41話Park/遊園地ぃ!

「ひゃー!! 気持ち良いですわー!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


 ジェットコースターに無理矢理乗せられた俺の断末魔が周囲に響く。

 異世界だからか、はたまた必要がないのか。身長制限がなく、思ったよりは平気だろう。とたかを括っていた俺は想定以上の速度にやられていた。


「いいわね。あれ。ジェットコースターだっけ」


 気に入ったのかエミリアの尻尾が上機嫌に揺れていた。


「俺はもう、いい……」


 小さい手で口を抑え、青ざめた俺はそう返していた。

 気分が悪い。吐きそう。

 ただジェットコースターにやられたわけではない。"アレ"を使っているのだろうが、木製であるためどうしても怖いのだ。と言うかこれどうやって動かしてんだよ。


「この程度でだらしないわねー」


 エミリアは意地悪そうな顔をしつつ、俺をつついてくる。


「ではエミリアさんもう一度乗りませんこと?」


「いいわよ。アンタはそこで休んでなさい」


 2周目に向かう2人に対しいってらっしゃい。と力なく答えベンチに腰掛けた。

 良く乗れるな……。

 すると、紳士に扮しているヨハンさんが隣に座り、ストローが刺さった小さいコップを俺の目の前に差し出してきた。


「お疲れ様です」


「ありがとうございます」


 受け取りストローに口をつける。

 ストローもあんのな。


「どうです? 楽しめていますか?」


「一応は。ふと気になったんですけど、設備の木って」


「スパイダーウッドの原木ですよ」


 やはりか。量は取れないが固くて軽いと評判の材木だ。ただ、気性が荒く強い事も災いし高級素材である。そして、遊具のほとんどに使っていると仮定するととんでもない額がつぎ込まれていそうである。


「っと、ご報告です。アンナさんが連れさらわれてしまいそうになったそうです」


「なっ!?」


「あ、ご安心を。ご無事ですので。ですが、念の為のご報告とこれからの動きについてです。恐らく日中は比較的安全だと思われます」


 比較的安心と言い切る辺り何かあるのか。


「理由と致しましては此方の姿を晒し、"お嬢様の私兵"だと言う事は向こうにも伝わっているからです」


「身分を盾に?」


 セシリーは王族で、その関係者に手を出す。つまり、遠回しにだが王族に喧嘩を売る形となる。


「それも"多少"はありますが、私自身が口にするもの少々気恥ずかしい所があるのですが、我々の強さは割りと有名でしてクラスペインの冒険者ないし傭兵を雇って居なければ」


「返り討ちにあうって分けか」


「はい。アンナさん自身、変身魔法を使用したとの事で、この事実も考慮すると下手に手は出し辛いと考えられます。ですが、問題は夜です」


「あー、夜這いの要領で夜にさらいに来る可能性があると」


「ご明察。勿論警備は致しますが、我々はどうしてもセシリーお嬢様周辺の警備が最優先となってしまいます。それに相手がハーフウルフという事もあり、少々不利な状況となってしまいます。対策として隣の部屋にアンナさんを移すのは当然としても、我々が部屋の中に入っての護衛は少々難があります。そこでユニーさんとエミリアさんの出番です」


 セシリーと一緒の部屋にする。と提案しないあたり、ヨハンさんも知っているのかな。でもだ。


「俺達を一緒の部屋にか。エミリアだけじゃダメなのか?」


 これでも一応男だからな。うん。


「念には念を居れておきたいのです。1つ屋根の下で暮らしているユニーさんならば問題はないのではないのでしょうか。それと、一応申し上げますと」


 彼は立ち上がりこう続ける。


「相手も王族で、お嬢様の身分と言う名の交渉カードは、とても効力が薄いかと。それでは」


「は!? ちょっと……」


 立ち去る彼を呼び止めようとするが、声が続かなかった。

 王族同士の居座古座いざこざって下手すると戦争とかに発展するんじゃ……? それって色々と不味い気がするんだが大丈夫なのか?


『ユニーちゃん、ユニーちゃん!!』


 と、どこぞのろくでなしから標的にされているアンナからテレパシーが飛んでくる。


『おう。何かおそ━━』

『アイスって知ってますか? 美味しいんですか!?』


 反応したら、俺の言葉を遮るように食い気味に返事が返ってくる。


『えっ……あ、あぁ。冷たくて甘くて』


『冷たい!? 甘いんですか!? 食べましょう! 今すぐに食べましょう!』


 珍しくとてもテンションが高いアンナに困惑しつつ、アイスに近いモノはあってもアイスそのものはないだろうしなぁなどと考えていた。


『つってもこの世界にはないだろうからなぁ』


『あるみたいなんですよ!』


 そう言われ、一緒に行く事を了承はするものの半信半疑であった。


『エミリア、アイス買ってくる』


 今度は列に並んでいる彼女にテレパシーを送る。


『何それ!? あたしも食べてみたい』


 エミリアも知らないみたいだ。


『なら、ジェットコースターから降りたらテレパシー送ってくれ。状況によっちゃ一緒に買うから』


『分かったわ。って、時間が立つと問題がある食べ物だったりするの?』


『溶ける』


『溶け……る?』


『あぁ、溶ける。まぁ運良く食べれたら分かる』


 と送りテレパシーを切り、アンナとのやり取りを再開し5分後無事合流する事ができた。


「アイス~♪ アイス~♪」


 そして、彼女は本当に連れさらわれ掛けたのだろうかと疑う程度には、びっくりするほど上機嫌であった。

 遊園地の従業員からアイスを打っている場所を聞き、教えてもらった場所へと向かった。

 着いた所は、種類は少なくはあったが簡易のフードコートがあり、アイスの他にもホットドッグやフライドポテト等々懐かしい光景が広がっていた。


「おぉ……なんかすげぇ懐かしい香りがする」


「私はこういうの初めてですね。もしかしてユニーちゃんって元は貴族の所に?」


「いんや、ただの貧乏人。アイスは彼処だな」


 一際長い列を指さしそう言った。


「え!? あ、はーい!」


 列に並び少し待っていると、次第に周囲の人の視線が気になりはじめた。

 流石に慣れた。かと先ほどまで思っていたが、やはり気になるものは気になる。


「そういや、襲われたらしいけど、怪我とかないか?」


 紛らわすようにして話しかけていた。


「はい。突然消えちゃったんですけど、大道芸の女性の方に助けて貰って大事には至らなかったです」


「そうか。会う機会あったらお礼言っとかないとな。その綺麗な造花もその人に?」


 アンナが手に持っている一輪の造花に目線を送る。


「はい。大切に持っててって言われました」


 その後、大道芸の女性がやっていた芸に関しての話を聞いていると、前の客がアイスの購入を始め未だテレパシーを送ってこないエミリアに送る。


『もうアイス買っちまうけど、そっちはどんなだ?』


『うっそ、今から乗る所……』


 それなら大丈夫か。


『分かった。なら大丈夫そうだから買っとく』 


『お、ラッキー。お金は後で渡すわね』


 あいよ。と返した所でちょうど俺達の番となった。

 分かってはいたが1種類しかなかった。特に別名もなくただ、アイスクリーム。とだけだった。セシリーの分も含め店員に4つほど頼み精算を済ませると、店員は奥に引っ込み、1分ほどでワッフルコーンに入ったアイスクリームが手渡される。


「お、お気をつけて下さい」


 俺に手渡した店員が困惑した表情でそう告げ、大丈夫です。とやせ我慢のように聞こえる返事をしていた。


「つか、コーンまであるのかよ……」


 此処に来てから懐かしい香りしかしない。それに改めて考えるとアイスサーバーや冷蔵庫と言った文明の利器がないのにアイスクリームどうやって作ってるのだろうか。数少ない魔法使いでも雇ってるのか? うーん、なんだろうな。この違和感。何か、予想出来て然るべき事を見落としているようなそんな感じだ。

 ジェットコースターがある所に向かう道すがら考えていると、我慢出来なかったのかアンナが自分の分のアイスをひと舐めし歓喜の声をあげていた。


「本当に冷たいですよこれ!? 甘いですし美味しいですし!!」


 以降止まらず、エミリア達がジェットコースターから降りてきた時には彼女は食べ終わっていた。


「ほい、お前らの分」


「さんきゅー」


「え、ありがとうございますわ~」


 2人に手渡し、アンナには俺の分も食べていいと告げる。


「え、でも悪いですよ」


「大丈夫。嫌いって分けでもないけど元々あまり好きってわけでもないんだ」


「いいんですかー? いいんですねー? ではお言葉に甘えて~♪」


「冷たい。溶けるの意味は分かったけど、これどうやって作ってんの……」


 ひと舐めして怪訝そうにアイスクリームをエミリアは見つめた。


「色々混ぜて、凍らせながら混ぜて混ぜる」


「適当すぎない!? でも、そうなると凍らせる設備が必要よね」


 彼女も気に入ったのかアイスクリームを舐めながらそう言った。


「いるなー」


「気になりますね。アイスの製造の裏側!」


 もう食べ終わったアンナが目を輝かせながらそう言い放つ。

 相当気に召したようで、更にこう続ける。


「あわよくば家でも!」


 その後、アンナは玉砕覚悟で製造方法を聞きに行こうとし皆から止められ、コーヒーカップやお化け屋敷等々で遊び夕方になった頃観覧車に乗って夕日を見ていた。

 話し合った結果、俺はセシリーと乗りエミリアとアンナが一緒に乗る事となった。


 とても茜色に色づいた景色はとても綺麗であったが、ガラス窓がない分、飛べるとは言え何処か怖い。根本では観覧車を回すために、よく創作物で見られる名称がわからないが奴隷が回している謎の棒を回している人々が見え、更に人が降りる毎に声を出していて雰囲気が台無しになっているそんな気がした。


「ユニーさん」


「ん? 何だ?」


 妙に静かにしていた彼女から急に問いかけられ、風景に向けていた目線を送る。


「少々貴方の事が分からないな、と思いまして」


「分からないと言うと?」


「立場上、少々猫を被って居てもある程度相手の心の内というのは分かるようになってしまいまして。例えば目の動き、僅かな表情の変化。具体的にはアンナさんはわたくしを嫌っていますし、エミリアさんも似たようなものなのに、必要以上にわたくしに近づいてくる」


「何が言いたい?」


「あぁ、ごめんなさい。逸れましたわね。それで、ユニーさんは何か腹積もりがあるのかと思いまして。あまりに裏表があるように見える場面が少ないので、気になりまして」


 何時もの興味本位にしては、声のトーンが低かった。


「そりゃまぁ、正直面倒だとは思っても嫌ってはないからってのと、腹づもりとかそういうのなんもないし別に嘘や仮面着ける場面もほぼないってだけ。強いて言えば暴走して振り回すのはやめて欲しいってぐらい」


「それは、アイデンティティーが崩れますのでダメですわ」


「うぉい!? ……で、セシリーはどうなんだよ。どっちが"本当"なんだ?」


「それは秘密、ですわ。1つ言えるのはどちらのわたくしもわたくしであってわたくしでない」


「なんだそれ。意味わからんぞ」


 彼女は薄く笑い、夕焼けに目線を向け口を開く。


「分かって貰うような言い回しではありませんし。後、2人っきりになれたのは好都合ですわ」


「まだ何かあるのか」


「ええ。アンナさんとエミリアさんの事で。お2方共に何かしら抱えてますわね」


「それも、見ぬいたとかか?」


「ただの勘ですわ。ただしよく当たる勘。信じるかどうかはユニーさん次第ですけど」


「……信じるよ。信じる。だって━━」


━━俺もそんな気はしてたからな。


「アジャッシター!!」 


 観覧車から降りると、満面の笑みで謎の棒を回している人々にそう言われ思わず苦笑いが出てしまう。

 宿に戻った頃には日は完全に落ちていた。

 予め部屋の移動の件は手続きは全て済んでおり、すんなりと移動することが出来た。


「ヨハンさん優秀だなぁ」


 夕食を食べ終わり部屋へとアンナと2人で向かっている途中、俺は呟いていた。


「ですね~。執事って皆あんな人ばっかりなんでしょうか?」


「それはないんじゃないか? 流石に色んな人がいると思いたい」


「あはは、お夕飯美味しかったですねー」


 そう言って、アンナは造花に目線を送る。


「そうだなー。ん、持ってきてたのか」


「はい。今日1日は持っておこうかと思いまして~」


「そうかー。じゃぁ、壊したり、無くなさないようにしとかないとな」


 そういうも返事は一向に帰っては来ず、足音も消え不審に思い振り返る。


「アンナ、どうかしたか?」


 しかし誰も居らず、間抜けな声をあげ辺りを見渡した。


「アンナさーん? アンナちゃーん? ……あれ?」



「注意しないとですねー。……あれ?」


 急に視界が急に暗くなり、辺りを見渡した。


「お、ちゃんと大事に持っててくれたんだね」


 聞き覚えのある声がし、眉間にシワが寄る。


「急で悪いけど、魔法少女である君の力を借りたいんだ。アンナ君?」

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