17話Soldier/さぁ、観念しなさい

『囚われの姫ちゃんやーい。何処におられますからねー』


 確かに走っての疲れはないが、本日は既に任務を済ませている。しかも戦闘まで行っている。

 内面的にはかなり疲れ果てており、軽くふざけて置かなければやってられなかった。


 森に入って5分。

 反応がない。もっと奥の方か遠くに連れ去られたか。と考えていると。


『なんで、貴方がテレパシーを……?』


 アンナの声が頭に響き立ち止まる。

 思ったより遠くに行ってないようで安心した。


『そりゃ、答えは1つしかないでしょ。それより、今目隠しとかされてない?』


 おどけた口調で質問に答え、一転して真面目な口調に戻すと逆に質問をする。


『……はい。見える範囲で、兵士さんは4人でしょうか。家屋には居ませんし、見渡しがいい所なのでこれで全員だと思います』


 聞こうと思っていた事を先に答えてくれて助かる。

 太い木の枝に飛び移り、枝伝いに再び移動を開始する。


『全体でどれくらい居るとか分かる?』


『わかりかねますね。ですが、10人は居たと思います』


 最低でも6人が周囲の警戒に出てるのかな。

 そう考えていると、1人目を発見し静かに身を隠す。


「ナイフクリフト」


 ささやくように言うと、右手にナイフが生成され握る。

 なんとなくだが、手に馴染む感じがしナイフを回す。

 変なのが出来上がると思ったけど、これは中々どうして。


『ちょっと、待っててね。粗方"始末"してそっちいくから』


 静かに木を降り、石を1つ拾うと音を立てないように移動していく。少し距離はあるが背後を位置取ると、石を兵士の前の木に向かって放り投げた。

 音を立てて木にぶつかり、兵士は、誰だ! と声を上げながらランプを音がした方に向ける。


「何だ。誰もいな──」


 突然、兵士の顎が押し上げられ何か刃物のような者が首筋に当たると、一気に引き抜かれた。


「ん、手応えが違う」


 と、呟くが兵士が抵抗する様子はなく、手を離すとその場に倒み意識はないようだった。が、首に切り傷はなく、息もある。変わりに黒い小さな球体が出てきた。

 疑問に思うが、これは刃物の形をしていたとしても殺傷能力はない。と悟った。

 試しに木を斬り付けてみると知っている感触と共に木に傷が入る。


 魔法とは、本当に不思議な物である。

 そう思いながらあたしは、魔法で作られやナイフに目をやった。

 すると、他の兵士が叫んでコンタクトを取り始め、耳がピクリと動く。


「ひーふー……うーん。思ったより喋ってくれないわね」


 音を立てないようにして再び移動を開始し次の獲物を決め、声がした方に向かっていく。

 石を投げた一連の流れには理由が2つある。

 1つはまず単純に近づきやすくするため。

 そして、もう1つが。


 姿を発見し静かに忍び寄ると地を這うように低く跳び、まずは足の腱を斬る。着地し方向転換すると肩関節に向けナイフを投げ、顔に目掛けて蹴りを食らわせそのまま無理矢理地面に蹴り落とした。


 大体の位置を知るため。ハーフウルフは普通の人間より、鼻と耳が少しばかり良い。こういう見通しが悪い場面ではこの特性を発揮するのに適している。

 相手に此方の存在を察知されるデメリットもあるが、それがどうした。


 ナイフを引き抜くと倒した相手の心臓に目掛けて振り下ろし周囲を確認する。


「うーん。思ったより動いても来れない、かな?」


 飛んでくる矢を察知し半歩捻り、避け走り始める。

 コイツは一旦生かして泳がせた方がいいか。

 木を盾にしつつ距離を取る"素振り"を見せたのち、闇夜に潜み相手の出方を伺う。


 すると、あたしと正面切って戦う方針を取ったようで、叫び周囲の兵を集め始めた。


「前言撤退。……"平地"なら、"日中"なら人数差あるしそれでやりようはあるかもね」


 ソードクリフト。と囁き、今度は一振りの剣を生成した。

 でも、"森"で"夜"なのよね。いくら数的優位があろうと、慣れてないよちよち歩きじゃぁ、お話にならない。

 連れ去った連中を見るあたしの目は、この時狩人のソレであり口元は笑っていた。


 さぁ、狩りの時間よ。



 戦闘開始から約10分。

 少し開けた場所に陣取っている本隊を残し、周囲は不気味なほどの静けさに包まれていた。

 あれだけ、阿呆みたいに騒ぎてていてこの状況、全滅している事は火を見るより明らかだった。


「体長、どう思いますか」


「どうもこうもあるか」


 荷馬車に口を布で塞いで乗せているアンナに目線を向け、異常がないことを確認すると短く指示を出す。


「アレを中心に全方位警戒」

 

 兵士達は静かに動き始めると突如、土の壁が音を立てて地面からせり上がり、兵士達の注意がソレに集まる。

 そして、1つの衝撃波が彼らの間を駆け抜け"あるモノ"を斬り裂いた。


「土の壁……? まさか、別のま──」


 何かを理解したかのように隊長格と思われる兵士が口を動かすが、遮るがの如く変身。という声と共に荷馬車が光に包まれた。


「なっ!?」


 後ろを振り向き状況を確認しようとした時、縄を安々と引きちぎりワンドが向けられていた。


「アクアバズーカ!」


 放出された水が複数の兵士を飲み込み、その先にそびえ立つ木や草も巻き込み突き進んでいく。


「こいつ!」


 1人の兵士が矢筒から、1本の矢を抜きつがえようとする。しかし、背後から接近する1人の女性に気がついてはいなかった。

 背中から腹部を剣が通りぬけ、兵士の鎧と服だけを両断しその場に力なく倒れこむ。


「よし、作戦成功」


 エミリアは剣を担ぎそう呟いた。


「うまくいくもんですね」


 ぴょんとジャンプしアンナは荷馬車から降りる。


「経験に裏付けされた計算の元の結果だから当然」


 彼女は得意げに言うと真顔でアンナがこう言った。


「適当に言ってます?」


「さぁね? ……今更なんだけど、倒した連中どうする? 処理前提で動いてたから正直扱いに困ってるんだけど」


 あー。と声を漏らしながら返答に困ったアンナが先ほど吹き飛ばした方角を見て、荷馬車に目をやる。


「一応、連れて帰って引き渡した方がいいですよね?」


「まぁ、そうね。謝礼とかはまず期待出来ないし要らない仕事増やしやがったって言う奴がいるかもだけど」


 アンナは苦笑いを浮かべると黙り、近場で伸びている兵士の元に歩いて行く。


「ねぇ、アンナ」


 エミリアは変身を解除する。


「はい?」


 呼ばれた彼女は、立ち止まり振り返った。

 何かを発しようとしたがやめ、一服置きこう続ける。


「……お腹空いた。何かない?」


「無いですねー。あ、でもお夕飯はシチューですよ!」


「これまた時間が掛かりそうね」


 あっ。と声を漏らす。


「こりゃ、今日は外食かなー」



 森の中、ローブを来た長身の男が闇に紛れ込み2人の様子を伺っていた。


「一応、フェーズ1とはいえ正規兵崩れを使ったのだが、相手にはならんか。そして、あのハーフウルフ。かなり手強いな。戦うなら地形を選ばねばならんな。さてはて」

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