第7話 小さな港町レストイア
ライトの故郷ダラムから北東に進んだ場所にあるレストイアは、ミッティア地方唯一の港町である。小さい港ながらも市場には新鮮な魚が並び、船からの旅行客なども多い。料理が美味い町で有名なのである。
そんな、港町レストイアに到着した二人は宿を決めた後、食事をしようと港近くにある酒場にやってきた。
中へ入ると賑わっているかと思えば、わりと静かで落ち着いたジャズが店内に流れている。
空いている席に座ると若い娘がオーダーを取りにやってくる。
「いらっしゃいませ。何にしましょう?」
「うーん、どうしようかな…」
ライトはテーブルに置いてあるメニューを手に取り何を頼もうか悩む。そんなライトの向かいに座るディベールは長い足を組み店の奥に座る男達を眺めていた。
「それじゃあ烏龍茶と刺身の盛り合わせとご飯一つ」
「はい、そちらのお兄さんは何にしますか?」
「この店で一番強い酒を一つ」
「はい、かしこまりました」
オーダーを取り終えると娘は厨房の方へと歩いて行く、その様子をライトはなんとなく目で追う。途中、目の前のディベールを見るが魔王様はどこか違う場所をじっと見つめていた。
何を見ているかとライトもそちらに顔を向けると、数人の男達が頭を抱えながらも酒を飲んでいるようだった。
「気になんのか?」
「勇者は関わるな。多分、面倒事だ」
「面倒事?」
さっきの娘が飲み物だけを持ってこちらに戻ってくると、ライトとディベールの前にグラスを置く
「お客さん達観光の人?」
「いえ、旅人です」
ライトが愛想笑いを浮かべながら娘に答える。観光客でないと聞くと少しほっとしたように娘が笑う
「そっか、遊覧船とか今やってないからさ。観光で来たんならガッカリしたんじゃないかと思って」
「そうなんですか?遊覧船からカモメとかにエサやるやつですよね?」
「そうそう…でも今、海に出られなくて」
娘の話に面倒事に巻き込まれたのを察してディベールは小さくため息を漏らす。
「どうしてですか?」
「先月くらいから海に大きなイカが現れるようになっちゃって危なくて船出せなくてさ」
「イカ…」
娘は困ったような表情を浮かべ、店の隅に座っている男達にひっそりと目を向ける
「あそこの人達、漁師さんなんだけど全然漁に出れなくて頭抱えちゃって」
ライトは先程ディベールが見ていた男達に再度目を向ける。
男達は日に焼けた肌を紅く染めるほど飲んでいるのか、泣きながら飲んでいる者もいれば泥酔してテーブルに突っ伏して寝ているものもいる。
「ヤケ酒だな」
「毎日入り浸っててやんなっちゃう」
娘は対応に困っているようで愚痴を言うと大きくため息をつき、二人から離れて厨房へと戻っていく
「なんか大変なんだな」
「まさかとは思うが、どうにかしようと思ったりしてないだろうな?」
ディベールの言葉にライトの肩が軽く跳ねる。
「ま、まだ何も言ってないだろ」
「顔に出てる」
ディベールは先程、娘が持ってきた店一番の強い酒を一口で飲み干すとライトの顔を見る
「本当にお節介な奴だ。勇者とは皆こうなのか?」
「悪かったな。お節介で…どうにかしたいけど、海にいるんじゃな…」
「放っておけ。私達は船に乗るわけではないんだから困らん」
「そうだけど…やっぱ魔王様は冷たいんだな」
「なんとでも言え。私は勇者以外興味ない」
それはそれでどうなんだと内心ツッコミを入れるライトだったが、今はまだどうすることも出来ないと思い小さくため息をつく
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