ヴァイオリンは難しい

 シモンはまだ寝ている。トビーは居間で朝ごはんのシリアルを食べながら動画投稿サイトを眺めた。


「ヴァイオリンの弓1本に使われる毛は160本から180本くらいです。その毛が一直線状に並べて付けてあるわけです」


 ほうほう、とトビーは頷きながらヴァイオリン解説を食い入るように見ていた。アパートのネットが遅いので動画がカクカク止まり続けるのが癪だったが、朝ごはんのシリアルを食べながら続きを辛抱強く待った。


 予想はしていたが、ヴァイオリンは楽器の中でも難しい楽器だと解説者が言う。そしてトビーが知りたかった、先生抜きで一人でヴァイオリンを学べるかという問いに関しては


「理論的にはヴァイオリンは一人でも学べます。でもそれは戦闘機の操作技術を一人で学習するのと一緒で、基本的に一人で学ぶのは不可能と考えてもいいのです。先生がいないと、何年経っても耳を塞ぎたくなるような音色しかでてきません」


「ヴァイオリンを初心者が一人で練習すると変な癖がすぐにつきます。弓を持つアングル、微妙な弓の圧力の加減を間違えると変な音色しか出てきません。必ず第三者の先生に見てもらって聴いてもらって的確なフィードバックが必要です。弾いて勝手に変な癖を治すことはできません」


 トビーなんて素人だから先生の役なんて出来ない。つまりシモンがコンクールに受かるチャンスはかなり低いということだ。少なくとも10年は練習しないとマシにならないヴァイオリン。毎週レッスンを受けて、毎日1時間は練習しないといけない。

 ヴァイオリンのレッスン動画を見続けていると、自然にシリアルを食べるスプーンが止まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る