第10話

 魔王じいちゃんたちが魔都より旅に出て三日目。

 この日の早朝も勇者は魔王部屋を訪ね、剣術の稽古をつけてもらっていた。昨夜はわだかまりが残ったまま解散した二人だったが、それとこれとは話が別だということだった。

 魔王じいちゃんは正面素振り千回を命じると、相変わらず眠りについた。最初こそは寝たふりだったが、途中からいびきをし始めたので勇者も察した模様。


「このじいさん今なら叩っ切れるんじゃねぇか?」

「ダメだよ、そんなことしたら」


 返事があったことに不意を突かれ、一度素振りの手を止める。さっちゃんが寝ぼけまなこを擦りながら大きな欠伸をしている。


「わかってるよ」

「勇者さんは、どうして剣を振ってるの?」

「そりゃあ強くなるためだ」

「それは、魔族を倒すため?」


 口調に子どもっぽさがなく、佇まいも大人びて感じる。

 さっちゃんと勇者は見つめあう。強く吸い込まれそうになるさっちゃんの瞳に、勇者は真剣に答えなければならないと本能的に感じ取ったようだ。


「俺はみんなを救うために強くなりたいんだ。今は人間同士が争っちまってるからな。俺が強くなって、ビシッと国を一致団結、ひとつにまとめあげるんだ。だから魔族討伐なんて俺の眼中にはねぇよ。今はまだな」

「ふーん。難しくて、よくわかんないや」

「今はまだわからなくてもいいんだよ。ガキはガキらしくゲームでもしてろ」

「ゲーム!!」


 さっちゃんは目をキラキラ輝かせる。ゲームというエサで釣られ、佇まいがいつも通りの天真爛漫な少年に戻ってしまった。

 部屋を飛び出したさっちゃんはドタドタと走り出し、向かいの部屋の扉を勢いよく開けた。昨日は隣部屋で寝泊まりしていた女二人だったが、いびきの一件があったため部屋を変えてもらった。魔王じいちゃんには内緒で。


「おねえちゃん、ゲーム貸して!」

「今、お着替え中、だから、ちょっと、待ってて、ね?」

「そうだぞー、レディの着替えを覗くとは捨て置けません、な? ……なッ!?」


 女魔導士の瞳には、向かい部屋にいる勇者がこちらに振り向こうとしている瞬間が映し出されていた。

 刹那、爆発音。

 女魔導士が放った爆発魔法が勇者に炸裂した。


「あーご、ごめん、大丈夫……? 少しやりすぎちゃったかも」


 はずだったが、煙の中から現れたのは無傷の勇者だった。


「やった。爆発魔法を剣で斬り防いだぞ! 俺、たった二日で強くなってる。……いや、この剣にはそもそも対魔法効果がある可能性も……。なぁ、どっちだと思――」

「こっちみんなあぁぁぁあああ!!」

「ごふぁッ」


 剣をとっさに盾に使ったが防ぎきれなかった。それと同時に初発の爆発魔法は剣で斬り防いだことが証明された。


「やっ……た……」


 勇者、意識の外にフェードアウト。男としては一生に一度くらっておくべき名誉ある一撃たった。

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