29話Strong/次の任務だ

 変質者の撃退から2ヶ月近く経ったある日の事であった。

 同じ所から今度は烏の被害を受けている。と、ギルドに俺達を指名して依頼がやってきた。

 俺達は即決し、任務を受ける事で話が進んでいきギルドから出ると俺は口を開く。


「また烏か。じゃぁ、仮説違ったのかね?」


「そうとも限らないかもよ? 今度は組織的な動きはなかったりとかね」


 確かに、前回烏の襲撃を受けたのは今回とは真逆に位置する畑だった。

 それに期間もかなり開いており、その間烏及び害鳥関連の任務も見ていない。

 潜伏していた。という可能性もあるが如何せんただの鳥という前提条件が頭から離れずにいた。


「また、あの烏さん達でも新しい魔法覚えてますので大分楽だと思います!」


 珍しく自信満々に言うアンナに対し。


「頼りにしてるわよ~」


 と、エミリアは子供をおだてるように言いながら頭を撫でていた。

 門を出て、目的地の畑周辺に到着するが、前回のように烏が飛び回っている様子もなく、農作物も荒らされた形跡は少なかった。


「あたしの言う通りだったかもね?」


 得意気に言い、俺は流すように。


「せやなー」


 と言っていた。

 周囲の様子を見るに、そこまで酷い襲撃はなさそうに思える。

 散発的に来てて、対応は出来てるけど念のために呼んどこう。って、パターンかこれ? 俺達的には指名もらってるしいい額だしで嬉しい限りだけどそんな余裕あんのか?


 などと考えていると、今回は若い男性が1人出てきた。顔に見覚えはある。変質者が現れた時に老人が断ろうとして呼んできた男性の1人だ。


「この度は、わざわざご足労頂きありがとうございます」


 そう言うと彼は一礼し、顔をあげる。


「いえいえ、任務ですし。にしても思ったより荒らされてないみたいですね」


 俺はパタパタと飛んでいく。


「はい、幸いにも」


 彼はニコニコと笑っていた。不自然なほどに。


「それは良かった。他の人は?」『エミリアどう思う?』


 俺は喋ると同時にテレパシーを送っていた。

 最近出来るようになったのだが、気をつけていないとテレパシーと喋る内容が逆になってしまう。


「只今、用事で出ておりまして」


『んー、正直言うと怪しい。名指しはまだいいとして、畑もそうだけど被害がの割には報酬が多いしなにより━━』


 突然、何かの衝撃が俺を襲い、意識ごと弾き飛ばされ2回ほどバウンドし力なく地面に横たわった。


「ユニーちゃん!?」


「ッ! 変身!」


 エミリアはアンナの前に一歩出ると光に包まれ魔法少女の姿へと変わる。

 遅れて、彼女も変身し、二人は先ほどまでのにこやかな表情とは一変し、殺意をむき出しにしさけずみ笑う男性を睨みつけていた。


「おっと、失礼。思ったより勘づくのが速いな。と関心してな」


 ユニーを襲った衝撃は、払うようにして繰り出された裏拳であった。

 この時、められた。とエミリアが察するには十分な情報であり、奴は不自然に間を置いてしまった彼を怪しんでの行動だ。


━━完全に油断してたわね。アンナをさらわれた時点で、あたし達を狙ってきてる連中がいるのは分かってたし、こういう事は想定できてしかるべき事態。


『アンナ、突然戦闘が始まってもいいようにしておいて。後、喋らない』


『りょ、了解です』


「っは、まさかあの変質者も烏も襲撃もうちの仲間さらった連中さえもあんたの差金とはね」


 最近あり、コイツと関係ありそうな事例を並べたうえでカマをかける。

 全てが全てあたっているとは思っていなかった。


「おや? おかしいな。そこにたどり着くだけの情報はなかったと思うのだが」


 だが、どうやらこの反応を見る限り当たっているようであった。そして1つの考えが頭をよぎる。

 少なくとも変質者とさらった連中は[汚れた者]だった。で、その関係者だとするならコイツ、あたし達より[心の汚れ]について詳しくしってそうね。それなら。


「やっぱりね。となると、実験って所かしら?」


「……なるほど、思ったよりかは知らないようだ」


 っち、向こうも似た考えだったか。

 適当に話をし、ボロが出て情報を何かしら引き出せないかと思ったが、そう簡単にはいかないらしい。寧ろ少々下手を打った気さえする。

 ちらりと目線をあいつの方に向ける。まだ起き上がってきそうな雰囲気はなかった。

 出来れば情報を聞き出しながら起きてくるまで時間を稼ぎたかったけど。


「ならば、わざわざ話に乗ってやる必要もないな。やはりからめ手や、話術とかそういうのは性に合わん」


 そう言いながら彼は首を成らした。

 無理ね。コレは。多少の被害は目を瞑って。


『アンナ、戦闘開始と同時に目眩ましが欲しい』


『と、言いますと?』


 あたしは突然しゃがむと地面に手をつく。


「ガード!」


 少し離れた位置に、奴と隔てるようにして1枚の土の壁が生成される。


「壁越しに!!!」


 叫び、壁から離れるために左に向かって跳んだ。

 すると、意図を理解したのかアンナは壁に向かってワンドを向ける。


「アクアバルカン!!」


 放たれた水の弾は壁を貫通し、男とその周辺に着弾して砂煙を巻き上げ始める。

 バズーカじゃ壁の突破にちょっと時間がかかり逃げる猶予を与えてしまう。それに引き換えバルカンなら難なく貫通し攻撃が元からバラける関係上、大体の位置さえ知っておけばこの目隠しもさほど気にならない。


「ソードクリフト」


 剣を右手に生成し、アンナの攻撃が止むと地面を蹴り上げ今度は前に跳ぶ。

 此方の手の内は知られた上で対応策があると見て動く。まずは様子見で、此方の動きを悟られ難くするため壁で視界を遮り、貫通する攻撃で奇襲。これで倒せればよし、だめでも目眩ましとなる砂煙が発生する。でもコレも最初だけ。

 舞い上がる煙の中、シルエットを捉え剣を振るうが、ガキンッと金属音に近い音がし硬い何かに防がれていた。


 そして、それが"魔法"である事はすぐに理解出来た。

 何故なら半透明の盾のようなものが彼の両腕から生成されていたからだ。微かに冷気を帯びている事から氷なのだと判断する。

 少し離れランスを生成し無理矢理突破を考えた矢先、右腕の氷の形状が変化しているのを察知し後ろに大きく跳んだ。


 次の瞬間、氷の盾は音を立てながら槍のような形状となり伸びあたしの鼻先を掠める。

 アンナの火力で押しつぶした方が速いか。でもバズーカは此処で使うと被害大きすぎるし……。

 すると、奴の回りに氷のつぶてが発生し、全てあたしに向かって飛んできた。


「っく、アタック!」


 すかさず左手を前に出し、指を弾き衝撃波を発生させる。

 約半数は相殺したが、落としきれなかった礫が襲い掛かって来る。

 落としきれないか……!


「つぅ!」


 身体にぶつかり痛みはあるが、骨が折れたりや打撲によって行動不能に陥る様子はなく着地すると、走って続けて放たれた第二波を避けていく。

 魔力によるダメージの肩代わりか。これ、思ったよりかなり便利ね。

 続けて、奴に向かって可愛い犬の顔をした炎の玉が飛んでいき同時に落雷が発生するが、直前で飛び退けられてしまう。


「今の、完全にアンナ視界外だったでしょ……!」


『うそぉ!?』


 アンナから驚きのテレパシーが送られてきて、避けきり立ち止まり息を吐く。

 すると、男は笑いこう言い放った。


「はははは! いいぞ、予想以上だ。七賢人が1人、ルシオンが戦うに値する!」


 ……はい。ボロが出た。って、言っても2人で倒すのはちょぉっと厳しいか。せめて森や障害物がいっいある場所なら幾らでもやりようはあったのだろうけど。

 自身が囮となり、アンナを視界外である死角に配置し攻撃する事は出来る。だが、察知され避けられてしまった。此方の攻撃を重ねてならまともに当たる可能性はあるがこの場合的確に守られる未来しか見えない。

 そして、あたしが死角に回り込もうにも、完全にマークされててそう簡単に行きそうにない。

 先ほどの攻防の時、彼の視線は"一度たりとも"エミリアから離してはおらず捉えたままであった。

 これは、時間稼ぎメインで動いた方がいいかもね。早く起きてよね。たく。

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