第6話 張り巡らされたもの

 この世界に来てからたった数日で様々な事を体験した。その中でもう二度と遭遇したくない出来事とこんなに早くも出会うとは思ってもみなかった。運が悪い時はとことん運が悪い、記憶の底にあった小学一年生の頃の運動会を思い出す。


 年子の姉がまた生きていた頃、初めての運動会で喜んでいたのだが天気は小雨。敢え無く中止となる可能性もあったが、天気予報では昼から晴れるというのでその日に決行となった。小降りの雨の中、自分の活躍を親に見せたくて、やる気十分に50メートル先のゴールを睨んで、スタートの合図を待つ。ドンと同時に泥濘にハマり、顔面を強打したのだ。汚名返上とばかりに大玉転がしでは、勢い余って球に体を取られ一回転、頭から地面に落ちて三針縫うこととなった。その晩、両親は落ち込んでいる自分に、来年もあるから、と慰めてくれたのだが、それがまた情けなかった。夜中、ベッドの中で泣いていたのを憶えている。するとすすり泣く声に目を覚ました姉が頭を撫で、ちょっとだけ運が悪かっただけ、来年はカッコいいところみせてね、と同じ布団で寝た記憶が蘇った。


 どうして今さら姉の事を思い出したのか、それは多分未だに残る姉の優しさに現実逃避をしたくなったからだろう。


「おやおや、アルベルト様。旦那さんも、どうもお久しぶりで」


 この世界に紛れ込んで、刃を向けられるのはこれで二度目となる。しかもその二回ともが同じ相手というのもなんとも皮肉な物ではないだろうか。ツンっと首元に差し込む鉄の冷たい感触、少しでも動こうものなら、このまま首を貫かれ、この世界の土に還るのだろう。


 誠実は危険だという状況を把握しているのだが、緊迫した空気により頭がよく回っておらず、


「お、お久しぶり」


 なんとも可笑しな光景だろう。


 挨拶をされたからと言って、剣を向けている相手に挨拶を返す目の前の奇妙な男、誠実に相対するケミールはグッと笑いを堪らえた。自分を盗賊か何かだと思い、次は自分も狙われると考えているのだろう、御者台の男が怯えているのに気がついたケミールは男に言い放った。


「おっさん、さっさと馬車を出しちまいな」


「えっ!?」


 聞き返してきた男に、ケミールは馬車の後輪を荒々しく蹴る。


「さっさと行け!!」


「はひっ!!!」


 馬車は泥水を跳ね飛ばし去って行った。


 ようやく頭が少しは回ってきた誠実は、周りを確認する。


 アルが必死にケミールに向かって自分の弁護をしてくれている様だが、ケミールは横にいるアルの顔を一瞥もせず、自分の方を向いている。かなり警戒しているのが見て取れる。ここはこの前のように助けのような弓矢が飛んでくるわけもない、頼みの綱と言えばアルの説得か、キファがケミールの気を引くかだ。


 しかし見るからに後者の可能性は無さそうである。キファは旅の仲間の命が今や風前の灯火だというのにもかかわらず、退屈そうにアルの頭の上で欠伸をしているのだ。アルに危害が加えられないことを知っているからだろう。


 誠実はもし生き延びることが出来たのならば、キファをどの様に料理してやろうか、と心の中で毒づいた。


 ケミールは誠実の目線に気がつき、口元に笑みを浮かべ、


「さて、旦那。今度はどうすればいいのか教えてくれ。前の同じく、動きたきゃ動けとでも言えばいいか。問答無用で右腕くらい落しておけばいいのか」


「できれば平和的な解決方法を」


「とりあえず、焼印を見せな……あんたの所在を知らなきゃな」


 焼印というのは貴族に召還された異人の身分証明の様なものである。


 ケミールは自分が剣を向けている正体不明の異人が王宮内に起こっている謎の全てを解決する糸口だと直感していた。あまりにも重なりすぎているのだ。ベレ王が床に伏したのも、シモンズ宰相が西門の番兵に酒を振舞い、アルベルトを王宮からの脱出へと導いたのも、まるでアステアの悪ふざけの様に思えてならない。このような思考は前だったらできなかったであろう。元は敬謙な信者であったがかかりものとなってからというもの、彼の信仰心は揺らぎ、今は祈りをささげることを止めていた。


 ケミールがかかりものとなった代償として得た呪いは、人と人との関係性を線のように感じることが出来る不可思議な力だった。一方でケミールは他のかかりものとは違い能力を得ていないことにしている。また、力について誰かに話したことは一度も無い。


 呪いの実態について知ったきっかけは些細な出来事であった。かかりものとなってから感じ取ることのできる人と人とを結ぶ線のような感覚が一体なんであるのか考えながら街中を歩いている時の事、腕を組んで歩いている男女を見かけた。この男と女にも薄い線を感じ取ることができた。だが二人の前から歩いてくるもう一人の女との間には、腕を組んでいる女よりも太い線が視えた。前から歩いてきた女は男に気が付くと。人通りの多い街中で「浮気者!」、と男に突進していったのだった。


 殴られ蹴られ散々な男の不幸によってヒントを得たことで、ケミールは自分の呪いを更に検証していった。数ヵ月、人々を観察し続けることで、対象が視界に入っていなければ感じ取ることができないのも不便さはあるものの、その感覚が未来の関係性まで及んでいることにケミールは驚愕した。


 更にだ。呪いを口外しないことを決めた理由は、この呪いの汎用性の高さである。自分が意識的に何か問題の解決方法を考えていたとすると、その問題と深く関わりのある相手が自分と線で結ばれるのだ。簡単に言えば、もし誰かが暗殺されても、どれほど時間が掛かるかわかりはしないが、必ず犯人まで辿り着いてしまうのだ。もしこの呪いについて知れ渡った場合、国内、いや大陸には自分の居場所はないであろう。


 先ほど追い払った相乗り馬車に乗った理由も、意識的にアルベルトと誠実の居場所を探していた自分と御者が薄い線で結びつけられたのを、直感で感じ取ったからである。


 では自分の首に懸賞がかかってもなり振り構わず誠実を追いかけてきた理由はと言うと……


「ケミールよ、剣を下ろせ」


 愚鈍という噂とは打って変わって、幼いながらも覇気のある声であった。


「ナルミさんは異人だが所有者がいないのだ」


 アルは頭の上のキファを降ろし、合図を送る。もしケミールが誠実を刺そうとするなら彼を噛み殺せと。主人の命令だとキファはケミールを射程圏内に見据えた。だがケミールも横目にキファが臨戦態勢を取ったことに気がつく。


 目の前の男を殺して、襲い掛かってくるキファに対処することはできるだろうが、しかし、そうしたことで王子であるアルの不興を買うこととなり、さらに王宮へ連れ帰るのは困難になるだろう。そもそもケミールは感じている繋がりを知るまで誠実をどうこうする気はないのだ。誠実が一連の事件に対し何をもたらすものかも分かっていないのだから。


 もしかすると、王宮内に蔓延る闇を払う人物かもしれない。


 誠実はアルの言葉に同調し、青白くなっている唇を動かした。


「そ、そうです。突然この世界に迷い込んで、偶然アルと出会って」


「偶然が重なったのか、出来過ぎているな」


「本当だのことだ。ケミールよ、剣を下げろ」


 ここが落としどころだろう、十分に脅したはずだ。ケミールは剣を鞘に収めた。


「いや、出来過ぎているからこそ真実か……詳しい話をきかせてもらいませんかね」


「……助かったんだよな」


 誠実は自分の命を脅かす剣が首元から離れたことで、一気に脱力し、泥の水たまりに尻餅をついた。ズボンに染みわたる冷たい感触は、今は全く気にもならない。それほどまでに体も心も強張っていたのだ。


「旦那、わかっていると思うが、信用されたきゃ嘘はつくな」


 誠実は何度も頷いた。



※  ※  ※



 ケミールの行動は早かった。陽も暮れてしまったのでここで野宿になるなというと、木にロープを括りつけ六方形に囲い、野犬などから身を守る場所を作った。次に枯れ木を集め、乾いた草で固めた燃料に火を灯る。そして座り心地は悪いが即席の椅子になりそうな木を集めてきた。食料を見つけてくると言い残し、十数分その場を離れたと思ったら、見た事も無い動物を仕留めてきた。当然、その間は二人が逃げないように、アルを連れて行くのを忘れていない。


 三人がたき火を囲み座っている。


 誠実は自分の居た世界について、そして突然この世界に降りたったこと、その翌日に偶然アルと出会った事などを話し終えたところだ。所々省いた部分はあったが、嘘は言っていない。言えるはずがない、目の前の男は先ほどまで自分を殺そうとしていた男である。


 ケミールはようやく鋭い眼光を誠実から外した。


 目の前の炎の中、濡れた木の枝に差し焼いている肉をひっくり返し、ニーダ特産の麦酒を瓶ごと口にした。


「なるほど、旦那の理由はわかった」


 信用されたのか、されていないのかわからないが、取りあえず誤解は解けたのだろう。誠実はほっと胸をなでおろす。安堵すると脂が焼ける食欲がそそられる匂いに誠実のお腹が暴れはじめた。


 ケミールは手元の酒を飲みながら、誠実の顔を今度は目尻に皺を寄せて見つめる。


「かぁ~、ほんとにそっくりだ、ドルフェイスに」


 先ほどから彼が飲んでいる酒は誠実が買ったものである。それをまるでわが物のように飲んでいるケミールにアルは嘆息した。王国の権威を示すための兵、それがこのような横柄で、礼儀のなっていない、まるでゴロツキの様な男だと思ってもみなかった。王宮に帰ったら兄であるバルザックに兵士の人選について進言した方がいいかもしれない。しかもドルフェイス大神官を呼び捨てにするとは、不敬罪に問われてもおかしくはないだろう。


「次にアルベルト様、俺はさっさとあなたを連れて王都に戻りたいんですが、どうやらそれは無理なようですので諦めますわ」


 ケミールの言葉はアルにとって思いがけないものであった。


「どういうことだ?」


「あなたは軽率な行動を取ったんですよ。何かに誘導され、必然的に守られている場所から危険な外に出てきてしまった。もし俺たちが今から王都に向かったとしても、味方に保護される前にあなたの命を狙う刺客に遭遇するでしょうな」


 アルはその事実に愕然とした。


 自分は人に会うがために外に出たのである。外に出ようとしていたことを誰かに知られていたことになるのだ。アルがひっそりと数回ほど会った王宮の牢に入れられていたドレという人物、彼との会話を聞いていなければ、自分が王宮から抜け出すつもりなどと誰しも思わないだろう。


 そういえば不可解なこともある。ドレが王都の商業地区で公開処刑されてから、数日たたぬうちに世話係のセランがしきりに西門について話をし始めたのだ。それはわざわざ自分を誘い出すための罠であったのだろうか。


 頭が混乱してくる。


 そこまで仕組まれたものだったのならば、街中で偶然出会い、一緒にダニスの街まで行くことになった誠実はいったい何者なのだろうか。警戒心を強めた方が良いかもしれない、そう思ったが、キファと肉の取り合いをしている誠実を見て、まさかな、とその疑いはすぐに晴れた。もしそうならば、今頃は自分はこの場にいないであろう。


「そしてあなたを殺し、その咎を俺と旦那に押し付ける」


 ケミールは胸元から賞金首金五百枚と書かれた手配書を1枚出した。そこには無精髭の生やした顔の中年の男が眠そうな顔に描かれている。何ともやる気のない顔だ。これではライザック王宮の門を守る衛兵とは、誰も気がつかないだろう。 


「ええぇ!!ちょ、ちょっと待て、俺もか!」


「旦那の場合、王都でも何処でも、貴族に見つかったらアウト」


「なぜ!?」


 肉にかぶり付きながらケミールは続けた。


「この世界は異人の権利を認めていない国ばかりだ。ヴェイントも当然その一つ。しかも貴族にとっては立派なステイタスだからな、異人を所持しているってのは……俺にとっちゃどうでもいい話だが」


 まるでペットの様な感覚なのだろうか、奴隷がいる世界なのだからそれが常識なのだろう、胸の辺りがムカムカしてくるのは、平和な時代に生まれてきた証だ、誠実は改めて自分が途方もない場所に着てしまった事を知った。


 ケミールの話に誠実とアルは自分たちが置かれている状況を理解した。


 風が強まり炎を揺らす、暗闇から獣たちの唸り声が聞こえる。慌てて立ち上がる二人を尻目にケミールは腰を降ろしたまま、遠くだから大丈夫だ、と一言。


 ヴェイント王都に帰ることは危険だとわかったアルはケミールに今後どうすればいいのか問いかけた。


「当初の目的は、ダニスの街で何を?」


 ケミールはまるで一転、軽薄そうな顔で尋ねた。アルはもうここまで状況が悪化してしまったのなら、隠す必要が無いと、


「ルキア兄様に会いに」


「ルキア王子に?」


「ん?……ちょっと、王子って何のことだ?」


 誠実は二人の会話に飛び出てきた兄、王子と言う言葉に待ったをかけた。会話を中断させられた一人は呆れた顔で、


「旦那がなんて聞いてたかわからんが、この方はアルベルト・ベレ・ヴェイント。ヴェイント王国の第四王子だ」


「すみません」


 申し訳なさそうな顔をするアル。誠実が想像していたよりも遥かに高貴な人物であった。


「貴族の中でも上流階級のボンボンとは思ってたけど……っておい、犬っころ、噛みつこうとするな!!アルが王子とは……いや、話をそらして悪かった」


 ボンボンという蔑みに反応したキファは、誠実の足に噛みつこうとしたが、察した誠実は持っていた肉のついた木の枝で応戦をする。


「ルキア王子ね。当面の目標はダニスの街を目指して、ルキア王子に保護してもらうのが、一番安全そうですかね」


 間合いを取りながらキファを睨む誠実も、自分の軽はずみな行動を導いた謎に思考を巡らせるアルも、自分たちが何によって導かれここに居るかを知らない。そして、もう一人の旅の仲間となったケミールもそうだ。当面の方針は決まった。しかし各々が持つ疑念については何一つ解決していない。



 ※ ※ ※



 雨の日は着ているジャケットが濡れたり、交通機関が麻痺したり、不便することばかりだが、降ることが無いと分かってから、空を見上げると物寂しさを感じてしまう。真っ暗闇の中、弱弱しい光を放つ四大星は、たき火から離れた岩場に腰を降ろしている誠実を照らしていた。


 月では無いのだ。


 油断をすると寂しさに凍えそうになる、一体自分はどうしてこのような状況に陥ってしまったのだろう。アルの前ではおくびにも出さないが、時折自分がこの世界にたった一人きりだという孤独を味わっていた。


 誠実は自分があまり強い人間でないことを知っている。そして自分自身を好いてはいない。弱い人間こそ自分自身を客観的に見ることが出来た。役者になりたかったのも仮面を被ったもう一人の人間を作り出すことに興味を憶えたからであろう。


 湿った土に手を触れた。


 水分を含有している土。


 腰を抜かしたとき、座り込んでしまった泥水、物理法則が違うというのはどうやら本当らしい。雨が降っていないのに、なぜ湿った土や泥の水たまりができるのだろう、不思議に思う。自分がこの世界に着てしまったことに比べれば、それはほんの些細な不思議現象なのかもしれない。


「旦那、飲むかい」


 振り向くと寝ていたはずのケミールが煌々と光るランプとリンゴ酒を持って立っているのだ。よっ、と掛け声をかけ、岩場を軽い身のこなしで登り、誠実の隣に腰を掛ける。木で作られたジョッキを渡される。

「ありがとうございます、ケミールさん」


 誠実が持っていたケミールへの恐怖は削がれていた。たき火を囲んで食べながら話していく内に、ケミールの人となりを知ったからだろう。もしや上手く自分の心に入り込まれたのかわからないが、どちらにしても敵意のある目を向けられることは無いと考えている。しかし万が一ということもあるので、少しだけ腰の位置をずらして離れる。


「敬語は止めてくれ、虫唾が走る」


 わざとらしく頭を掻き毟りながら、ケミールは煙草に火をつけた。


 真夜中、岩場に座る2人の男と空に昇っていく二本の紫煙の糸。煙草の煙は夢を手繰り寄せようとする人間の手に似ていると劇団員の誰かが言った。そして夢を手にする前に風によって吹き飛ばされてしまうのだと。その風は世間であり、お金であり、人間関係でもある。そう話した次の日に、その団員は舞台から去って行った。


 横に座りながら気怠そうに煙草を吸っては、輪っかを作り遊んでいるケミール。誠実は目の前の男が本当に自分を殺すつもりだったのか改めて考え始めた。何故なら二度目に剣を向けられたとき、テンパっていたとはいえ、今じっくりと彼の顔を思い出すと、所々不自然の様な気もしなくもない。ただの気のせいかも知れないが、保護するべきアルを一瞥もしなかった、そんな小さなことが気になったのだ。


「助かった」


 沈黙を割るように、ケミールが口を開いた。


「どういうことです……だ」


 怪訝そうな表情を浮かべる、


 一体何を助かったというのだ、助かったとするならば自分の命である。そんな顔をしている誠実にケミールは言葉を続けた。


「街中で襲われたとき、あんたが王子を連れて行ってくれなきゃ、王子は多分死んでたからな。そうなりゃ俺も縛り首だ」


 なるほど、と納得する。それほどまでにアルの周りには不審な物が転がっていたのか。しかし街中でよく弓を掻い潜ってアルの手を引いて逃げたものである。思い出すだけでも身震いがする。


「そっちの世界は豊かなのかね。どうだい、この世界は」


「ああ」


「嫌いかい」


「……わからないな、現実感がないわけじゃないけど、さ」


「そうか」


「……」


 再び沈黙が2人を包み込む、森の奥から聞こえる梟らしき鳴き声は、やけに甲高く耳に響く。現実感があるといったら嘘になるが、無いといえるほどでもない、そんな曖昧な答えは何より言った本人の胸を締め付けた。まるで自分の言葉がアルやキファの存在を否定したかに聞こえたのだ。


 ケミールの足元には吸殻がすでに五本、もう一本にランプの灯を使い吸い始めた。そして誠実もご相伴に与る。


「俺の身近にも異人がいたからな」


 誠実は勢いよく立ちあがりすぎて、岩場の上でバランスを崩してしまい、一メートル下へお尻から落下した。ズシンっと響く重苦しい痛みが尾骶骨を通して背骨へとわたっていく。しかし痛みよりも、ケミールの言葉がそれ程誠実にとって興味深かった。


「大丈夫か?」


「その人は」


「もう死んじまった」


 続けられた言葉に肩をおろし、俯いた。「帰る方法を探したい」ボソッと呟いた一言は上にいるケミールまで伝わった。


「諦めな。藁を掴むようなもんだ」


「アルにも言われた」


 望む物は元の世界へ帰ること、しかし、誠実の吐き出した紫煙は空へと手を伸ばしていき、途中でかき消されてしまった。


 気を利かせたケミールはランプを置いたまま寝床へと戻ったらしい。誠実は体を震わせながらも、咽ぶ声を歯を食いしばって抑えた。


梟の鳴き声が鳴りやんでいた。

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