お金が無いことに気がつく
シモンとトビーは雨が降る中、バス停で雨宿りをしていた。シモンは楽譜を見ながら、練習を続けている。トビーは傘をさしてシモンとヴァイオリンを雨から守っていた。
シモンは一人になる。理不尽さをヴァイオリンに活かして欲しい。トビーが出来るのは何かに没頭して練習をする習慣。不況の中でも諦めず戦うメンタル。
突然咳が出て、胸と口を手で押さえつける。息ができなく、苦しくて目を思いっきりつぶった。頭の中がぐるぐるかき混ぜられていく。傘を手で抑えられなくなり、傘がバス停から転がり落ちて、道路に飛び出した。
「とうちゃん、どうしたの?!」
シモンは叫んだ。ヴァイオリンを弾くのをやめている。
「な、なんでもないから、弾き続けろ」
トビーは傘を雨で濡れた道路から広い、バス停の椅子に腰掛けて息を整えた。肺ガンに殺されるまでどれぐらい今の生活が続けられるだろうか。この子にいつ自分が死んでいる事を伝えるべきだろうか。
家に戻り、トビーの寝室にあるタンスを開き、2000ドルが入っている封筒を探した。
トビーの顔が白くなる。
ない。
おかしい。絶対にここにあるはずなのに。これ以外動かしたことがないのだ。あれが全財産だったのだ。タンスの中をひっくり返しても茶色の封筒が見つからない。ベッドのマットレスをひっくり返し、居間のタンスも全部探して、クッションをソファーからひっくり返しても見当たらない。
「とうちゃん、どうしたの?」
シモンが廊下に立っていた。
「部屋に戻れ」
「とうちゃん、大丈夫?」
「出て行け!」
シモンはショボンとしながら廊下から消えた。トビーは壁を何度も叩いた。落ち着け、もう少し探してみろ。自分に言い聞かせる。だがどこにも無い。どうしてか分からない。盗まれたとしか考えられない。
警察を呼んだが、こんなボロアパートにカメラなんぞなく、調査を出来るだけすると言われただけだった。
シモンに渡せるお金すらなくなってしまった。
トビーは携帯電話を震える手で握った。
「シルビス」
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