39話Park/いっきますわよぉー!

 俺が目を覚ましたのは、村を離れた日から5日が経った頃であった。

 何やら懐かしい夢を見ていた気がするが、思い出せない。

 自室で起きて1階に居りアンナに挨拶をした時、もう目を覚まさないのじゃないかと心配していた。と涙目で言われた。

 なんでも、アニエスさんでも原因が分からずお手上げだったそうだ。


 エミリアには開幕、えっち。と言われた程度で後は平常運転であった。

 前回入院していた時と同じ感じで寝ていた間は任務には、2人で行っていたと聞かされた。

 そして、俺はアウラウネに操られて居て戦闘していたと言われ驚き、新たな情報が開示されている事に気がついてソレに目を通していく。


「これ……」

 

「なんか変な事でも書かれてました?」


「え? あ、いや。なんでもない」


 誤魔化すようにそう返答する。

 すると、エミリアが一通の手紙をテーブルの上に起き、差出人の名前を指差す。


「さっきポストに入ってたんだけど、コレどう思う?」


 差出人はセシリーであった。


「初っ端からアレなんだけどさ。嫌な予感しかしないよな」


「ですね~」「そうよね」


 ため息を付きながら、開けるわよ。とエミリアが言い、丁寧に開け中に入っていた手紙を広げると読み上げ始める。


「えっと、明日お迎えにあがりますから、お泊りに行く準備をして下さいまし。だってさ」


「明日って何時だよ!? つか何処に行くんだよ!?」


 と、突っ込みを入れると玄関からドアが突然開く音が聞こえ。


「さぁ、行きますわよー!」


 というセシリーの声が聞こえてくる。


「今日ォォオオオ!?」



 俺達に拒否権はなどは当然なく1時間ほどの猶予を貰って準備をし、セシリーが用意した馬車に乗り揺られ始めていた。

 久しぶりになる分けだし張り切って任務行かなきゃな。と考えていた俺は出鼻を挫かれた形となったわけだ。


「で、どこ行くの?」


 不服そうなエミリアが問いかける。


「遊園地って場所ですわ!」


「う、噂は聞いた事あるけど……」「遊園地、ですか?」


「……遊園地。お前、存在していたのか」


 名前はミリアートランドと言うらしい。セシリーの話によると、最新鋭の技術が使われた遊園地で王都ではかなり有名な施設で各国の貴族も訪れたりしているとの事。

 ただ、地方の村や町には知名度は低く知らなくとも仕方ないとか。

 此処まで聞いても半信半疑で本当に遊園地なのかすら怪しい。あれか、元の世界でちょくちょくあるでっかいの公園みたいなのだったりか?


「それで、なんで私達も同行なんです?」


 俺を抱きかかえているアンナが問いかけた。


「気に入ったからですわ!」


 力強く言われ、思わずまゆがぴくりと動いてしまう。


『好かれたくはなかったです』


 質問した主から突然テレパシーが送られて来た。

 アンナ辛辣しんらつぅ!


『まぁまぁ、コネがあって損はないし悪い奴ではないじゃない?』


『だとしても、心的に損しかないです』


 彼女はむー。と不機嫌そうに唸りつつ俺を強く抱きしめる。

 あ、これガチで嫌ってる奴か。

 なんとかなだめようとするエミリアとアンナの会話を聞きながら窓から外を見る。


 護衛の兵士が駆ける馬や馬車、荷馬車が視界に映る。

 今回は前回のように不用心ということはなくガッチリ護衛がついていた。この調子だと遊園地も貸し切りだったりするのだろうか。

 そう考えていると、兵士のうちの1人が俺の目線に気が付き手を降って来た。


「そういや、ツバキは? 誘わなかったのか?」


 小さい腕で兵士に振り返した。


「あぁ、あの酒場の人ですわね。断られましたわ。店の護衛と仕事があるからと」


 あれー? 可笑しいな。俺達は拒否権なんかなかったぞー?


「1時間ぐらい粘ったのですが、なびいてはくれませんでしたわねー」


 前言撤回だ。ツバキも災難だったな。

 とはいえ、入場料や宿は全てセシリーが手配しており俺としたら少々卑いやしいかもしれないしアンナには悪いが、タダでの旅行気分であった。個人的にセシリーは嫌いではないのも大きい。胸も大きい。

 ふと思ったのだが、俺胸に乗れないだろうか。あの巨乳に乗れないのだろうか。


「えっち」


 突然エミリアにそう言われた。


「何だ突然!?」


「セシリーの胸見てたでしょ」


 無意識下に目線が揺れる胸に向かっていたようで、感づかれたらしい。


「な、なななにを根拠に!?」


「慌てっぷりから察するに、図星ねぇ」


 そう言って白い目で見られた。

 すると、セシリーが静かに笑い始める。


「え、あ、ごめんなさい。こういったやり取りは普段聞きませんので。わたくしの事などを気にせず話しててくださいまし。アンナさんも無理はしなくてよろしくってよ。わたくしの事が嫌いなのでしょう?」


 そう言われアンナは驚き、目線を落とした。

 鋭いというか。何時もと随分雰囲気が違うような。


「それで、ユニーさんはわたくしの胸を見て何を思ったのでしょうか? やはり、分類的には雄なのでしょうから発情した。とかそういう!?」


 などと思考を巡らせてはみたが、彼女は何時もの調子へと戻り質問攻めが始まりただの深読みじゃないかと思えてきた。と言うか、気にするなという発言は何だったのか。

 後、俺の疑問は晴れ、答えはギリギリ乗れた。だった。


 休憩を挟みつつ半日ほど馬車を走らせた先にソレはあった。遊園地があったのだ。

 木造ではあったが、ジェットコースターのようなレールに、観覧車。中に入るとコーヒーカップやメリーゴーランド。様々な遊具があった。


「まじ、かよ」


 馬車から降りて俺の第一声であった。

 本当に遊園地があったよ。ソコに。


「以前にもお目にかかったと思われますが、改めて。セシリーお嬢様の執事をしておりますヨハンと申します。この度はお嬢様の我儘わがままに付き合って頂き誠にありがとうございます」


 我儘って言っちゃったよ。この人。


「本日の所は宿にて休息。翌日、遊園地にてお楽しみ頂く。という日程を予定しております。何か問題はあるでしょうか?」


 特に何もなく、その後宿へと案内され部屋に通された。

 1人一部屋。ということなのでアンナも平気だろう。

 案内された部屋は豪華であり、如何にも高そうなソファーや調度品。何かの動物の毛皮の絨毯に、鹿の顔の剥製のオブジェクト。


「すっげぇ。……こんな部屋初めて見たよ」


 とりあえず、ベッドにダイブを決め天井を見上げる。


「だが、落ち着かん」


 すると、コンコンとノックがしはーい。と返事をするとアンナとエミリアが入ってくる。


「あんたとこもすごいわね」


「どうしたんだ?」


「お夕飯だそうで呼びに来ただけですよー」


 夕飯も高級食材をふんだんに使ったコースメニューであり、慣れていない俺達はセシリーの真似をしながら食べていると、お好きに食べてよろしくってよ。と、笑われてしまった。

 そして、露天温泉もあるらしいが今日は設備の点検中とのことで、部屋に備え付けてあるお風呂に入る事となったのだが各部屋にも温泉が引かれていた。


「なんだろう。やっぱ、分かってたけど生活の水準違うんだな」


 そして思わず乾いたが出てしまった。

 セシリーに気に入られているならば、上手く彼女と仲良くなればこの生活を手に入れる事ができるのだろうが……。


「アンナが嫌がりそうだしナシだな。それに、あの反応からして気楽に生活してるって分けでもなさそうだし」


 人間関係が、必要以上にドロドロしてるのは勘弁だ。元の世界でだって……。あれ?


「そういや俺、なんで死んだんだ?」

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