第四ラウンド『ジャッカス』

「あの私が外を見てきましょうか?」

問いにチャールズは少し考えてから、

「よし頼んだぞ」と言いレターを行かせた。

「どうしたサム、バカに静かじゃねえか」

マコが入っている湯船の横に座っているサムの方を見る、

「いや…いつもだったら水分補給をしたらすぐ起き上がるはずなんですが、

 全然起きないというか呼吸が荒くなって苦しそうなんです」

「なに?」

チャールズは急いでマコの方に駆け寄り、心拍数を測るなど様子を見る

「こりゃまずいかもな…」

サムにすぐに救急を呼ぶように指示し、

チャールズはすぐそばにあるベンチにタオルを敷き、

マコを風呂から持ち上げるとその上に寝かせた。

「しっかりしろよ…」

マコの肩を軽くたき言う

「あともう少しで来るそうです」

二人はマコを見守りながら待機し、10分経過しただろうか

サイレンを鳴らしながら救急車が家の前に止まり、

タンカーを持った男達が入ってくる。

「呼吸が荒いな」

救急隊員達はマコをタンカーに乗せると、酸素マスクをマコの口に着け救急車に乗せ、

サムとチャールズも一緒に乗り病院へ行った。


視点を変えレターへ

「はぁはぁはぁ…」

レターは小枝や枯葉が地面に落ちているのに気が付き、隠れている場所を把握する

「隠れてる場所は分かってんだ、出てこいよ!」

相手はボクサーだと思い拳を構える、

すると思ったよりも抵抗せず、すぐに出て来る

出た来た人物は意外にも背丈からして小学3年生ぐらいの子供だった。

何故か忍者のコスプレをしていて、覆面をして顔は分からないが

背負っているウサギのリュックからして、おそらく女の子だろう…

意外な相手に、レターはバカバカしくなり思わず大声で笑った。

「どうした嬢ちゃん…忍者ごっこかい…」

腹を抱えて笑っていると、「うっうるさい!」と言いバズーカみたいなものを、

ウサギのリュックからだし構える

「なんだそのおもちゃは!ハッハッハ!」

確かに少女の持っていたバズーカは、パーティーグッズのようなカラフルな柄をしている

それを見てさらに大笑いしていると、少女はニヤリと笑いバズーカの引き金を引いた。

すると大きな音が出ると、煙と共に大きなネットが出てレターを捕まえる

「なんだこのネット」

レターが取ろうとすればする程、体に絡みつきやがて地面に転ぶ

ガランと地面にバズーカを捨てると「作戦大成功」と静かに言いうと、

今度はバッグから注射器を取り出しゆっくり近づく。

「クッソ!」

力ずくてネットを切ろうとするが、ネットに使われている糸が頑丈なせいで、

ただただ体力を消耗するだけだった。

「お休みクマさん」

地面でもがいてるレターの大きな体の上に跨り乗ると首に注射器を指す

「子供だからって容赦しねえからな!ブチこr…」

どうやら注射器の中身は睡眠薬らしい、

一瞬で寝たレターを見て「ざまぁこの裏切り者め」と言うと、

跨ったままポケットからピンク色のキッズ携帯を出した。

「パパ?目標を捕まえましたわ!今すぐ来てくださいます?」


レターは気が付くと、薄暗い倉庫の中にいた。

しかし薄暗くてもわかるが、凄く綺麗で廃墟ではないことが分かった。

身体を動かそうとしたが、壁に張り付けにされていて動けず諦め窓の方を見る

長く寝ていたのだろうか、夜空に浮かぶ月が見えた。

「ヘックチ!」

何故か服がビショビショに濡れているのに、いま気が付きガタガタ震えた。

季節は真冬の為、若干服が凍り始める

すると…

「久しぶりだなムハマンド」

倉庫のドアが開くと

顔にはサングラスをかけ、手を見ると純金の指輪をいくつも付け、

いかにも金持ちという言葉が似合いそうな男が、小さな女の子と手をつないで入ってくる。

まだ視界がぼやけているが、女の子が昼のバズーカを持った娘だと分かり、

男に警戒し始めた。

サングラス男と女の子だけかと思ったら、二人の屈強な男達がレターの左右に立つと

サングラス男は、「ニカァ…」とトウモロコシのように綺麗に揃えた金歯を光らせ笑う

「ここに見覚えはないかな?」

サングラス男は、リモコンのボタンを押すと室内の電気が付く

「電気をつけなくても、あなたの声で大体分かってましたよ…」

サングラス男を睨み「ジャッカス」と言うと、

男はサングラスを取り「お帰り」とまた気味悪く笑う。

「パパの名前を着やすく呼ぶんじゃないですわ!」

忍者の覆面で顔が分からなかったが、パッツン前髪の縦ロールの髪型をした

親に似ず可愛らしい顔をしていた。

少女は、プクーと頬を膨らませて怒る

「僕に何か用ですか?」

「なぁに用なんて大層なことじゃない…少し聞きたい事があってな」

「あなたに話す事なんてありませんよ!」

力ずくで腕と足についてる手錠を壊そうとするが、

左右の男から腹を殴られ、前かがみになった。

「まぁまぁそう乱暴するな、あとで私が親友に怒られるんだから」

ハッハッハ!と笑い、それにレターが舌打ちをする。

「コイツについていくつか答えてもらう」

レターの足元に数枚の写真が投げられる、

見てみるとそこに写されていたのは、練習試合をしているマコの姿だった。

まじまじと見ているとジャッカスが口を開いた。

「まず一つ目の質問だ、そいつは次試合をする相手か?」

隣の少女が「話した方が身のためでしてよ!」と言う

「誰が答えるか」

「お~…ムハマンドよボクサーとしてそういう姿勢は素晴らしいと思うが…

 状況を判断して言葉を選んだ方が…」

 指をパチンと鳴らしてから「身のためだぞ」と言う

 「分かりました」と、少女はドレスのポケットからスタンガンを出すと

 レターにゆっくり近づき「お馬鹿さんね」とクスッと笑い、

腹にスタンガンの先をつけた。

「グッ…」

電流が体を走り思わず奥歯を噛みしめて耐えた。

電気の強さから護身用のスタンガンではないことが、レターは分かった。

「負けるのが怖いんですか?」

フッと笑う

「負ける?私が負けるわけないいだろ?」

 指をパチンと鳴らすと、少女はまたスタンガンをレターに当てた。

「早く答えろ」

「ハァハァ…ええ…そうですよ」

「ほ~映像を見るに…何かこいつは、病気を患ったりしてるか?」

練習試合の映像が収められているであろう、ビデオテープ片手でをひらひら見せる

「病気…ねぇ」

「どうなんだ?」

レターは、ニコリと笑い「アンタのジムを潰したい病を持っている」

「面白い冗句だ」

ハッハッハ!と笑いながら指を鳴らし、

娘にスタンガンでレターを攻撃させた。

さすがにもう耐えきれずレターは大きな叫び声をあげる

「まぁ映像を見ればだいたい悪いところが分かるがな」

「そうですか…」

「もって余命…いや選手生命はこれじゃあ次の試合までもたんだろうな」

「だからどうした」

「私は寛大で優しい!だから裏切った事は許そう」

「そりゃありがとよ」

「実は、特別ゲストを招いているんだ」

手を二回たたくとドアが開き、犬を入れる鉄のゲージを持った男が入ってくる。

レターはゲージの方を見ると愛犬が入っていることに気が付く

「ココ!」

ゲージの中に入っているココは、ぐったりしていた。

「テメェ!俺のココになにを!」

「安心しろ、私は優しいと言っただろ?眠らせてるだけだ」

「クッソ!」

「本当は親とかにしようと思ったが、かけ勝負に人の命は大きすぎる」

「何言ってる?」

「実はこの犬の首には無線式の起爆する首輪をつけた。

 今からお前に課す任務を成功しなければ、愛犬のココちゃんの命は…」

 にやりと笑ってから「無い」と言う

「ふざけんな!卑怯だ!」

ジャケットのポケットから起爆スイッチであろうリモコンをちらつかせた。

「いいのかなぁ~?」

「たかがかけ勝負だろ!どうしてそこまで!」

「私はサムと言う選手がほしい!

 そして私は欲しいものを手にできるなら手段を択ばない!」

「サムぐらいの選手だったら、あなたの買収した選手を育てれば、

すぐにサム以上の選手に育つでしょ!」

「私は努力を信じない!努力というのはやればやるほど時間の無駄だ!

 人を裏切る!大事な人を奪い取る!」

 最後に右腕を押さえ「選手生命を奪う」と言った。

「だから有能選手でもダメになるんだよ!きっとサムもここに来たら無能になる!」

その瞬間ジャッカスの眉がピクリと動く

「ジャパニーズのこのわざ?でこんな言葉がある」

ジャケットの裏ポケットからハンドガンを取り出し銃口を向けた。

「ゴットのフェイスもスリーアウトまでってな」

引き金を引きレターの頭すれすれを狙い引き金を引く

弾道はブレて顔の真横を打ち抜いて壁に穴をあけた。

レターは頬をカスリ血を流した。

「クッ…」

ガンマンのように、銃口から出る煙をフーと息を吹き消す。

「さぁ今度は額に風穴をあけるぜ?」

額に銃口を向ける

「わ…分かったよ」

「良し偉い子ちゃんだ…ではこの手紙をココから出たら読むように」

ジャッカスは立ち上がるとレターに近づいてジャケットの胸ポケットから手紙を出すと、

レターのズボンのポケットへ移し、最後に腹に銃口を強く押し当ててから

「お前のことを見てるからな」と目を見ながら静かに言うと10歩離れる。

「一名様外へごあんなーい!」

外へ出すよう左右の男に指示をした。


場所は変えマコが運び込まれた病院へ…

二人は自動販売機の並ぶ休憩室のソファーに座り、

深刻そうな表情で俯いていた

「大丈夫でしょうか…」

サムは、神に祈りながらチャールズに聞く

「んなもん分からねぇよ」

二人は大きなため息をしていると、

「おい」とゼェゼェと息を切らした聞き覚えのある声が、頭上から聞こえてきた。

二人は声の方を見上げると、薄汚い白衣のピーターとその助手2人が立っていた。

「親父来たか」

チャールズは飲みかけのコカコーラをピーターに渡す

「夜遅くお呼びしてすみませんでした。」

サムは一回お辞儀をする

「気にしなくていいよ!僕は基本的に寝ないから」

ハハハとピーターは笑っているが「僕たちは限界です…」と

白衣のポケットに空のエナジードリンクを入れた助手達がボソボソ呟く

「なんでこいつらが?」

「僕はセグウェイ以外の乗り物を運転する事ができないから

この二人には足になってもらったのだよ!いきと帰りのね」

 サムは(チャールズさんの人を扱う雑さは、父親からの遺伝なんだな)と思い

乾いた笑いをした。

すると廊下から複数人の歩いてくる足音が遠くから響き渡ってきた。

「終わったか」

チャールズは足音の方を向く

いろんなファイルを持った医者一人と看護師3人が、5人の所に立つと

深刻そうな表情で医者は話し始めた。

「マコさんは、一命を取り留めました。

しかしもうボクシングはやめた方がいいでしょう」

その言葉にチャールズとサムは「え?」と言った。

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