2話Meet/魔法少女になーれ!

 いつの間にか気絶していた俺は目を覚ますと、広場と思しき所に運ばれていた。

 そして、視線が高い。異様に高い。元の姿より高い。思うように体も動かせず左右の手に目を向けると、十字架を形どっている木に縛られていた。

 下を見ると、離れて群がる人々が見え足も木に縛られていた。地面には樹の枝や藁、薪が敷き詰められていた。


 まさかと思うけどこれ、火炙りしようとしてる?

 そう考えていると。

「目を覚ましたぞ!」「使い魔を燃やせ!」

 等々の非難が浴びせられ、包丁や鍋、イスや小石と言った物が投げつけられ始める。


「ちょ、待って! 待てって! ……待ってください!」


 顔のすぐ横に包丁が刺さり、背筋が凍る思いをしながら待つように叫ぶが無視され物を投げる手は止まらなかった。

 火がついた松明を持った人が視界に入り更に焦る。


 ヤバい。何か打開策を見つけないと真面目に死ぬ!

 まずは残っている情報を片っ端から広げていく。


☆新規の魔法を習得しました。

◯[プロテクト]前方に防御壁を展開します。展開時には[プロテクト]と口に出して言って下さい。

 使い勝手は良さそうだが今は使えない。次!



☆新規の能力を習得しました。

◯[感知能力]半径100メートル以内の魔法少女適正者を感知する事が出来ます。魔法少女と上限まで契約を結んだ場合は感知不可能となり、意識を集中している時のみ感知可能ですので御注意下さい。また、半径5メートル以内の魔法少女適正者以外も感知する事が可能です。此方は意識を集中する必要はございません。

 これも使え……いや、待てよ。


 現状、自身で取れる行動では手詰まり感は否めない。ならば外部からの助力を得ればいい。魔法少女の力を借りればいいじゃない。

 先ほどの十字路で感じた人の気配は[感知能力]よるものだという事はすぐに分かった。

 つまり魔法少女の感知も似たようなものだと考えられる。


 焦る気持ちを抑えこみ、意識を集中し対象を探し始める。

 この人集りの中に居なければ詰みで転生した人生も終了。居ればまだ生き残る望みはまだある……!

 すると1人の少女に反応を感じ、目を見開いた。


「いた!!!」


 歓喜のあまり思わず声に出して叫んでいた。

 これで、生き残る道はまだあるぞ! この際、あの子の種族なんて関係ねぇ!

 適正がある少女に意識を集中し、契約するための言葉が書かれた情報を開き叫ぶようにしてこう言った。


「汝!!! 我と契約しぃ……魔法少女にな~れ!!!」


 少女の身体が光り輝きだすと、光る何かが彼女の身体を包み込んだ。

 突然の出来事に驚いた周囲の人々は、少女から距離を取るように後ずさりする。

 これで現状を打破出来る! これで、本当の第一歩を……!


 少女を包んでいた光が弾け、質素だった服装はワンドを片手に水色を主とした可愛いフリフリした服。所謂いわゆるロリータ服に変わっていた。

 彼女はきょとんとし自身の服と杖を見て、しかめっ面になっている周囲を見渡していく。


「え、えっとあの~ですね。これどういうことでしょうか?」


 少女は首を傾げ周囲に状況確認を求めるが、程なくして無抵抗のまま捕縛され2本目の木で出来た十字架に縛られソレは俺の隣に建てられる。


「なんでー!? え、なんでえええええええ!?」


 抵抗ぐらいしろよぉ! と、心の中で叫ぶ。


「それ、私の台詞です……」


 少女は涙目でそう訴える。

 すると、脳内でてろり~ん。という音と共に新たな情報開示がなされるが、無視し打開策を再び考え始めた。

 流石にいきなり魔法少女にして、丸投げして助けてもらおうなどとは虫が良すぎた。普通に考えて、混乱してしまうのも致し方無い。捕まってしまうのも致し方無い。


「後で説明するから、ほら何か視界に文字見えないか? 新規の情報が云々とか、新規の魔法が云々とかさ」


「はい、見えます」


「なら魔法の項目をさ、開けごま! って念じてみてくれないか?」


 ちゃんと伝わるか半信半疑だったが、彼女がうわっ!? と驚く様子が見て取れちゃんと伝わったのだと安堵の溜息をつく。

 目線を松明を持つ男性に一瞬向けると、ゆっくりと近づいて来ていた。


「それのさ、魔法1つ使ってみてくれないかな!?」


「あ、はい。えっと、プチファイア」


 少女が呟くようにそう言うと、シュボッとライターの火が付く時のような音がし、人さし指から小さな火がついた。


「しょぼっ!?」 


 思わず俺はそう叫んでいた。

 だが、それを目の当たりにした周囲の人々は畏怖し、殺せ。焼け。などと騒ぎたて始める。

 どうやらこの世界、このレベルの魔法でも不味い代物だと考えられる。が、これではどうにもならない。


「じゃない! なんかさ、なんかほら、ほら! 別の、別の魔法ォ!!」


 奇声と共に松明が投げ込まれ、少しずつ藁や薪に燃え移っていく。


「別の魔法、ですか? えーっと……あっ」


 ポロッと手からワンドを落とし火の手が上がっている藁の中に落ちる。


「あぁ、もうなんでも良いから魔法速くゥ!!」


「は、はい! アクアバズーカ!」


 と、発せられた声と共にワンドの先端からおびただしい量の水が放出され始め、炎をかき消すと同時にワンドがその勢いによって音をたててロケットのように飛んでいき、民家の壁を突き破って何処かへと行ってしまった。

 その分けの分からない光景をその場に居た人々は皆、言葉を失って見つめていた。


「も、求めてた行動と違うけどナイスだ! 後はロープをなんとかしてくれ!」


 結局誘導するだけして、丸投げじゃないか。と心の中で自虐していると、バキバキッという何かが折れる音がし、目線を向ける。

 すると、少女は十字架を破壊し、足のを縛り付けているロープを引きちぎると地面に着地していた。


「え、まさかの──」


 そして、俺を縛っている木の十字架を引き抜くと持ち、ざわめいている人々に向けて構えた。


「パワー系!?」


「ごめんなさ~い!」


 誰に向けての謝罪なのか不明だが、少女は叫びながら前に出て走り始める。

 住民は慌てふためきながら弾き飛ばされないよう道を開け、少女は涙目のまま走り抜けていく。

 

「よ、よし、て、適当な所で止まってくれ!」

「ごめんなさ~い!! どいてくださーい!」


 少女は目を瞑った状態で走っており、更に声が聞こえている風な様子もなかった。

 進行方向を向くと、民家の壁が迫っているのを確認できた。


「止まれ! 止まるんだ! 止まって下さい!!!」


 やはり、というべきか予定調和と言うべきか。

 彼女には言葉は届いて居らず、そのままレンガで出来た民家の壁をぶち抜き朝食を取っている家族を横切って外にでる。その後も複数の壁を破壊しては中に侵入し外に出るを町の外に出るまで繰り返して行ったのだった。

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