最終ラウンド『3分ボクサー』

「なんだテメェ…ってお前ブルース・アンダーソンか?」


その男は、レターが朝見た男だった。

左手でフランスパンを持ち、右手にはホットドックやチップスなどいろいろ抱えていた。


「よっ!おっちゃん、おひさ~」

「そんなことより何故マコをリングに上げた?」

「俺が出させたわけじゃねぇ、俺はただボクシングを教えただけさ」


食べかけのフランスパンでマコを指す。


「じゃあ何故止めなかった?」

「命を懸けた男の決意を止めるなんて最低だろ?」


その言葉に「チッ!」と舌打ちをする。


「おい!大振りになってるぞ!」


マコに大声で言う


「分かってるよ」


挑発に我を忘れていたが、

ブルースの声で目を覚ましたマコは、

相手追いかけ、できるだけ攻撃させないようにしつつ、

ジャブを出した。

(ほ~動きが戻ったか…だが後あと一分でお前は動かなくなる)

全てのジャブを避けつつ、バナードはニヤリと不気味に笑う

「馬鹿め追いつめられてるとも知らずに笑ってやがる」

ブルースはマコの作戦が分かったのか「アイツ考えたな」と呟く


「追いつめてる?明らかにマコ君が追いつめられているんじゃ」


心配そうに言うレターに「まぁ見とけよ」と返した。


「そういう事か」

バナードはコーナに背をつけた瞬間気が付いた。

マコが何故、わざと防げるジャブを出し続けていたのかを


「これで終わりだ!」


力強い右ストレートを顔めがけて飛ばした!

「初心者かよ」

顔の前にガードを固め左に避ける

が瞬間脇腹に強打が入った。

フェイントだった。

バナードの足は完全に止まり、マコの猛攻が始まる

素早く何回も繰り出される拳は、まさしくマシンガンだった。

顔面の前で固めたガードもすぐに解け、

サンドバック状態になり

リングを観客席からの「殺せ―――!」や「いいぞー!やっちまえ――!」などのマコを応援する声援で包み込まれた。


「アイツら仲間じゃねぇのかよ…」


仲間なのに相手側を応援する声援の声にチャールズは不思議に思った。


「アンタ何も知らないのか?本当はあいつら、おっさんの所に戻りたいんだよ

 でも、ジャッカスに弱みを握られたから戻れないだ」

「だからこの賭け勝負にみんなが注目していると?」

「そういうことだこの勝負でマコが勝ったら戻れるからな」


チャールズは、「アホが…」と少し嬉しそうに呟く

ついにマコは顔の形が変わった、血だらけのバナードの顔面に、

強烈な右ストレートを決める

「決まったか」

床に崩れる相手を見て思った、その時だった。

「クックックック…」

向こうのコーナで見ていた、ジャッカスが笑う

レフリーが8まで数えたその時だった。

突然勢いよく立ち上がったのである、

さらに驚くことにバナードの腕から銀色の棘みたいのが見えた。


「おい…ウソだろ…」


レターは、思わず言葉を漏らした。

相手が攻撃しようとしたところでゴングが鳴り第一ラウンドが終了


「見たか?ブルース相手はドロイドだ」

「そうみたいだな面白い展開になってきやがった」


ブルースは笑う


「まるでSF映画だ」


マコも笑った。

ズルと分かった観客席からは、

「ボクシングをなんだと思ってんだクズ野郎!」や「そんなに勝ちてぇのかよ!」という罵声が嵐のように巻き起こり、

レターも「ズルってレベルじゃない!このままじゃ本当に死にますよ、タオルを投げて!」

と、ブルースに言う


「リングでは死と隣り合わせ」

「え?」

「レターさんが言ってくれた言葉だ」


マコの思いがけない言葉に呆然とした。


「マコを最後まで見守ろうじゃねぇか!」


ガハハとレターの肩を叩きながらチャールズは大声で笑う


「マコ水は飲むか?」


硬化した肌を触って聞いた。


「そんなもんいらねぇ…この時を待ってたんだ」

マコはパイプ椅子から立ち上がると、ジャッカスに指さして言う


「おいジャッカス!てめぇに、これから努力がどれだけ無駄ではないことを、

思い知らせてやる!」


会場内が盛り上がる


「死にぞこないの戯言か」


鼻で笑った。


「いいか?やつの体は硬化して動きが鈍くなる

 インファイトに切り替えて追いつめろ」


アンドロイドは「了解」とだけ言うと、

第二ラウンド目のゴングの音と共に立ち上がった。

「よし行って来い!」

ブルースはマウスピースを咥えさせて、

立ち上がるマコの背中を叩いた。

「うおおぉぉぉぉぉぉぉおお!」

両拳をぶつけ立ち向かった。


「神様…」


グローブからしみ落ちる血を見て、レターは祈った。

アンドロイドとマコは、お互いリングの中央でぶつかる、

しかし先手を取ったのはマコだった。

またマシンガンのように、相手を殴り攻める

がガードし腕についてる棘でマコの拳を攻撃した。


「そんなの痛くねぇよ!」


攻撃を続けていくうちに、やがて棘は曲がりくっつけていた両腕が横に開いた。

するとマコは体制を下げてから、助走をつけアッパーを顎にジャストミートさせ、

アンドロイドの体は一瞬宙に浮く


「止めを刺せ!」


叫ぶブルースに「オーケー!」と答え、胴体を狙い血だらけの拳で殴り飛ばした。

アンドロイドはキュイーンという音を立て、

ロープを越す寸前で背の外部が外れ、中からジェットパックを出すと、

そのまま炎を噴射させて飛びマコとの間合いを一瞬で詰めた。

マコはガードをしようとするが、

強烈なパンチが顔面にめり込み自分のコーナーへ飛ばされた。

ジェットパックは1回だけしか使えないのか、

地面に着地すると同時に床に落す、

さすがのレフリーもその光景に呆気にとられるが、

ダウンしているマコのカウントを始めた。


「立て!何寝てる!」


ブルースはリングの床を叩き叫ぶ、

しかしマコは立ち上がろうとするが、かなり効いたの思うように体が動かなかった。


「チッ脳震盪起こしてやがる」


マコの視界は3重に見えていてしかも、

鼓膜が破れたのか、あらゆる音がノイズのように聞こえた。

(くっ…体が重いまるで昔に戻ったみたいだ…)

すると入院していた時夢に出てきた魚が視界に現れた


「やい!やっぱりお前はただのナマコなんだな!

お前には地面に這いつくばってるのが、ふさわしいぜ!」


(うるせぇ!)


「雑魚ナマコ!」


連呼される言葉は、だんだんサムの声に変わってくる


「おい!雑魚ナマコ!てめぇはたった一人も守れねぇのか! 」


(そんなわけ)


両腕に力を込め「ねぇだろ――――!」と叫びながら立ち上がった。


「ほぅまだ立ち上がるか…」


アンドロイドは言うと試合が再開すると同時にまた詰め寄る

がマコから漂うオーラに思わず動きを止めた。


「どうした?来ないのかよ」


そのオーラに周りの観客席も静まり、チャールズたちの背筋が凍りつく


「じゃあ俺から行かせてもらうぜ」


アンドロイドは我に返り右ストレートを出すが、一瞬で避ける


「ココだよ」


下からアッパーをだし顎に当て宙に浮かせ、

間髪入れずに真上から地面に突き落とす様に、

天井を向く顔面に拳をめり込ませ地面にたたきつけた。

衝撃で顔が陥没しやがて一筋の黒煙が上る、

レフリーはダウンしたアンドロイドの瞳を見て、、

光はなく停止していることを確認した。


「しょっ勝者…マコ!」


マコの片腕をつかみ天高く上げ、

会場内は喜びと祝福の声で盛り上がった。

その時である、ジャッカスは上着から拳銃を出しマコに銃口を向ける

その場は静まり返ったがすぐに、


「「もうお終いだジャッカス」」


と左右に立つボディーガード替わりの男二人に、

銃を突き付けられた。

「チャールズも愛されたものだな」

床に拳銃を落とす

マコは両腕を高々に上げ、再び場内は声援で包また。

サムとチャールズとレターもリングに近づき、

マコの方に行こうとした。


「やめとけ!」


ブルースは三人を止める、

真っ先に気が付いたのが、チャールズだった。

両手を挙げたままピクリとも動かない


「マコ?」


「チャールズさんどうしたんですか?」


急いで真正面に駆け寄るチャールズについていき

サムとレターもマコを見ると、一瞬で言葉を失った。

マコの顔は下を向き口からは大量の血を流していた。


「コイツも限界だったんだな、お疲れさん…」


静かにそういうとマコの両腕をゆっくり下げて、

自分のジャンバーを床に敷き寝させる

観客たちもマコの姿にすべて理解し、

拍手と感謝の言葉を叫んだ。


「君は最高のボクサーだ!」


レターは唇を噛みしめ涙を流しながら言う


「君は僕のヒーローだ」


マコの開いている目を手で閉じ、サムは微笑んでいった。


「おい!おっさんマコからの手紙だ、勝ったら渡すように言われていたんだ」


ブルースは一通の手紙をわたす、


「俺にか」


受け取り手紙を開くと

不器用ながらも力強い字で一言書かれていた。


― チャールズさん、これから戻って来るボクサー達を信じてやってくださいね ―


「余計なおせっかいだっつーの」


涙を流しながら笑ってマコの大きな手を両手で握りしめた。




その後、賭けに勝ったチャールズのもとへ、

ジャッカスのジムにいたボクサーたちは戻ってきた。

貰ったジムは、チャールズとそのボクサーたちの資金で、

トレーニング器具などをそろえ模様替えをしたのである。

そうそうジャッカスはというと…

マコのファイトに目を覚ましたのか、

ジムを建て直しトレーナーやマネージャーを雇って、

しっかり選手を育成し始めただとか、

チャールズのもとに電話がかかってきたのである。




そして1年後の春…


「凄い、いますね~」


サムは舞台の垂れ幕の裏から外をのぞき言う


「そうですねぇ…だいたい200人ですかねぇ」


レターは携帯のカメラでその光景を写真に収めた


「なにやってんだ?お前ら」


チャールズの拳が二人の頭に落ちる


「「痛!!」」



「俺たちの時代の始まりだぜ?しっかりしろ」


後ろから、チャールズのスーツ姿を見ていたブルースが思わず吹き出す


「なんだ?そのきちっとした格好はクックックッ…」


「チッうっうるせぇなぁ…いいか?3・2・1だからな?」


「あれ~?緊張してます?」


ニヤニヤと他の選手に茶化される


「テメェも黙ってろ!」


「行くぞ!」とカウントを始めた。

「3・2・1!」

勢いよく幕が上がると、

軍のようにズラーと整列した、

新しく入ったボクサー達を見て一瞬固まった。


「ほら!喋って」


隣にいたサムに背中を叩かれ、我に返り目の前に立っててあるマイクを握る、


「お前らの事は信用していない!仲間だとも思わない!

 だが!もし敵になったとき、面白い試合ができるように

ビシバシ育て上げてやる!覚悟しとけ!以上だ!


「それだけかよ!?」


おもわずブルースは驚いたが、

舞台の下にいる大勢のボクサーたちは「はい!」と大きく返事をした。


「じゃあまずはうちのジムの象徴であるナマコを捕まえるぞ!」


心なしかチャールズの表情は、

数年前の飲んだくれていた時と比べ、

凄い生き生きとしていてやる気に満ち溢れていた。

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3分ボクサーナマコ!! キュア・ロリ・イタリアン @kyuareiko

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