第3話 初めての洞窟探検
翌日、宿を出たライト達は街のすぐ近くにある洞窟へと赴いていた。近隣に住む村人からの話で、最近洞窟からうめき声が聞こえてきて気味が悪いので調べてくれと頼まれてしまったのだった。
勇者としては困った村人を救ってあげたいが、戦ったことがないため魔物を倒せるか自信がない。連れの自称魔王もどの程度の力量なのかもわからない
のでとても不安である。
「勇者、いつ中に入るんだ?」
洞窟の入口で数分立ち尽くしているライトに待ち疲れたディベールが声をかける
「入る!入るって…」
「さっきも言ってたな、それ」
「うるさいぞ…」
「怖いのか?」
「…………少し」
戦闘なんかしたことが無いライトには、洞窟に入るとか強敵と戦うとか戦闘に関係することはレベルが高く足がすくんでしまう。勇者になった以上克服しなければいけないが、昨日の今日では流石に無理な話でつい本音を漏らす
「大丈夫だ。私がついてる」
軽くライトの背中を叩き流れるような手つきで腰を抱くとそのまま洞窟の中へと歩いて行く
「おい…っ」
「勇者は、私が守るから安心して戦え」
腰を抱かれて進まされるのをやめさせるよりも、コウモリが奥から飛び出してきて来たのに驚き思わずディベールの服をぎゅっと握ってしまう
「勇者、歩きにくい」
「悪い…びっくりして」
握っていた服を離し軽く深呼吸するとディベールから離れて少し前を歩く
その様子をみてディベールが小さく笑みを浮かべ、壁沿いに等間隔で置いてある蝋燭に魔法で明かりを灯しつつ歩いていく
暫く進むとウオオォッと唸り声のような地鳴りのような音が聞こえてくる
「…っ!」
「これが例の声か?」
動じないディベールと違いライトの肩は驚きで跳ねて足も止まってしまう
「何かいるのは間違いないようだな」
ディベールは明かりを灯しつつ先へと進んでいく。ライトはディベールを盾にするように後ろから着いていくが、奥に進めば進むほど声が近くなっていく
狭い通路を進んでいくと急に開けた場所に出るが、暗くてよく見えずディベールが魔法で部屋を明るく照らすと中央に巨大な白い塊が目に入る
「何だ?あれ」
ディベールの後ろにいたライトが白い塊に近付き、手を伸ばして触れて見るとふかっとしていて少し温かい
「ん?あったかい…」
足元を見ると水たまりのようにも見えるが、しゃがんで触って見ると赤黒い
「赤い…血?」
二人の気配に気が付いたのか白い塊が動き出し、唸り声と共に顔を二つ覗かせる
白い塊の正体は巨大な犬で、しかも頭が二つついており一つはライトを睨みつけ牙をむき出しにして唸っている。もう一つの頭を片目に切り傷があり血が流れてとても痛そう。
「何だ…犬か」
そこらへんの野良犬を見つけたかのように呟くディベールは、前で固まって動かないライトの腕を掴み後ろに引っ張り自分の方へ寄せる
「勇者しっかりしろ」
「犬…頭2つ…」
「ケルベロスだと思うが…頭の数が少ないな。毛の色も白い…変種か?」
冷静に目の前のモンスターをみつめるディベールの横でライトはどうしたらいいか混乱していた。
ケルベロスは唸っているだけでこちらには攻撃をしてこない。動けないだけか争い事が面倒なのかわからないが、ディベールは固まっている勇者の背中を軽く叩く。
「どうするんだ?勇者。コイツ倒すのか?それとも見たって報告に戻るのか?」
混乱して思考が停止していたが、ディベールに背中を叩かれると少し落ち着きを取り戻し目の前の傷ついたケルベロスを見つめる
「なんとか手当てしてあげたいんだけど」
「手当て?何故だ」
「何でって…怪我してるから」
「……勇者がそれを望むならやってみるか」
人がいいなぁと思いつつディベールは目の前の白い獣に近付く。ケルベロスは唸り声を大きくし近付くなと言っているように吠える。
「黙れ毛玉。勇者がいなかったら煩くて殺しているところだ」
怪我をしている頭で噛み付こうと大きな口を開けてきたケルベロスの攻撃を避けて軽々と頭の上に乗ると、呪文を唱え怪我の部分に手を当てる
すると、淡い緑色の光がケルベロスを包み込む。数秒後ディベールがケルベロスから降りると先程まで唸っていたケルベロスは傷が癒えて痛みが引いたせいか静かに丸くなって眠ってしまう。
「治ったのか?」
「傷だけはな。魔力と体力の消耗が激しい。このまま放置してもあまり良くはならないだろうな」
「村に連れていく」
「どうやって?」
連れていくにも巨大すぎて引っ張っていくことも出来ずライトは困った表情を浮かべる。何かいい方法がないかと考えているとシューと空気が抜けるような音が聞こえてきてディベールはケルベロスの方に顔を向ける。
「勇者、あれなら運べるぞ」
振り返りディベールが指した先を見ると、体を維持出来るほどの魔力が尽きたのかケルベロスの体は小さくなり小型犬ほどになっている。ライトは近寄り眠っているケルベロスを抱き上げて体を撫でてあげる。眠っている姿は可愛くただの犬にしか見えない。
「戻って飼い主探すぞ」
どこか張り切ってるライトにディベールは小さくため息を漏らす。
「やはり、勇者とは人助けをするものなんだな」
これからも寄り道が増えそうだとディベールは諦め気味に思う。先に行ってしまったライトを追いかけてディベールも洞窟から出る。
先程、洞窟の調査を頼まれた村に戻り誰か飼ってくれる人がいないか探す。しかし、色んな人に聞いてみるがなかなか見つからない。
「勇者、あの娘にしよう」
「え?しよう?」
ディベールの目線の先には、家の前で鉢植えの花の手入れをしている一人の女性がいる。ライトが抱えていたケルベロスの首の皮を掴んで女性の元へ近付き胸元へ押し付ける
「ちょっ!何やってんだ!」
ディベールの行動に驚きすぐに駆け寄り止めさせようとするライト
「あら、可愛いワンちゃん」
いきなり突き出されて女性は驚いたようだったが、すやすや眠るケルベロスを抱いてよしよしと撫でる。
「お前が世話をしろ。コイツはいい番犬になるぞ」
「なに、勝手に…」
「番犬…最近、クマをよく見かけると言うから追い払ってくれるかしら?」
「問題ない。恩を感じた相手にはとことん尽くすタイプの犬だ。今は少し弱っているから体力が戻るよう世話してやれ」
どこまでも上から目線で勝手に決めつける物言いに、ライトはハラハラしながらやり取りをみていたが話はとんとんと進みケルベロスはこの女性が飼う事になった。
飼い主が無事に見つかり安心していると村の村長と村人数人がお礼の品らしき物を持ってこちらにやってくる。
「勇者様、よくご無事で。魔物退治さぞ大変だったでしょう?」
「いえ、俺は何も…」
チラリと隣のディベールを見るが興味無さそうに村の様子を眺めている。
「これであの呻き声に悩まされることもなくなりました。有難うございました」
深々と頭を下げられライトは少しだけ罪悪感を感じてしまう。倒してないし、むしろ元凶を村に連れてきて女性に押し付けたのだから。
「少しばかりですが、お礼の品です。お受け取り下さい」
「いえ、いただけません!」
差し出された金品や食べ物をみて首を横に振る。何もしてないのにお礼の品など貰えない。貰えるはずがなかった。
「勇者、貰わないとこやつらが困るだけだぞ。あと日が暮れる次の街までもう少しかかるぞ」
「う…でも…」
受け取らないと帰してはもらえなさそうな村長の雰囲気に、仕方ないと村人が持っていた食べ物の山からりんごを2つ手に取る。
「お礼はこれでいいです。先を急ぎますので俺はこれで」
一礼してそそくさと逃げるように歩き出すが、「勇者様有難う!」と声高らかに見送られまた罪悪感が押し寄せてくる。
「気にするな。あの犬が今後この村を守るだろうからな。番犬にはもってこいの犬だ」
「そうかもしれないけど…喜ばれるような、ましてやお礼を貰うようなことしてない」
「あの村にとっては勇者のおかげで問題が解決したことには変わりないだろう?活躍したかどうかなど誰も見ていない」
ディベールの言うことはわかってはいたが、ライトは何だか歯がゆい感じしかなかった。手に持っていたリンゴを1つディベールに渡す。
「…とりあえず、有難う。お前がいてくれて助かった」
勇者にお礼を言われディベールは嬉しくなり、思わず後ろから抱き締める
「うわっ!何!?」
「勇者に礼を言われるのは初めてだ。なかなかいいものだな」
「はぁ?」
ライトから体を離して嬉しそうな笑みを向ける。
「気分がいいから勇者の質問に1つ答えてやる」
「何だよ急に…」
「ほら、質問しろ」
何故、強制的に質問しなくてはいけないのかライトには分からなかったが自称魔王の相手には謎が多い。どうせなら一番困りそうな質問にしてみる。
「じゃあ……魔王の弱点教えて」
さすがに弱点は教えられないだろうと思っていたが、目の前の自称魔王はライトに向かって指をさす。
「魔王の弱点は勇者だ。魔王に傷をつけるのも殺すのも勇者だけだ」
簡単に答えたディベールに驚いていると腰に下げていた剣をするりと抜かれ、何をするかと思いきや自分の腕に剣を突き刺す
「ちょっ!何してんだよ!」
「まぁ見ていろ」
剣を引き抜くと案の定、傷跡から血が流れるが、すぐに血が逆流して傷口も塞がってしまう。今度は剣をライトに握らせて剣先を手で握りわざと傷をつくるが、先程とは違い瞬時には治らず血が流れている。
「自分では傷をつけられないが、勇者ならこうやって簡単に傷がつく。まぁこの剣では刺しても致命傷にはならないが」
軽く切り傷が出来た手のひらを見てディベールは嬉しそうに笑みを浮かべる。その様子にライトはどことなく違和感を感じるが、それも具体的になんなのかはわからない。ディベールは自分に治癒魔法をかけて傷を癒す。その様子を見つつライトの中でいくつか考えが過ぎるが今は何も考えないようにしようと剣を鞘にしまう。
「不自由な体だな」
自称魔王であり本物だと断定できる材料もない今、彼の言う弱点が本物なのかもわからないため鵜呑みにするのは早合点である。本物だとあまり思いたくもなかった。
「もう慣れた」
ディベールは手についた血を自分の服で雑に拭うと貰ったリンゴをひとかじりする。
「美味いな…勇者、これはなんという食べ物だ?」
「え?リンゴだけど」
「ほう、リンゴか…なかなか美味い」
美味しそうにシャクシャクと食べるディベールをみてライトはリンゴを食べたことがないなんて変な奴だなと思うだけで口にはしない。貰ったリンゴを食べつつ舗装された砂利道を進んでいく二人。
彼らの次の目的地は港がある小さな街レストイアだ。
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