40話Park/ひゃーっはー! 遊園地だー!

 翌朝。

 よく眠れたが、意識がなくなるまで必死に元の世界で死ぬ前の事を思い出そうとするもバイトに行く途中に急に視界がブレ、気がついたら衝撃と共に血を流して倒れていた情景しか思い出せない。

 車か何かに轢かれた。とは思うのだが、自ら飛び出したような記憶はないし、酔ってた分けでもなし、うーん?


「良く思い出せん」

 

 よく考えると記憶の所々に欠落がある事がわかった。単純に忘れているだけなのかも知れないが、長年一緒に居た奴が居た。事は覚えているのだが、顔は疎か名前さえも思い出せない。これは流石に不自然である。

 その後、アンナに呼ばれるまでひたすら思い出そうと奮闘し、豪勢な朝食を取ると宿を後にした。

 

「遊びますわよー!」


 無駄にテンションが高いセシリーが叫んだ。

 貸し切りにしていると勝手に思っていたが、一般客も存在し少々びっくりする。


「貸し切りにしないのね?」


「しませんわよ? と言いますか、一々していたら、毎日貸し切りになってしまいますわよ」


 この口調からして他の貴族や王族もこの客に混ざっているのだろうか。


「因みにあの方とあの方、あの女性もですわね」


 口を動かしながら幾人かの客を指差していく。


「全て位の高い人達ですわ。他にもいますけれど、今指差したのは特に危ない人達で、下手に近づいて気に入られると無理にでも"玩具"にしようとしますから、お気をつけてくださいまし」


 玩具か。いい表現ではないな。


「了解」「はーい」


「さて、危険人物を仄めかした所で、気を取り直しまして遊びますわよ~」


 まずはメリーゴーランドに向かい、各々木製の馬に腰掛けていく。

 明かり等はないが、塗装と装飾でとても派手な仕上がりであった。


「あれ、ユニーちゃんは乗らないんですかー?」


「俺は良い。見てるよ~」


 一応中身は成人男性だ。見た目的には平気だとしてもやはり少々気恥ずかしい。

 少しして、メリーゴーランドは動き出した。

 楽しげなセシリーに、無愛想に座ってあくびをするエミリア、最初は不満そうではあったが、満更まんざらではない様子で俺の前に来ると小さく手を振ってくるアンナ。手を振り返しながら、別々の反応を楽しんでいると。


「こんにちわ。乗らないのですか?」


 背後から女性に話しかけられた。


「俺はいい。あんたこそ」


 後ろを振り向くと、顔の3分の1ほどが樹で出来ている女性であった。そう、レインストークだ。だが、リカじぃのように腐臭が一切せずこの目で見るまでは、分からなかった。


「……あなたこそ、乗らないのですか?」


「ええ、私はいいのです。それと、この様な姿で驚かせてすみません」


「そりゃお互い様。此方こそすみません」


「うふふ、いえいえ。それでは"楽しんで"行って下さいね。お仲間さんと一緒に」


 会釈すると、振り返りレインストークの女性は歩いて行ってしまった。

 少ししか話をしていないが、何処か不思議な人物という印象を受ける。

 程なくしてメリーゴーランドは止まり3人が歩いてくる。


「誰と話してたんですか?」


「さぁ、知らん」


 そういや名前を聞いていなかった。


「先ほどの方はヒフェノさんですわね。この遊園地のオーナーをやっている方ですわ」


「へぇ、レインストーク見たいだったけど、こういう所の経営もできるのね」


 彼女に不思議な人物と思ってしまった理由がわかった。

 意思があるレインストークは基本達観し何処か他人事のような口調が多く見られると本にかいてあった。実際に、リカじぃも何処か他人事な口調であった。

 だが彼女からは人間らしさを感じたのだ。


「ええ、なんでも彼女は特別だそうですわよ。詳しいことは何も知りませんけど」


 へー。とお嬢様らしく身の上の人たちの情報にある程度詳しい事を感心していると、アンナが遠くでやっている大道芸だと思われる女性のストリートパフォーマンスに目を奪われていた。


「見てくか?」


「え? あー、はい。ですので、一旦3人で楽しんできて下さい」


「ほい。後で合流する形でいいわね」


「はいー。お願いします~」


 言い残すと、芸をしている女性の元にトタトタと走って行ってしまった。


「ヨハン」


 セシリーが執事の名前を呼ぶと、近くにいた男性紳士が返事をし帽子と付け髭を取る。


「うわっ!? ヨハンさんこんな近くにいたんですか! 朝から姿を見ないから何処に居るのかと思ってましたよ」


我儘わがままなお嬢様を影から見守るスキルは磨いてきたつもりでございます。そう言った反応を貰えると少々嬉しく存じます」


 満足気に返す彼が言い終わるのを待って、セシリーが指示を出す。


「護衛の何人かをアンナさんにつけてくださいまし。あの方に目をつけられてそうですので」


かしこまりました。ではアクス達を向かわせます」


 彼は会釈をし、帽子をかぶり直すと歩いて何処かへ行ってしまう。


「あの方って、さっき行ってた危険人物の1人?」


「ええ、そうですわ。思い過ごしの可能性もありますけど、一応」


 俺は思わず飛んでアンナの元にいこうとするが、セシリーに遮られてしまう。


「わたくし達は楽しみますわよ~」


「ちょっと待て!? 狙われてるんなら━━」


「だから、先手を打ったのですわ。安心してくださいませ。わたくしの私兵は弱くはありませんから。何せ、問題児の護衛役ですのよ? それにアンナさん本人も強いのですし問題はありませんわ」


 俺の言葉を遮るように彼女はそう言い切ってみせた。



「お~……おー!」


 お手玉、トランプや小道具等々を使用した手品、簡単なパントマイムなど30分ほど芸を見ながら声を漏らし、すこしばかりのチップを投げ入れる。


「可愛いお嬢ちゃん。足を止めて見てくれてありがとう。今日は此処らで店じまいさ」


 人間の女性はシルクハットを被りながらそう言い、アンナはムッとした表情をする。


「これでも15です」


「おや、コレは失礼」


 そう言いながら、トランプを1枚取り出すと一瞬で一輪の造花に変え手渡す。


「良い物ではないけれど、お詫びの品さ。良ければ"大事に"持っていてほしい」


「あ、はい。ありがとうございます。にしても結構すごい芸だと思うのですけど、見ている人が居ませんね」


 もらった花を見回しながらそう問いかける。


「そりゃ、此処が遊園地だからね。乗り物に乗りに来たり、アイスと呼ばれる食べ物を食べに来てたりしている御仁達がわざわざ、ボクの芸を足を止めてまで見るのか。という話さ。見ていくのは君のような物好きぐらいなものだね」


 続けて、ではなぜこんな場所で芸をやっているのか。アイスとは何なのか。という疑問が彼女の中で出てきていたが、女性は遠くにある何かに冷たい目線を向けており、問いかけるような雰囲気ではなかった。


「時にそこの御仁、何か用かな?」


「アンタにはようはない。用があるのはそこの子だ」


 そう言って、アンナを指差した。


「おやおや、コレは失敬。……失敬ついでに、"アンナ君"。この人達は知り合いかな?」


「え? え? いえ、知らない人ですけど」


 急に名乗っても居ない名前を呼ばれ、後ろを振り向き数人いるハーフウルフの男性に目線を向けてそういった。


「いいから、此方にこい」


 男性の1人がアンナに手を伸ばすが、女性がステッキを使ってその手を払いのける。


「そう言う態度は関心しないな」


「貴様には、ようはないと言ったはずだが」


「君達がそうであっても、ボクにはあるのさ。何せアンナ君は、ボクの芸を最後まで見てくれた大事なお客。だからね。言わばアフターケアという奴さ。尤も」


「……変身」


 男達から距離を取り、光に包まれたアンナの体は光りに包まれ魔法少女の格好へと変わりワンドの先を向ける。


「必要はなかったかも知れないけれどね。さて、どうする?」


 女性は周囲を見渡しこう続ける。


「彼女のお友達も着てるみたいだけれど、ボク達と戦うかい?」


 ナイフを構えたり、弓をつがえた数人のエルフが男達を囲んでいた。


「っち、戻るぞ」


 彼らは争う選択をせず、撤退という選択を選び周囲を警戒しながら何処かへと走って行ってしまった。


「大丈夫だったかい。変な奴らに絡まれて災難だったね」


「はい。ありがとうございます」


 変身を解除しながら、アンナはお礼の言葉を述べる。


「アンナさん大丈夫ですか」


 武装して囲んでいたエルフの1人が駆け寄って話しかけてくる。

 見かけた事のある顔であり、セシリーの私兵だという事はすぐに察することが出来た。


「はい。大丈夫です。あ、それはそうと」


 大道芸をしていた女性になぜ、名前を知っているのか。と問おうとしたが、彼女の姿が忽然こつぜんと消えており叶わなかった。


「あれ? 此処に居た人知りませんか?」


「いえ、先ほどまで居たのですが……」


 周囲を見渡せど、彼女を見つける事は出来なかった。

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