2章

10話Beginner/我が家を決めるぞ!

 宿のベッドは肌触り良く、ふかふかであった。

 内装も豪華ではないがセンスが良い調度品が置かれ、良い部屋であった。

 そして、それぞれ1人1つずつ部屋に通されていた。よく眠れる環境であるのは間違いなかった。


 だが俺はぐっすり寝ることが出来なかった。

 理由は2つあり、まずは昼の移動中アンナの腕の中で寝ていた事。

 もう1つはエミリアに関して。


 あいつは魔法少女の適正がある。何度調べても適正がある。

 それを話していいものなのか。魔法少女にするべきなのか。それとも別の子を探すべきなのか。アンナに相談すべきか。そもそも興味本位で、とは言っていたが本当に興味本位だけでここまでして来るものなのか?

 などと延々考えていたのだ。


 考え過ぎなのかもしれないが、やはり地盤は大切。


「って、アンナの魔法少女半分勢いでした俺が言えた事じゃないな」


 ベッドから出ると、パタパタと飛びドアノブを捻ろうとするとドアが勝手に開いた。

 外にはアンナが立っていた。


「朝ですよー」


「……一応いうとノックはしてくれ」


「あ、そうですね。気をつけます」


 飛んで廊下に出ると、周囲を見渡す。


「あれ? エミリアは?」


「一緒ではありませんよ?」


 サラッと言われ、2人っきりで居たくないのかな。と思ってしまう。

 

「それより、おうち見に行きましょ~」


 俺の手を引き上機嫌で歩き始めた。


「ちょ、朝食食ってからな!?」


 程なくして、エミリアと合流し3人で朝食を取り、昨日入ったギルドの建物の前に来ていた。

 アンナはと言うと、合流してから途端に口数が減り別段不機嫌というわけではないがテレパシーでの会話が増えていたのだった。


 10分ほど待つと、昨日対応してくれた受付のお姉さんであるアキさんが外回り用の服と思われる動きやすそうな服に身を包み、1つの肩にかけるタイプのポーチをぶら下げていた。


「お待たせしました」


「いえいえ、全然待ってないです」


 こういった場面の常套句と思われる台詞を俺は吐き、早速拠点となる家を見に行くことにした。

 紹介される物件は全てで4つ。それぞれ離れており移動距離があるため、町を見て回るにもちょうど良かった。


 路地をメインに石畳の道を歩くこと5分。1つ目の物件の前についた。


「まずは、此処ですね」


 見た目を一言で言い表すと、"馬小屋"であった。ただの馬小屋であった。


「却下」「ないですね」「却下ね」


 3人は同時に声を発し、意見も統一されていた。


「せめて犬小屋だよなー」


 俺はそう呟き、エミリアに目線を向ける。


「へー、そういう事いうんだ。じゃぁ、此処アンタにピッタリじゃないの? あ、でも小さいし鳥小屋の方がいいかしら。何ならお皿の上とか」


「それ以上はやめろ!」


 彼女はニタリと笑い、尻尾を揺らしながらこう続ける。


「鍋の中とか、フライパンの上とか」


「やめろって! やめて、やめて下さい!」


「しょうが無いわねー」


 満足したのか、そう言った彼女は以上反撃をして来る気配はなかった。

 ふと、アンナに目線を向けると悲しそうな顔をし空を見上げていた。


『どうかしたか?』


『……初っ端これですと期待出来なさそうって思いまして』


 確かに、こんなの紹介され期待しろと言う方が無理な話である。

 釣られて俺も悲しみに暮れたような表情となった。


『確かに、期待なんざできないな』


 次に紹介された物件は、恐らく豪邸であった。

 ソレは何かの植物のつたで覆われているのだ。


 家の形が分からないほど繁殖した状態で。


「入り口何処だよ!!!!」


 思わず突っ込んでしまう。


 こう言うのは手入れをすれば夏場は涼しく、冬場は湿度が保たれ比較的過ごしやすい。

 虫の対策やメンテナンスが大変という欠点もあるのだが、今回の場合放置され手入れがされず大繁殖。といった具合だろうか。


 どちらにしろ、俺達の手でなんとか出来るような物件ではないのは確かだ。


「お、俺はパス」


「私もなしで」


「うーん、あたしこういうの結構好きかも」


 エミリアは心なしか心躍らせているように見受けられた。


「野生の本能的なのが掻き立てられるとかか?」


「……うん。そういう事にしといて」


 返答までに間が空き、更にははぐらかすような内容。俺は不審に思った。


「何か隠してるな?」


「特には。ズケズケ聞かないんじゃなかったけ?」


「む……」


 俺は顔をしかめ、黙りこける。

 無闇に変な事言うもんじゃないかもな。これじゃぁ問い詰めにくい。


 此方に合わせる。とエミリアは言い、結局この蔦に覆われた物件も却下と言う足運びとなった。

 アキさんはポーチから次の物件の資料を取り出した。と、同時にアンナがテレパシーで、お昼。と短く寂しげなトーンで訴え出てきた。


 実はこの物件のある場所は、町外れでありしかも1時間ほど歩いていた。よく考えれば利便性を考えてもこの物件は選びたくはない。

 そして、現時刻は大体正午頃。お昼時だ。


「アキさん、そろそろお昼にしません?」


 俺が言うと彼女は懐中時計を取り出し時刻を確認する。


「そうですね。では適当にお昼を取りましょうか」


「あたし、肉がいいー」『やったーお昼ー♪』


 ほぼ同時のタイミングで反応し内心、コイツら仲良くなったら息ぴったりなのではなかろうか。と俺は考えていた。


 町に戻り一番近い料理店に入り昼食を取って満腹になった所で、次の物件に向け歩を進ませた。

 次の物件は料理店から10分ほどの距離であった。

 見た目はと言うと古びた一軒家であった。

 

 屋根には穴が空き、窓は割れ壁には落書きが見えた。

 玄関を開けるとドアがきしむ音がし、埃が落ちてくる。玄関から続く廊下は所々穴が空いており壁にも穴が空いている箇所が見受けられた。幾つもの蜘蛛の巣やキノコが生え、ネズミが横切る光景が目に入ってくる。

 

 前回の蔦で覆われていた豪邸らしき何かは遠い、メンテナンスが大変だからという理由なのだろうと思っていた。が、コレを見る限りでは傭兵が来ない事を前提として考え、手入れを放棄している節を感じる。


「俺はパス」


「私は良いと思います」


「あたし1人なら問題ないけど、パスかな。……ん?」 「はい!?」


 俺とエミリアは思わずアンナに目線を向けた。


「え、え?」


 彼女は俺達の反応に不思議そうな顔を浮かべていた。

 これまでの行動から、あまり口に出して話したくはないのだろう。と考えテレパシーを送った。


『アレの何処がいいんだよ!?』


『わっ!? えっとですね。以前住んでいたお家が似た感じでしてお掃除すれば問題ないかなーっと』


 なるほど。いい生活はしていない。とエミリアが言っていたが俺の思っている以上だったようだ。

 そして、何処と無く悲しい気持ちとなりしんみりとしていた。


「アキさん、此処は絶対にダメだ。次に行こう……」


 せめて、もう少しマシな暮らしをさせてあげたい。

 そう考えこの物件も俺の独断で却下となった。


 泣いても笑ってもラスト。最後の物件だ。

 先ほどの物件から5分歩いたとある家屋の前でアキさんは止まった。


「此処ですね」


 俺達はその家に目線を送ると、小奇麗なただの一軒家であった。

 目をこすりもう一度見るがただの一軒家である。

 

「なんで、コレが最後? 最初で良かったんじゃ?」


 思った疑問をそのまま口に出していた。

 こんないい物件があるのなら、これまでのはなんだったのだ。って話である。

 無駄な時間を過ごした。そう思っているとアキさんの口からこのような事を言われた。


「此処、曰くつきの物件でして。幽霊が出るとかなんとか」


「幽霊……? エミリア。お前は信じてるか?」


「全然、これっぽっちも」


「ですよねー」


 テレパシーでアンナにも問いかけるが、此方もあまり信じていない。と返答が来た。


 神妙な面持ちでドアノブに手を掛け回し、開くが中も至って普通。強いて言えば埃が少し溜まっている程度であった。

 中に入り、各部屋を確認していくが特に問題はなく、寧ろ小奇麗と言う印象を受けた。

 

 1階は台所に居間、トイレやお風呂。後は大きめの部屋が1つと小さい収納スペースがあり、2階は簡単な作りで部屋が4つ存在し出窓が1つあった。

 拍子抜けするほど普通で状態もよく、掃除をし家具を買い揃えればもう住めるほどであった。

 強いて言えば、収納スペースが少ないと言う点だけだ。


 これなら問題なく傭兵としてスタートが切れ、マシな生活をアンナにさせることができる。部屋も余るくらいにはあるし、幽霊の話もどうせ悪ガキのいたずらや見間違い、勘違いの類だろう。


「俺は此処、良いと思う」

 

「私も此処がいいですー」


「異論なし。決定かしらね」


 アキさんに此処にする。と伝えると手続きをする。と言い残しギルドに戻っていった。

 すると、エミリアは出窓を開け深呼吸をする。


「支給だけど、こう言う家持ってゆっくりするのもまぁアリか」


 遠くを見ながら彼女は呟く。


「冒険者ってやっぱ忙しいのか?」


「ん? んー、忙しいというかゆっくりする時が少ないって感じね」


 彼女は頬杖をつき続ける。


「傭兵みたく、腰据えてってわけでもなし。色んな所転々として楽しいけどさ。長期で滞在出来ないし、有名じゃないうえに単独だから人間関係も希薄きはくで何処と無く孤独感あるし。何よりギルド提携の宿って言ってもお金は掛かるから、来る日も来る日も移動して任務こなして寝て移動がてら任務受けて……って、なんでこんな話してるんだろ」


「俺はもっと聞きたいぞ?」


「嫌よ。変な事まで喋りそうだし」


「スリーサイズとか?」


「何? 知りたいの?」


 俺は少し考え、咳払いをしてキメ顔でこういった。


「一応、男なので」


「言うわけないでしょ。馬鹿」


 そう言った彼女の顔は微笑んでいるような気がした。

 何処と無く距離が縮まった気もする。そして、俺が思っているほど変な奴。という分けでもないらしい。

 案外、話してみると印象が変わるって聞いた事あるけど、エミリアがまさにそれだと感じた。


「ねぇ、そういやアンナは?」


 彼女は2階の部屋を確認していき、俺はテレパシーを送って今何をしているのか聞き報告する。


「……1階で掃除始めてる。しかもむっちゃテンション高い」


 まさか鼻歌交じりでテレパシーが飛んでくるとは思わなかった。


「あはは、張り切ってるわね。あたし達は買い出しにでもいきましょうか」


「ん? 手伝わないのか?」


「此処、借りるのでも軽く手続きあるしそれも済ませるの。手伝いたいならあたし1人で行ってくるけど」


 何も考えず、手伝わないのか。と言った手前言い難いが実は掃除が嫌いである。

 故にどちらを取るかというと、買い物だ。

 言い訳ではないが、まだ町の地形を全然理解出来ていないので速く覚えてるためという理由もある。


 テレパシーで買い物に行ってくる旨をアンナに伝えた。


『ふんふ~ん。はーい。いってらっしゃ~い』


「いや、俺も行く」


「そ。じゃぁ、行きましょ」


 それから、ギルドに寄り幾つかの書類を書き買い物をして帰ると、1階の掃除を粗方終え満足気なアンナの姿があったのだった。

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