6話Battle/ぶ、無事初戦闘終了だな

 俺は急いで開き書かれている文を流し読む。


「ヒューマン……」

「あん?」


 異変に気がついたのか、踏みつけている奴が更に体重をのせる。


「変体ッ!!!」


 俺の小さい体が淡く光った次の瞬間、膨れ上がり踏みつけていた男を弾き飛ばし1つの新たな屈強な身


体を構築していた。

 そして、懐かしい感覚がする。


「これ、は」


 体に力がみなぎり、人の手を成している自身の手に目線を向け握り締める。

 が、今は細かい事はどうでもいい。

 


「な、なんだ!?」


 俺は立ち上がり1歩を踏み出すと、彼らのボスが驚いた表情でそう叫んでいた。

 なんだっていい。これで、アンナを助けられる。

 唸り声をあげながら走って行き、腕を振りかぶった。


 1本の矢が放たれるが頬を掠め、吸い込まれるように闇に向かって飛んでいき消える。


「歯ァ! 食いしばれ!! こんの畜生がァ!!!」


 次の矢をつがえる間もなく、繰り出された拳が奴の頬を捉え殴り飛ばすと奴の身体は一回転した後《のち


》、地面に叩きつけられ横たわる。そして、痙攣し立ち上がってくる事はなかった。


「ふぅ……。アンナ、大丈夫か!?」


 急いで彼女の方を向くと急に悲鳴をあげられ、俺は困惑した。


「ど、どうしたってんだよ!?」


「ダ、ダメです! それ以上近寄らないでください!」


 顔を背けられ、言い知れぬ絶望感が襲いかかってきた。

 なぜだ。何故、拒否られているのだ……! 折角助けたのに。

 絶望感からその場にひざまずき、頭を垂れる。

 すると、どうだろう。謎の光源に顔が、身体が照らされているではないか。


 今の身体の状態を1つ1つ確認していく。

 まず、俺の身体は難いの良いムキムキマッチョメンになっていた。

 これだけならまだよかったのだろう。問題は此処から先だ。


 衣類は"一切"身につけておらず、更には股間からソレの形が分からないほどに、まばゆいばかりの光が


放たれているではないか。

 これではまるで。


「ムキムキマッチョメンの変態じゃないかああああああ!!!!」


 そりゃ、顔を背ける分けである。近寄る事を拒絶する分けである。

 この状態の解除方法がないかどうか確認するため、今一度開放された魔法の項目を開いた。


◯[ヒューマン変体]素敵なムキムキマッチョメンになれます。この状態ですと、魔法少女と同じく[浄化]が


行えます。ですが、持続時間は最大3分間なうえ、魔力消費が激しいので再使用には時間を要します。更に


一定以上魔力を消費している状態でも発動が出来ませんのでご注意下さい。発動時には[ヒューマン変体]


と力強く言って下さい。力強くですよ? いいですね、力強く言って下さい。

 解放条件は、魔法少女がピンチの時に「助けたい」と強く願った時。


 素敵? 変態の間違いじゃなくて? 後、力強くってなんだよ。3分ってどこぞの変身するヒーローかよ!

 そう心の中で突っ込みを入れつつ、時間が来れば勝手に解除される事も分かり安堵する。

 と、同時に大事な事を思い出した。


「後2人!」


 顔を上げ周囲を確認するが、顔を背けているアンナとのびている山賊と思しき連中2人しか視認する事が


出来なかった。

 つまり、後2人倒していない盗賊が逃げ出した事になる。


「アンナ! 追うぞ!」


「ふ、服をその、お願いします」


 駄目だ。元に戻るまで一緒に居られない奴だこれ。

 そう考え、ワンドを近くに放ると1人で逃げ出した彼らの後を追った。


 程なくして、感知能力により3人の気配を感じ取れた。が、これでは数が合わない。


 更に面倒事は勘弁なんだが・・・・・・。

 俺はそう思っていると3分が経ったのかポンッと言う音と共に煙に包まれ、一瞬で元のマスコットの姿に戻


っていた。


 すかさず元に戻った事と察知した人数が合わない事をテレパシーでアンナに伝え、此方まで来るように指


示を出す。


「さて、このまま偵察するか否か」


 この状態では戦闘は到底出来ない。

 だが、発見され辛い小さい身体と感知能力は偵察向きといえる。ついでにこの能力。当初は範囲が短い


と思っていたが、こういう入り組んだ地形だと下の階もしくは上の階にいる範囲内の者は、察知する事がで


きるようで地形によっては強力だと考えなおした。だが、せめて倍ほど範囲があれば良かったのだが、ない


ものねだりをしてもしょうが無い。


 ふと、1つの違和感を持つ。

 この3つの反応。先ほどから"1歩も動いていない"のだ。

 不審に思い、窓から外に出て1階の窓から部屋へと侵入し、入り口まで移動すると反応のある箇所に目


線を送った。


 そこには金髪で首元で髪を結い、猫のような耳と尻尾を持つスレンダーな女性が月明かりに照らされ立っ


ていた。追っていた男性2人は彼女の足元で倒れており気絶してる様子であった。

 ピクリと耳が動き、彼女の目線が此方を向き咄嗟に隠れる。


 気づかれたか? ……けど暗がりだしなぁ。

 などと考えていると、反応がゆっくりと近づいて来ており気づかれていたと悟った俺は、窓から外に出て2


階に戻る。


「て、敵か味方かは分からんが、触らぬ神に祟り無し」


「ユニーちゃん本当に元に戻ったんですね~」


 背後から急に話しかけられ、一瞬心臓が止まるかと思うほどびっくりするが、相手がアンナだとすぐにわ


かり安心し振り向き口を開いた。


「ああ。幸か不幸か最大3分しか持たないらしくてな。後、なんか1階に強そうな人が居るから息を潜めるか


、逃げるか決め──」


 反応が急に動き出したかと思うと、1階から2階へと移動し背後を取られていた。


「ないと……な」


 ゆっくりと、後ろに目線を向けると先ほどのケモミミを持つ女性が窓に腰掛けていた。


「はじめまして。変な生き物さんと魔法使いさん」


 俺達が苦戦していた相手を息一つ乱れず倒し、この身軽さ。下手に戦っても勝ち目があるか微妙な線。


そもそも敵対視されている様子もあまりない。

 ある程度話を合わせて対策を練ろう。


「ハジメマシテ」


 緊張からか片言で返していた。


『しゃべり方変じゃないです?』

『気にしないでくれ。頼むから』


 テレパシーで突っ込まれ、返答すると深呼吸をし覚悟を決め振り返る。


「で、何か用か」 

 

「用? そうね。ただの興味本位よ。何せ物凄い珍しいからね。アナタ」


 彼女はそう言って、俺を指差す。次にアンナを指さし続けた。


「それにアナタも、そういった素振りがまるで見えなかったらしいのに、いきなり魔法使いになるんですもの


ね。興味が沸かない方がどうかしてるってね」


 この口ぶりからしてアンナの周辺は軽く調べていると見ていいだろう。

 金髪の女性は小さな鞄を1つ放り投げた。


「そうそう。あなたの仕事先の人に頼まれてね。最低限の衣類とかお金とか持って行ってくれ。ってね。それ


に入ってるわ。後でもいいから確認してね」


「なんでこんな事をする? お前に何のメリットがある?」


 と真顔で俺が質問すると、きょとんとした顔をされ次の瞬間声を出して笑われていた。


「あははは、なんでってそりゃあたし、冒険者だし」


 この世界にも冒険者は存在するのか。となると、下手打ったかもしれん。

 心の中で反省していると。


「そうか。なるほどねぇ。この世界の事"知らない"んだ」


 言い当てられ動揺し、俺は微かに顔に出してしまっていた。


「図星か。ふむふむ。ますます興味出てきた」


 カマをかけられた!?

 俺はまんまと引っ掛かり上機嫌に尻尾が揺れ不敵に笑う彼女を他所に、アンナが鞄を開け喜んでいる声


が聞こえてくる。


「どう? 必要な物は大体あるでしょ?」


「はい。十分ですー」


「良かった。これで請け負った"任務"は終了っと。さて、本題は此処から。どう? あたしを雇わない?」


 そう提案した彼女の目は興味だとか、関心があるだとかそういった感情を向けたモノではなかった。

 例えるなら、獲物を見据える目。狩りをする目。そういった類の、捕食者の目であった。

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