立ち直り
2ヶ月後には首になる事になった。
これからの道をどう歩めばいいのか、先に進む自信がなくなったことが人生で何回かある。誰だってそう感じる時はあるのだが、時々自分だけが酷い目にあっていると迷うことがある。今がその時。シモンの為にも頑張って復帰したのに、早速この無様。給料アップどころじゃなくなった。
いや、仕事を失うのがショックなのではない。息子をハッピーにするチャンスがなくなったのが悲しいのだ。ヴァイオリンは贅沢というくくりで片付けられた。
ペーパーラッシュを後にして、車の中の席に倒れこみ、ドアを強く閉めた。ハンドルに顔を埋めて、重たい溜息をつき、目眩が止まるのを待ち続けた。暖房が壊れた車の温度は低く、寒いので手はジャケットのポケットの中で暖まろうとしている。
過大な期待を抱きすぎた。土地が売れるという期待、零細企業で自分の給料が上がるかもしれない期待、自分の生活が改善するかもしれない期待、息子をもっとハッピーに出来るかもしれない期待。
だが、結局現実と期待のギャップにガッカリする羽目になる。何故か期待はいつも勝手に転がって雪だるまのように大きくなる。息子にレッスンを続けて欲しい、そこに喜びと才能があるなら続けて欲しいと思うのも過大な期待なのだろうか?
そんな挫折を繰り返し味わって大人になっていくんだろうな。30歳、子持ち、離婚経験者、失業しかけて改めて思う。
車が側を通るたびに、風圧でトビーの車が軽く揺れる。そんな中、頭をクラクラさせながら、先の事を模索する。再就職?当然その道しかない。だがその一方で土地を売りたい気持ちが一層強くなる。自分が持っている最強のカードを使いたい。
そして、息子に希望を与えたい。だから、こんな事でくたばっている場合ではないのだ。貯金は残り3000ドルの現金がトビーの部屋のタンスにあるだけ。お金が手元に降って来るのを待っている場合ではない。
車のエンジンをスタートさせ、幼稚園に向かう。
幼稚園の中では沢山のヴァイオリンの音色が響いている。ゴンザレ先生が生徒たちをまとめて指揮していた。その中にシモンはいない。幼稚園の中を見渡すと、シモンは隣の広場でおもちゃで遊びをしていた。小さな背中をトビーに向けて、小さなパトカーと戦闘機のレゴのオモチャを戦わせている。他の子供たちは帰ったようで、シモンだけが一人いた。
跪いてシモンを強く抱く。
「父ちゃん、どうしたの?離してよ」
息子は腕から離れようともがいた。
幼稚園を出て、暗くなる街を運転し、アパートに戻った。
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