19話Doctor/女医さんから依頼だ
昨日の疲れが抜けきらぬまま朝を迎えてしまった。
唸り声を上げながら起き上がると、パタパタと飛んでいき1階に降りる。
すると、何食わぬ顔で作り終えた3人分の朝食と、昼食だと思われるサンドイッチとそれを入れるピクニックバスケットがテーブルに置かれ、エプロンを着たアンナの姿があった。
「あ、おはようございますー」
「おはよう。アンナは元気だなぁ」
ショボショボする目をこすりながらゆっくりと飛んでいき、テーブルの上に降りて座る。
「入院で鈍ったんじゃないですかー?」
入院中ロクに動いておらず寝てばかりだった。
痛みが消えても本を読んでいたぐらいで、運動はしていない。
「そうかもなぁ」
と答えるものの、やはり昨日の任務が堪えてるだけな気もしていた。
程なくしてエミリアもあくびをしながら降りてきて朝食を取ると各々出発の準備をしていく。
『なぁ、採集の護衛ってなんか特別な事ってあるか?』
準備が終わり玄関で待っていると、手持ち無沙汰から何気なく問いかけていた。
『まずは全方位警戒から遠目で地形頭に入れつつ対象の周囲の安全確保』『一応、採集ですし地形把握からの目的地に向かうまでに危険な箇所の洗い出しでしょうか』
ほぼ同時に送られてくるテレパシーに驚き、困惑し聞き取れていなかった。
『すまん。聞き取れなかったから、別々でもう一回送ってくれ……』
今度はエミリア、アンナの順で送られお礼をいう。
言いたい事は大体一緒で、要は地形把握しつつ周囲警戒すりゃいい話だ。
ならば機動力があって索敵にも向いているエミリアを先行させて、俺とアンナで護衛の形でいいか。出会った時に1人で行ってたアンナも採集自体は慣れてるだろうし十分だろう。
ふと、初っ端から自然に1人で危険な事やらせてたのかもな。と考え少し反省する。
少しして準備が整った2人が降りてきて出発した。
任務の受領は予め済ませており、診療所に向かうとアニエスさんが大きなカバンを背負って待っていた。
軽く挨拶を済ませ、門へと歩を向ける。
「おっ、初めて見た。ホントに何の生物か分からんな……」
そう言って、初めて会う門番をしているエルフの兵士に指でつつかれる。
「だろうな。俺も知りたいぐらいだ」
「はっはっは! 自分でも知らねぇのかよ。あ、通るなら顔パスでいいぜ。お前ら何せ有名だからな」
「そりゃおめぇ、お強い美女2人連れた珍獣のチームッて感じよ」
彼は笑いながらそう言い、聞いた本人は鼻で笑いやがった。
珍獣ってなんだよ。確かに見たこともない生物だけどよ、珍獣はないだろ。珍獣は。
「因みに、広めた元凶って誰か分かるか?」
「あん? 確か傭兵のジェームズだったな」
聞き覚えのある名前であった。それもそのはずだ。この町に来て初めて友達と言えるかもしれない奴の名前であったからだ。
あんのやろぉぉぉおおおお!! 今度絶対飲み代俺の分も払わせてやる!
と心に決め、門を後にし目的地に向かおうとしたが先に寄りたい場所があると言われ、そちらに向かう事となった。
着いた場所は市壁の外にある農家の皆さんの家より更に離れ、森の中にある1家の民家であった。
アニエスさんはカバンを玄関に置くと、ノックもせずドアを開け家主と思われる名前を呼びながら中に入っていた。
「あたしらも入る?」
そう聞かれ、入ろう。と俺は短く返し中に入っていった。
家の中はお世辞でも綺麗とは言いがたく、ボロいという感想が真っ先に出てくる。
家具も最低限しかなく、歩く事にギィ、ギィ。と、木が軋む音も聞こえ微かにだが腐臭が漂ってきていた。 下手をすると空き家と間違われそうな家であった。
そして、奥には半分ほど植物となっているエルフの1人の老人がいた。
本で得た知識だが、彼は恐らくレインストークと呼ばれる活植族だ。基本的にたんぽぽと酷似しているの植物なのだが、決定的に違うのが動物の死体の上にタネが落ち芽が出た場合である。
なんと、ゾンビのように死者を動かすのだ。欠損している部分は蔦や茎を伸ばし補強もする。つまり、彼は一度死んだ者だ。
「おや、アニエスさんや。新顔かい」
彼の目が俺達を捉え、
「そうですよ。最近新しく傭兵になってくれた人たちです」
彼女は手慣れた手つきで、簡単に彼の診察をし始めた。
「傭兵にねぇ。大変だろう?」
「大変……ですけど、楽しいですよ」
俺がそう答えると、彼は微笑みそれは良かった。と行って、更にこう続ける。
「何か、相談事があったら、来なさい。何でも相談に乗ってあげよう。それが彼の意思だ」
しかし、死者を動かす。と言っても蘇生するわけではない。レインストークが意思を持ち体を借り受けている状態となる。稀に生前の記憶も持っており彼のように意思疎通出来る個体も居るが、大抵の場合は記憶は持たずただ歩く植物と融合した屍程度でしかない。
肉体も徐々にだが朽ちていき、その度に補強されていく。だが、それも限界があり最終的には動くことも出来ずに活動を停止する。
ので、少しでも肉体が朽ちる速度を和らげるため日陰となる洞窟やその周辺で集団でいる場合がある。一説によると、レインストーク同士で何か会話も出来ると本に書かれていた。
俺達は、彼女の診察を待ち、終わるともう一度彼に会釈をしてその家を後にした。
後で聞いたのだが、彼の名前はリカルド。リカじぃと呼んで欲しいらしい。
寄り道をした所で、やっと採集の護衛任務となり、出かける前に考えた役割を話すとすんなり了承され、それで行く事となった。のだが、午前中だけでもかなり大変そうであった。
俺は飛べるのでまだいいものの、アニエスさんは急斜面の場所を主に歩き、自生している様々な薬草を採取していき、その途中崖を登ったり沼の中を突き進んでいた。
終始彼女の護衛でついて回っていたアンナは、泥だらけで服の至る所が破れたり痛み、擦り傷も至る所にあり酷い有様となっていた。
エミリアの方は、テレパシーのおかげで一々戻らなくて楽。といい鼻歌を歌いながら周辺の探索をしており、昼食時に再合流した時にアンナの姿を見て驚愕する。
「これ、アンナが完全に貧乏くじね」
「俺のせいだ……。ほんと、ごめん」
俺は彼女の目の前で土下座する。
まさか、此処までとは予想もしていなかった。
「いえー、私個人としては予想範囲内でしたのでー……」
「何なら変わろうか?」
エミリアが提案するも、彼女は断った。
「周囲の探索は無理ですのでこのままでお願いしますー。ユニーちゃんも頭あげてください」
そう言われ、俺は頭をあげるとパタパタと飛び始め、横目でアニエスさんを見る。
彼女はカバンから採取した薬草を広げ、紙に何かを記しているようであった。
「アニエスさーん。お昼にしませんかー?」
「私は後でいいわ。先に食べててちょうだーい」
「じゃ、お言葉に甘えて~」
エミリアは地面に置かれているピクニックバスケットを開けサンドイッチを1つ取り出すと口に運んだ。
「あ、ダメですよー! ちゃんと用意しますので!」
そう言ってアンアがピクニックバスケットを持ち上げ、頬を膨らませた。
「あはは、ごめんごめん。そういや、服どうするの?」
彼女が笑いながら謝罪し、アンナの汚れた服を見てそう問いかける。
「ふっふー。それはですね。変身です!」
光に包まれ、魔法少女の格好へと変わる。傷はあるが、ドロやボロボロの服は置き換わり綺麗で華やかな状態であった。
「おー、考えたわね」
「これ前提で動いてましたので。準備しちゃいますねー」
エミリアはパタパタと走っていく彼女を見送り、周囲を見ている俺に目線を向け立ち上がる。
「なんか気になる?」
「ん? いやな。昨日の烏の事があって警戒してるのもあるんだが、なんか静か過ぎだなぁと」
採集中、動物をほとんど見かけていなかった。此方の気配き気が付き先に逃げられた可能性もあるのだが、それでも鳥の
エミリアは最後の一口を放り投げ、飲み込むとこう言った。
「それはあたしも気になってる。あんまり動物見てないのよね。でも、何かが暴れた痕も見かけてないから、何かに襲われるかは半々って所かしら」
「ふむ。なら、午後は魔力消費を抑えるとか言わずに変身した状態で護衛した方がいいな」
「そうね。警戒も強めて行くべきでしょうね」
話しが纏まった所でアンナに呼ばれて、向かった。
そこには布製の可愛いピクニックシートが置かれその上にサンドイッチや紅茶が入ったコップを置き昼食を取る準備が整っていた。。
「アンナ。一応いうとピクニックではないからな?」
「いやまぁ、そうだろうけど準備良すぎるから疑うのも分かるわー」
エミリアが意地悪そうな顔をし、のって来るとジト目となったアンナがこう言い放つ。
「むー、2人して。そんな事言ってますとサンドイッチあげませんよ」
「すみませんでしたー!」「ごめんなさい。言い過ぎたわ」
空腹の俺達は昼食を人質に取られると、脆く弱かった。
故に、これ以上意地悪な事を言えずほぼ同時に謝っていた。
「あはは、冗談ですよ。食べましょー」
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