7話Going/よろしくな

 その後、疲れているだろう。と、話は一旦保留とされ山賊らしき彼らを縛って地下牢に放り込み眠りについた。


 翌日。

 俺は目を覚ますといつの間にか金髪の女性の腕の中で眠っていたらしく、びっくりし飛び上がろうろするも腕で押さえつけられ叶わなかった。


「急に逃げようとするなんて、無愛想じゃない? 非常食さん」


 昨夜のあの目。実は俺を見て狩猟本能がき立てられたらしい。

 つまり、俺は彼女からみたら文字通り獲物だそうだ。


「そ、そんな事言うから逃げたくなるんだろ! 分かれよ! って言うか、なんで俺はお前の腕の中で寝てたんだよ!?」


「あー、あの子が起きて、アナタを寝かせていったから抱き寄せた。何時でも狩れるようにねー。にしてもあの子も大概無愛想ね。何度話しかけても、あれから完全に無視された」


 彼女は不思議そうな顔を浮かべる。


「どうせ、俺と同じでお前の事苦手なんだよ。分かってやれよ」


 鼻で笑ってやる。


「いやね。そう言う話じゃなくてさ。あの子あの町でも基本的にあの調子だったらしいわよ。だから、アナタと親しげに話してるのを見て、聞いて内心びっくりしたぐらい。そもそもの話、あの町で亜人種が暮らす事自体がおかしいのよね」


「と、いうと?」


「単純に亜人種は扱いが悪い。同輩の冒険者が立ち寄るのもためらう人が居るぐらいなのに、住むってどういうことなのかしら。ってね」


「でも心配する人は居たって事だよな?」


 昨日、こいつが持ってきた小さな鞄を思い出す。


「多分だけど、ただの建前じゃないかしら。直接話した感じ、親しそうな様子じゃなかったし厄介払い出来て良かった。って雰囲気すら感じたわよ。尤も、あたし自身も亜人種だからそう感じたのはあたしに対して。であの子は割りと好いていたって可能性も無くはないけどね」


 そうは言われるものの、扱いが悪いのに"泣く"のだろうか。喜びのあまり泣いた? いや、だとしても楽しかったとは言わないはず。そもそもなんであの町に居たんだ? ドMなのか?

 脳内でアンナに関する幾つかの疑問が湧き上がってくる。


「気になるなら、直接聞いてみる?」


 少し考えた後、俺は腕を無理矢理振りほどくと離れるようにして飛び上がった。


「気にはなる。けど、昨日あったばっかりなのにズケズケと聞きすぎるのもどうかとも思う。だから、聞かない事にする」


「ふーん。それで、もし自分の身が危なくなったとしたら?」


「したら、俺が阿呆だっただけだ。で、この話をして何が目的だ?」


 遠回しに仲違いさせたい。という意図を感じていた。


「知りたいだろうなーって思っただけ。嫌な気分になったのなら、謝るわ」


「……いや、情報感謝するよ」


 よろしい。と言って彼女は立ち上がり、思わず振り返り臨戦態勢を取る。


「ちょっと、一々そうやって警戒されるの心外なんだけど」


「そりゃ、獲物だなんだ言った相手を警戒しない奴はいないだろ!! 常識的に考えて!」


「まぁ、そうか。でさ。そろそろ、昨日の返答を聞きたいんだけど」


 昨日の返答?

 そう思い警戒を解きつつ昨日の出来事を思い出していく。そして、一つの答えに辿り着いた。

 あー、雇うかどうかの話か。


「まだ決めてない」


 そう言い残すと振り返りパタパタと飛んで行く。


「早めにお願いねー」


 さて。と呟き、金髪の女性は窓に腰掛け外に目線を送る。


「彼らは、使える子。なのかしらね」


 そう言えば、名前を聞いていなかった。

 あれだけ話していたにも関わらず、聞くタイミングを失っていたのだ。我ながら間抜けである。


「後でいいか」


 ため息混じりに呟くとアンナにテレパシーを送る。


『うぉーい。アンナー。どこだーい』


 少しの間を起き返答が来た。


『はい。おはようございまーす。今は採集に出てます~。何か御用でしょうか?』


 採集に出ているのか。そういや、昨日採ってたのは昨晩全部食べたっけな。


『あー。うん。ちょっと相談があってな』


 俺が提示した相談内容は2つ。

 1つは金髪の女性の処遇、提案を受けるか否かについて。

 もう1つが今後の行動指針について。


『はい。大事な事ですね。あ、ビワだ~』


『これからどうするかは最重要事項だと思うのよ。でも俺は無知もいい所だし、何かいい案ないかなーと』


 何か考えているのか、ビワの実を取ろうとしているのか分からないが、可愛い唸り声が聞こえた後、傭兵になるのはどうでしょうか。と提案が来る。


『傭兵になる?』


 怪訝な表情になりながら反復するように聞き返すと、あ、そうでした。と、思い出したかのように説明を始めた。


 この世界には[傭兵冒険者ギルド]なるものが存在するらしい。

 そして、所属するものは[傭兵]もしくは[冒険者]となる。


 まず、[冒険者]についてだが、単純に各所を転々とし冒険をしている者である。

 回される任務は危険なモノや輸送の護衛が多く、収入は安定しない。代わりに大きい仕事を引き受ける機会も多く、うまく立ち回れば短期間で相当稼ぐ事が可能だそうだ。


 次に[傭兵]だが、支給された拠点を持ち1つの町を中心として活動している者である。

 拠点としてる町に滞在する貴族の護衛、猫探しや悩み事相談等といった町の人の困り事が主な仕事となり言わば地域密着型である。収入は冒険者と比べると圧倒的に安定している。が、短期間で大金を稼ぐ事は難しい。


 それと、冒険者は別に悪評が広まりやすいという欠点もある。傭兵は比較的悪評が広まりにくいが、街の内では冒険者より素早く広まってしまう。

 両方共信用が大事な仕事なので、一応気をつけるべきだ。とアンナに言われた。


『それでですねー。なんで、傭兵って呼ばれるのかと言いますと、登録が冒険者とは違うんですよ』


『ほう。詳しくはどう違うんだ?』


『まず、冒険者はギルドに"のみ"所属しるんですけど、傭兵はギルドとそのギルドがある国に所属する分けです。で、もしも戦争となった場合に傭兵はその国の兵士として戦うという成約が交わされるんです』


 まぁ、今は何処も戦争していなくて平和なんですけどね。と続けられた。

 今は確かに戦争はないかもしれないが、リスクとしてはかなり大きい。と思う。流石に無視して2つ返事でいいよ。とはいえない。

 

『冒険者になるってのはナシなのか?』


『はい。ちょっと厳しいと思います。冒険者カードと言いまして、ふん! 国境を通って別の町で簡単に仕事を受けられる物を支給されるのですが、ふん! 成約として1つの町に長期滞在が、ふん! 極一部の例外を除いて出来ないんですよ。取れた。あ、それでですね。私は旅に慣れていませんし、ユニーちゃんもこの世界の事はあまり知りませんし多分問題しか無いと思うんですよ』


『ふむふむ。じゃぁ、あのハーフウルフの人雇うってのは?』


『……そうですね。それだと安全性は格段に上がるとは思いますが、やっぱり収入の不安定さが私は気になりますね。それに安心して帰って寝れるおうちが欲しいです』


 彼女の言い分を聞いてとある情報を開く。

★新規の情報が開示されました。

◯[浄化]についてのご連絡です。魔法による攻撃で相手を倒した場合、心が汚れていると浄化する事が可能です。成功した場合、対象の身体から浄化に成功した分の大きさをしたドス黒いの玉が排出され消滅致します。なお、一度の浄化では浄化しきれない場合がございますので御注意下さい。 

 

 これは昨日の夜の戦闘中開示された情報の1つだ。

 浄化についての情報を多少は得られた分けだが、行うためには心が汚れている奴を探し、見つけて魔法を使って倒す必要がある。

 つまり、冒険者となるのが理に適っている分けだが、何処と無くアンナから冒険者になりたくない。という意思を感じ悩んでいた。


 効率を取り、無理にでも冒険者になる事を取るか。

 彼女と親密になる事を取り、かつこの世界の事を比較的安全に知る期間を設けるために傭兵となるか。


 俺は答えを決め深呼吸をする。


『よし、決めた。アンナの意見を採用して傭兵になろう』


 急ぎではないし、効率は悪くなるが浄化が行えない分けでもない。

 何より無理矢理効率のみを見据え、俺の意見を押し通して、何故か好意的に接してくれる彼女との仲が悪くなるのが怖い。

 端的にいうとゆっくり行けばいい。という結論であった。


 あの金髪の奴の言葉を聞いてなお一層そう思っていた。


『一応聞くけど、傭兵から冒険者、逆に冒険者から傭兵に変更って出来るんだよな?』


『はい。手続きがちょっと面倒らしいですけど、出来ますよ。どうかしたんですか?』


『ちょっと、あのハーフウルフの処遇をな。一応俺の考えを伝えるから、何か嫌な事があったら言ってくれ』



 そう言って、考えを一通り伝えると少しの間があき返答が返って来た。


『いいと思いますよー。私からは何もありません』


『了解。ふっふっふー』


 俺は不気味な笑い声をあげていた。

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