僕と魔王のRPG

ピコ

第1話 勇者になりました。

ここは王都から遠く離れた田舎町ダラム。都会と違って広がっているのは田園風景と放牧されている牛や羊の姿。そんなのんびりと平和な田舎町がいつもと違い今日は騒めいている。

一軒の家の前に王都からの迎えの馬車が来ており、その田舎町にはない珍しい光景に近所の住民が集まってきていた。

「じゃあ、行ってくるよ母さん」

家から出てきた青年が振り返り母に別れを告げる。その顔はどこか不服そう。

「ライト行ってらっしゃい!頑張ってくるのよ!」

一方、母はと言うととても嬉しそうでどこか誇らしげな感じも見受けられる。そんな母の姿を目に焼き付け、ライトは横付けされている馬車へと乗り込み椅子に座ると馬車は軽快に王都へと向かって走り出す。いつまでも手を振り馬車を見送る母を窓から顔を出して名残惜しそうに見つめていたが、それも見えなくなってしまうと椅子に深く座り直し溜息を吐く。

「何で俺が勇者なんだ…」

数日前に届いた手紙をポケットから取り出して見つめる。そこには城への招待状とめでたく勇者に選ばれた旨が記載された手紙が入っており、それ以上詳しい内容は書いていない。

自分がどうして選ばれたのかはわからず眉をひそめ口からはため息が自然と出てしまう。今は、窓の外を流れる田園風景を不安な面持ちで眺めるしかなかった。

王都には馬車だと半日くらいで着く。ライトが着いたのは夕方で日も傾き始めていた。馬車から降りて目の前の大きな城を見上げる。これから自分が中へ入って王様に謁見するのかと思うと緊張で手が冷たくなってくる。

「ようこそお越しくださいました勇者様こちらへどうぞ」

ぼーっと城を見上げていると声をかけられハッとする。銀縁眼鏡にオールバックの髪シュッとした細身のスーツに身を包んだ男が軽くお辞儀をしてからライトを城の中へと案内する。城の中へと移動する途中ふいに視線を感じ街中の方へと目を向けるが行き交う人々しかおらず、こちらを見ている人はいない。

「気のせいか…」

首を傾げてから案内してくれる男に着いて城の中へと入って行く。



謁見の間に通されると赤い絨毯の上をぎこちない足取りで歩いて行く。その先には真っ白いヒゲを蓄えた王様の姿。その威厳ある姿にライトは自然と頭を下げる。

「よく来たな勇者よ。そなたには辺境の地に住む魔王を倒して欲しいのだ」

いきなり勇者と呼ばれすでに決められている事実に困惑した表情を浮かべる。何をもってして田舎育ちで剣もろくに振ったことがない自分が本当に魔王を倒すなど大それたことが出来ると思われているのか不思議に思い王様に問いかけてしまう。

「あの、でも俺…戦いとかしたことないし魔王の城に行けるとは思えないんですけど」

「うむ、そう言うと思ってこれを用意させた」

王様が側近の男に視線を送るとライトの前に新品の鉄装備一式と現金と周辺の地図が置かれる。

「それはこちらからの贈り物だ。大したものでなくてすまない」

側近の男達がライトを取り囲み鉄装備を一式着せていき、腰には鉄の剣がつけられる。初めての装備の重さに驚きつつも本当にこれで魔物と戦えるのか、自分に剣が扱えるのか不安が押し寄せてくる。

「あの俺…本当に剣なんて扱ったことなくて…いきなり戦うなんて無理です」

「安心しろ。護衛を1人つける。選ばれた勇者をみすみすと殺すようなことはしないさ」

王の隣にいる側近が得意げな表情を浮かべつつ不安そうなライトに告げる。

「勇者よ、頼んだぞ」

「…はい」

王様に優しく言われ「はい」と答えるしかなく、不安なまま城を後にする事に


慣れない鉄装備をつけたままガシャガシャと音を立てながら城から出て来ると緊張がほぐれて小さく溜息が漏れる

「はぁ…不安だ…」

先程の側近から城の入口で待つように言われて、一緒に旅をしてくれるであろう人が来るのを大きな門の前で待つ

「魔王なんて…いるのか?」

「いるぞ」

独り言をボソリと呟くと隣から声が聞こえてきて驚き横を向くと、長くて綺麗な白髪が目に入る。腕組みをして得意げな顔でライトの驚いた顔をじっと見つめては口を開く。

「魔王は私だ」

「え?」

「 次の勇者はお前か…なかなか根性ありそうで良かった」

ライトの戸惑っている様子を見つめ真新しい鉄装備を人差し指で弾く

「私はディベール。辺境の地に住む最強の魔王だ」

「………」

「何だ?恐ろしすぎて声も出ないか」

「いや、魔王にしては弱そうだなと…ジャージ着てるし」

魔王だと名乗る男の服装は思った以上の軽装備、布の服に革のブーツ近くのコンビニに行くスタイルで目の前に立っている。街の人がみたら先程貰った鉄装備一式着ている自分の方が強そうに見えるだろう

「鎧などなくても強いからな問題ない」

得意げにライトに向かって笑うと胸の前で組んでいた手を離し、ライトの腕を掴み引っ張り歩き出す

「は?え?何?」

「さっさと行くぞ勇者」

「ど、どこに?」

「近くのダンジョンだ」

「はぁ!?ちょっ、ちょっと待て!」

ライトの制止の声も聞かず、突然現れた自称魔王ディベールに街の外に連れていかれるライト

二人が立ち去った後、護衛をするはずだった騎士が城の外に出てくるが立ち尽くし困ったような表情を浮かべるが勇者はもう街から出てしまっていた。



街の外まで引っ張られ近くの草むらへとやってきたところで手を離される。歩いてる途中で何度も振り解こうとしたが、びくともせず為すがままに街から出てしまった。

「ここ…草むらだけど?」

「勇者、戦闘経験は?」

「あ、あるわけないだろ!さっき勇者にされたし…」

「そうだろうな。勇者にするならもう少し戦闘経験を積んでから送り出してもらいたいもんだ」

ディベールは呆れたようにため息を吐いて足元にいた低級モンスターのスライムを掴んでライトの方へ投げる

投げられたスライムはライトの足元でぷにぷにと動き突然ライトに突進してくる

「うわっ!」

身体に当たっても鎧のおかげで痛くはないが衝撃はくるので押されて後ずさりしてしまう

「勇者、腰の剣使え」

本当に戦闘をしたことがないとわかり、また小さくため息をつくと見かねて助言をする

その助言を聞いて思い出したかのようにライトは剣を抜いて突進してくるスライムを真っ二つに斬る。斬られたスライムは黒い霧になって消えてしまう

「はぁはぁ…やった…」

「運動神経は悪くなさそうだな」

スライムを倒したのを見て笑みを浮かべるディベールは、近くにいる低級モンスターを見つけるとライトの方へ掴んで投げる

「よし、どんどん行くぞ勇者」

「わあぁ!!」

反射的に剣でどんどん斬っていく、30分もやればレベル1から6に上がっていて、ディベールは満足そうに笑みを浮かべつつ疲れきって倒れたライトに近付く

「なかなかやるな勇者」

「お前な!いきなり現れて何なんだよ!」

「魔王だ」

悪びれもなく腰に両手を当てて座り込んでいるライトを見下ろして告げる

その言葉を安易に信じられるわけもなく疲れた体を起こして立ち上がるとディベールに不審な目を向ける

「魔王がこんなとこに…ましてや勇者の俺に会いに来るわけないだろ!」

「何故会いに来てはいけないんだ?」

「え?…えっと…」

「魔王は物語の後半でないと盛り上がりにかけるのか?勇者になってからすぐでは弱すぎて簡単に倒されてしまうからか?」

「…ぅ…」

「くだらん理由だ」

思いつく限りの理由を言いライトが口篭ると鼻で笑い飛ばす

「じゃあ何なんだよ」

「勇者、私を仲間にしろ」

「……は?」

「城まで案内してやる」

ニヤリと怪しい笑みを浮かべるディベールにライトの顔は曇り相手から一歩下がって首を横にブンブンと振る

「結構です。お前怪しいし、本当に魔王でも怖いし」

「恐れることはない。私は勇者の味方だ。それじゃあ仲間になったところで街に戻って宿を探すぞ」

勝手に決めてしまうとライトに近付き、ライトの腰に手を回して街まで無理やり歩かせる

「はぁ!?勝手に決めんな!おいっ!」


勇者初日から魔王を仲間にしたライトの旅はまだまだ始まったばかり。

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