第12話
【思春期12】
(我が妹の宿題)
あの後はかなり苦だった。
中学生の俺らはゲームセンターから出なければならない時間になってしまい、俺らも出ないとまずいのだが、アーケードゲームにハマってしまったのか張り付いて離れようとしないミサを無理矢理に引き剥がし、やっとの思いでゲームセンターを出る。
「ぐすん……」
ミサは子供のようにすすり泣いていた。
でも、俺の苦労なんて何も知らない周りの奴らは俺に視線を向けてくる。視線が痛い。
「……泣くなよ」
そんな一言で泣き止むほどこいつは大人じゃない。というか昔から変わってねえ。
でも、このままじゃ子供泣かせてなにもしない兄という肩書きを付けられそうだ。そんなことになれば俺が自殺しなきゃならなくなる。妹という訳では無いが、妹(幼馴染)を不幸にする兄なんてこの世に要らねえからな。
「仕方ないか……」
コンビニで残り七百円を使い果たして適当にお菓子を買ってやると、さっきの泣き顔はどこへ行ったのかにこやかにそれを食べ始めた。
本当に単純なヤツである。扱いやすい訳では無いけれどね。
結果的に財布の中身が命の代わりに犠牲になった。
どちらにせよ死んでいることに変わりはない。デッドオアデットである。
はぁ。妹に奢るのはまた先になるかな。
家が駅前らしいのでその辺まで送ってやり別れた。
*****
やっと最近始まった夏休みって感じなのに、なんでこうも早く時が流れるのだろうか。夏休みはもうあと一週間を切っていた。
やっとこの辺になって宿題を取り組み始めては遅いのだ。俺は小学校の頃そう学んだ。過ちから人間は学ぶものである。だから俺はそうならないためにすべての宿題を終わらせていた。
だが、どうだろう?俺は今、明らかにレベルの低い掛け算やらを解いている。
そう、これは我が妹の宿題である。
前の年も今年も言った。早くやれよと。だが、どうだ?やってるか?答えは否だ。
我が妹は過ちを犯してないのである。いや、正確には過ちを犯した時に生じる辛さってのを味わってない。
この時間ギリギリになって莫大な量の宿題を終わらせるのは、残りの休みを全て捨てるようなもので、夏休み最後が宿題に覆い尽くされ全く休んだ気にならないし、気持ちよく新学期をスタートできないのだ。
ここで俺が妹に対して心を鬼に出来ればその過ちってのを与えることが出来るし、この難しくもないのにいちいち手を動かさないといけない単純作業からも解放される。俺からしたら一石二鳥。
……でも、そんなことをしたら我が妹に嫌われちまうだろうが!
俺はまたペンを進めた。
「……学んでねえのは俺の方か」
「そんなこと言ってる暇があるなら手を動かして!」
なぜ俺は我が妹に説教をされながら我が妹のテストを解いてるんだろ?
「はぁ……」
エアコンが効いて少し肌寒いくらいのリビングで、キッチンに近い方のテーブルと椅子を使って我が妹のために問題を解いていた。その我が妹はというと30センチのものさしを片手に、ただ俺を見張っている。
普通に考えて立場的に反対なんじゃないんですかね?これ、いつから俺の宿題になったんですかね?
基礎中の基礎的問題しかでないので、別になんでもないのだが、流石にこの量。ゲシュタルト崩壊ってわけでもないけど、頭がおかしくなっちまう。いくら簡単だからって問題出し過ぎだよな。夏休みってのは休むためにあるんだろ?なんでこんな量の宿題なんてやらせるんだ。
我が妹は何も悪くない。こんなに宿題を出す世間が悪い。こんなに可愛いんだから我が妹が悪いわけがない。可愛いというのはどんな時でも正義なんだ。
でも、宿題を俺だけがやるのは間違いである。
妹に自由研究を押し付けてブーブー言ってたがまあ、そのくらいはやってもらわないとダメだよな!俺なりに心を鬼にしたつもりである。
「……俺の昔の自由研究見てもいいからやれよ?」
「どこにあるの?」
「俺の部屋のテレビの下」
「合点承知之助!」
小さな力こぶを作り、もう片手でそれをグーで軽く叩いてウインク。
我が妹はこうなりゃ早い。写すことしかもう考えてないみたいだ。
最近、合点承知之助にハマってるらしい。使えるタイミングがあれば絶対に使いやがる。まあ、可愛いからいいか。
それから我が妹はすぐにリビングに戻ってきた。
小学五年の時ってなにやったっけな?
「おにい!これ?」
ちょっと古くなってるのか厚紙がちょっと黄色くなってる。その厚紙にやったんだっけ?忘れちまった。
それを開くとなぜか妹は朗読を始めた。
「あ、あん。だ、だめよ。もう少しムード作ってくれないと。……なんだよ。別にいいじゃないか。減るもんじゃないんだし。もう!本当にあなたってすぐそれね!」
小学校五年生の頃は俺もやんちゃな時期だったようだ。自由研究ってのはなんでもいいのだろう?と、解釈し、知ったばかりの色っぽい(?)言葉を使って俺は大人のあり方というテーマで小説みたいなのを書いたのだ。
今となっては駄作どころではない。若気の至りってやつ。俺はなんという失敗を犯してしまったのだろう?人はこれ呼んで黒歴史という。
失敗で学ぶ。なんて前に言ったがそんな騒ぎではない。やり過ぎるとこんな風に大変なことになるので、良い子のみんなは気をつけようね。
俺は妹からそれをサッと取り上げると、復元不可能なくらいにビリビリにしてゴミ箱に流し入れた。
「さっきのなに!おにい!」
「それ以上聞けばもう手伝わんからな」
「ちぇー」
なぜ舌打ちを伸ばすんですかね?普通にちっ!ってやられれば俺もこの宿題放棄するんだけど、憎めない奴だ。
それからまる一日を潰して我が妹は自由研究を俺はその他を終わらせた。
可愛い顔して読書感想文ですら俺にやらせるって結構な鬼ですね。俺は心すら鬼に出来ないのに!兄だろうが道具だとしか思ってないあの精神を俺にくれないかな。
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