9話Going/街についたぞ

 アンナに起こされ目を覚ますと、日が傾き始め目の前には町を囲う市壁が目線に入ってくる。

 回りを見渡すと、ポツポツとだが市壁の外にも家が見え畑が広がっていた。


「んあー……。あれ、もうついたん?」


「そ。近場って言ったでしょ」

『はい、着きましたよー』


 2人にほぼ同時に反応され、眉間にシワが寄る。

 どうやら長い時間寝ていたようだ。今日夜ちゃんと寝てるか心配になって来た。


「アンナには先に言ったけど、とりあえずあたしの旧友って事にして中に入るから話合わせてね」


 そう言うと歩を進ませ始め、町の入り口に向かっていく。


『……"分かってるな"?』


『バッチリです』


『よし。じゃぁ行こう』


 彼女の後を追うようにして走って行くと、門番に冒険者カードを見せ通してもらうように話をしていた。


「なるほど。では、友達の手伝いをするために?」


「そうなんですよぉ。で、お願いがあるんですけど、ちょぉっと珍しい生き物を連れた子町に入れたいんですが、いいですかね? いいですよね? 此処が駄目だとすごく困るんです~」


 と、言い寄っていたエミリアは少し姿勢を低くし上目遣いであった。口調も不自然なほどに変えていた。

 一言だけ言うなら、あざとい。コレ以外思いつかないほどにあざとい。誰だコイツと思うほどに。


 だが、見た目はいい。それを分かっていてかつ大げさにやっているのだろう。

 武器にしている。そう言った印象も受けた。


 門番がチラリと俺の方に視線を送ると、エミリアがすかさず門番の手を取った。


「駄目ですかぁ?」


「……ぐ、ですが」


 門番の目線が再び彼女に戻る。


「駄目なんです……か?」


 ダメ押しのように言葉を反復し、顔を傾げた。

 この時、俺はこう思った。

 落ちたな。と。


「あー、ちょろかった」


 町に入り、エミリアがしたり顔で放った第一声がコレである。

 彼は予測通り落ちたみたいで、通る時エミリアを見ながら頬を赤くしていた。

 正直、気持ち悪い。と最初は思っていたが、俺も元の姿で同じことをされた場合全く同じ反応をしてしまう未来しか見えず、一転し同情してしまっていた。


「じゃ、まずはギルドに行くわよ」 


「ああ、道案内頼む。暮れる前に行っちまおう」


 10分ほど彼女の後ろをついて歩くと、傭兵冒険者ギルドが所有していると思しき建物の前に着いた。

 その間、人通りが少ない道を選んでいたようで、すれ違う人は片手で数えるほどしか居なかった。


 ドアを開け、中に入ると床には安っぽい絨毯にカウンターには受付の人と思しきエルフの女性が1人。後は複数のテーブルとイスに花瓶や本棚やソファー、掲示板と言った物が置かれていた。

 時間帯が良かったのか受付の女性以外は、3人程しか人がいなかった。


「あら、見ない顔ね」


「先ほど町に来ましたからね」


 ドアを閉め受付のお姉さんの前まで歩いて行く。


「で、御用は何かしら?」


「あーまずは、ふた、1人と1匹をこの街で新人の傭兵にしたいのだけれど」


「ごめんなさい。もう一度いいかしら?」


 お姉さんは瞳を閉じ目頭を抑えながら、繰り返し言うよう要求する。


「だから、この子達を傭兵にした──」


 今度は最後まで聞かずに、勢い良く立ち上がると傭兵と思しき男性の1人を指出し叫ぶようにこう言った。


「ちょっと、ケイジ!! リネに連絡して来てちょうだい!!!」


「え、あ、うっす」


 ケイジと呼ばれた男性は走ってギルドを後にする。


「あ、ごめんなさいね。いいのね? この町でいいのね??」


 物凄い見幕でエミリアの手を掴む。

 突然の行動。更に勢いと声量のせいで彼女の顔が引きつっていた。


「あ、あたしもですけど、まずはあっちに……」


「そうね!」


 手を離し、此方に目線を向け見つめながらカウンターから出てくる。


「貴方達ね! まぁ、可愛いバディだこと!」


 そして、アンナもまた顔が引きつっており、一歩また一歩と後ずさりする。


「さぁ、速くサインを済ませちゃいましょ!!! さぁ、さぁ!!!」


 何処からともなく書類とペンを取り出し息を荒げ、鬼のような形相で更に近づいて来ていた。


「は、はひぃ!?」


 その光景を見て恐怖を感じ始めたのかアンナの顔が青ざめ、変な声が漏れる。

 正直に言おう。俺もすごく怖い。


「こら、お辞め!」


 老婆の声で一喝が入り、我に返ったお姉さんが急いで振り向いた。


「し、支部長……!?」


 カウンターの奥にあるドアが開いており、1人の年を食ったエルフが立っていた。


「全く、あんたって子はちょっとしたことで騒ぎ立てるんじゃないよ」


「だ、だって、久々の!」


「口答えするんじゃないよ!」


 更に一喝し、老婆はため息をつく。


「そこの。うちの子が驚かせたようで悪かったね」


「い、いえ。お気になさらず」


 貴方の方が怖いです。とは、とても言える雰囲気ではなく、俺は無難かつ簡潔な返答をしていた。


「そうかい。んならいいんだけどね。タキ。これ以上あの子らに"気を使わせる"んじゃないよ」


 タキと呼ばれた受付のお姉さんをひと睨みしたのち、奥の部屋に戻っていく。

 俺は目線をエミリアに向けると、困惑した表情をしていた。

 続いてアンナを見ると涙目になっていた。


 選択、間違えたかもしれん。と、思わず考えてしまっていた。


 それから、簡潔な説明と同意をし、アンナは書類にサインをしてい、俺は以前として片手で抱きかかえられたままであった。


「書きながら聞いてね。今日はもう遅いから、宿に泊ってもらって貴方達に支給する拠点、と言うか家を明日何件か紹介しようと思うのだけど、いいかしら?」


「大丈夫です。と言うか本当に支給してるんですね」


 体をなんとかずらし、カウンターを覗き込むように顔を出す。


「そういう決まりですから。大きい所ですと宿舎だったりするんですけど、生憎あいにくとうちの町は傭兵が少なくて」


 エミリアが言っていた通り、国境沿いのせいか傭兵が少ないみたいだ。

 好奇心に任せ具体的にどれくらいいるのか。と聞いてみると、30人程しかいない。と返って来た。更にこう続けられる。


「後ね。此処3年ほど冒険者は何人も排出してるんだけど、傭兵が人っ子1人増えてなくてね。さっきはつい取り乱しちゃったの」


 ばつが悪そうにそう言った。


「もう、それは良いです。やっぱり国境付近だからですか?」


 そう俺は問いかけてはいるが、国境沿いだという理由だけではないだろう事は察しがついていた。

 いくら傭兵が少ない、増えにくい場所とはいえ流石に3年もの間、誰も増えないと言うのおかしい。とひっそりとテレパシーを送ってきていたアンナが言っていた。ある意味カンペである。

 更に、多分帝国のせいでは。とも。


「そうねぇ。デザートフリーク帝国の悪い噂のせいでね……」


 ビンゴ。流石アンナちゃんである。

 

「あの国との国境沿いの町は何処も似たようなもんなのよ。ホント参っちゃう。あ、書けた?」


 アンナは頷くと書類を手渡す。

 お姉さんはそれに目を通しておき、おっけー。と返答をすると、振り返りソファーで寝そべりくつろいでいるエミリアに目線を向けた。


「貴方も再登録しちゃうから来て頂戴~」


「ほーい」


 彼女がカウンターまで歩いて行くと、冒険者カードを出すように催促され不審そうな顔を浮かべながら言われるまま差し出した。


 さて、本来ならば俺とアンナのペアの傭兵。エミリアが単独で傭兵に転向し、表向き協力関係という形を取るように話が進んでいた。

 だが、俺はアンナに1つの提案をしていた。

 当初は彼女が極一部で出るらしい長期滞在許可を行使すると思い込んでの提案であったが、些細な事であり結果は変わらないのでこの際どうでもいい。


 仮の傭兵用のカードが手渡されエミリアは目を通し、驚いた表情を浮かべて俺達に目線を向けてきた。


「あんたら、やってくれたわね……」


 怒気を含んだ声で言われ、口笛を吹き誤魔化した。


 先ほどの書類には俺、アンナそして"エミリアの計3人"で傭兵をやるように手続きを済ませていた。

 手続き自体は簡単であり個人情報は名前と年齢と種族があれば一応は登録が可能であった名称がついていないほどの僻地の村人や、故郷を失った人が登録出来るための対処なのだろう。

 エミリアのみ、冒険者と言う事でカードを使い詳しい情報を取り寄せる手筈となり時間が掛かるという。

 

 無論、この段階でならば拒否する事が可能である。

 そのため俺は言いくるめるための準備をしていた。

 結局の所は、折角雇うんだ。別々の傭兵なんて寂しいこと言うなよ! と言う至極単純な理由が主だ。


「ま、いっか。さほど変わらないし。それにあたしの事、苦手って言う割には、ねぇ?」


 が、披露する前に納得されてしまった。振り上げた拳のもって行き場がない状況とはこの事だろうか。

 獲物を見るような視線を送られ身思わず震いすると、俺とアンナの分の傭兵カードが手渡された。


 書いてある事といえば。

 所属ギルド[エルート]。名前ユニー。種族不明。ランク[ダート]。編成チーム。そして仲間である2人の名前が書かれ備考の欄は空欄であった。

 簡潔と言えば簡潔な内容であった。

 これも一応仮の物らしいが、書かれる内容自体はほぼ変わらず材質が変わるだけらしい。


 備考の欄は実績や名声を詰めば記入される場合がある。とも説明され、エミリアのカードを見せてもらうと備考の欄には、元単独シルバーランク、元ギルド[ハフウェイド]所属。と記入されていた。


「ん? ギルドも変わるのか?」


「そうよ。ま、これは元々そのつもりだったから気にしなくていいわよ」


 そう言うと、彼女は変更手続きの書類を催促したのだった。


 書き終わるのを待っていると日は落ち外は暗くなっていた。

 今日の所はギルドが所有する宿に泊まる事となり、そこへ歩を進ませていた。


「アンタ達、意外とやること大胆よね」


「いやいや小心者だって」


「小心者なら、まずあんな行動取らないっての」


 確かにそうだ。と考えつつ町に着いたらやろうと思っていた事をする事にした。


 それは魔法少女適正者を探すことである。半径100メートル範囲ならば感知出来るとはいえ、集中しなければいけない関係上常時捜索モードという分けにはいかない。


 俺は集中し探し始める。すると、すぐに反応を1つ感知した。

 お、幸先いいじゃん。と思うのも束の間、反応がやけに近い。


 俺は目を開き、反応を示す女性に視線を向ける。


「うん? どうかした?」

 

 エミリアは俺の視線に気が付いたのか振り向むくと、後ろ向きで歩きながらそう問いかけてくる。


「え? いや、なんでもない」


「何か怪しい。また何か企んでない?」


「いや、ほんとなんでもないって! と言うかお前こそ何か企んでないのかよ」


「心外ね。興味本位だけでギルド移動したり、勝手に一緒に傭兵組んだのを水に流してあげたあたしに対して言うことじゃないでしょ」


 返す言葉が見つからず俺は言葉に詰まってしまった。


「っく、疑ってすまん」


「素直でよろしい。この話の後でアレだけど、警戒してるのはいい事だと思うわよ」


 そう言うとエミリアは前を向き直した。


 ……まさか、な。

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