58話Five/連鎖

「んー、お疲れ様ー」


 検問の交代時間を迎えエミリアは背伸びをすると、門を後にする。

 結局何もテレパシー送られてこなかったわね。

 ガリアード達からの差し入れの1つのリンゴを齧り、歩を進ませていく。

 ま、問題なく解決したんなら別にいいか。


『アンナ、アンナー? ちゃんと休んでる?』


 テレパシーを送ると慌てた声で、勿論です。と返ってくる。

 この様子、掃除でもしてたわね。


『掃除もいいけど、程々にね』


 リンゴの芯を口にほうり込み、呆れ口調でそう送った。


『うぐぅ……はい。そうします』


 当たったか。我ながら冴えてる。

 上機嫌に尻尾を揺らしながら、更に歩を進めていく。


『エミリアー!』


 すると、ユニーからテレパシーが送られて来た。


『はいはい。何か問題でもあった?』


『お、繋がった! 実はな━━』


 事の顛末てんまつを掻い摘んで説明され、更にその後の相談をされる。


『なるほどね。で、確認に行こうって分け?』


『そう。ついでにもう1つ提案があるんだ』



 兵宿舎、牢獄区画。

 此処には犯罪を犯した連中が収容されている。

 現在はエドモンが率いている部隊が人員不足により一時的に出ているため、此処に服役している人は少ない。


「ほぉ、昨日騒いでた奴の親友ね」


 そのため、面会に訪れる人も非常に少ない。

 兵士の1人が珍しく訪れた男性を、面会する相手を何度も確認したり、通路を間違えそうになったり等々不慣れな手際で案内していた。

 

「はい。悪い奴じゃないので、心配になりまして」


 その男は顎にひげをたくわえ、目には深いクマを頬は痩せこけてフードを深く被っていた。

 一見すると、不気味な風貌ふうぼうであったが、言葉を交わしてみると案外と親しみやすい人物であった。


「そりゃ心配だ。疑いがかかってんなら、晴れるとええな」


「はい。本当にその通りで」


 兵士は此処だ。とドアノブに手をかける。


「ありがとうございます。それでは……」


 何かがドアノブを捻る彼の腹部を高速で通り過ぎ、通路に鮮血が飛び散り切り、上半身と離された下半身が音をたてて倒れた。


「さようなら。永遠に」


 ゆっくりとドアが開き、残った上半身も音を立てて床に落ちる。

 ローブを来た男は変異した鎌のような腕に付着している血を振り落とすと元の人の腕に変えながら部屋足を踏み入れた。

 中にはイスだけがあり鉄格子を挟んでもう1室があった。

 そこには、血だらけのくだんの男性が佇んでいた。


「お前か。予定と随分と違うな?」


「すまない。家族の誰かにバレたようだ」


「お粗末な仕事っぷりだな。これだから、素人は嫌いなんだ。まぁいい。ついでに"囮"でも解放するとしようか」



「なんでボクまで付き合わされないといけないのさ」


 無理矢理シーラを連れてギルドにより報告を済ませ、近くのカフェでエミリアと落ち合い、現在は昼食を取っていた。

 ぼやく彼女はスパゲッティを口に運ぶ。


「奢ってやってんでしょうが。それに、中途半端に首突っ込んじゃったあんたのせい」


 言い返すとエミリアはドリアを1口食べ、更にこう続ける。


「んぐ。七賢人と戦う時、あたしもちゃんと力貸してあげるからそれでいいでしょ」


「酷い交換条件だね。君たちにはメリットしかない。そもそも無理矢理参加させる形にするつもりだったから、交換条件なのかすら怪しい。が、確かに中途半端に首を突っ込んだのは悪手だった。今回はその授業料だとでも思うよ。お姉さん、ケーキと紅茶を頼むよ」


 さらっと、追加の注文をし、おい。とエミリアから突っ込みが入る。


「19時だったからか? ガリアードの決闘の件」


 俺は話題を切り替えるようにして、そう問いかけた。エミリアから愚痴のような口調で一連の流れを報告されていたが、面倒くさい奴もいたもんだ。

 と言うか、すごいメンタルしてて少し羨ましい。


「うん。ちゃぁんと応援しなきゃね」


 そして、エミリアの口から愚痴と一緒に話されたこの町の治安が比較的良い理由。

 まずエニダン達"元王宮騎士団"の面々に加え、元ギルドエルートの最高幹部である支部長のオーバリ。そのどちらとも左遷ではなく自身の意思でこの街に訪れいついている。結果として、パイプは自体は未だ繋がっている状態であり、不祥事があれば王族もしくはギルドの幹部に直に報告が通される形となっているらしい。例として、エドモンの件も王族を通し、帝国の元兵士だという情報を憲兵は得ていたりする。


 それを嫌がり、訪れる冒険者はこの町ではおとなしくしている連中が多い。代わりに、治安が良いという事は傭兵に回ってくる任務も少なく、安い案件が多くなり排出しづらい環境となってしまっている。

 治安が良いおとなしくしているとはいえ、やはり冒険者による小さい居座古座いざこざ自体は他の国境沿いの町よりかは少ないが内部の町より多く、3年近く新人傭兵が居ない。という状態に陥っていた。


「別にお前が相手しても勝てるだろ?」


 俺はふかした芋をナイフで小さく切ると、それを置きフォークに持ち替え刺し器用に口に運ぶ。


「多分勝てるだろうけど、あの場で無闇に倒すのもねぇ。結果的に迷惑かける形になっちゃったけど」


「なるほどな。ガリアードなら、鬱憤うっぷんばらしつって、寧ろウェルカムって感じがするから平気だろ」


 カランカランとドアチャイムが鳴り響き思わず目線を向けると、謹慎処分を終えたジェームズが息を切らして店内に入ってくる。


「はぁ、はぁ。……いたいた」


 そう呟き、俺達の方に歩いてくる。


「おい、ユニー。牢獄で脱走だそうだ。今、傭兵連中かき集めてるからお前んとこも来いってよ」


 彼の口からそう語られ、思わずむせ咳込んだ。


「へぇ。因みに、誰が脱走したか分かるかい?」


「そりゃおめぇ。……なんて、お美しい御方なんだ。わたくしめは━━」

「良いから答えろよ!!」


 俺は、話を中断しシーラの手を取っていきなり自己紹介を始めたジェームズの言葉を遮った。


「っち、やっぱお前ばっかずりぃ。脱走したのは昨日投獄されたって話のばあさん殺しの男だ」


「おやおや、コレは確定だね。行く手間が省けた。いや? 手間が増えたのかな」


 シーラは彼の手を振りほどき、空いたイスに置いていたシルクハットを手に取り頭に被ると立ち上がる。


「状況はどんな感じだ!?」


「詳しくは知らん!」


「ギルドに行ったら分かるでしょ。お代は此処置いとくわよ」


 テーブルに料金を叩きつけるように置くと、エミリアも立ち上がった。


「すまないがケーキと紅茶はキャンセルだ。上乗せで料金を置いておくから受け取ってくれたまえ」


 そう言って、トランプを1枚テーブルに置き指を弾くと硬化にすり替わった。


「偽物じゃないでしょうね!?」


「ボクにそんな事をする胆力たんりょくはないかな。ほら、ユニー君も急いで」


「わ、分かってる!」


 最後にもう一口食べると、俺も飛び上がり走ってカフェを後にする2人を小言を言ってくるジェームズと一緒に追っていった。

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