44話Bar/お客こねぇ
遊園地から戻り、2週間が経った。
あの七賢人はセシリー達と一緒に、王都の牢獄へと輸送される事となり、再び元の日常に戻っているはずであった。
「暇、ねぇ」
ガーエーションのカウンターで突っ伏したエミリアが呟く。
あれから、お客の足が遠のき暇な日が増えていた。そして、今日は特に酷く席の殆どが空いており俺達が居なくても問題ないほどである。
「ですねー」
同じくカウンターで突っ伏して手をパタパタさせているアンナが反応する。
「うーん。初めて」
食べ終わった食器を持ったツバキが呟くようにそう言った。
「こんなに暇な日?」
「そ。私が来てからは、初めて」
ツバキはガーエーションに来て4年が経つと以前、ウメが話していた。そんな長い間居る
彼女は厨房に入ると食器をゆっくりと洗い始める。
「怪しいな」
「何がですか~?」
「先月か先々月か忘れたけど、開店した店」
あの店が開いてから、暇な日がドンドン増えていっている。
単純にうまく客が取られているだけなら仕方ないが、おやっさんとアンナの料理より圧倒的にうまいとは思えなかった。
「あー、スノージュームとか言う店っすね」
包み焼きのキノコを口に運びながらケイジが反応する。
「そうそう。何か知らないか?」
「そうっすね。仲間うちじゃあの店はうまい。って人が多いっすけど、個人的にはそうでもないんすよね。好みの問題って言われるとそれまでっすけど、何か通ってる人の目が死んでる。ような気がするんすよね」
「あー、何か目が死んでるというか虚ろな人増えてるわよね」
エミリアは体を起こし、背伸びをする。
「そうっすね。でも、話すと変りなくてなんというか不気味というか」
「……何かあるな。絶対」
「でも、迷惑な行動は、ダメだよ」
そう言いながらツバキが手の水滴を拭いながら歩いてくる。
「分かってる。とはいえ、何か異変起きてる感じがしてなぁ」
「とりあえず、それとなく当たってみるっすよ。確かに現状は可笑しいっすし」
「おう、頼む」
「おーう、お前らもう上がってもいいぞ」
タイミング良く、バックヤードから戻ってきたおやっさんが声をかけてきた。
「はーい。じゃぁ、ケイジ頼む。此方でも軽くあたってみるから」
「了解っす」
2人の着替えをロート達と他愛のない会話しながら待ち、帰路に就きその道すがら。
「そういや、ツバキ食いつくかと思ったけど釘刺しただけで、平然としてたわね」
独り言のようにエミリアが口走り。
「確かに」
俺はそのことに疑問をもつ。
冷静やクールと取られやすいが、口数が少ないだけで割りと感情的な時がある。長い付き合いというわけではないが、あの時乗って来ないのは何処かおかしいと感じた。
「ガーラスさんに言われてるんじゃないですか? その、他の店探るのはやめとけって」
「ありえそうね。そうなると勝手にやっちゃって……平気か」
「だな。結局の所、店の状態がきっかけってだけで異変の調査は遅かれ早かれやってたろうし」
「七賢人もしくは汚れた者。最悪、変な人が絡んでそうですもんね~」
俺は頷き口を開く。
「とりあえず、今日は明日に備えて早めに寝よう」
翌朝。
身支度を済ませるとまずは兵宿舎へと向かった。
何かしら不穏な動きや、事件が起きてないか情報を得るためだ。
「うーん、何かないか、か」
まずは入り口で見張りをしている中年でベテラン兵士のゴローさんに話を聞くが、何か知っているような様子ではなかった。
「何もないな。至って平和だ。あ、強いて言えば今日クラスペインの冒険者が来てるみたいだぞ」
「ペインの? 何処の誰だか分かる?」
エミリアが嫌そうな顔をし、問いかけた。
「確か、でっけぇチームの所の
名前を聞いた途端顔を手で覆う。
「さいっ……やく」
「知り合いか?」
「顔見知りとかではないけど、噂がね」
彼女は俺のために、関係ある事も含め説明を始めた。
シャウラ。ランクペインのチーム[プトレマイオス]を率いている女性あり、姫と呼ばれている。そして、ギルド[エルート]にて唯一のランクペインの称号を持っている集団である。
そもそも現在ランクペインの冒険者及び傭兵は少なく、ドワーフが多く居るスターラリー王国に存在するギルド[ドロチアート]に1人のみ。
ハーフウルフが多く居るシュパラント王国に存在するギルド[ハフウェイド]に[オリオン]と呼ばれるチームと1人。
最後に人間が多くいるイルカリン共和国に存在するギルド[ヒュリアリン]に単独で活動している3人。
そして、[プトレマイオス]も[オリオン]も人数こそ居るが、単独の実力でランクペインと名乗っていいほどの強者は幹部の数人程度だという。
本来はもっと存在していたのだが、3年前アイラと呼ばれるランクペインの冒険者が暴れ、同業者。特にランクペインの者を襲い、殺す。という事件があったという。そのせいで数が著しく減り、特に彼女が所属していたギルド[ドロチアート]は皆殺しにされ、一時期誰もいなかったという。
この状況の諸悪の根源である、アイラ本人は現在何処に居るか、そもそも生きているのかさえ不明である。
シャウラ本人の素行自体は良い方ではあるが、酒豪であり全てをぶち壊すレベルで酒癖が悪いらしい。そのせいで[酒豪の姫]や[酒乱の姫]等々呼ばれたりしている人物だと話された。
「そもそも、今のペインの連中でまとも。って言える奴の方が少ないんだけどね」
「がっはっは、懐かしい事件の事も話すじゃないか。ま、精々気をつけるこった。って忠告だ。ガリアード達は修練場の方に居るから、顔見せついでに話聞いて来ると良い」
「ゴローおじさん、ありがと。気をつけるわ」
兵宿舎の中に入っていき、修練場まで足を伸ばした。
「んお、ユニー達じゃねぇか。どうかしたか?」
アルタ及びハンスの稽古を見ていたガリアードが俺達の存在に気が付き、口を動かしていた。
「なんか最近異変とかないか聞きこみに来ただけだー。つー分けでなんかないか?」
俺は彼の元にパタパタと飛んで行く。
「異変か。なんだ、探偵ごっこでも始めたか?」
「ちげーよ! いいから何かないのかよ」
横目で、アルタとハンスにちょっかいをかけるエミリアをみながらそう言った。
「すまんすまん。そうだな。特には……いや、食欲減退してる奴が増えてるな」
「食欲減退?」
「ああ、そうだ。何処つったけな。少し前に開いた……」
「スノージュームですか?」
アンナが確認するように問いかけた。
「アンナちゃん、ずばりそれだ。そのスノージュームの料理がうまいっつって、通うようになった連中が彼処の料理以外がまずいつって他のもん口にしてねぇんだ」
「また、スノージュームか……。そいつらの誰かに直接話聞きたいんだが、教えてもらってもいいか?」
「そうさなー。フェイドが一番いいな。今日は北門の門番やってるぜ」
「北門だな。ガリアード、助かった恩に着る」
「おう、今度あの2人に何か奢ってやってくれ」
了解だ。と、返事をするとエミリアを呼び戻し俺達は北門へと向かった。
北門には10分もしないで到着した。ガリアードに紹介された今日は門番をしているフェイドという若い兵士の目は何処と無く虚ろであった。
話を聞こうと幾つか問いかけるも、彼処の料理が美味しい。彼処の料理の味が忘れられない。あの料理じゃないと満たされない。等々の一点張りの答えしか帰ってこず、ほとんど情報が入ってこなかった。
「結局料理がうまいって事だけしか分からないわねぇ」
「ですね。ちょっと気になって来ました」
本当に美味しいだけなら、応用できそうな所を真似るつもりの発言なのだろうが。
「やめといた方が良いと思う。アレはちょっと様子がおかしい」
「はーい。分かりました」
「あたしも同意見。で、次何処当たる?」
そう問いかけられ、思考を巡らせる。
傭兵仲間はケイジがあたっている。聞き込み範囲をあえて被せていく事はないし、先ほどのフェイドの様子から通っている連中への聞き込みは、あまり良い情報を得られないだろう。
だからと言ってゴローさん、ケイジ、ガリアードの反応から、通っていない連中からもあまり良い情報は得られそうにもない。
他の酒場連中も似たような状況だろうが、情報を得られるかと言われると微妙な線。
それを踏まえると一番良さ気なのは。
「スノージューム……」
「いきなり行くんですか?」
「しかなくないか? 現状詰みかけてると言うかなんというか」
「じゃぁ、アニエスさんの所はどうかしら。体調不良と勘違いして、相談に行ってる人が居るかも」
言われてみると確かに、居そうである。
エミリアの意見採用してアニエスさん所先行こう。と言おうとした途端、息を切らし肩で呼吸をしているツバキが現れ。
「大変、なの!」
と、言ったのだった。
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