第5話 今月の勇者

「くっ…!」

ライトはもう1人の男と交戦していた。

男の剣は細身で軽く振りが速い、初心者のライトは攻撃する暇がなく受け流すのがやっとの状態。

「受けてばかりじゃ勝てないぜ?」

男はライトが弱いと判断したのかどんどん一方的に攻撃していく。ライトの剣を弾き胴体があいたところに蹴りを入れる。ライトは体勢を崩し尻もちをついてしまう。

その隙に男は剣を振りかぶる

「その首貰ったぁぁっ!」

「…っ!!」

ライトは両目をギュッと強く瞑り衝撃に覚悟を決めるが、いつまでもこない衝撃にゆっくり目を開けると綺麗な銀髪が目に入る。

なんとディベールがライト前に立ち左手で男の持っている剣を押さえ右手で男の首を掴んでいる

「私の勇者に手を出すな。愚か者…」

「……っ…」

ミシミシと首が締まり苦しそうに男が口を開け必死で息をし、ディベールの手を外そうと握っていた剣を離し両手でディベールの手を引っ掻く

暫く首を締めていると酸欠のせいか男が気絶して手がだらんと垂れ下がる。気絶したのを確認して男の首から手を離し男を地に転がす。

「残りは貴様だけだが、どうするんだ?」

「お前、何者だ?」

「貴様ごときに言う必要はない」

腕組みをしふんっとふんぞり返って 斧を持つ男を見据える。二人のやり取りを少し後ろから見ていたライトは立ち上がりこの先どうするか考えていた。

「大人しくそこをどけ。貴様ら盗賊に構っていられる時間などないからな」

すでに日も落ち薄暗くなってきており、街まではもうすぐだが二人はお腹も減ったし歩きっぱなしなので休みたかった。

「そう言われて易々と退くと思うのか?」

そんな二人をよそに、男は大きな斧を構えて戦う気満々のようでディベールはげんなりする。

「……勇者、アイツ殺していいか?」

「ダメに決まってるだろ」

「さっきから勇者って言ってるが…そいつ勇者なのか?」

「見れば分かるだろ」

コイツは何を言っているんだ?と明らかに不快そうな顔を向けるディベールに、男は少し驚きライトに目を向ける。

「あー…そうか。アンタ今月の勇者か」

初心者のような動きと装備、連れは手練た様子に納得するように男は頷く。

「今月?何のことだ?」

「勇者本人は知らないのか。あそこの王様は毎月市民を無作為に勇者にしてどっかの国から支援金貰ってるって噂だ」

「噂…」

そう言えばと、村の一部の人がライトが選ばれたのが可哀想とか言っていたのを思い出す。

「アンタ生贄にされたんだな。先月もアンタと同じような奴狩ったんだよ。俺たちにとったらただの餌だけどな」

まさか自分と同じような人が毎月いたとは知らなかったライトは、隣のディベールをチラリと見る

ディベールはイラついた様子で男をじっと見据えている。

「勇者と一緒にいるお前は護衛役の騎士ってところか?」

「そんな事どうでもいい。ペラペラとよく喋る奴だ」

すっかり辺りが暗くなってしまい、月の明かりがぼんやりと三人を照らす。

ディベールは歩きだし男に近付く、男は斧を構えてディベールが間合いに入ったところで斧を振り上げ攻撃をしかける。

「私の邪魔をするな」

攻撃が当たる前に男の肩に軽く触れると、男の体がみるみるうちに石化していき顔だけを残して体は動かなくなってしまう。

「なっ、何だ…っ!」

「今回は相手が悪かったな。あの勇者は私のものだ。誰にも渡さない」

「お前…騎士じゃ…」

「騎士ではない。私は魔王だ」

ミシミシと音をたてながら残っていた顔も石化していき、やがて全て石になってしまう。

ライトが近寄り石になった男を触って見るが、ただの石像にしか見えない

「おい…これ治るのか?」

「ただの石化だ。魔導士かアイテムで戻る。死んではないから安心しろ」

そう説明するとディベールはさっさと先を歩いて行く。ライトは少し心配だったが、ディベールの後を追いかけて隣を歩く

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