5話Battle/古城だ

 結論だけ先に言おう。アンナを地下に連れてこなくて正解だった。

 此処に元々住み着いていた輩もしくは現在も住み着いている輩は俺から見てだが、趣味が非常に悪い。

 

 地下は薄暗く、ジメジメとしていて血生臭い。元々はこの城の牢屋だったらしく、そういう作りをしている。

 あるのは腐りかけの死体や血がこびりついた拷問器具や錆びた武具。そして、その死体全てが"女性"であった。


 胃の中にはもう何もないはずなのに、吐き気を催し地下から急いで地上へと出た。


「あ、おかえ……顔色が悪そうですけど何を見たんですか?」


 アンナから見ても酷い顔をしていたのだろう。そう聞かれ一瞬言葉に詰まる。


「し、知らない方がいい。すまんが閉めてくれ」


 言われるまま彼女は地下への扉を閉め、俺は悪態をつきながら松明を投げ捨てていた。


「わっ!? 危ないですよー」


「確かにそうだな。何やってんだ俺は、何やって」


 再び地下の惨状を思い出し、俺は険しい表情となった。

 当分、夢に出てきそうだ。


 もー。と呟きながらアンナが松明の火を消すと手を引いてこう言ってきた。


「何を見たのか分かりませんけど、こういう時はご飯です、ご飯!」


「いや、今は食欲が──」


「いっぱい採ってきましたから~」


 彼女は俺の言葉をさえぎると手引き、食材を持って日が傾き夕焼けが古びた建物とマッチして味わいある風景へと変わっていた中庭へと出る。

 

「待っててくださいね~すぐに用意しますから」


 そう言って手を離し再び変身すると、プチファイアで火を起こし元に戻りご飯の準備を始めた。


「って、言ってもこの設備と材料じゃ大したものは作れませんけどねー」


 苦笑いを浮かべ、手慣れた手つきで準備を進めていく。


「料理出来るのか?」


「はい。と言いますか家事全般はそれなりに出来ますよ~」


「ついでに気になったんだけど、1人暮らししてたのか? 家族と生活してたのか?」


「1人暮らしでしたねー」


「大変じゃなかったか?」


 俺はバイトに明け暮れ、安いアパートで1人暮らし。金もなく趣味もネットサーフィンやゲームぐらいだった数時間前の元の世界の頃を思い出す。

 一言で言えば辛かった。楽しい事も多かったが、それ以上に辛かった。

 まずはカネがない。故に貧しい。生活するだけで手一杯で欲しいものが満足に買えない。

 バイトも失敗が多く、要領が悪かったのか頻繁に怒られていた。

 よく考えると、元の世界じゃなんのために生きていたのか分かりゃしない。


「そうですねー。色々と大変でしたけど、なんだかんだ楽しかったですよ。それよりも、今後の事が心配で不安で一杯です……」


「ほんと、この度は誠に申し訳ありませんでした」


 再び土下座をすると彼女は、ぎこちなく笑いこう続ける。


「でも、ユニーちゃんと一緒に生活するのも楽しそうですし、新生活には不安はつきものですからねー」


 言葉とは裏腹に、何処と無く彼女が寂しげな表情を受けべている印象を受ける。

 やはり前の生活の方が良かったのか。と聞こうかと考えたが、この状況を作り出した張本人が聞いていいような内容ではないため思い留まった。


 それから夕飯を食べ、他愛の無い話をしていると日が落ち夜を迎えていた。

 生息している動物は地球とほぼ同じらしく、話のタネとして良い効果を発揮していた。

 火を消しアンナに、古城の一室に行くように促す。

 

「そろそろ眠くなってきた……」

 

 今日は疲れた。転生もそうだが、ゴミ箱スタートから火炙りの刑に出てきたと思ったら地下室。そして慣れぬ体。

 疲労困ぱいであり、まぶたが重くなっていた。

 俺は抱きかかえられた状態で2階の小奇麗な一室でゆっくりしていると、遠のく意識の中で複数の反応を感じ取り、僅かに話し声が聞こえてくる。


「んー、あれ、なぁアンナ。此処には俺らしかいないよな?」


「はい。そのはずですけど」


 と、なると。この反応は? 声は?

 意識は戻ってきたものの頭がいまいち動かず、状況の理解をするまで少し時間が掛かった。


「まず……い」


 俺は冷や汗をかき、そう呟く。


「へ?」


 状況が飲み込めていないアンナは首を傾げていた。



「どうですかい。兄貴」


 7人のボロボロな服を来て、傷だらけの男が中庭に残されていた焚き火の痕の周辺に集まっていた。

 彼らは斧や剣といった手入れが行き届いていない武器を所持していた。


「まだ暖かい。お客さんみてぇだ。おい、二手に別れるぞ」


 4人と3人の2組に別れ古城内を探し始める。


「へへ、女だといいな」

「違いねぇ」


 彼らはこの古城を拠点の1つとしているならず者であった。

 

「どこだーい子猫ちゃぁん」


 そして、ユニーが見た地下室での行為を行ったのも彼らであった。


 3人組が2階へと上がり、周囲を警戒しながら進んでいく。

 すると、一室で物音がし3人組はその部屋の入り口まで静かに駆け寄っていった。

 息を整え武器に手を掛けると一斉に中に入る。が、もぬけの殻であり人っ子1人居なかった。


「っち、なんでー何もいねぇじゃねぇか」

 

 警戒しながら奥に入っていくと、布切れが落ちているのを見つけた。


「これ、女モノじゃね?」


 拾い上げ仲間に見せるため振り向いた瞬間、突如壁を突き破って水の塊が彼らを襲った。



 彼らは水に壁ごと反対側で張っていたプロテクトに叩きつけられ気絶し、胸から何やら黒く丸い球体が排出されていたが、暗がりのせいでこの時点では俺は気がついていなかった。

 周囲は水浸しとなり、低い所や隙間と通って水が1階へと流れていく。


『よし、成功だ! 残りが来る、移動するぞ』


 プロテクトを消しながらテレパシーを飛ばした。


 作戦は単純で3つの連なる部屋を使用し、奥の部屋にアンナを配置して変身させる。中央の部屋で俺が物音を建て餌として彼女の衣類を部屋の奥に配置。窓を使って外に出て、様子を伺いながら一番手前の部屋に来る。後は感知能力を使い調度良い場所に移動するまで待って、威力は保証済みのアクアバズーカで壁をぶち破っての奇襲。

 プロテクトを張っていたのは、威力が強すぎ彼らが水と一緒に古城の2階から落下死をしないためであった。尤も水や叩きつけられた時の衝撃で打撲、骨折等はしているだろうがそこまで気にかけるような余裕はない。


 風貌と言動で山賊もしくは盗賊の類だと決めつけたか当たっているかも怪しい。自衛のためだ仕方ないと心に言い聞かせていた。

 そして、此処までうまく行くとは思わなかったが、この成功に対して悦に入る暇もなかった。

 まだ敵は後4人も存在し、てろり~んと以前聞いた事のある電子音似た音と共に何らかの情報が開示されたが一旦無視し次の行動を考える事にした。


 即興であの作戦を考えついたものの、この先の事を何も考えていなかった。

 更に難点もあり、成功如何は関係なく発動してしまえば大きい音が出てしまう。つまり敵にも大体の位置が知られてしまう事になる。


『はーい! 次はどうすればー?』


「とりあえず身を隠そう。真正面からやり合って勝てるか分からん」


 身を隠し時間を稼ぎ、次の手を考えつつ奇襲をする。そう考えたのだが、甘かった。

 部屋から通路に出ると足音と共に、階段の方で松明と思しき淡い光源が視界に入る。


「階段の方面の壁に攻撃しろ!」


「え? でも敵さん居ませんけど」

「威嚇だから居なくていいんだ! 速く!」



 階段を駆け上がっていたならず者達の瞳に、前を水が通りすぎ壁を破壊する光景が映る。


「なんじゃありゃ!?」


「……魔法だな。初めて見た」


 彼らの目の下に酷いクマがあるかしらは矢をつがえ、壁を背にして通路を覗く。


「さっきのは何のために?」


「足止めだな。此方の足を鈍らせればそれだけ時間を稼げる。こういった手を使う手合いは、用心深く手強い奴か正面切っての戦闘に自信がないやつのどちらかがほとんどなんだが、俺の経験則からいうと今回は後者だな」


 そういうと弓を、構えつつ廊下に出る。


「なんもいねぇ。この先は屋上か」


「頭、つまりはあれですかい? 接近すりゃ勝てると?」


「恐らくな」



「ユニ……」


 アンナが屋上でワンドを振り上げつつそう呟くと、階段と屋上を繋ぐ出入り口の直上に小さな雷雲が発生する。

 そして俺は、出入り口の近くに陣取り察知能力で敵の位置を探っていた。


『よし、来てる。じゃぁ手筈通りに頼む』


 今回の作戦はユニサンダーと呼ばれる雷魔法で敵の1人を仕留めかつ足止めをし、すかさず最大火力で一網打尽にするという方法だ。

 先にアクアバズーカを撃たないのは、威嚇とはいえ一度見せてしまっているが故に警戒されている点を考えての事。

 更に別魔法を見せる事で浮足立ってくれないかと希望的観測も入り混じっていた。


 少しして、察知できた2人のうち1人が屋上に飛び出した時、合図を送った。


『今だ!』

「サンダー!!!」


 発生した雷は1人の男に向かって落ち、叫び声をあげた直後にその場に倒れた。


『これ、死んでませんよね? 死んでませんよね!?』

『た、多分だいじょ──』


 テレパシーを送る途中で1本の矢が射られ、アンナに飛んで行く光景が眼光に映った。


『アンナ、避けろ!!』


 矢はワンドに命中し、彼女の手から離れ回転しながら宙を舞う。


「あっ!?」


 彼女は声を挙げると同時に、今だ。という野太い声が発せられ奥に引っ込んでいた残りの2人が飛び出してアンナに迫る。


「はっはー! 女じゃん!」


「しかもいい所そうな──」


 うち1人の声を遮るかのように、俺は頭を蹴っていた。

 それほどダメージはないだろうが、多少なりは注意が向くはずだ。


「杖を拾え!!」


 叫んだ直後に地面に叩き落とされ、立ち上がろうとするも足で踏まれ抑えこまれる。


「いてて、んだ。こいつ」


「くっそ……!」


 アンナは走ってワンドの元に駆け寄るが、射られワンドを弾き飛ばした。


「おっと、お嬢ちゃん動くなよ。痛い目にはいたくはないだろう」


 次の矢をつがえながら、奴らのボスらしき男はそう告げる。

 

 俺の予想が正しければ、あの地下の事をやっている連中はこいつらだ。


「で、頭。これどうします」


「珍しい生物だ。高く売れんだろ。そこの嬢ちゃんは好みじゃねぇが、色々と役にたちそうだしな」


 そう言って、奴らのボスらしき男は舌なめずりをしゆっくりと近づいていく。


 何か打開策を……せめて巻き込んでしまったアンナだけでも助ける策を何か、何か!!


 必死に思考を巡らせた。取れる手を考えた。この窮地を脱する手がないか考えた。

 だが、何も思いつかなかった。そんな時である。

 てろり~ん。という何度か聞いた電子音に似た音が頭に響き渡ったのだ。


☆封印されていた魔法が開放され習得しました。

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