8話Going/街に出発だ!
俺達は朝食を3人で取り、その時に彼女を雇う。と言い簡単ではあるが、仕事の契約を交わした。
その際、簡単に傭兵になる経緯を話し、近場で比較的安全な街がないか。と情報提供と自己紹介をするよう促していた。
俺達は自己紹介を簡潔に終え、金髪のケモミミの女性の番となった。彼女はエミリアと名乗り冒険者のシルバーランク。とだけで此方も簡潔なものであった。
「それで、近場ね。どうしても国境近くになるけどいい?」
問われ、俺は了承し話は続いた。
現在位置はデザートフリーク帝国と呼ばれる国の領内。だが、すぐ北にはイタグラント王国と言う国が、東にはイルリカン共和国と言う国が存在し、言わば3国の国境付近に俺達は居ると言うことになる。
どの程度国境に近いかと言うと、転生先の昨日の街がイルリカン共和国領内らしい。
それで、この周辺ではイタグラント王国領内に存在するビランチャと呼ばれる小さな町が、一番安全との事だ。
別件だが彼女の前だと、アンナはあまり口を開こうとしなかった。理由を聞こうかとも思ったが、今朝自分で言った言葉思い出し取りやめ、解決策としてテレパシーを送り確認を取った。
噂程度だが比較的治安がいいと小耳に挟んだ。と言う返答が来てその町に向かう事を決め、現在はその道中の真っ只中である。
次は何処を拠点に据えるかについての相談を行う事となった。
「そのまま、ビランチャだっけ。その町じゃいけないのか?」
俺は頭に浮かんだ疑問をそのまま口に出していた。
「いけない。って、事はないのだけれど、国境付近の町って冒険者の出入りが場所で差はあれど、何処も比較的多いのよね。で、結果としてだけどいざこざに巻き込まれる可能性が高くなる」
単純に人の出入りが多く、変な輩が来やすくなったり問題が起きやすいのだろう。
だが、裏を返せば出入りが多いのならば冒険者から情報を収集する機会が増える事に繋がる。性格が良さそうな人と知り合いになる機会もだ。
エミリアは続けて、代わりにいざこざを避けるために傭兵自体が少ないから仕事にこまる事は少ない。と告げられ、俺の考えはこの時点で纏まっていた。
後は、アンナがどう答えるか。だけである。
『はい。構いませんよー』
テレパシーを送ると二つ返事で了承され、何かしら嫌な事があると考えていた俺は肩透かしを食らった。
しかし、順調に話が纏まるのは良い事なので嬉しい気持ちもあった。
「問題ない。ビランチャって町で傭兵をやる」
「そ。止めはしないけど、アンナって子に聞かなくていいの?」
そう言ってエミリアは彼女を指差した。
「もう相談済み」
「は? ……あー、魔法か」
呆れ声で呟き、腰につけている袋から何かを取り出すと口に放り込んだ。
「何食ってんだ?」
「エッグフルートって食べ物。んぐ、食べる?」
もう1つ取り出し放り投げ、俺はキャッチしそれを見つめた。
形状は名前の通り小さい卵のような形をしており、ほのかに甘い香りがする。
恐る恐る齧ってみると、甘い果汁が口に広がるが。
「んだこれ!?」
食感が昔食べた事がある生肉のソレだった。
俺は頬が引きつり、2口目を口に運ぶ事を体が拒む。
「あー、駄目か」
エミリアは俺が持つエッグフルートをつまみ上げると、口まで運び1口でたいらげる。
「これ何もしてないと食感で好き嫌いハッキリ別れるのよね。アンナは好き?」
「……」『あまり好きではないです』
無表情、無反応でテレパシーのみ送られて来る現状に乾いた笑いが出てくる。
「なんて?」
彼女は目線を俺に向けそう問いかけてくる。
「あんま好きじゃないとよ」
それから少しの間ぎこちない会話が続き、最終的に俺は疲れ果ててしまいアンナに抱かれて移動していた。
何故だろう。この状態物凄い落ち着く。何処とは言わないがフィットするからだろうか。
思考が変な方向に向かおうとし、自分で自分を誤魔化すようにしてテレパシーを送ってお礼を伝えようと思いつく。
『アンナ、助かる』
『いえいえ、この程度なんてことないですよ』
『それでもだよ。ありがとう』
『えへへ、こんな事でもお礼を言われると照れますね。どういたしまして、です~』
見上げると、彼女の顔がほんのりと赤くなっていた。本当に照れている思っていいだろう。それとなく上機嫌にも見えた。
テレパシーを切り、睡魔が這いよって来る気配を感じながら情報の1つを開いた。
★新規の情報が開示されました。
◯[心の汚れ]についてのご連絡です。これは心が何かに魅入られ憑いている状態を指しています。悪人だからと[心の汚れ]が存在するわけではございませんのでご留意下さい。なお、感知はできず[心の汚れ]が長期に渡って抱え込むと体が変異、最悪死を招きますので発見次第素早く対処して下さい。
死、か。速く何とかするべきなんだろうけど、闇雲に探しても見つかるもんじゃなさそうだしなぁ。と言うか、[心の汚れ]ってのも具体的にどういうのかよく分からんし、これからの生活もあるしやること多いなぁ。
などと考えていたら次第にまぶたが重くなっていく。
というか、これからうまくやれるのか不安だ。何かしら使いやすい飛び抜けた力があるわけでもないし、変体は強いけど3分だけだし、再使用まで時間掛かるし……。
実は朝起きてアンナと相談した後と、出発してすぐの時に変体を試みていたがどちらも失敗していた。
どうやら俺が当初思っていたより再使用には時間が掛かると見て間違いない。
現在は最短でも数日。最悪数週間と考えていた。
この辺りの情報もあれば楽だったのだが、どうやらあの情報を提供している奴はそこまで気が回っていなかったらしい。
無い物ねだりをしても仕方ない。ゆっくりと再使用までの……時間を……しら、べ……。
程なくして俺は睡魔に負け、意識は夢の中へと落ちていった。
この時点では俺は[心の汚れ]がどういった影響を及ぼすのか。という事柄を当然と言えば当然であるが良くわかっていなかった。そして、此処から当分の間は俺達は知らなかったのだ。
ある一定のラインに達すると、緊急性を増す事も。
何も、理解も出来ていなかったのだ。
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