3話Meet/この度は誠に……
それから、彼女が止まるまで揺られ続け、止まった頃には完全に酔っていた。
少女と俺の体は[プロテクト]と言う魔法を咄嗟に発動し守っていたため、これと言った怪我はなかった。
「おうえぇ……」
ロープを引きちぎってもらうと、急いで草むらに向かい胃の中に入っているものを全て排出する。
下手な船よりも揺れた。死ぬかと思った。来てまだ数時間も経ってないけど、辛い。
口を拭い、ふらふらと飛んで行くと元の姿に戻っいた茶髪でセミロングの少女は泣き崩れていた。
それもそうか。いきなり意味不明な格好になったかと思ったら、十字架に縛られて火炙り一歩手前だもんな。更に多分あの町には帰れないだろうし、これまでの生活を捨てる他ない。誰だよこんなことしたの。……俺だよ。
助かるためにとは言え、なりふり構わず魔法少女化させてしまった。こんな状態になるんなら一応断りと入れるべきだったのかもしれん。だが、あの状況でどうやって断りを入れればよかったのか。などと考えていると、涙を拭いながら少女が説明を求めてきていた。
「おっと、そうだったな。何から話したもんか……」
先ほどの町の人の反応から、軽々しく全てを話していいものか。と考え、濁しつつ話す事にした。
「俺は、そうだな。使い魔みたいなもんだ」
とりあえずは町の人々の言葉を借りる事にした。
「使い魔、ですか?」
「そうそう。誰の使い魔なのか、目的はなんなのか全く知らないけどな」
そう言うと、俺は高々に笑いため息をついた。
「で、な。俺は助かるために君を魔法少女にしたんだ。巻き込んだんだ。この度は誠に申し訳ありませんでした」
ゆっくりと地面まで降りていき、土下座をする。
「え、いえいえ、こちらこそ?」
「その返しおかしくないか!? ・・・・・・いいや。つーわけで、俺も詳しい事は何も分からないんだ。此方に来て時間もさほど経ってないし、もう何がなんやら」
そう言いながら、俺は火炙り中に新たに開示された情報の1つを開いた。
★新規の情報が開示されました。
◯ご契約おめでとうございます。ご契約した魔法少女の皆さんは限定的ではありますが魔法を行使でき、[浄化]という行為を行えます。
「浄化……?」
眉をひそめ口に出していた。
他にも契約時に幾つか開示された情報の1つを開こうとした時である。
『あーあー』
頭の中に少女の声が響いた。
「脳に直接!?」
『あ、すみません。届いたみたいですね。なんかテレパシーが出来るみたいな記述がありまして』
どれ? と聞き、言われた情報を開くも別の内容であり結局片っ端から開いていっていた。
このやり取りで、俺と彼女が持ち合わせている情報内容が違う事を察する。
★新規の情報が開示されました。
◯契約の獣と魔法少女は意思疎通、
「……あった。範囲は1キロね」
範囲が広いか狭いかで言うと狭い。という認識であった。
日常生活では便利だろうが、もし戦闘となると1キロ範囲内のみで済むとは限らない。こう言う情報を共有できる、意思疎通できる手段は範囲が広いに越した事はない。
『便利ですね。これ』
「え? あ、あぁ、そうだな」
歯切れの悪い返しをするととある事に気がつく。
「そういや簡単な自己紹介とかってしたっけ?」
『してませんね。私はアンナって言います~』
「俺はー……」
偽名を思案するが、似つかわしいものが思いつかない。
『お名前はなんですかー?』
催促が来るが言い淀んだまま言葉が出てこない。
このまま名前も忘れてしまった。という設定にしてしまおうかとも思ったが、その場合あの子に名前をつけられる恐れがある。
出会って十分経ったかどうかという子に、任せるには些か怖いという気持ちがあった。
そういえばこの体ユニコーンをデフォルメしたような感じだよな。で、苗字と名前の1文字目で……そうだ。
「ユニー、ユニーっていうんだ。宜しく」
我ながら酷く適当な偽名である。
『ユニーちゃんですね。宜しくお願いします』
そう言って、アンナはぎこちない笑顔を浮かべた。
どこと無く違和感を覚える。さっきまで泣いていた子にしては対応が良すぎる。と言うより、順応が速い。
この点だけならば、そういうものとして受け入れられるが先ほどの町の住民との対応との違い。そして何より、結果的にとはいえ魔法少女化により元の生活を滅茶苦茶にされたにも関わらず、なぜ俺に対して此処まで"友好的"に接しているのか。
裏がある。と考えられるが、具体的には報復ぐらいしか浮かばない。それに報復するならするで既にやっていてもおかしくはなく、友好的に接する必要性も感じない。
情報を引き出してから、とも考えたがある程度の情報はあの子にも開示される。やはり、俺の出来がいいとは言い難い頭では友好的に接する利点が浮かばないな。
などと思考を巡らせていると、いつの間にか俺の背後に回っていたアンナが俺を抱きかかえ歩を進ませ始めた。
「どこ行くんだ?」
控えめな胸が後頭部に当たり、思わず頬が緩む。
『えっと、何処か屋根のある所を探しに。野宿は嫌ですし、この付近ですと町の人が来そうですし。後は食料と飲水の確保も兼ねまして。幸い川が近くにありますので飲水は大丈夫ですけど』
なるほど。確かに最重要事項だ。
酔いが冷め、何もかも出したであろうお腹に目線を向けた。
「それよりさ。こんな近くに居るんだからテレパシーじゃなく、普通に喋らないか? なんというか違和感がすごい」
「はい。分かりました」
会話をしている分では、良い子という印象を抱く。
下手に警戒するだけ労力の無駄なような気もしてきた。が、様子は観察するべきであろう。
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