プレゼント
長沢優衣に気持ちを伝え、高木梨奈ひと筋だ! と改めて気合いを入れる。彼女からの返事がどうなるかは判らない。俺は俺なりに覚悟をもって逃げ道を消したつもりだ。
……こんな俺のこと気に入ってくれた長沢優衣には申し訳ないことをしたなとは思っている。
でも、仕方ないんだ、誰も悪くないんだ……と、俺は自分の部屋でつぶやき続けてた。
パシッっと両頬を叩き、机の上にあるディスプレイを見る。
何をしようとしているかというと、高木梨奈へのプレゼントを探そうとしているんだ。
年末年始の花屋は糞忙しい。
昨年までと違い、今年からは本業のつもりで働くと父さん達には約束している。だから、バイトの高木梨奈のように自分のスケジュールで仕事するのではなく、冬休みの間は仕事の都合に合わせて休みをとる。
……取れたらだけど。
クリスマスの十日ほど前から一月の成人式までは休みなどまずとれない。
店舗や配達の他に商店街やデパートなどのデコレーションなどもあって、忙しいことこの上ない日々が続く。
だから、クリスマスにプレゼントを渡すにしても、買いに行くための時間は限られている。
そこで事前にあたりをつけて、ショッピングの時間が少なくても良いようにしておこうというのだ。
通販でもいい。
ちなみに、何をプレゼントするかはもう決めている。
花瓶だ。
彼女が花屋でバイトしていて、売り物にならなくなった花を持ち帰っているから花瓶か? と安易に思われるかもしれない。
ああ、そうだよ、安易で悪いかよ!
悩んでいる時間は俺にはない。
渡したいと思うものを渡す。
彼女の好みはリサーチしたのか?
……していない。
バイトの間は父さんか母さんが彼女の近くに居る。店内は狭いしなぁ。
あと、就活も頑張っているようで大学でも忙しそうにしているから、誰にも見られないような場所で聞き出すなんてこと出来なかった。
当たって砕けろだ! って花瓶は割れちゃいけないけれども……。
ということで、俺は花瓶のサイトをいろいろ見る。
茶系で統一された彼女の部屋を思い出しながら、部屋の雰囲気を壊さないようにとディスプレイに映る商品を眺めた。そして透明で細身の花瓶が、どんな花を活けても似合うんじゃないかなと探した。
「お兄ちゃん、それもしかして梨奈さんへのプレゼント?」
ディスプレイを覗いている優里が、またも俺が気付かない間に横にいた。
「……ノックはした?」
「もちろんよ? で? それは梨奈さんへのプレゼントよね?」
我が家には花瓶も額もそれなりの数がある。サンプル・ディスプレイ用の花瓶、母さんの趣味で作られた押し花を飾るための額がある。特に花瓶は仕事でも使うから、わざわざ俺が買わなくても種類も数もそれなりだけど揃っている。
それは優里も判っているから、俺は横に顔を向けられない。
俺の目的を察している優里はニヨニヨしているだろう。
「……まあね」
「お兄ちゃん、いくら何でもさ? まだ彼女でもないのに、その値段はないんじゃない?」
俺が開いている海外ブランドのページには、八万円以上の花瓶が並んでいる。高いモノだと三十万円近くの花瓶もある。
一年次からバイトしているから、例え三十万でも楽に支払えるだけの貯金はある。もともと欲しい物もなく、身の回りの物も比較的安い物で構わない。部活やサークル活動もせずに実家で暮らしているから、たまに友達と遊ぶ程度で出費もさほどでもない。
もし高木梨奈とデートするようなことがあればなどというささやかな夢を持っていた俺は、その時は財布の心配せずに済むようにと貯金してきた。
そして今回は、初めてのプレゼントだから値段など気にせずに、俺が贈りたい花瓶を贈るつもりだった。
「彼女だからとか……そんなんじゃなくて……」
俺をのぞき込んで優里が観察しているのが判る。そしてニヨニヨ顔をちょっと悪い表情に変えた。
「もしかして……ついに告白したな?」
相変わらず察しの良い妹だ。俺の何を見たら判るのかホント不思議だ。
ここで誤魔化しても、優里は優里の観察眼と勘を信じて話を進めるだろう。そして腹の立つことに、優里の見方はだいたい間違っていない。
「……悪いかよ……」
「ううん、よくやったと褒めてあげよう。これで一歩前に進んだわけだ」
「おまえに褒められてもなぁ」
「で? 話してご覧? アドヴァイスをしてあげよう」
悔しいし、妹に恋愛の相談するのは何か違う。
だが、そんな相談できるような女性の友達は居ない。
男友達だと事後報告ばかりで、真っ最中の相談などしないしなぁ。
……悩んだけど、やはり話すのはやめた。
「いいよ、俺は俺なりに頑張るから……」
「ま、いいけどさ、とにかく……高くても一万円か二万円程度までにしときなよ。あまり高い物贈られると重いし、引かれちゃうかもだよ。プレゼントは金額じゃないからさ」
そうか、貰った彼女の気持ちも考えないといけないよな。
俺の気持ちを押しつけるような物はいけないんだな。
さすがに俺より恋愛経験値高い妹の意見には聞くべきところがあると優里のアドヴァイスに感謝した。
「ああ、ありがとう。気をつけるよ」
「おお! 素直で宜しい。じゃ、頑張って」
優里は機嫌良く部屋を出て行った。
俺は再びディスプレイを見て、もう少し安い値段のページに移った。
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