18話Doctor/退院だ

 アンナが連れ去られて、エミリアを魔法少女にして送り出して。

 俺はその後ずっと心配で胃がキリキリと痛む中、言い渡された最悪の自体に備えての今後の対応策を考えていた。無事戻ってくるまでの時間は3時間程度だったのだが体感では数十時間にも感じていた。

 そして、診療所に来るや否や俺は、大丈夫だったか。何かされていないか。怪我はないか。と言った具合に質問攻めにしてしまい、アンナに笑われてお父さんみたい。と言われ、エミリアには呆れられてしまった。


 女医さんであるアニエスさんの話しによると、俺の腹に物凄い衝撃があったような後があり内蔵が破裂していてもおかしくなかったらしい。

 体が丈夫なのか、はたまた運が良かっただけなのかは分からないが大事には至っていない。

 だが、数日は絶対安静、と言うか入院を言い渡され5日ほど診療所で過ごしていた。


 その間、アンナやエミリアを始め、ガーエーションのツバキちゃんやウメちゃんや店主、タキさんや同じく受付嬢のカヤちゃん、リネちゃん。なんか気がついたら仲良くなっていた傭兵のジェームズさん等々色々な人がお見舞いに来てくれて内心すごく嬉しかった。

 だが反面、2人にはこの間任務を完全に押し付けている形となり少し申し訳ない気持ちにもなっていた。


「ま、もう平気でしょ」


 入院してから6日目。

 軽く診察を受け、体に問題はなく退院という足運びとなった。

 特に荷物もなく軽い手続きだけで終わりとなり、数日振りに外に出る。


「久しぶりのシャバの空気じゃーい!」


 お見舞いはそれなりに来てはくれるものの、娯楽は乏しくやはり暇である時間が多かった。

 本もこの体じゃ読むの一苦労だからな。夜になってロウソクの火頼りじゃ、文字なんて読めたもんじゃないし。


「なんか、牢屋にでも入れられた人の台詞みたいね」


 エミリアが苦笑いを浮かべながらそう言ってきた。


「おう? よく分かったな」


「あってたの。そんなに暇だった?」


「すごく、暇だった」


 深く頷きながら俺は言っていた。

 後からアンナも出てきて3人でギルドへと向かう。


「今日ぐらい休んでもいいんですよ?」


 病み上がりで心配なのかアンナは、俺を抱きかかえながらそう言ってくる。

 無理に振りほどこうとはせずそのまま体を彼女に預けた。


「平気平気。寧ろ元気過ぎて自分でも怖いくらいなんだって」


 体の痛みは3日もしたら引いていた。

 治癒能力が高いと見て良いのか分からないが、長引かなくて本当に良かった。

 それより、やはりこの状態はすごく安心する。


「でも、無理は禁物よ。明日は採集の護衛で出るんだから」


 さて、此処で問題となるのが俺の入院費である。

 お金はあるにはあるが、今回エミリアがとある交渉をしていた。それが採集の護衛である。

 具体的に言うと入院費の変わりに1度無料で任務を請け負うというもの。


 この手の交渉は普段は個人レベルで行われギルドを介さない。例をあげると先日までのエミリアとの雇用関係のような形で口約束で行われるのだが、今回はギルドを介しているらしい。

 なんでも大都市クラスではこの手段は使いにくいのだが、こういった比較的小さめな町であれば融通が利き使いやすいそうだ。


 そして、採集の護衛任務は危険な割に報酬が安かったりし不人気で、アニエスさんから見ても願ったりかなったりで簡単に了承を得ていた。

 変わりに一度にかなりの数を採集すると予想されすごく大変だろうが、致し方ない。

 まぁ、俺から見ると色々と新鮮で楽しいんだろうけどなー。


 ギルドに付き"3人"で掲示板の前に立ち任務を見ていく。

 これも俺が入院している間に変わった事だ。これまではエミリアが選んだモノをただやっていたがこれからは相談して決めよう。と言う足運びになっていた。

 やり方を変える際、俺にも相談が来たが2つ返事で了承していた。


『いいのないなー』


『ですねー。今日はより一層……』


 そして、話し合いはテレパシーで行う事にしていた。


『うーん。お、コレなんて良いんじゃない?』


 どれだ? と俺が聞くと、彼女の口から語られた任務は……。



「どうしてこうなった……」


 俺は目の前の光景を見てそう呟く。

 任務の内容は、急募。畑の監視任務、害鳥から守ってくれ。 と言うものであった。

 最初は近寄らないように文字通り周囲の監視をすればいい簡単なモノだと思っていた。

 アンナも似た考えだったようで、病み上がり初の任務にしてはちょうど良いだろう。という事になったのだが。


「アンナ、そっちいった!」


 畑道を魔法少女に"変身した"エミリアが駆けて行く。


「了解です!!」


 アンナも魔法少女に変身しており、空を飛ぶ烏に対してワンドを向けアクアバズーカを放つ。

 そう、監視とは名ばかりで何故か戦闘となっていた。

 大量に飛び交う烏の大群の一部が農作物目掛けて降下を始める。


「甘い、アタック!」


 しかし、先頭部に向けて放たれた衝撃波により複数体が気絶し墜落する。そして、農作物との間に入るようにしてエミリアが立ちはだかると急停止し再び上昇し始める。

 同時に手薄になった場所で降下が始まるが、1本の水の柱が立ち昇り牽制し掠めた個体は気絶し墜落していく。


 俺の知ってる烏より頭いいしアグレッシブ過ぎやしないかい。いや、凶暴化したらこれくらいなのか? ならんな。こんな組織的な動きにはならんな!!

 すると、現在は小さい体である俺も標的と見なされ一部の個体が襲いかかってきた。

 

「プロテクト」


 防壁を張り、襲いかかってきた烏を防いでいく。

 標的と見なされているのは体には悪いが、畑を守るという観点から見れば囮となり多少は2人の負担を減らせる。


『あぁもう! キリがない!!』


 案の定、畑中を駆けずり回るエミリアの悪態が2人の頭に響く。


『受けちまったんだ。仕方ない。けどなぁ。アンナ、ユニサンダーは使わないようにな』


『はーい! 分かってまーす!』


 最初は簡単な任務だと考えた手前、報酬金額が安いのは当然。と考えていたのだが、これでは完全に割に合わない。


『でも、烏さんとの知恵比べみたいで楽しくないです?』


『なんで、烏と知恵比べしなきゃなんないのよ!!! 可笑しいでしょ!?』


 御尤もである。

 それから、烏の大群が諦めて何処かに散り散りに飛んで行くまでの2時間。戦いっぱなしであった。

 終わる事には全員至る所に引っかき傷があり、アンナに至っては再度変身出来ないほどに疲弊ひへいしていた。それほど病み上がりでの任務はハードなモノであった。


 流石に依頼者もこの状況は想定外だったようで、後で追加の報酬を渡すと話され帰路についた。


「初めてあんな烏と戦った……」


 その途中、未だに信じられないと言いたげな顔でエミリアが呟く。


「え? あれが普通とかじゃないのか?」


「違いますねー。私も初めてです」


 じゃぁ、この辺りの烏が特別凶暴化してたのか? でも、依頼者も困惑してたしなー。


「あれも汚れた者だったんですかね?」


 汚れた者。[心の汚れ]がある人への呼称が特になく俺達が勝手につけた呼び名だ。こう言うのは呼び名があった方が、わかりやすいためつけた。

 そして、俺はとある情報を開く。


★新規の情報が開示されました。

◯心が汚れていない相手を魔法による攻撃で倒した場合、相手を有無を言わせずに気絶させる事が出来ます。なお、魔法で直接殺傷する事は出来ませんのでご留意下さい。なお活植族アクティプラントに関してはこの例から外れており、倒す事になるのでご注意下さい。


 戦闘中に新たに開示された情報だ。

 これまで数回戦闘しているが、表示されなかった。そして、黒い球体が排出された個体を見ていない。

 以上2点から汚れた者であった可能性は低いと考えている。


「大部分は違うんじゃないか?」


「そうねー。居たとしても少ないんじゃないかしら。例えば指示役だけとか」


 エミリアも俺と考えが大体一緒なようで、居たとしても汚れた者となった烏があの集団を誘導、操作した。と見ているようだ。

 あの乱戦の中でたまたま撃ち抜く事が出来、浄化。統制が取れなくなって散っていった。と考える事ができる。それにあの妙に統制が取れた動きにも納得がいく。


「なるほどー」


「ま、確証はないけどね」


 市壁の門に辿り付き、見覚えがある門番の兵士に挨拶をし通ろうとする。


「あ、エミリアさん! お疲れ様です!」


「えっ、えぇ、そっちもね」


 兵士はエミリアにだけ労いの言葉をかけていた。

 町に入り、横目で先ほどの兵士を見ると喜んでいるようであった。


「……なんであたしだけ?」


 どうやらエミリアは全く覚えていないようで、不思議そうな顔を浮かべていた。

 俺はアンナにのみ思わずテレパシーを送る。


『難儀だな。あの門番』


『ですねー。始めてきた時の人だったのですけど』


 流石はアンナちゃん。きっちりと覚えていたようである。


『本当にな』

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