30話Strong/倍返しだー!

 視界が暗い。体が重い、寒い。

 俺はまた死んだのだろうか。あの時の死後の世界に近い。そんな感覚がする。

 目線を落とすと、変わらず自身の体だけがはっきりと認識出来、ユニーの体ではなく生前の姿であった。

 すると、頭に声が響く。


『死んでませんよ』


 という聞き覚えのある声が。


「あぁ、良かった。おっほん。契約って、あの姿の事だったのかよぉ!!」


 取り敢えず真っ先に言いたい事を言っておいた。


『です。ご契約ありがとうございました♪ 後がなかったもので焦っていたんですよ。そして、意識が私に"干渉"するほどなんかすごい事になっていますので、ついでにお1つほど大事なお話をと』


 後がなかった?


「なんかすごい事って何!? 幽体離脱かなんか!?」


『よく分かりましたね。流石です!』


 上機嫌な声が響く。

 少しの間グッバイ今の俺の体ァ!! 久しぶり! 昔の俺の体ァ!!!


『ではおふざけは此処までにして。大事な話ですので、耳をかっぽじって良くお聞き下さい』


 それから一服置き、声が反響するように頭に響いた。

 貴男はそう遠くない未来、自分の命か魔法少女の命。どちらかを使って世界を救う選択肢を迫られると思います。ので、今から良く考えておいてくださいね。と。


「は、い?」


 突然の事で俺は困惑の色を隠せなかった。

 何だよ。それ。


『貴男が"正解"を選ぶ事を、私は節に願っています。それでは貴方がたには、良きハッピーエンドが有らん事を』


「待て、それはどういう……!」


━━それと、申し訳ありませんでした。


━━

━━━━

━━━━━


「待て、って……つぅ」


 意識が戻ると小さい身体に走る痛みに顔を歪ませる。

 どういう事なんだよ。命の選択って、最後謝ったりなんかして。……いや、違う。俺はなんで気絶して。

 何かが爆発したような音がし、目線を聞こえた方向に向けると砂煙があがっておりそこからボロボロのエミリアが出てくる光景が映る。


『エミリア、状況を!』


『やっと起きたわね。っと』


 数発の氷で出来たつぶてを切り払い、避けつつ男から距離を取り始める。


「コーンサンダー!!」


 突然雷撃が駆け抜け男の張る氷の壁とぶつかり轟音が辺りに響く。


『詳しい話は省くけど』


 エミリアは立ち止まると、ガード。と囁き目の前に土の壁を生成し再び迫っていた礫を防ぐ。


『とりあえず、七賢人とかっていうらしいあの男が敵で手の内粗方知られてて劣勢。外傷はないけどあたしは結構攻撃受けてるからそう長くは戦えない』


 彼女の動きに違和感を覚えたのか、男は俺に目線を一瞬向け起きている事を確認すると礫を此方に飛ばしてくる。


「プロテクト!」


 防壁を張り身を守ると、アンナが奴の死角からアクアバルカンで追撃を行うが貫通出来ない氷の壁に守られまともに攻撃が通っている様子はなかった。

 なるほど、確かにこれはヤバそうな相手だ。


『で、提案があるんだけど。攻撃合わせて一気に行きたいけど、動けそう?』


『全身が痛いが、動ける。問題ない』


『む、無理はしないでくださいね!?』


『そいつは無理な相談って奴だ。エミリア、攻撃タイミングは任せていいか』


 バッサリと切り捨て、エミリアの提案に乗る意思表示をする。


『おーけー。アンタがやることは1つ、お膳立てはしてあげるから』


『殴り倒せばいいんだな』


 ご明察。と彼女はテレパシーを送りながら深呼吸をする。


「ランスクリフト、ナイフクリフト」


 ランスは左手で持ち、ナイフは空中に生成され口に咥えると壁を迂回して走りだす。

 ほぼ同時に、俺もプロテクトを張った状態で痛む体を押して突撃を開始した。


『チャンスは一度よ、アンナ!』


『準備はもうッ!』


 彼女は杖を振り上げ、雷雲を生成し左手にはデフォルメされた炎の玉が存在していた。


「サンダー!!」


 ワンドが振り下ろされ落雷が発生し、同時に一旦足を止めたエミリアのランスが投擲され奴に向かって飛んで行く。

 奴は飛び退けつつ礫でランスを撃ち落とすが、俺が接近するには十分な時間が稼げていた。


「ヒューマン、変体ッ!!」


 唸り声と共に、股間が輝くムキムキマッチョメンへと変わり腕を振りかぶった。


「歯ァ! 食いしばれ!!!」


 腕を振り切る。が、奴はまともに受けようとせず受け流すと氷を俺の腹部に向け伸ばしてきた。

 コイツっ!?


「なに!?」


 伸ばした氷の先端は欠け、その後中腹辺りでパキッと言う音と共に折れてしまった。

 俺はすかざす振り切った腕を手刀のように振り返すがこれも避けられてしまう。


「くそ! あたんねぇ!!」


 やっぱ映画とかの見よう見真似で、武術の心得とかまともにないからか、このやろー!!


『いや』


 悪態をつく俺に対し、エミリアはテレパシーで返答する。


『十分よ』 


 回転しながら片手剣が迫り、奴は無理に氷の壁で防がざるを得えず足が止まってしまう。礫を生成し始めるが、十二分に迫っていたエミリアは咥えていたナイフを左手に持ち低く、地面を這うように跳んだ。

 そして、通り過ぎざまに足の健を狙ってナイフを振るう。


「良い攻撃だが、のちの事も考えるのだったな」


 やり返すかの如く、エミリアが着地した所を狙い周囲に発生させていた礫を発射する。

 土の壁の生成も間に合わず彼女はもろに攻撃を受けてしまった。


「これで……な、足が」


 男は思うように足を動かせず体勢を崩し地面に膝を付け、右足首に目線を向ける。


「なるほど、してやられたな」


 目線を戻し、迫るファイアキュートを無理に飛び退けて避け、続けて放たれたコーンサンダーを氷の壁で受け止める。

 着地するも、背後から俺が迫っていた。

 振り向きながら2枚の氷の壁を全面に押し立てるが。


「今度こそォォオオオオ!!!」


 振り上げ抉るように繰り出された拳は、氷の壁を砕き奴の腹部に命中すると身体を宙に放おった。


「しゃっ!! あ、エミリア!!!」


 攻撃が当たり小さくガッツポーズを取ると、彼女の名を呼びながら顔を向ける。


『一応、平気よ。至る所が痛いけど』


 変身が解けた状態で地面に横たわっていた。痛いと彼女は言っているが、思ったよりも元気そうな返事に胸を撫で下ろす。

 奴は地面に叩きつけられ、肩で息をしながら立ち上がろうとしていた。

 俺は歩いて行き、奴の身体を踏みつけそれを妨げる。


「何か言いたい事あるか」


 拳を見せつけるように作る。


「……あの、ハーフウルフのに賞賛と畑の連中は町に居る。無事だ」


「分かった。安心したよ」


 顔面に向け振り下ろすと、鈍い音がし奴の意識は飛び動かなくなる。


『倒せました?』


『なんとか。いてて……』


 我慢はしていたが体の至る所が痛い。またアニエスさんのお世話になりそうだ。


『最後はなんて?』


『お前を褒めて、農民の皆さんは町居るから安心しろだと』


『何それ。なんか戦うためだけに場所や条件を整えて呼んだって感じね』


『この辺りの畑収穫済み、みたいですからね』


 そう言われ、俺は今一度周囲を見渡す。

 最初来た時は荒らされているか。という観点だけで見ていたが、確かに戦闘した周囲の畑の農作物の収穫は粗方終えているようであった。だが、完全に戦闘での被害がないわけでもなく駄目になってしまっている部分も存在していた。


 すると、奴が嵌めていた腕輪がパキンという音と共に割れ、これまでに見たことのない大きさの黒い球体が"腕輪"から排出され出てきたのだ。


「なんじゃこりゃァ!?」


 と、叫んだと同時にポンっと言う音と煙と共に俺は元の姿に戻る。

 叫び声を聞き2人の視線は俺へと向かい、その後異様にでかい黒い球体に移り変わった。


『うわっ、本当におっきいですね』


『おぉー。気持ち悪いぐらいの大きさね』


 各々反応していると球体が消滅を始めた。

 塵のように何処かへと消え、元の成分がとか具体的に何なのかとか何も分からない。


 ゆっくりと地面に居り座り込んみ考える。

 俺の命か、あいつらの……。

 手を降って近づいてくるアンナを見て俺も手を振り、起き上がって背を伸ばしているエミリアの順で視線を送った。

 命を犠牲に、か。

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