第2話 魔王が仲間になりました。

勝手に仲間になったディベールに連れて来られるまま元いた街に戻り、宿をとるはめになったライト。

「まさか初日から仲間が出来て宿をとる羽目になるとは…」

お金は先程のモンスター狩りで少し溜まっているので問題ないが、目の前の宿の店主は困った表情を浮かべてすまなそうにライトに頭をさげる

「お客さんすまない。今日は一部屋しか空きがなくてな。しかもベッドはシングルしかないんだ」

「シングル…」

「予備の布団ならあるけどどうする?」

ライトがどうしようか考えていると、隣に立ち腕組みをしていたディベールがライトの肩に腕を回して店主をみる

「問題ない。手配してくれ」

「また勝手に決める…」

「1晩だけだ問題ない」

不満そうなライトに笑みを向けるとディベールは、店主から部屋の鍵を受け取り先を歩いて行ってしまう

ライトは小さくため息をつくと渋々後をついて行く

小さな宿の2階の角部屋を鍵を開けてディベールが先に中へ入る

「狭いな」

問題ないとは言ったが男二人では狭そうな部屋の広さに思わず眉ひそめる。ベッドは勿論一人用で最低限の机と灯り用のロウソクが置いてあり床もそれほど広くない。窓の外を見てみると向かいの酒場が見える

遅れて入ってきたライトが窓際に立って外を見ているディベールに近付き何を見ているのかと一緒に覗き込む

「そう言えば腹減ったな…」

朝食べただけで、ここに到着してから何も口にしていなかったのを思い出し急にお腹が空いてくる

「布団もう1つ用意するように言っておいたから。俺、飯食ってくるから受け取っておいてくれ」

返事をせず外を見ているディベールをほっといて部屋から出ていこうとすると無言で後ろから着いてくるディベール

「おい、俺の話聞いてたか?布団受け取れって言っただろ?」

「そんなことより飯だ勇者」

ライトの言葉を無視して先に宿の外へと出ていってしまうディベール。その様子に軽い怒りを覚えつつ、手足の鉄装備を取り外し念の為胸の装備と剣だけを持ってライトも外へと出る

外に出ると田舎とは違い人影がまだ結構あり、買い物する人や食事をする人などが見受けられる

「やっぱ田舎とは違うな…」

田舎とは違いまず街の明るさに違いを感じるライト

「そういやアイツどこ行ったんだ?」

先に出ていったディベールの姿を探すが近くにはおらず首を傾げるが、まぁいいかと向かいの酒場へと入る

酒場は活気があり酒を飲むのは勿論、歌って踊る人もいればコインやカードを使ったゲームをしている人もいる。ライトは空いているテーブル席に座ると店員の女の人を呼ぶ

「すみません、注文いいですか?」

「はーい!」

「ビールと野菜炒めと肉ピラフ下さい」

テーブルに備え付けられているメニューをみつつ注文していると、店にディベールがやって来てライトの向かいに座る

「いらっしゃい!お客さんも何か注文する?」

「注文?あー…」

座って周りをくるっと見渡し近くの女性が食べているものを指さし

「あの女が食べてるものをくれ」

「ん?あー、チョコレートパフェね。はいはい」

注文を取り終えた店員が奥へと消えて行くと、目の前の不満そうなライトに目を向ける

「何だ?勇者」

「何だじゃない。お前、勝手すぎるぞ。すぐにいなくなったり、勝手に注文したり」

「寂しいならそう言え」

「違う!!」

一方的な言い争いをしていると綺麗な踊り子の女性が近寄ってきて、ライトに擦り寄るようにくっつく

「あらお兄さん、もしかして勇者様なの?」

「え?あー、はい」

くっつかれた驚きと女性特有の甘い匂いと柔らかさに顔を赤くし女性を見れずにいると甘い声で囁かれる

「この国じゃ珍しくないけど頑張って魔王倒してね?」

テーブルにショットグラスを置いて酒を1杯注ぐとライトの前に差し出す踊り子

「勇者になった祝い。私の奢り」

「有難うございます」

綺麗な女性にドキドキしつつ貰った酒を飲もうと手を伸ばした瞬間、ディベールに奪われ飲まれてしまう

「ほう、なかなか強い酒だ」

酒を飲んでも動じないディベールに一瞬たじろぐ踊り子の女性

「残念だが、先に勇者に目を付けたのは私だ。私のものに勝手に手を出すな」

「はぁ?!お前何言って…!」

酒を飲まれたことより誤解を招くような言い方に思わず立ち上がり訂正しようとしたが、踊り子の女性はライトとディベールを交互にみて

「もしかして、お兄さん達…そうゆうこと?」

「違います!」

「消えろ女。さもなければ消す」

「物騒な事言うな!すみませんアイツちょっと常識なくて」

「いいえ、邪魔してごめんなさい」

すまなそうな感じでステージの方へと戻って行った踊り子の女性を見送ると深いため息をついて席に座る

「変な事言うなよ…」

「あの女は盗賊だ」

「はぁ?」

「さっきみたいに勇者に強い酒を振舞って、酔いつぶれたところで手持ちの財布や装備を奪っている」

「まさか」

もう一度、踊り子に目を向けるとステージで華麗なダンスを披露していてライトが見ているのに気が付くと笑顔でウインクしてくる

その様子に驚き頬を赤らめて顔を逸らす

「勝手な事いうなよ」

「別に信じろとは言っていない。勇者が危険な目に遭わなければいいからな」

「何だよそれ」

ディベールの言葉がよくわからず不満そうな顔をしていると二人のテーブルに頼まれた料理が並ぶ

美味しそうな匂いと見た目にお腹がぐぎゅーと声をあげる

「美味そう…いただきます」

スプーンを手に取り早速肉ピラフを口いっぱい頬張る

「美味い」

目の前のパフェを珍しそうに見ているディベールに目を向けて

「なぁ、お前本当に何者なんだ?」

「魔王だ」

「…冗談じゃなくて。仲間になってくれるのは有難いけどお前のことよく知らねーし」

「何を知りたい?」

長めのスプーンを手に取り上に乗っているソフトクリームからすくいとって一口食べる

「美味いなこれ」

「例えば…何処からきたとかさ」

「レイヤールだ。魔王の城がある土地」

間髪入れず答えてきたディベールにあくまで魔王として振る舞うのかと内心呆れつつもう少し質問してみる

「年齢は?」

「さぁ?細かくは忘れたな…500歳はいってるんじゃないか」

「目的は?」

「勇者を城まで連れて帰ること」

まるで口説いた女性を自宅までお持ち帰りするような発言に思わず眉をひそめる。パフェを食べつつ答えていたディベールだがライトの反応に首を傾げる

「城で何をするんだ?」

「何って…やることなんて一つしかないだろう?」

ますますいかがわしい発言にしか聞こえなくなってきてしまい軽く咳払いをして仕切り直す

「勇者に何を求めてる?」

「強さだ。私を倒せるぐらいの力」

「倒す…」

そう言えば自分の目的は魔王を倒すことだったと思い出し、目の前の男が本当に魔王なら今がチャンスなのでは?と考えるが、レベル6程度の自分が攻撃したところで本物なら傷などつかないだろうし偽物だった場合ただの暴力になってしまう

仮に本物ならわざわざ勇者に逢いに来てレベル上げを手伝い、仲間になりたがる理由は何だ?と首を傾げる

「難しく考えるな勇者」

「え?」

「私の正体がなんであれ利用すればいい。お前の目的は魔王を倒すことだろう?」

「そうだけど…」

「勇者なら真っ直ぐ魔王を倒す事だけ考えていればいい」

どこか楽しそうに笑うとパフェの残りをペロリとたいらげる。その様子に少し腑に落ちない顔でとりあえず返事をし料理を口に運ぶライト


勇者ライトの旅は魔王と仲間になったところから始まるのだった。

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