28話Magic/小さくて動く木だ
「よっと」
あたしは1人である物を持ってリカルドのおじいちゃんの家に来ていた。
"昔の癖"でこういった一見空き家に見える家屋には窓から入ってしまう。
しまった。と思うも入ってしまったものは仕方ないので、彼が居る奥の部屋へと向かった。
床が軋みギィギィと音をたて、微かではあるが鼻の良いハーフウルフには少しきつく鼻を摘んでいた。
「おや、君はアニエスさんが連れてきた傭兵の子じゃないか。珍しいね。どうかしたのかい」
あたしに気が付き、彼は声をかけてきた。
「薬。届けてちょうだい。って個人的に依頼受けたから」
そう言って、テーブルの上に袋を置いた。
「薬か。そう言えば切らしていたね」
眉間にシワを寄せつつ、部屋の奥に進むと窓を開け広げて深呼吸をする。
「ねぇ、リカルドさん」
「リカじぃでいいよ」
彼はぎこちなく微笑んだ。
「……じゃぁ、リカじぃ。相談があるんだけど」
あたしは窓に腰掛ける。
「なるほど。君が1人で来ていた理由か。何でも言ってごらん。それが彼の意思だ」
一服置いて彼はそう答えた。
「……いや、やっぱいいや。ごめん」
あたしは思い直し、そう告げる。
うじうじ考えてるのね。とあいつに言っているがあたしも人の事は言えない。揺れ動き、判断が鈍りつつあった。そして、魔が差し相談しようとしていた。"コレばっかりは"自身で決めるべき案件なのに。
「おや? では、また相談しに来たい事があれば来ると良い」
「そうする。リカじぃもそれまで元気でね」
「元気? 元気か。あぁ、そうするとしよう。若きハーフウルフの娘よ。貴女に幸があらんことを心から願おう」
急にそう言われ少々びっくりする。
「あ、ありがと。じゃぁ、またね」
ぎこちなく、歯切れの悪い返答となってしまった。
「あぁ。此方こそ、薬をありがとう」
あたしは窓を閉め、家を後にした。
◇
翌日。
俺達はギルドに向かい、ランクが上がって更新されたカードが届いて初めての任務を決めていた。
傭兵、冒険者にはそれぞれランクがあり弱い方から順にダート、カッパー、シルバー、ゴールド、ペインが存在する。
強さの示唆にもなってはいるが、こなしている任務量も示している。
ただ強いだけでは駄目でちゃんと数多くの任務をやり遂げなければならない。無論、難易度が高い任務を行えばそれだけランクがあがる近道になる。
そして、地味に重要なのが任務を長期に渡り行っていなければ、ランクが下がる場合もあるという点だ。
身近で言うとツバキが該当し現在はランクシルバーなのだが、元々はランクゴールドである。主に本人の意思でギルドを通さずにガーネーションで働き生計と立てているからである。通して働くと確かにランクは下がらないが、ちゃんと皆の一員に慣れていないそんな気がするからだと言っていた。
アンナの特訓の成果を見るために戦闘となりそうな任務を探しピッタリな任務を見つけた。
「グリモアーバの討伐かー」
そのため基本的には群生し動かないのだが、増えすぎた場合が問題となる。
門を潜り、草原を歩いて行く。すると、数本の背の低い木を見つけた。
それらは不自然に揺れたり傾いたりしている。
「あれね。此方に来たのは」
増えすぎた場合、最低限のグリモアーバだけを残し新天地を求め一斉に動き出すのだ。
その際、周辺の村や町に被害が出たり最悪壊滅したりする。故に、もし一斉に動き出しても傭兵や冒険者を大量に雇って撃退したりと対応を迫られる羽目となる。それだけではなく群生地を無闇に突いても一斉に動き出すため
これだけではなく、四方八方に散るため、発生地点から数十キロ範囲の町や村はグリモアーバが近辺に辿り着いていないか見まわる必要がある。そして、見つけた際は今回のように討伐する。
要は迷惑極まりない
「さて、行くわよ。アンナ」
「はーい」
「変身!」「変身でーす!」
2人の体は光に包まれ、弾けた時には魔法少女の格好へと変わっていた。
「数は6本だな。散らすと面倒だよな」
「そうね、やるなら一網打尽がベストだけど」
グリモアーバはそれぞれ間隔を開け点在しており、アクアバズーカで一気にとは行きそうになかった。
「当初の予定通り、1本1本潰して行くしかないわね。案外速いから気をつけて」
「分かりました~」
2人はそれぞれ左右に分かれ静かに近づいていき、俺は上空に飛び上がると見下ろし位置報告や予め決めていた初撃以後の指示を出す準備をする。
『準備はいいな。始めるぞ』
『はい』
「ファイアキュート! ユニ」
元気に返事をすると、アンナは左手にデフォルメされた犬の顔の形をした炎を生成し、ワンドを振り上げ雷雲を生成する。
「ソードクリフト」
エミリアは右手に片手剣を生成し、しゃがむと左手を地面に手をつく。
『作戦開始!!!』
俺の合図を皮切りに。
「ガード!!」「サンダー!!!」
2人は同時に魔法を行使した。
雷雲から発生した雷撃は1体に直撃し、せり上がった壁は別の1体を空中に押し上げる。
すかさずアンナは宙を舞う1体に狙いを定め、ファイアキュートを放った。ソレはグリモアーバに命中し火を舞い上げながら落下し始める。
やはり、威力が低いとはいえ
残った個体が危険を察知し動き出そうとするが、深く鋭くそして静かに近づいていたエミリアが1体を切り捨てた。
『後、半分っと』
『アンナ、左方面に走ってた奴の前に威嚇射撃、足を止めろ!』
『あ、はい!』
「アクアバルカン!」
揺れながら走っていく1体の前に撃ち放ち、砂煙を舞い上げながら着弾していく。
急停止すると、方向を変えて走っていった。
そう、うまくはいかないか。だが、これでアンナと奴の動きが直線上にはのった。
彼女は攻撃をやめつつ、再びファイアキュートを生成し放つ。追跡するように近づき、命中すると少しの間燃えながら走った後、崩れるようにして倒れた。
『やりました! あ、次を……』
『いや、大丈夫だ』
最後の個体に一閃を浴びせるエミリアの姿を見届け、降下しながら俺はテレパシーを送った。
『はい、終了。ねぇ、アンナ。なんか魔法が効きづらくなかった?』
そう送りながら剣を担ぎ、歩を進ませ始める。
『え!? 分からなかったです!』
力強い返答に彼女は苦笑いを浮かべていた。
『なんか違和感でもあったか?』
『うん。手応えがちょっとね。後、ユニサンダーだっけ。雷撃落とした個体がまだ動いてる』
彼女は僅かに動いている個体の所を見下ろし、剣を突き刺した。
『あら? 威力なら十分足りてると思ったんだがな』
スパイダーウッドを倒した時、一撃で倒せた事を思い出しつつ答える。
あの威力なら仕損じるなんてないと考えたんだが、耐久が高いのか?
だが、本に書かれていた単体での脅威度は、圧倒的にスパイダーウッドの方が上で耐久も此方の方が高いと書かれていたため少々考えにくい。
『あ、燃やした子は大丈夫でしょうか? また動いたり』
『そっちは平気。持続して燃えててちゃんと枯れてる』
パチパチと燃えている個体に目線を向け、エミリアが答えた。
『あれか。アクアバズーカじゃ倒しきれなかった可能性あって、此方で正解だったと』
『前向きに考えるならそうなるわね。後ろ向きに考えると、こいつら』
魔法に耐性があるんじゃない? と彼女が言った時、失念していた。と思った。
行使するものが少ないが故に本に記述されにくく、一般的な知識として浸透していない。
『あり得るな。というか言われてみると、それしか考えられん』
これは覚えておこう。何かの役にたつかもしれん。
『思い過ごしの可能性もあるし、出来ればもう一度戦いたい所ではわねー』
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