第三リング『マコVSムハマンド・ウィリアムズ』
「凄いですねぇ…」
「あぁ…」
二人は、あの後急いで乾燥したナマコ湯船に水を張り入れたのだった
ナマコはスポンジのごとく湯船の水を吸い上げ、
岩のように固くなった肌ももちもちした肌に戻り、
ミイラのように痩せ細った身体もぶくぶくと太り元の姿に戻った。
「まるでアクアビーズだな」
その異常な変化にまじまじと見る。
二人が数分ボーとみていると、ナマコは起き上がり口から余計な水を吐き出すと、
何やらお腹を減らしたのかキッチンの方へ走って行った
「…見かけによらず走りだけは早いんだな」
意外過ぎてサムは少しの間固まった。
その後ナマコは、チャールズにより『マコ』と命名され、
一日のトレーニングメニューが組まれる。
午前は、サムと言語などのコミュニケーションとボクシングのルールの勉強
そして午後は、チャールズによるボクシングのトレーニングだ。
「いいかいマコ?お腹が減ったときは、「お腹が減りました何か食べるものは、ありません
か?」だよ、ためしに言ってみな」
「腹が減った何か作ってくれねぇか?」
「…それは~誰から教わった?」
少しカタコトながらもちゃんと話す姿に、驚きを隠せないサムは思わず聞いてしまった。
「俺の親父のチャールズさんだ」
「昨日会ったばかりなのに…」
驚きを通り越して少し引き眉間にしわを寄せる。
どうやら記憶力は良く覚えがいいらしい…
午後になりチャールズの特訓が始まる、
この前みたくミイラ化しないようマコは、
水がたっぷり入った潜水服を着させ行わせた。
「この一週間でお前のたるんだ体を引き絞ってやる!」
ピーター曰く脂肪と思われる部位が全部筋肉でできているとかなんとか
だからボクサーらしい身体に仕上げるのは、そんな時間がかからないらしい
因みにこれは、擬人化した後レントゲンを撮った時知ったのだった…
とは言えマコは体を動かすと約3分間でミイラ化するのか、
直ぐに潜水服の水がなくなった。
チャールズは、この問題に頭を悩ませた。
一週間が経ちマコの特徴と成長結果を話すため、
三人は、ファミリーレストランに集まった。
「とりあえず一週間がたった」
マコの方を見て「ボクサーのトレーニングは、着いていけそうか?」と聞く
「あぁ…大丈夫だ…」
マコは、メモ帳にそう書く
言い忘れたが外出では、背中に大きな水を背負わせた潜水服姿でいる為、
話すときは、メモ帳に書くようにしているのだ。
しかし彼?彼女?まぁ性別は分からないが、確かにあった当時よりも
筋肉が付きまだ完璧とは言えないものの変わっていた。
…今は服のせいで分からないが
「きみは、本当に覚えもいいし正直凄い…」
サムは、感心したように言ったもののどこか暗い表情だった。
マコは、「サムさんのおかげだ」と言いサムの背中を軽くたたく
「しかし…体つくりとコミュニケーションは、問題ないにしても
俺は2つ新たな問題を見つけた」
マコとサムは、「それは?」と同時に言う
「マコは、3分しかリングに立てないという事と、
体質のせいでパンチが弱いということだ!」
チャールズの言う通りで、
マコは筋肉を使い過ぎると背中の上で目玉焼きが作れるほど、
かなり熱くなりミイラ化する為、自分で知らないうちに制御しているのだった。
「俺は、敏腕トレーナーだ!お前のことは大体わかるだから!」
そう言い突然スマートフォンを取り出し誰かに電話を掛けると
カランカランとドアが開くと同時にベルが鳴り、
がたいの良い見るからにボクサーというよりか、
ボディーガードという体つきのサングラスをかけた大男が入り、
やがて三人の座るテーブルの前に立った。
近くで見て分かったが小じわがありサムよりも年上らしい
「このお兄さんは?」
「え?お前知らないのか?」
少し驚いた顔で言うとサムは、首を振る
「こいつは、たびたび俺の家に弟子入りの手紙を送ってくる奴で、
名前は、レターってんだ!」
サングラスのおじさんは、「ちっ違います!本名は、ムハマンド・ウィリアムズです…
ニックネームは、レターです…おねがいします…」
と見かけによらず恥ずかしがり屋なのかもじもじしながら言う
「明日ためしにマコとレターで練習試合をしたいと思う
この目的は、力の使い方と体力の温存の仕方だ」
「いいな?」とマコの方をみる
「親父の言うことなら」
メモを見せチャールズの顔を見る、
しかし現役ボクサーのサムには分かるのか、
言葉にはできない何かをマコの瞳から感じた。
その『なにか』がなんなのか上手く表現できない為、
頬杖をし窓から見える風景を眺めため息をつく、
だがその何かが分かるのは、案外すぐに分かった。
この後ファミレスの前でムハマンドとは、分かれ、
三人は、チャーリーのジムに戻り、サムとマコはトレーニングを夜までする。
「よし!今日は、ここまでだ」
チャールズは、大きな伸びとあくびを一つし一階へ戻る。
サムもグローブを外し同じく部屋へ戻ろうとした時、
いまだにサンドバックを殴り続けているマコの姿が視野に入り、
ベンチで少し眺めることにした。
見ているとマコの姿からは頑張りよりも、
焦りを感じた。しかしそれだけでなく時々見せる心臓を押さえる動作に、
サムは今日の昼に感じ『何か』の正体がようやく分かると同時に、不安になった。
面と向かって話す為、マコの休憩用の湯船をロッカーから引きずり出し、
水道にホースをつけて水を張るとマコを呼んだ。
「マコ!ちょっと休んで話さないか?」
するとマコは、グローブを外しサムの座っているベンチに座る、
「君は、そっちじゃない」とベンチの横に置いてある湯船を叩いた。
マコは、ゆっくり立ち上がると潜水服を脱ぎ湯船につかり口を開いた。
「俺のためにすまない」
「いやいいよ、二人でゆっくり話してみたかったんだ」
「ふ~ん」と湯船につかり気持ちよさそうに天井を眺めた。
「ボクシング楽しい?」
そう聞くと意外なことに、マコは首を振り「正直怖い」という
「そうか…聞いてもいいかな?なんで怖いか」
ベンチから湯船の方に移動し縁に座りマコの方を見る、
「サンドバックを叩いてるときは、楽しいんだ、しかしそれが人間になると怖くなる」
意外にもちゃんと話してくれたことにサムは驚き数秒固まった。
「…あぁ…なるほどう」
「正直明日の試合には、自信がないジャッカスとかいう野郎との試合もそうだ」
普段一言でしか返さずチャールズに似た言葉使いからクールなイメージを持っていたが、単に内気な性格なだけらしい
話し方はチャールズと生活しているから自然と身に着いたのかもしれない。
としてもサムは自分がこのジムに居続けるためにも、
「君にすべてがかかっているんだ!だから頑張れ!」
と言いたかったがぐっと堪えて、
「でも悩みは本当にそれだけかい?」と天井を見て言う
マコは、「いや…もう一つある」と言い心臓のある方の胸をさすった。
「実は、体を動かすと心臓に負荷がかかるのか時々痛むんだ」
「そっか…マコ、きみはこの先ボクシングやりたいの?」
「せっかく憧れていた人間の体を手にしたんだ
できればやり続けたい…だが昔の記憶がフラッシュバックして対人戦になると怖い…」
とブクブクブクと水中にもぐる
「君の気持は、分かるよ…
それならなら相手も同じ擬人化したナマコだと思えばいいんじゃないかな?」
マコは「む~」と唸り、頭だけ水面から出した。
「レターだって君と同じ黒い肌だったしきっと相手も
もともとはナマコだな」
少し笑って見せとマコもクスッと笑う
「ありがとう少し恐怖が和らいだ」
「あと心臓のことも気にしなくていい、僕たちがそばに着いてるから
思う存分暴れればいいさ」
マコは「この世に優しい人間も居るものなんだな」と言い、風呂から立ち上がった。
「じゃあ今日は、寝るか」
マコの背中を軽くたたきその日は終わった。
― 練習試合当日 ―
マコはチャールズと組み、
ムハマンドことレターはサムと組んで、
4ラウンドの試合がはじまった。
初めに動いたのは、レターの方だった
レターは、ガードをしたまま動かないマコとの間合いを詰めジャブを何度も打つ
マコは、ピクリとも動かずガードをし続ける
その姿を見てチャールズは、「ガードばっかりしてんじゃねぇ!動け!死にてぇのか!」
とリングの床をバンバン叩く
「クッ…そんなこと言われても」
ロープの方に押されながら必死にガードをする。
レターは「ビビってんのか?あ?おい!」と挑発をしながら、
一方的に攻撃をし続けた。
どうやらレターは、グローブをはめると優しい性格から豹変するらしい、
レターは横フックで脇腹を攻撃しガードを解いた瞬間、
マコの顔面にストレートを打ち込んだ。
マコは、後ろへよろけるが踏ん張りまたガードの対勢戻る、
思ったよりもタフで見ていたチャールズとサムは驚いた。
「おいおいまたガードかよ」
また横フックで脇腹を狙ったが今度は痛みに耐える、
(動け…怖がるな俺怖がるな…)
耐えながら怖がる自分に言い聞かせている時である、突然腹に激痛が走った。
レターのボディーブローが綺麗に腹にめり込んだのだ。
あまりの衝撃に咥えていたマウスピースと共にマコは床に倒れる、
「は~まだまだこれからだぜ?ウスノロがよぉ」
チャールズがカウントダウンをしている間、
見下ろしながら罵倒する。
「4・5・s」
6まで言おうとした時フラフラとマコは、立ち上がる
「ヴッ…クゥ~」
落ちたマウスピースをはめながら立ち上がる時、
視界にサムが映こむと、
恐怖で忘れていたが昨晩言われたことを思い出した。
(あいつは、俺と同じナマコだ!)
「早く落ちろゾンビ野郎!」
レターのストレートを避け顎にアッパーを決める
しかしまだ恐怖が残っているのか動きが鈍く力も入らなかった為、
結果的にレターのボディーに一発きめられた。
この一発で第一ラウンドが終了しお互いコーナーに戻る、
チャールズはマコに水をぶっかけた。
「お前のタフさには感心するが攻めろ、いいな」
動いていないせいか、
たいして皮膚も硬化してなくまだ行けそうな様子を見てアドバイスをすると、
マコは、ゆっくり頷き「次で決めてやる」と相手を睨む。
「よしその意気だ!」
背中を叩き第二ラウンドが始まった。
持ち前の俊敏さを生かし今度は、マコが攻める
ジャブを三発撃ってから脇に一発と、目にもとまらぬ速さで猛攻撃を始めた。
人への恐怖もなくなってきたのか徐々にパンチの威力も強まっていく。
レターは、ガードをするが追いつかず、次々とくらい気が付けばロープに追い込まれた。マコは、最後にストレートをレターの顔に決めよろめかせる
「いいぞ!その調子で相手を捻じ伏せろ!」
チャールズは(勝てる)と確信した。
マコも(いける!)と思い、
前のめりになるレターの顎にアッパーを決めようとした時である。
急に心臓を誰かに握りしめられるような痛みが走り、体もみるみる硬化を始める。
「まずい…」
顎には、当たったもののたいした威力は出せず、
レターは、床に膝をつき4カウントで立ち上がった
マコは動こうとするが、まるでロボットのようにズシッズシッと動きが一気に鈍くなる。
「まずいな…」
動きが鈍くなるマコを見て、チャールズは固唾をのみ込んだ
床に膝をつかされたのが相当ムカついたのか、
床を左足で蹴り一気にマコに近づくと、顔にアッパーを何発も入れる。
マコは防御をしようとするが、まるで腕に岩でもくっついているのか
顔まで腕を持ってくのもかなり遅く間に合わなかった。
最後の一発顔のど真ん中に当てられマコはダウン
しかし硬化した皮膚が相当硬かったのか、
レターは、顔をゆがませ痛そうに殴っていた方のグローブを押さえた。
「…9・10!」
とうとうカウントダウンが終わり
急いであらかじめ用意しといた水の張った湯船に
チャールズとサムでマコを入れる。
すると窓の方からバリバリバリッと、
木の枝が何本も折れる音がする。
チャールズの家には、一本大きな杉の木が立っていて、
距離的には夏に二階のトレーニング室の窓を開けると、
枝に生えている葉がワサァと室内に侵入するほど近い。
「なんでしょう今の音」
レターは、不思議そうにカーテンのついていない窓を開け下を見る
するとしたの芝生に折れた枝が何本も散らばっていた。
しかし肝心の落ちた物がない
「今の練習試合を見られていたか?」
あわてた様子でレターをどかして下を見たが
人影らしい影も見当たんなかった。
「なんなんだ…いったい…」
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