1話Meet/転生しちまった!

 生臭い、何かが腐ったような匂いまでする。

 それに体が気だるい。ヌルヌルする。気持ち悪い。

 意識が戻り、目を開けるとそこは薄暗く狭い場所であった。

 そして脳内で、てろり~ん。という電子音に似た音が響き顔をしかめながら、何やら知っている形状ではない鼻をつまむ。


「とても、いい転生の仕方とは思えんし、なんだこの音に匂い」


 とりあえず、なんとかこの薄暗く臭くて狭い空間から出ようとし、もがこうとするが足が沈み思うように動けない。

 助けを呼ぼうとし叫ぶも反応はない。

 終いには唸り声をあげながら壁に向かって体当たりをしていた。しかしこれもびくともしない。


「あれ、いきなり詰んでない。転生、詰んでない?」


 転生した油川ゆかわ 虹秋にじあきという男性の物語はこうして幕を閉じようとしていた。

 

「いやいやいや、速いって。何か手があるはずだ。何か……」


 打開策見出すために、出来が良いとは言いがたい頭で思考を巡らせていると背中に違和感を感じ手を回した。

 すると、羽のようなモノが背から生えているではないか。ラッキー、これで飛べばいいじゃん。と考え、羽を羽ばたかせ始める。

 最初はうまく浮かせる事が出来なかったが、次第にコツを掴んでいき身体を安定させて浮かせる事に成功する。


「しかし、飛べた所で何が出来るんだっていう」

 

 そう呟きながら天井まで飛んで行くと、天井が開き光が差し込んで来る。


「お、ラッキー」


 天井を押し上げ、外に出ると先ほどまで入っていた場所を確認するため見下ろす。

 すると、そこには大量の生ごみが入っていた。見える範囲でリンゴの芯やバナナの皮、半分腐った生肉や腐りきって何かよくわからない物質等が入っていた。


「……は? はぁ? はああああ!?」


 ゴミ箱スタート!? 俺のこれまでの人生はゴミ箱にポイーってか! 五月蝿うるさいわ!

 心の中でノリ突っ込みをしながら、不自然だと感じていた自身の身体に目を向ける。

 腐りきって何かよくわからずとてつもない腐臭を放つ物質が付着した腕や身体は、白い毛で覆われており、成人男性とは到底言えない2等身か3等身程の大きさの人ではない別の生物になっていた。


「ひ、人ですらない。いや、待て落ち着くんだ俺」


 え? 何ですかこれ、合体事故ならぬ転生事故って奴ですか? そんなの俺聞いてない!

 絶望感が襲い、ゴミ箱の蓋から手が離れ音をたてて閉まった。

 しかし、よく考えるとこの体はきっと可愛いはずだ。女の子にちやほやはされるはず。

 既に折れそうな心の支えにしながら臭いこの身体を洗うために川を目指して、路地を向かって飛んで行く。


 周囲には人の気配はなく、建物はレンガ造りでありよくある中世に似た世界という印象を受けた。

 それから5分もしないうちに町外れに出て、運良く小さな川を発見した。急いで水浴びをし体を洗いはじめる。

 ついでに運悪く、この間人っ子1人出会っていなかった。

 

 この世界の事がまるで分からん。せめて現地住民と会って話出来ればいいんだが……そういやさっきの電子音なんだったんだ?

 と、疑問に思っていると視界に半透明の文字が出て来た。


「うお!? なんじゃりゃ!?」


 書かれていた文字は。

★新規の情報が開示されました。

 という文字と。

☆新規の能力を習得しました。

☆新規の魔法を習得しました。

 という文字であった。前者は2つ存在しており後者1つずつであった。


 どうすれば開けるのか考えていると、1番上にあった情報が突然開き閲覧する事が出来た。

 確認するように閉じるように念じ、別の項目を開くように念じるとその通りになりなんとなくの操作方を理解する。

 始めに何気なく開いてしまった項目を開き直して目を通し始めた。


 書かれていた内容は。

◯貴男は契約の獣です。"現状"は適正のある女性を2人まで魔法少女に変える事が可能です。この力で有能な魔法少女を従えて下さい。

 というモノであった。


「あー、この姿ってマスコットか。で、2人までと。・・・・・・うん? 魔法少女ぉ!?」


 姿に関する疑問には、魔法少女物の作品に度々出てくる小動物系のマスコットという事で合点はいった。

 が、次に新たな疑問が浮かび上がってきてくる。

 異世界で魔法少女? え? 魔法があるであろう世界で魔法少女!?

 

 そう思いつつ、洗った身体を振って水を切ると次に開いた項目を再び開く。そこには。

★新規の情報が開示されました。

◯魔法少女との契約方法をお知らせ致します。契約したい対象に意識を向け[汝、我と契約し魔法少女にな~れ]と言って下さい。強制的に契約し魔法少女とする事が出来ます。

 という内容であり、契約方法が書かれていた。


 強制的にって……。それに最初厨二っぽいのに、急に適当になってるし。

 と、考えながら乾いた笑いが思わず出てくる。


「とりあえず、契約しないと話にならんな。どうするか」

 

 水面に映るデフォルメされた獣の顔つきに額に短い角が生えた自身の顔を確認する。その後、短い手を胸の前で組むとパタパタと飛び上がりながら思考を巡らせていく。

 まず、折角異世界で魔法少女を作るのだ。ならば、亜人種でなければ面白くない。次にどの種族と契約するかだが……見た目と個人的な趣味、修好からまず猫耳や犬耳等のケモミミ持ってる子は外せない。


「あーとーは?」

 

 十分な高さまで上がり、振り向くと離れた場所で1人の中年男性が口を開け震えて俺を見ていた。


「あ、すみま──」

 声をかけようとするが。

「あいぎゃああああああああ!? 忌まわしい使い魔じゃああああああ!!」

 

 言葉を遮るようにして叫ぶと、釣り竿を投げ捨て町のほうに向かって走り去る。


「えっ、えぇ……」


 突然の行動に驚き、その場で声を漏らしながら走り去る男性を見る他なかった。


 何故、逃げられたのか。

 追うようにして町に向かって飛びながら思考を巡らせていく。

 異世界なのだし、今の俺の姿程度の生物は見慣れているはずだ。ならば、この種族自体が問題なのだろうか。

 最後の忌まわしき使い魔。という台詞もある。種族が問題という事は可能性として高いと考えられる。

 

 相手は人間なのだ。意思疎通が出来る。話しあえばわかるはずだ。

 と考え、感じる悪感を無視して更に飛んで進んでいく。


 数分飛び十字路に差し掛かった所で、人の気配を感じた。


「うん?」


 止まり、感じたソレに違和感を覚える。

 見えていない場所なはずなのに、まるで"見えてる"かのように感じ取る事ができていた。

 これまさか能力って奴か? いや、魔法か?

 などと思考を巡らせていると路地から複数人の人が現れ、後方にも数人の人が取り囲むように出てくる。

 そして、全ての人は顔に何か布のような、マスクのような物を被り手にはロープや網、袋を持っており息が荒々しかった。


 まずいやつだコレ。

 などと思うも既に遅かった。


「あ、あのー。まずは話を──」


 彼らは俺の言葉を無視し襲いかかって来ると、捕らえ縛り上げ袋に入れ何処かに運んでいったのだった。

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