婆ちゃんの線を抜く夢

「婆ちゃん」


「あんた誰ね?」


トビーは息が止まった。


「誰って、俺だよ」


「私は騙されないからね」


「孫のトビーだよ」


「ハッ!わたしの孫はまだ10にもなっていないよ」


「婆ちゃん、俺だよ」


「夫をちょっと呼んできてくれないかね」


「いつも好きな食べ物は畑から採れたトウモロコシ、ここに持ってきてくれたんだけどどこにいったのかねえ」


「・・・婆ちゃん、俺を知らないのか?」


「知りませんね」


婆ちゃんはハッキリと言った。


「シモンって誰か知っているか?」


「いいえ、知りません」


トビーは間違っていた。婆ちゃんは死んでいく最中にいるのではない。トビーが知っている婆ちゃんはもういないのだ。


「婆ちゃん、俺、死んでいるんだ。肺がんで」


「あらまあ」


婆ちゃんは息を吸って


「お気の毒に」


「で、婆ちゃんの土地が欲しい。シモンが一人になるから」


「土地は誰にもやらん!どこの馬の骨かも分からない奴に絶対渡さない」


婆ちゃんの生命体維持のコードが鼻に酸素を送っている。このコードを抜けるか?自分を一人で育ててくれた家族を殺せるか?

出来るわけがない。


「わたしは早く帰りたい、帰りたいのよ。夫が待ってるのよ」


「婆ちゃん、ごめんなさい。今までありがとう」


トビーは線を抜いた。全てはシモンのために、自分が地獄に落ちる事になっても、これから毎日を苦しむことになっても。


そしてトビーはベッドから目覚めた。大量の汗をかき、心臓の高鳴りが止まるのに10分はかかった。

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