ゴミ漁りバトル2
シモンに絵本を読んで寝かしつけている間、頭の中はゴミ漁りのミッションでいっぱいだった。ところが時計は12時近くを指しているのにシモンは中々寝ない。
「とうちゃん」
「うん?」
「どこかに行くの?」
ドキッとして本を落としてしまいそうだった。いつからこんなに鋭くなったのか。
「なんでそんなことを聞くんだ?」
「だってねー、さっきとうちゃんがリュックサックを取り出してたから。ぼくに嘘をついていないよね?ぼくを置いていかないよね?」
そんなことは絶対にしないと言う。暫くしてシモンが寝たことを確認して、こっそりと部屋から出て行き、ゴミ漁りミッションの準備に取り掛かった。
パーカーのフードを被り、マフラーを首に巻いて顔を隠す。リュックサックにゴミ袋を詰め込む。そこに食料を入れるからだ。懐中電灯と手袋も忘れずに持って行かないと。出来るだけ早く行き、早く戻ってくることを決めた。
真夜中の1時。家の電気は全部消し、暗闇の中、壁に手を当てながら玄関に向かって忍び足で進む。まるで近所迷惑にならないように気をつける忍者だった。だけど一歩一歩進む度にギーギーと古い床が悲鳴を立てて、その度に顔が痛めつけられたように歪む。
「とうちゃん」
暗闇の中で声がしてトビーは飛び上がりそうになる。廊下の陰からパジャマ姿のシモンが出てきた。今更ながらどこかに隠れたいがトビーの体が固まってしまってその場から動けなくなった。
「な、なんで起きてるんだよ」
アパートが暗いせいか潜めた声を出す。シモンは目を擦った後、ハッキリとした口調で
「ウソつき」
眠い目から責めるような目つきになっていた。面倒なことになってしまってトビーは舌打ちをする。
「寝なさい」
「ウソつきウソつきウソつきウソつきウソつきウソつき」
頭がクラクラしてきた。寝室に押し返そうと息子の肩に触れたら、シモンが全力で抵抗して床にうずくまった。まるでクジラの鳴き声のように大声でうなった。床に向かってイヤイヤ、そして手と足で這いながら、僕も行く僕も行く僕も行く僕も行く行くと玄関まで進み、靴を取り出して自分で履こうとしていた。
「どこに行くの?僕も行きたい」
トビーは首を大きく横に振った。ノー。お前は寝るんだと。夜中に子供を外に連れて行きたくない。特にこんな移民街の夜に何が起きるか分からないのだ。ましてや夜中のスーパーのゴミ捨て場にどんな人間がいる事か。今夜外出するのを諦めようかと一瞬考えたが、冷蔵庫には何も残っていないのだ。今日みたいに息子に外出するところを見られて、説明を求められるのは時間の問題なのかもしれない。
「ちょっと出かけるだけだよ」
シモンは靴を履いた。
「どこに?」
嘘をつくべきか、それとも息子に対して正直でいるべきか。
「明日の食べ物を見つけてくる」
シモンは近くにあった小さなジャンパーの袖に腕を伸ばしていた。
「ぼくも行く」
そして玄関のドアのロックを外した。ドアの隙間から廊下の薄緑の蛍光灯の光と冷たい風がアパートの中に滑り込んでくる。
「来て欲しくないんだ」
トビーはしゃがんで、静かに説得するように話しかけた。
「でも、ぼく手伝えるもん。食べ物を一緒に持てるもん」
シモンは早口でまくしたてた。
「それにとうちゃん、ずっと側にいるって何回もやくそくしたじゃないか。やくそくを守れっていつも言っているじゃんか」
何を言ったらいいのかわからなくなり、首を垂らして顔を手の中に埋めた。出てきた声はモノトーンでありドライであり感情がこもっていなかった。
「だったらもっと着なさい」
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