第3話

プロローグ


「スギタケ……いや、ハーデス! どうして――」

「話しは後だ。――【ダークドーム】」

 統夜とうやとハーデスの周囲を闇が囲む。外に取り残された猿飛トリオは各々の術をぶつけるも、闇のドームを打ち崩せず、中を確認することが出来ないでいた。そんな闇のドームの中では、統夜がようやくとばかりに腰を下ろし、呼吸と思考を整えていた。

「ハーデスよ、助かった。しかしこのドーム凄いな。外からの情報をこれほどまでに遮断出来るとは」

 座りながら話す統夜とは対照的に立ちながらハーデスは答える。

「長く持続出来ないから一瞬ではあるがな」

「そうか、それより、どうしてお前が俺達の戦いに入ることが出来たんだ? 今は俺と忍者もどき達の《世界闘戦》のはずだが」

「あくまで俺なりの解釈で話すが、さっきお前は俺を染め、支配した。それによって俺はお前の眷属になったってことだ。だから俺は自身の世界を開くのではなく、お前の世界に干渉することで力を行使しているんだ」

「眷属だなんて、俺はそんなつもりは……」

「だから言っただろ、これは俺なりの解釈だと。だが結果として、お前の世界は俺を含んだことで力を増したはずだ。もちろん、三倍のアイツ等の方が普通に考えれば影響力は大きいけどな」

「問題ない。三倍だろうと母体の数値は圧倒的に俺の方が大きいからな。奴らが何倍しようとも俺には届かないさ」

「ずいぶんと威勢だけは一丁前だな……っと」

 外からの攻撃による振動が中にまで伝わるようになり、闇のドームに外の光が差し込み始めた。

「ちっ! 話しはここまでだ。時間が無いから手短に打開策を決めるぞ。俺はまだ本調子じゃないから三人の内一人を相手にする。残り二人をお前が倒せ」

「それはいい。なら一人はあの水を使うモヤシを相手にして欲しい」

「いや、俺はあの土野郎を相手にする。アイツが一番相性良くてチョロそうだからな」

「いや待てハーデスよ! 俺はあの水モヤシが一番相性悪いんだ! だから――」

「なあ統夜、俺さっきから思ってたんだが」

「なんだ?」

「お前、創造主とか言うくせにその剣しか創れないのかよ? 他にも創れるんじゃねぇのか」

「――っ!? ……わからない。だが、やってみる価値はある」

「とにかく、水のヤツも倒せる武器創れよ。それと、ドームを維持するのがそろそろ限界だ。行くぞ統夜」

「……やってやる! 創造主の名にかけて!」


 ドームが消えると同時に猿飛トリオを捉えた二人はそれぞれのターゲットに向かっていく。ハーデスは土助どすけ。そして統夜は炎次えんじ秋水しゅうすいを相手にしていく。

「待たせたなお前達。ここから主人公の逆転劇ってのをみせてやるよ!」

「ふっ、負け犬が一人増えたところで!」

「この戦況を変えることなど!」

「「出来ないでゴザルよ!!」」


「さて、おいモグラ野郎。テメェの相手はこの暗黒君主たるハーデス様がしてやる。光栄に思うんだな」

「なによぉ~! 初心者に負けた雑魚のくせにぃ!」

「……確かに俺はアイツに負けたけどよ、それでお前に負けることはねぇよ。テメェ一人程度なら瞬殺してやるからかかってきな! おデブちゃん!」

「だ、誰がおデブちゃんだぁあ! ――【土遁、岩石落としの術】!」

「その技はさっき見たよ。――喰らえ! 【ダークヴァキュームレンス】」

 ハーデスに降り注いだ岩石は全て闇に呑まれてしまう。間髪入れずにハーデスは技名を叫ぶ。

「広がれ! ――【ダークフォーミング】!」

 その技はハーデスを中心に闇を広げ辺り一面を呑みこんでいく。

「くらうか! ――【土遁、土隠れの術】!」

 土助は間一髪、その闇を地中に潜ることで回避する――はずだった。

『何そんな狭っ苦しい所に隠れてんだよ。根性無しだなぁ、おい』

「――っ!? なっ……き、貴様、何処にいるのだ!?」

『何処、だって……? 闇の中に決まってんだろぉ』

「何故、拙者の場所が分かったのでゴザルか」

『テメェそれ本気で言ってんのか? これだから脳内お花畑の童貞野郎の思考力はカスなんだよ。いいか、テメェがいるのは光の届かない地中だろ。光無き所を闇と呼ばずして何と言うんだよ。つまり、テメェは俺の闇から逃れようとして自ら俺の世界である闇に飛び込んできた愚か極まりないカモなんだよ』

「く、くそぉ……ならば!」

『無駄だよ。もうテメェの周囲は俺の闇が支配している。例え地中から出たとして、そこに広がるのは闇だ。さて、負け犬と蔑んだヤツにいたぶられるのはどんな気分なんだろうなぁ……後で感想聞かせてくれよ。まあ、それまでにテメェの意識があればの話しだけどな』

「い、いぎゃぁぁぁあああああああああああ……………………」

 闇が消えるとそこには地面から首から上を出して泡を吹き失神している土助と、怠そうに地面に腰掛けるハーデスがいた。

「ふぅ、調教完了。文字通り瞬殺だったな。アイツみたいに言うなら、尺持ったんかねぇ……。まあいいか。あとはしっかりやれよ~創造主、伊邪那岐統夜いざなぎとうや


 伊邪那岐統夜いざなぎとうやは、背後に消えていった暗黒君主と土助どすけを見送ると正面にいる炎次えんじ秋水しゅうすいに向き直る。

「さて、俺達も第二ラウンドといこうではないか」

「ふんっ、強がりおって。土助を離したところで我らの数的有利に変わりはない!」

「それに、貴様では拙者との相性は最悪でゴザルよ!」

「そしてなにより、貴様は我らを捉えることが出来ないのだからな!」

 腕を組み得意げに胸を反らす猿飛コンビ。その様子に頭を掻く統夜。確かにハーデスが合流したことによって三対一の構図が二対一にはなった。だが、根本的な問題――水を操る秋水との相性の悪さ。そして、竹林の中を素早く動く彼らを捉えられないという二つを解決出来ないでいた。

(さて、そうなんだよなぁ。ふむ……万物の創造、か、……そう、俺様は万物の創造主)

 自問自答をしながらも統夜は片膝をついて自身の履く靴に手を触れる。

(まずは、ヤツらに追い付くための道具……いや、武器だな)

 そして静かに眼を閉じる。

(果たして上手くいくのか……だが!)

 眼を見開き新たな創造を施すべく、統夜は声を張る。

「やってやる! 創造主伊邪那岐統夜が汝に命灯す! ――【韋駄天―鳴雷―いだてん―なるいかづち―】!」

 統夜の叫びによって彼の周囲に電流の円が出来上がり、触れていた靴が形を変える。

「…………」

 統夜が一瞬何か別の事に意識を持っていかれてる間に、周囲の電流は変化した靴へと流れ、電流が迸る。その靴は、黒のショートカットブーツで側面には落雷模様のラインが入っている。その落雷模様のライン上、踝部分にある球体の中では天色あまいろの電流が常に躍動し、踵部分は小さなホバーの様なモノが片脚につき四つ付いていた。

「なっ!?」

「何だとっ!?」

「……やはり俺様は万物の創造主だったのだな。あっという間に一つ目の問題は解決したぞ! さて、次は……」

 統夜は周囲に目を向け、海美歌うみかを見付けると、とある一点を見つめる。それは海美歌の――手に持たれた紐。先程ハーデスを縛りあげていたその紐である。視線を猿飛達に戻すと、統夜は合掌の構えを取る。

「よし! 創造主伊邪那岐統夜が汝に命灯す! ――【天衣無縫―荒繋―てんいむほう―あらつなぎ―】!」

 掌を離すと、そこからは七色に輝く糸を何重にも編み込んだ紐が生まれる。その紐を左手に、迦具土ノ剣かぐつちのつるぎを右手に持ち、統夜は猿飛達に迦具土ノ剣の切っ先を向ける。

「待たせたな。何処からでもかかってくるがいい!」

 勢いを取り戻した統夜の姿に一歩後ずさる炎次と秋水。

「流石は万物の創造主と言ったところか」

「だが炎次よ、アレは些か危険な臭いがするでゴザルよ」

「うむ。ここはひとまず距離を取ろう」

 言うやいなや、猿飛達は二手に別れ竹林の中に消えていく。だが統夜は冷静だった。

「なんだ、俺様が少しばかり力を発揮した途端恐れをなして逃げ出すとは。だが、何処へ逃げようとも俺様は貴様達を逃がしはしない」

 左眼のモノクル――【八咫方眼鏡やたのかためがね】に集中し、竹を蹴って移動する秋水を捉え続け、そして――

 ジュン――ッ!

「――っ!?」

 大地を踏み込み、靴に溜めた電力を一気に解放った統夜は、一直線に秋水まで突き進み、文字通り光速で秋水の横に並ぶ。追い付かれた秋水は慌てて近くの竹を蹴って直角に方向転換――すると統夜も同じ様に竹を蹴って追い掛ける。

「小賢しい! ――【水遁、水鉄砲の術】!」

 途中何度か迎撃を受けるも、その全てを新たに手に入れた鳴雷の速さで危なげなく捌いていく。追い付かれた秋水が方向転換をし、牽制攻撃を仕掛ける――方向転換から牽制を躱し、秋水へと追い付く統夜。

 この構図が数度繰り返されるが、

「――【刃等雷臥ばららいか】」

 両脚の空を切る様な蹴りから飛ばされる蒼雷の斬連撃。統夜も機を見ては明らかな牽制攻撃を繰り出していた。そして、何度目かの方向転換で秋水に変化が訪れた。

「なっ、何故進めないのだっ!?」

 まるで透明な壁に当たったかのように、先に進むことが出来ない秋水。少し距離を取った所にいる統夜がその謎を明かす。

「鳥籠は完成した。陽の光が入る此処では、光の透過により見る事は出来ないが、辺り一帯をこの紐が取り囲んでいるのだ」

 そう、統夜は秋水を追うように方向転換した際に左手に持つ荒繋の紐を竹に仕掛た。更に言うなれば――

「まあ、貴様の方向転換は全て俺様が誘導していたのだがな」

 ただ、闇雲に追いかけてた訳ではなく、荒繋の紐で出来た鳥籠の中に誘導する為に速さを調節し、秋水を無意識のうちに統夜の思うがままに方向転換させていたのだ。

「貴様はもう足枷をつけられた金糸雀も同然だ。――フッ!」

 秋水に向かって突っ込む統夜。次の瞬間――

「うぐっ!」

 蒼雷が駆け抜けた後には、秋水が見事な亀甲縛りに吊し上げられていた。

「こ、こんな辱めを……!炎次ーっ! 助けてく――」

 秋水が炎次を呼びきる前に、統夜は縛りあげた紐の先端を鳴雷の踵と合わせ、靴に溜めた電流を紐伝いに流す。

「――ぎゃぁぁぁあああああ!」

 一通り電気を流し終わると、秋水はアニメではお決まりの黒焦げのようになって、縛られたまま白目を向いて気を失っていった。


「……あと一人」

 モノクルで炎次えんじを探そうとした統夜とうやの下に土助どすけを倒したハーデスが合流する。

「モヤシは無事に焦がしたか。これであとは火のヤツか。どこ行きやがった?」

「……探そうと思ったが取り越し苦労だったようだ」

 統夜の視線の先に、ゆっくりと歩み寄る炎次の姿が見えた。

「……秋水しゅうすい、土助、お前達の敗北……無駄にはせんぞ」

 右手に真っ赤な火を纏い、炎次はふたりへ歩み寄る。近づくごとに炎次から発せられるプレッシャーが強くなっていくのを二人は肌で感じていた。だが、影響力がものを言う《世界闘戦》であることを理解している二人は、そのプレッシャーに動じる事はなかった。

「創造主、それから暗黒君主よ。貴様たちの屍を築くことで、二人への弔いとさせていただくぞ」

「はんっ! やれるもんならやってみやがれ」

「おい待てハーデス、またそんなお決まりなセリフを言うもんじゃ――」

「悪いが貴様達の敗北は決している。今までの間に、拙者は拙者が持つ最高の術を発動させる準備をし、遂に機が熟したところだ」

 上を見るがいい、と頭上を指差した炎次に続いて二人も頭上を見上げる。

「……なっ!?」

「おいおい、冗談じゃねぇぞ!」

 そこには――もう一つの太陽が存在していた。いや、正確には炎次によって生み出された高濃度に凝縮された特大の火球である。

「…………」

「……チッ……」

 言葉を無くした二人の額を一粒の汗がつたう。気のせいなのか、周囲の温度も徐々に上がってきているようだ。

「だ、だから言ったではないか。貴様はそうやってフラグを立て過ぎなのだよ」

「ンな訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ。アレは流石にヤベェだろ……」

 それは統夜も理解していた。頭上に居座る火球が落ちてくれば、【鳴雷なるいかづち】の速さを持ってしても逃げ切ることは出来ず、全てが飲み込まれるだろう。そう結論づけていた。

「今の俺、いや……本調子の俺でもアレを受け止めきれるかわかんねぇぞ」

「策を練ろうと無駄だ。この術が発動されれば最後、残るのは焦土のみだ。それにアレはまだ完全体ではない」

「……ですとよ。ンで、どうすっよ統夜」

 万策尽きたように両手を挙げながら統夜に問うハーデス。

「…………」

 火球を見上げ黙り込む統夜。

 誰にも気付かれてはいなかったが、その顔には何かを憎む様な――遠くない過去の後悔に向き合い苦しむ、そんな表情が表れていた。

 だが、時間にして三十秒もせずに、統夜は吹っ切ったかのように穏やかな表情を見せ、その口を開きハーデスへの問いに答える。

「……何とかするさ」

「……は?」

 開いた口が閉じないハーデス。

「すまん統夜。俺の聞き間違いじゃなきゃお前、アレを何とかするって言ったか?」

「……ああ。そう言ったが」

「統夜っ! テメェが大馬鹿野郎なのはもう分かってんだよ! 大体テメェだってもう限界だろ? そんな状態で一体どうしようってんだ」

「なに、ちょっとした禁忌を犯すだけだ。まあ貴様は黙って見ていれば大丈夫だ」

(そう、これは俺自身への叛逆。創造主たる俺にとっては絶対的な禁忌である)

「お、おい待てよ! 統夜―っ!」

 ハーデスの叫びに耳を貸さず、統夜は只々、目の前にいる炎次だけに集中しゆっくりと歩み寄っていく。

「待たせたな。さあ、この戦いに決着を付けようではないか、猿飛炎次よ」

「ああ、創造主よ」

(大丈夫だ、俺なら上手くやれる筈だ)

「この一撃で全てを決めよう。安心しろ、苦しむのは恐らく一瞬だろうからな」

「奇遇だな。俺も一撃で終わらせようと思っていたのだ。楽が出来て助かるぞ」

(俺が肉体的に傷を負うことは無い。だがこれは、俺の存在意義を傷付ける行為……)

「ああ、直ぐに楽にしてやる」

 炎次の右手に纏った火が煌めきを増す。その腕を左手で掴み天高くかざす。

(それでも……それでも!)

「俺は、ここでくたばるわけにはいかねぇんだよっ!」

「ゆくぞ! 創造主、伊邪那岐統夜いざなぎとうやっ!」

 統夜の周囲を、晴天の澄んだ空のような鮮やかな天色あまいろのオーラと共に、漆黒とは違うドス黒い歪んだ怨霊の様なうねりが突如現れ躍動し始めた。

「くらえ! 奥義――【火遁、太炎大文字の術】!」

 術名と共に右手を振りかざす。すると火球が形を変え、巨大な大文字を作り隕石の如く統夜目掛け急速落下を始める。

「創造主伊邪那岐統夜の名により汝降臨せよ――」

 だが統夜は頭上には目もくれず、自身の左に突如現れたドス黒い歪み。その中へ躊躇うことなく右手を突っ込む。

「――……【天叢雲剣あまのむらくものつるぎ】」

 剣の名を声に出しながら、歪みに突っ込んだ右手を天より迫る大文字へと思い切り振り抜く。


 パァアン――ッ!!


 何かが破裂した様な音と共に、周囲は発光し視界が奪われる。

 視力を取り戻したハーデスが眼にしたのは――

 ――燃焼性を持たず周囲へと降り注ぐ、火の粉の様な赤い煌めき。

 ――うつ伏せになって倒れる炎次。

 ――再び迦具土ノ剣を手にし、剣先を炎次へと向けて立つ統夜。

 そして、竹林の風景は完全に崩壊し、月明かりが照らす夜が広がっていった。

エピローグ


「さて、コイツらさっさと支配して帰ろうぜ」

 戦いが終わり誰よりも早く口を開いたのは、暗黒君主――ダークリッド・ハーデスこと、杉田武尊たける。その言動は平然とさせたつもりではあるが、内心で引っかかっているアノ出来事のせいで無意識に表情が乱れていないか、本人は心配していた。

 アノ出来事――先程の《世界闘戦》において伊邪那岐統夜いざなぎとうや――柊真染ひいらぎしんじが最後に創り……いや、呼び出した剣。姿が見えず、名前も頭上から落下していた炎次えんじの術の騒音と統夜自身がボソボソ言っていた為聞き取れなかった謎の剣。だが、アレだけの大規模な術をいとも容易く消し去るだなんて、普通に考えて有り得ないだろう。

(創造主、伊邪那岐統夜。テメェは一体、何者なんだ……)

 一方、真染に手伝わせ、先程の武尊同様に縄で意識を失っている自称忍者トリオを縛り終えた紗妻海美歌さづまうみかは少し焦りをみせていた。

「そうね。予定よりだいぶ遅れてしまったし、急ぎましょ」

「お、俺らがそう易易と《神染の儀かみそめのぎ》をさせると思うか?」

 意識を取り戻した猿飛秋水しゅうすいであったモヤシっ子が、縛られた状態で身体をうねらせながら答える。

「はぁ~ん、アレは神染の儀、っつぅんだな」

「そ、そうだぞ~。俺達はこれでも――」

 土助どすけであった小太りも、続けと声を上げるが途中で武尊に遮られる。

「これでも? 何だってんだ? あぁ?」

「ひぃぃぃいいいい!」

「まだ調教が足らねぇみてぇだな童貞野郎。それにそこのモヤシ、どっかで見た事あると思ったが、テメェ蓮山の二年だろ?」

「な、何故それをっ!?」

「やっぱな。俺の知り合いのクラス行った時に変わった名前のモヤシがいるって話してたんだよ。ほら、ここまでバレてんだからさっさとゲロっちまえよ」

 じゃねぇと、と言いながら武尊は自身の携帯端末をいじり、画面を見せ付ける。

「テメェらのホモってるこの写真、校内、いやネット使って世界中にばら撒くぞ」

「「ひぃぃぃいいいいいいい!!」」

 身体をウネウネさせて悶えるモヤシと小太り。特に土助の小太りはさっきの戦いのせいかより恐怖が顔に出ていた。

「こんな茶番してる時間、私達にはないんだけど。アナタ達、いい加減に――」

「逸見駿太。私立蓮山高校の三年四組だ」

 炎次であった小太りが重い口を開いた。その様子に横の二人は驚きを隠せなかった。

「へ、逸見さん! どうして!?」

「俺達は負けたんだ。それにある程度の情報も握られてる以上、身バレするのも時間の問題だ。だったら少しでも早く解放される方がいいだろ?」

「さっすが三年生は考えが大人だな。ほら、残りのテメェらも」

「ぐぐっ……聞上ぶんじょう敦士。私立蓮山高校二年四組」

「ひぃ! ご、言砂ごんざ優。私立蓮山高校一年四組ですっ!」

「学年バラバラか。テメェら何の繋がりなんだ?」

「我らは忍者同好会のメンバーである。忍を学び、いつか現代で忍として生き、語り継いで行く事を目的としている」

「ふーん」

 聞いておいてこの薄い反応。

「そう」

 海美歌も海美歌で興味無しである。

「さあ真染君、早く彼らをその、神染の儀とやらで染めてしまいましょ」

 流石にこれ以上は待たせれないわ、と海美歌の焦りが色濃くなってきていた。

 そしてこれまで言葉を発しず、海美歌の煽りにも動じなかった真染が、ここで落ち着いて答える。

「……シーラ、少し一人の時間をくれないか。流石にこの器の親族も心配する筈だからな、一言伝えておきたい。無論、神染の儀もその間に済ませておく」

 真染の申し出に最初は苦い顔をした海美歌も、納得したのかはたまた諦めたのか、どちらにせよ申し出を受理することにした。

「……わかったわ。それじゃあ十分後に駅のホームで待ち合わせましょ」

「わかった。感謝する」

「そうかい。んじゃ、邪魔者はさっさと消えさせてもらうとするよ」

「アナタ、まさか来ないの?」

「あ? 逆に俺が行くとでも? 冗談じゃねぇ、俺は元々お前らの敵だぜ。アンタんとこのボスも俺のことはお呼びじゃねぇだろう。そんじゃ~な~」

 力の入ってない左手をぷらぷらと左右に振りながら歩き去っていく武尊。

「スギタケ!」

 んあ? と彼を呼ぶ声に顔だけをこちらに向けて武尊は止まる。

「今日の事は、その……感謝している。また……明日、が、学校でな」

 恥ずかしさのあまり左手で顔を覆いながら喋る真染。言われた側の武尊まで恥ずかしくなったのか、すぐさま顔を背ける。そんなやり取りを海美歌は笑いを堪えながら見守っていた。

「……あ、明日はダルいから学校はサボる」

「サボる、だと……キサ――」

 だから、と武尊は真染の言葉を遮り、ボソッと口にする。

「また……来週、な」

「……ああ」

「真染君、私も行くわ。ちゃんと来てよね」

「心配無用だ。俺も早く行きたいと思ってる。では、十分後に駅でな」

「そ、そう。ええ、後で」

「うむ」

 こうして武尊と海美歌はそれぞれ場を離れていった。


 ようやく一人になった真染は深い溜め息をついた後に、改めてきちんと深呼吸をする。

「……ふぅ……」

 呼吸を整え、思考をクリアにする。スギタケにやった時とは違い、今回の目的は彼の言葉を借りるなら、奴らを眷族けんぞくにする事である。だからもっと具体的で拘束的に、それであって隠密的に支配しなければならない。

(……よし、やるか)

 考えをまとめ、神染の儀を始める。

「万物の創造主――伊邪那岐統夜の名により神言する。逸見駿太、聞上敦士、言砂優――伊賀の忍、猿飛炎次、猿飛秋水、猿飛土助よ、全員、我が世界に染まれ……」

 その眼は、これまで戦いの中であっても雰囲気的に表れていた暖かみのある目ではない。

 威圧は鋭利に研がれ、与える恐怖は冷めきり過ぎた雰囲気のせいで、冷凍庫に監禁されているかのように凍えていた。

 真染が、そして統夜としても見せた事の無い、それはあまりにも冷酷な眼であった。


―続―

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