ゴミ漁りバトル1

 街灯が池の歩道をところどころ辛うじて照らしていた。そろそろ終わりにして家に帰ろうと言い、ヴァイオリンをケースに片付けた頃は夜の11時頃だった。


 ヴァイオリンが上手く弾けるようになるのはやはり先生が必要で、それは野外練習を毎日繰り返す中で素人のトビーにも自明だった。しかしそれを実現するためにはお金を貯金していく必要があり、トビーにはお金がなかった。


 二人ともクタクタでお腹も減っていたので、急いでアパートに戻った。冷蔵庫を開てみると卵と牛乳とバーゲンで買った賞味期限が切れそうなサラダだけが転がっていた。仕事を失いかけている中で出来るだけ食費を抑えてケチっていた。


 材料を全部使い果たして卵焼きを作った。油すら残っていないので卵が思いっきりフライパンにくっ付いてしまった。それを一生懸命剥がして、ボロボロになった卵を熱いお皿に乗せてシモンがいる居間へ運んだ。


「ほれ、作ったぞ」


「またこれ?」


 シモンはガッカリした目でトビーを見た。この数日間卵ばかり食べてきて嫌気がさしていたからだった。トビーは明日別のものを料理すると約束をしてフォークで卵を突いた。割れ目から湯気がのぼる。シモンも渋々フォークで卵焼きを突きながらチビチビ食べ始めた。


 冷蔵庫が空っぽになったので明日の朝スーパーに買い出しに行かなければいけない。スーパーの奥に溜まっているバーゲンコーナーで野菜や肉を見つけられたらいいのだが。ここ数日間は全くバーゲン商品が残っていなかった。トビーは卵を突くフォークを止めた。スーパーの裏のゴミ捨て場に食べ物があるのではないだろうか?今からゴミ捨て場に忍び込むこめないだろうか?もし調達出来たら今日から食費を削りつつ今の食生活を豊かに改善できるかもしれない。少なくとも今の状況で助かるのでは。


 トビーは一瞬息をするのを忘れた。いやいや、そこまで楽観的になってはいけない。そんな事が可能だったらみんなやっている筈だ。それに忍び込むなんて簡単には出来ないだろう。というより違法なのでは。


 トビーの皿はほぼ空っぽで僅かなサラダのカケラしか残っていなかった。トビーは唇を舐め、拳を作った。やってみる価値はある。やってみたい。最後のカケラを口に放り込んだ。


「父ちゃん面白い顔してるね」


 トビーの固まった顔を不思議そうに見ながらシモンは言った。

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