43話Thief/さて、戦おうか

 部屋に置かれた大きいオブジェクトの後ろに隠れたアンナは、部屋の中央にイスを起き腰掛けているシーラを見る。

 戦闘で使える魔法"は"ユニサンダー、コーンサンダー、ファイアキュートの計3つ。

 しかしファイアキュートは目立つ上、使い所を考えないと屋敷を燃やしてしまうため実質自由に扱えるのは2つ。

 こう言う時用にもう少し扱いやすい魔法の1つや2つ、欲しいですね。ソレじゃなくとも組み合わせたり、周囲の被害考えるだけでも大変ですし。


 そして、気になる事が1つ。それは部屋の至る所に隠すようにして設置してあるトランプ。これはなんの意味があるのでしょうか。

 などと考えていると、ドアの鍵が開く音がしゆっくりと開き1人の男性が入ってくる。

 何処かでみた事あるような……?


「はぁ、本当に入り込むとは」


 そう言って男は1枚のカードを投げ捨てる。


「ふふん。ボクの魔法は、こういう事に関して言えはとても有能だからね」


「そうですね。更に言ってしまえば、この部屋に関しても仕込みは終わってるんでしょう?」


「さて、それはどうだろうね」


「またまた、おたわむれを。ラーベ様。いい加減に━━」


 シーラは彼の言葉を遮るように指を弾くと、扉の向こうで何か重いモノが落下したような音が聞こえ、アンナはワンドを振り上げ、ユニ。と呟くと男性の頭上に雷雲を発生させる。


「いい加減にするのは、サゴン。七賢人である君達の方だ」


「サンダー!」


 落雷が発生し、サゴンと呼ばれた男性に直撃し電撃が"雷をまとう"彼の身体を駆け巡るが、ダメージを負っている様子はなかった。


「はぁ、やはり仕込みは終わってるじゃないですか」


 やはり、"電気"を操る人だけあって全然効いてないみたいですね。

 彼の身体から雷撃が発生し、隠れていた石像の上部を破壊してみせる。


「お仲間を呼んでいるようですが、使えないのを呼んでも意味ないのでは?」


 この人、頭にくる言い方をしますね。


「おやおや、これだけで使えないと決めつけるのは些か軽率過ぎるんじゃないかな。そんなだと、ボクの助手君にお里が知れてしまうよ」


 未だ余裕そうに、イスに腰掛けているシーラがそう言い返す。

 誰が助手君ですか。誰が。


「そういう事は連れ帰ってから思う存分と聞きますので」


 彼女に向け手をかざし、腕に雷を発生させていく。


「いやいや、例えば」


 アンナは身を隠すのに使っていた半壊している石像を持ち上げると、男性に向け投げ飛ばした。

 ソレは雷で出来た結界のようなものに防がれ弾かれる。


「こんな風にね」



 5分前。


「あ、そうだ。魔法以外の攻撃。物理攻撃を混ぜるのはどうだろうか?」


 戦う相手の説明をされた後、急にそう提案されていた。


「ぶ、物理攻撃ですか!?」


「そうそう。君はドワーフのようだし、こう力でどうにかならないかなと」


 アンナは嫌そうな顔をしつつ、近くにあった置物を軽々と持ち上げてみせた。


「見ての通り、なんとかなるとは思いますが、接近戦は弱いですよ」


「いやいや、十分だよ。それをぶつけよう」


「え!? 大丈夫なんですか!?」


 そう言って、持っている置物に目線を送る。


「大丈夫さ。でないと」



「"下準備をしている"ボクが本気を出せないからね」


 シーラが指を弾くと、天井から次々と槍と剣が降り始めた。


「ちぃ!」


 彼は雷撃で振ってくるそれらを防ぎつつ、走り始める。


「至近距離ならば……!」


 身体全体から雷を発生させ降り注ぐ攻撃を防衛をしつつ突撃するが、彼女の姿が消え雷撃は空を切った。


「ざん、ねん!」


 いつの間にか背後を取っていた彼女は、床に転がっている剣を拾い上げ斬りかかり攻撃が防がれた瞬間再び姿を消し、アンナの手により投擲されていた置物が彼を襲った。


「うーん。流石に防衛に回られると崩すのはキツイね」


 今度はアンナの背後に姿を現す。


「物理攻撃はしても確かに大丈夫みたいですけど」


 先ほど投げつけた石像は破壊され、崩れ去っていく。


「同時に意味もないと思うんですけど」


「ま、そうだね」


 指を弾くと今度は二人の目の前に台座付きの盾が斜めにして出現し彼から放たれた雷撃の軌道を逸らした。


「けどあれ、魔力消費が大きいんだよね」


 続けて、大小様々な置物が降り注ぎ始め、アンナの前に次弾を装填するように新たな置物が出現する。

 確かにこれだと騒がしくなりますね。


「そして君が投げるとドワーフの力によって、ただ落下させるよりも威力が増してるみたいだからね。負荷をよりかけれる」


「でも、このまま生き埋めにする勢いなら私がいなくとも……」


「残念。ソレは出来ないんだよ」


 言葉に合わせるように降り注いでいた置物が止み、数瞬の静寂が訪れ。


「なにせ、弾切れだからね」


 半笑いの彼女が言い終わった直撃、複数の置物が宙を舞い雷を操る男が出てくる。


「えええ!?」


「ほら、君が投げる用の置物はもう少し出せるから、投げて投げて」


 言われるまま涙目で石像を投げるも雷撃で貫かれ、その攻撃が足元まで届き咄嗟に逃げるようにして飛び退ける。


「これも意味ないじゃないですかー!!」


 と、彼女がいるはずの方向に視線を向けるも、姿はなかった。

 逃げられた!?

 着地しワンドを男性に向けると、色々な方向から剣や斧が投擲され防がれる光景が見え、逃げられた分けではなかったのだと理解する。


 だとしても、このまま続けても消耗戦になるだけですね。……消耗戦?

 けどあれ、魔力消費が大きいんだよね。先ほどシーラが口にした言葉である。もしこの言葉が本当だとしたならば、この状況は寧ろ。


「好機! ファイアキュート!」


 可愛い犬の形をした火の弾を飛ばし、ワンドを振りかぶる。

 出来るか、半分賭けですけど。


「コーン……」


 奴の攻撃は威力があり、防御力も高く汎用性も高いように思う。

 実際やっている事は結界のような防御壁、体に纏わせ攻撃や防御への転用、そして、"一直線上に伸びる"中距離攻撃。

 ファイアキュートをキッチリ防ぎ、カザされた腕から攻撃は放出された瞬間。


「サンダー!」


 合わせてワンドを振るい攻撃を繰り出し相殺を試みる。

 狙いも非常に正確。攻撃速度も早い。だが、前者は利点でもあり欠点ともなり得る。

 両者の雷撃はぶつかり合うが、僅かに男の攻撃の方が威力が高く、アンナの雷撃を打ち破り彼女の身体まで届く。


「いたっ! コーン」


 よし当てる事は出来た。そして、勝負は。


「サンダー!」


 此処からです!

 続けて、間髪入れずにもう一度雷撃を発生させ攻撃を試みる。

 お次は攻撃の準備が出来ていなかったようで、雷撃による結界に防がれてしまった。カウンターするように繰り出された攻撃を投げるためにシーラが出現させた置物の影に隠れ防ぐと、彼の周囲を回るように走り始め、3発目を繰り出す。


「おっと、これじゃ下手に攻撃すると邪魔になりかねないかな。となると」


 シーラは指を弾き、姿を消した。


 進行方向に向け放たれた雷撃をコーンサンダーを当て威力を弱め、続けて攻撃をしていく。

 初撃、雷を操るから効いていないのだと考えていたが、よく考えると雷を纏って身を守っていたのだ。でなければコーンサンダーを結界で守る必要性がない。威力こそ低いが、連続しての発動のしやすさと攻撃速度の速さが牽制に向き、削るには最適であった。

 問題はどちらの魔力がソコを着くのが速いか、だ。

 3撃目がアンナの身体に直撃し、声を漏らした。


 私も、こうやって攻撃を受けてしまえば魔力が削れます。というか、シーラさんは何処に。

 先ほどから援護が一切なく、姿も見えない。


「まさか……逃げ」


 すると、突然彼の周囲に天井から複数のトランプが落ち舞い始め。


「ッ! まずい」


 彼は急に顔色を変えると雷を身に纏わせ、腕を振るいトランプを優先で攻撃し始めた。


「勘ぐりすぎでしたね。ユニ」


 足を止め、ワンドを振り上げると雷雲を発生させ。


「サンダー」 


 振り下ろし、落雷を発生させる。

 ソレは守りが薄くなっていた彼の右腕に命中し腕がダラリと垂れ下がった。


「っく、ならば先に」


 サゴンは残っている左腕と目線をアンナに向けた途端、背後から、耳元から声が聞こえる。


「残量が気になり焦ると」


 振り返りながら腕を振るうが空を切り。


「こういう"陽動"にすぐにハマる。それが君の悪い癖だよ」


 ドワーフの強化された筋力をフルに使い前に飛び出たアンナが彼の懐に飛び込んでいた。


「ファイアキュート」「チェック━━」


「しまっ!?」


 可愛い犬の形をした炎が掌に生成され、そのまま振り返り反撃しようとする彼の横腹に押し込まれる。


「っがっは!!」


 弾き飛ばされるように倒れこみ、服が少しばかり燃え始めていた。


「━━メイト」


「わ、わわぁ!!」


 アンナは急いで火を消すと安堵のため息を着き、彼のめている腕輪の黒い球体が割れ、大きな黒い球体が排出されると消え始める。


「お疲れ様~。助かったよ。助手君」


「助手ではありません。私が消耗戦仕掛けた時には何処へ?」


「一旦外に出て、通路を念の為に塞ぎ直しておいたのさ。後は」


 上を指さし、見上げ先を見ると薄っすらと巨大なシャンデリアを確認する。


「あれの上に乗ってこう、紙吹雪のようにトランプをバサーっとね」


 増援が来なかった理由も同時に分かったが、別の疑問も浮かび上がってくる。


「なるほど、ありがとうございます。……親しそうに話していた、何やら別の名前で様付けで呼ばれていた等々は聞いた所ではぐらかされそうなので保留に致しますが」


 目線をシーラに戻し、こう続ける。


「なぜ、彼はこの部屋を出ようとしなかったのですか?」


 彼女はあー、声を漏らし言葉を選びつつしゃがみアンナとサゴンに触れゆっくりと口を動かし始める。


「んー、推測だけど、部下を巻き込みたくなかったんじゃないかな。ボクはどうしても手加減が難しいからね。戦うと殺してしまう可能性が高い。それに足手まといとか屋敷を出来るだけ壊したくなかったとかの理由もあるんじゃないかな」


 言い終わると、行くよ。と告げた瞬間、一瞬で宿の部屋に戻ってきていた。

 部屋には伸びている男が複数人とユニーの姿があった。


「うお!? ワープしてきた!?」


 突然現れたアンナ達に彼は驚いていた。


「おや、これは初めまして。怪盗シーラと申します。以後お見知り置きを」


 立ち上がり被っているシルクハット手に持つと会釈した。


「あ、これはどうもご丁寧に。ユニーです。じゃなくて!! お昼はどうもありがとうございました」


「え!? あっ、いやいやボクがいなくとも、結果は変わらなかったと思うよ」


「それでもです。アンナ、ちゃんと無事だな。良かった」


「はい、この通りピンピンしてます」


 そう言って彼女は笑ってみせた。


「あはは、仲がいいようでなにより。借りていた助手君を返しに来たわけだけど、この様子だとそちらも無事に終わったようだね」


「シーラちゃん、が情報くれたからかなり楽に対処出来ました」


「できればちゃん付けと敬語はやめてもらえるかな。ついでに彼の対処も頼んでも良いかい。セシリー嬢に言えば魔法を封じる手錠を貸してもらえると思うよ」


 シルクハットをかぶり直しながらシーラは答える。


「了解だ。って、なんでそんな事分かるんだよ!?」


「それは怪盗だからね。必要な情報は盗んで手に入れてる。後、ユニー君。ボクに賭けてくれてありがとう。随分と助かった。助手君。"次"もよろしく頼むよ」


「嫌ですよ!?」


 というアンナの言葉を聞く前に彼女の姿は消えていた。


「なんか、不思議な人だな」


「はい……」

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