20話
「で、その頭はどうした」
「酒を飲んだことがバレた」
「いや、怒っているのはそこじゃなくて、若い女にベタベタしてたからだろ」
「……なんじゃと、そんなとこまで見られておったのか!?」
「見られてなくても、さっちゃんが全て報告しているはずだ」
「なぜじゃ、さっちゃん、内緒じゃと約束したじゃろ」
「ばぁばに、じぃじが内緒っていったことはおしえてって、まえからおねがいされてたから」
「かぁーっ、先手打たれとったか、女はこれじゃから怖い。まったく敵わん」
真っ赤な紅葉をつけた頭を抱えて悶えている。こうなった経緯を女魔導士がさっちゃんとお姫様役の女にざっくりと説明すると、二人は遠慮なく笑い始めた。玉座に座って全員を見渡しているのはいいが、自分だけ仲間はずれにされているみたいで少し寂しい。
僕はコホンと大きく咳払いをした。こんな茶番のために魔王じいちゃんを呼んだのではない。
「さて本題に入ろう」
「もういいんじゃ、わしなんか。どうにでもしてくれ」
「そうか、それはよかった。ならば今後、魔王じいちゃん、いや魔王サタン一世に、新たに組織することになった魔王軍の陣頭指揮を命ずる。今後の王都討伐からの打倒王国への足掛かりになってもらおう」
「わしはそんなことはせんぞ。そういうのはお前に全部任せたと言ったじゃろ」
「だから僕の駒として動いてもらおう。魔都統括を担っているのはこの僕だ。逆らうことは許さない。ぜひとも反勇者軍を利用して王都を落としてもらおうか」
魔王じいちゃんは何かを言いたそうにしているが、黙って僕の出方をうかがっているようだ。
「という建前はさておき……今回の二人旅について少し振り返ってみよう。旅をさせたのは、もちろんさっちゃんのため。だがせっかくなら、おつかいも頼もうかとも思っていた」
「……わしは何もしておらんぞ。強いて言うなれば、ちょっと街の一角を更地にしたくらいじゃが」
「
あの時苦し紛れに出た言葉。あわよくば増えすぎた勇者たちの動向を偵察するチャンスなのではと邪念が巣食った。じいちゃんなら孫の言うことはなんでも聞く。魔王がいればどこに行っても大丈夫。その甘い考えと無責任な言葉がのちにさっちゃん誘拐にまでつながるとは思いもしなかった。
旅の申し入れを受け入れたあの日。強がって『おつかい』と言っては見たものの、魔王ばあちゃんにはあっさり見破られ、こっぴどく叱られた。だから反省も兼ねて二人の動向を時間が許す限り、というか四六時中、魔王ばあちゃんと一緒に監視していた。いつでも助けに行けるように。これが僕の本音だ。
「あれは、さっちゃんのお願いではなかったというのか……?」
「さっちゃんのお願いだったさ。じぃじとどこか行きたいって言ってたのは事実だから」
「それもそうじゃの!」
「……王都に行くように仕向けたのは僕だけど」
「……それもそうじゃの」
あからさまに落ち込んでいる。だからさっちゃんは勇者をいくら倒そうとも興味を持たなかったのか。と察したらしく、さらにひどく気を落とす。腰はみるみるうちに丸まっていき、そこには魔王の面影は一切ない。
「だから今度、二人で一緒にあの街にゲーム機でも買いに行ってこればいい」
「いいのかッ!?」
丸まっていた腰は瞬く間に鋭気を取り戻し、しゃんと真っすぐに伸びた。隣にいるさっちゃんよりも輝いている双眸は、正直痛々しい。
「そのかわり、魔王軍の陣頭指揮として新たに我々の配下になった反勇者軍を束ね、あらたな拠点とし、今後の来たるべき王国との
「まかせておけ!」
チョロいなぁ。昔はもう少し頭よかったはずなのになぁ。完全にさっちゃんという孫の存在が魔王をバカにし、単なるどこにでもいるじいちゃんにさせてるなぁ。
だがこれでひと段落。もうあの街の危険度はほぼ皆無。
魔王じいちゃんの噂はあっという間に街を呑み込んだ。仲間にしてくれと、
「詳しいことはまた後日説明するとして、今日のところはこれくらいにしておこうか」
「じゃあエミリアちゃんと遊んでくるね!」
「はーい、いってらっしゃい。魔王城敷地外には行かないように」
「わかってるよ、もう」
うるさいなぁ、と聞こえてきそうだ。
勢いよく開け放たれた扉から魔王じいちゃんと女二人も続いて出ていった。そういえば魔王じいちゃんの体調についての説明をすっかり忘れていたが、まあいいか。それは女二人に任せておこう。
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