を撫で下ろす。


「びっくりするじゃないか。全くもう。君はボクを驚かせたい趣味でもあるのかな」


 そう言って、テーブルの引き出しに視線を送る。


「ねぇよ!? で、何か見つかったか?」


「うん。後は引き出しを確認して確定させたい所ではあるのだけれど、証拠は出ないだろうね」


 一番上の引き出しを開け、中に入っている小道具を確認していく。

 すると、ファンデーションが入っていたケースを見つけ、彼女の眉間にシワがよるが、引き出しに戻し閉める。


「その口ぶりだと……」


「おっと、まだ仮説だよ。ま、何処まで行っても現行犯か確定的な証拠がなければ仮説なんだけどね」


 2番目引き出しを開けるものの入っていたのは1冊の本でだけであった。中を開けると、3人の子供の成長記録であり今回とは関係なくすぐに閉じて元に戻す。

 そして、一番最後の引き出しを開けようとするも鍵穴がついており、案の定鍵がかかっていた。


「こう言う時の」


 トランプを1枚取り出し。


「怪盗技術ってね」


 一瞬でピッキング道具に変えると解錠を始める。


「その動作、必要なのか?」


「必要だよ。だって、こういった道具は普段仕舞っているからね」


 そう言いうと、カチャと鍵の開く音がしピッキング道具を束ねると一瞬で1枚のトランプに変え懐に仕舞い、空けた引き出しを開けるも中は枯れ葉が数枚落ちているだけで、他には何も入っていなかった。


「シーラの予想通り、何もないな」


「いや、そうでもないよ。最後に花壇を見に行こうか」


 ん、って事はこの枯れ葉が何かあるのか?


「ん、アンネさん達の寝室はいいのか?」


「良いよ。絶対に何もでないだろうからね」


 俺達は、書斎を後にした。


「ふむふむ、予想通りのラインナップだね」


 花壇を見に来たシーラの第一声がこれであった。

 植えてある花や木が予めある程度予想出来ていた。と、取れるような口調である。


「あるのは、君ももう目にしてるだろうデルフィニウム、その隣にあるつぼみがついているのがスイセン、あそこの散りかけてる赤い花がヒガンバナ、彼処がバイケイソウ、紫色の花が咲いているのがトリカブト更に隣で枯れてるのは恐らくニリンソウ、更にその隣で枯れてるのがフクジュソウ。奥にあるのはレンゲツツジにトウゴマだね」


 彼女は俺が質問する前に花の種類を指差しながら答えていく。


「へぇ、トリカブト以外全部初めて聞いた。結構綺麗な花咲くんだな」


 って、トリカブトって日本三大毒草の1つだっけ。なんでそんなものが?


「実はね。これ全部、有毒植物なのさ。症状や毒性の程度は千差万別だし、ニリンソウは生食しなければ食べても平気だけれどね」


「え?」


 まじか。うん?


「もしかしてだけど、部屋にあったスズランってのも毒あったりするか?」


「お察しの通り、あるよ。おかしいと思わないかい。有毒植物と言っても、その辺にあったりして知らず知らずのうちに混ざっているって事はあったとしても、それを集めた花壇っていうのは」


 確かにおかしい。わざわざ選別して植える必要性を感じない。

 そして、殺害現場を思い出し、少し考えると俺もとある仮説に辿り着いた。確かに、シーラの言う通り二度手間となってしまっておりなぜこの手順を追ったのか疑問に思う。


「毒草の本を書いていたりするのならば、このラインナップも分かるんだけどね。けれど彼はそうじゃない」


 彼女は振り返り、歩を進ませ始め俺は急いで後を追う。

 その後、彼女は忘れてた。と言って台所へと足を伸ばした。


 奥さんの許可は貰い、台所を調べていく。

 釜に水回り、棚を調べて包丁や鍋を調べていくが、特にコレと言った物は出ては来なかった。

 次に薬草茶をせんじているお茶っ葉を確認し、彼女は何かを確信する。


「この辺りはずぼらなようだね」


 更に、床に何か落ちてないか探していた俺は、食器棚の下から半分ほど顔を出していたあるものを見つけ拾い上げた。


「なぁ、シーラこれってどうだ?」


「どれどれ? おぉ、お手柄かな? ないよりかはマシ程度ではあるけれど」


 俺が見つけたのは1つの何かの欠片であり、彼女はそれを受け取った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る