第6話
【思春期6】
(妹はやっぱりネコ科らしい)
そんなに勉強会らしいものは出来なかったし、距離も遠くなった気がする。収穫はパンシャー好きってことくらいだ。
こんなの望んでなかった。もっと仲良くなれると思ってたのに、ちっとも仲良くなれた気がしない。それどころか少し空気が悪くなったまであるな。
「おーにぃ?」
肩を落としながら呆然と帰路につくと、急に視界が真っ暗になった。
「……それを言うならだーれだ?とかじゃないか?我が妹よ」
「ぴんぽんぴんぽーん!せいかーい!」
妙にテンションが高い気がする。いや、俺のテンションが地に落ちてるから元々テンションの高い妹を見てそう思ってしまうのかな。
「そう言えばどうしたの?今日おねーちゃん連れてきてたよね?やっぱりあの女……」
「勉強会してもらっただけだよ。そう。それだけ……」
「そっか!じゃ帰ろ!」
「そうだな……」
「……大丈夫?元気ないけど」
「あ、そうだ。我が妹よ。今日母さんも父さんも帰れないらしいから勝手に飯食えってさ」
「それはいいけど」
「じゃ、どこがいい?」
言ったよね。人間察しないといけない場面もあるって。それが今だ。
「……そう。わかった。コンビニでもどこでもいいよ」
妹は冷たくいうと、さっさと歩いていってしまう。
「じゃコンビニいくか」
適当に近場のコンビニに入ると、自分のぶんをカゴに突っ込み妹に聞く。
「で、お前は?」
「……なんでもいい」
ぶっきらぼうに言うと、店の外に出てった。
「……そうかよ」
妹がいなくなった後に小さく呟くと、妹のぶんも自分のと同じように買って外に出る。一応まだ妹はいた。
それから一言も話さぬまま俺らは家に帰る。
食卓を囲むが俺も妹も一言も発さない。「いただきます」と「ごちそうさま」だけだった。
その雰囲気にいたたまれなくなり自分の部屋に向かい、ベットに横になると天井の見上げると、何一つ変わりない天井がある。
でも、なんでか色が鈍く霞んでるように見える。
綾瀬となんでもっと気の利いた会話が出来なかったんだろ。変に緊張しちゃったし話してる時より黙ってた時の方が多かった。
そんなことが頭の中で反復していたお陰で、妹とも不仲というか空気が悪くなってしまった。でも、別に喧嘩とかではない……はずだ。前にも言った気がするが俺は決めてるんだ。妹とは喧嘩しないって。
「……とりあえず風呂でも入って歌えば気分転換くらいはできるかな?」
自室から出ると一階に降り、脱衣所の引き戸を開くと電気をつけるとなぜか真っ暗になった。
「ん?」
もう一度手をかけ、電源に指をかけると正面に我が妹がタオルに手を伸ばしているところだった。病的にまで白い肌をした下ろされた煌びやかな黒髪から滴る水滴が鎖骨へと滑り落ちると留まり、妹がちょっと動くとツルツルっと体のラインをなぞるようにフリーフォール。俺はそれを瞬きも忘れて観ていた。当然ながら妹は裸体である。
そして、それが落下したあとに足元から流れを遡るようにして視線をあげていくと、彼女の夜空にも似た藍色の大きな瞳と目が合う。
光を反射し輝く彼女はまさに神。ゴットだった。こんなに美しいものを俺は見たことがない。俺が芸術家ならば何千枚と絶対に絵に残しているに違いない。でも、そんなことは出来ないので現代の科学に頼って、そっと脳というハードディスクに彼女の裸体を保存するのであった。
でも、前にもこんなことあったよな。その時はなんか色々投げられたっけ。
備えあれば憂いなし!身構えてみるが何かが飛んでくることもなかった。代わりに冷たいブリザードを向けてきたが、それだけ。
いつものように小さめの水色っぽい可愛らしい下着を身につけると、そそくさと脱衣所から俺の後ろを通って退場していった。
「……相当だなこれ」
頭をポリポリ掻きながらパジャマを脱ぎ下着を洗濯機の中に突っ込むと、風呂に入る。
「……はぁ。なんでこうなっちまったんだろう」
滝に打たれ邪念を払う武士道関係の人がやるように頭からシャワー浴びていると、変なことばかり考えてしまう。
こんなことしてどうやってそんなの払えるんだろ?逆に頭いっぱいになっちまう。
「いやいや!とりあえずなんも考えるな俺!明日はテストなんだし集中しないと!」
両頬を両手で二度三度叩くと、ペシペシっと風呂の中に響く。
その後、無理矢理気分を上げようと部屋で音楽を垂れ流してゲームをやり始める。時間も忘れて、ただひたすらにやり続けた。
そうしていると、ちゅんちゅんとスズメさんが囀りが聞こえてきた。外に目をやると太陽さんがまた今日も鬱陶しく登り始めているところだった。
「やっちった……」
仕方なくゲーム機を片付けると、まだ起きるには少し早いが下の階に向かい洗面器の前に立つ。すると、目の下にくまを作った小さな丸顔の童顔な男の子が大欠伸し、腫れぼったい目から涙が出てくる。
もう十五年もお世話になってる自分の顔だ。
顔をパシャパシャ洗ってミント味の歯磨き粉を歯磨きに付けて歯を磨く。
若干目が覚めたがやっぱりまだ眠い。徹夜なんてするんじゃなかった。それもテスト前に。
そんな後悔をしながらも眠気との勝負になんとか打ち勝ち、家を出ると学校を目指す。
期末試験だ。
教室に入ると早かったからかまだ数名ほどしか居ない。学校で少しでも寝ておけばこの後のテストで寝落ちせずに済むと思うので、とりあえず机に一直線で向かうと倒れ込むように机に突っ伏して意識を手放した。
「おい……起きろ」
「……ッ!」
コンっ。と頭に痛くない程度の打撃攻撃が入りぼうっとした意識の中目を開けると、体のラインが素晴らしいことが服の上からでもわかるほどの美人な大人の女性が、仏頂面で黒い出欠簿と大きめの茶色い封筒みたいなものを持って立っていた。
「あ、はい……」
大人の出す色気というオーラの元、眠気はどこかに吹っ飛び、目を覚ます。
因みに格好は黒色の生地に白で大盛りバンザイとプリントされたTシャツがぷっくらと餅のように二つほど膨らんでいて、もうまさに大盛り。文字通りである。そしてグラマラスなぼっきゅっぼんなラインをひた隠しにしないで、強み(尻)を強調するかのようなジーパンがまたいやらしい。
教師だというのになんてものをみせるんだ!これじゃ授業に集中出来ないよ。目が大盛りに行っちゃうよ!
……センスのない俺が見ても明らかに先生のファッションはどうかしてると思う。
だが、そんなことはお構いなくそのスタイル、綾瀬並みに整った容姿、その色気(オーラ)だけで俺らを黙らせるには十分なのだ。その服がいかにもって風に見える。
逆にこの人はこういう服を着せておかないと、もはやこの世のものだと判断出来ない領域にまで達してしまうだろう。だからそのセンスを与えた神様の采配は完璧だね。
「じゃ、出欠確認始めるぞー」
カツンカツンと靴を鳴らして教卓方へ行く際、艶々とした黒髪が俺の近くをヒラヒラと靡いた。その瞬間、いい香りが立ち込める。本当に担任の三浦先生は危ない人物だ。俺の頭を悩殺してくるぜ。気をつけねえと。
注意深く(主に大きな胸)見てると、カツカツ靴を鳴らして教団の前に立ち、出欠確認をし、連絡事項の確認。まあ、早く帰れだの提出物どうこうなどの話だ。前にもらったプリントにも書いてあったし、別に問題ないのにな。
「今日はテストだ。皆、気を引き締めて取り掛かるように」
あんなふざけた格好をしているが、学校一人気がある先生だろう。スタイルでって奴も(特に男子)多いが、苦手科目の数学もわかりやすく教えてくれるし、なによりこの先生だけはいじめられていた時に手を差し伸べてくれていた。
まあ、あの仏頂面も慣れてしまえば可愛いものだ。毎日三浦先生の胸に癒されてると言っても過言ではないね。
今日明日とテストがある。今日は五教科明日は四教科だ。
今日は三教科(国数英)とそのほかの二教科だ。
今日もいいものを見たし楽勝だぜ!だなんて思いつつも、ペンを走らせる。
そして本日のテストを受け終えたので皆様に先に、結論を自信満々に言ってやろうと思う。……死んだ。完膚なきまでに叩きのめされた。
でも、綾瀬のおかげで全滅は免れた。
英語やらの暗記系は余裕だったし、数学も普通に解けたのでそこまでは完璧である。でも灯台下暗しというか俺の得意教科であるはずの国語の問題用紙が、わけのわからないことばかりをつづっていた。
もうそれは日本語ではなかった。古文とかいう意味のわからないものだったのだ。
仕方なく俺は必殺のあれを繰り出す。
どれにしようかな天の神さまの言うとおり。もとい、パンツの色は赤白黄緑大作戦である。
赤点じゃないことを天の神様とやらに切実に願いながら、ノートやらの提出物を出しに職員室前に行くと、
「ちっ……」
今、一番会いたくない奴と出くわす羽目になった。
勝手に舌打ちが漏れる。
関わること自体がめんどくさいので、ノートをさっさと置いて立ち去ろうとするが、そのちっこいのがガンを飛ばしてくる。
「なんでお前が綾瀬と仲良くしてんだよ……」
小声で裕翔が呟いた。
「……ひとつも仲良くねえよ」
「……いじめてたやつがあいつに近づくな」
心臓に釘を刺されるかのような衝撃が体を駆け巡る。
俺は黙ってその場を離れると教室に戻り、帰り支度を整えて学校を後にする。
結局、綾瀬と話せなかった。気まずい雰囲気になっただけなのに話を切り出すことが出来ない。何度がチャレンジしようとしたが、なんて声をかければいいかがわからずに気づくと逃げだした。
どうすればいいんだ俺は?
未だに綾瀬と話すと顔が妙に熱くなる。
いじめをやめさせてくれた綾瀬エンジェルの事があって、より一層好きになってしまったみたいだった。
……でも、これは一方的な気持ちの押しつけだ。俺が一人で舞い上がってるだけ。綾瀬は天使らしく誰ともどんな悪党にだって分け隔てなく仲良くし、天使天使してるのだ。それを誤解して捉えてはならない。綾瀬は厚意で勉強会をしてくれただけ。これは決して好意ではない。
裕翔の言ったこともその通りだと思う。いじめてたやつがこんな感情を抱くのはおこがましい限りだ。
俺だって破り捨ててやりたい。こんな気持ち。
でも俺は__
そんな時、家の鍵が開く音がした。
「ただいまー」
いつもよりかはちょいとばかしテンション低めのトーンで、我が妹が家に帰ってきたことを知らせてくる。
なんとなく下の階に降りていくとその正面には玄関がある。そこで妹は靴をちょうど脱ぎ終わりったのか可愛いチェック柄のスカートをヒラヒラさせて振り向いた。ぱっと目が合う。だが、すぐに逸らされ、リビングの方へと歩いていってしまう。俺は我が妹の背中を追いかけながら話しかける。
「……な、なぁ。我が妹よ」
「なに?」
我が妹は振り向き、目を細めて嫌そうにそう言った。
「その、そ、相談があるんだが」
「……はぁ。その前にいうことがあるんじゃない?全く、本当にごみぃだね。まあ、もういいけど。で?なに?」
溜息をつき冷たい目で睨んだ後に、我が妹はニコッと笑った。
「……すまんな。俺もあまり理解できてなかったんだ。説明すると少々長くなるけどいいか?」
「仕方ないなぁ……あ、その前にココア作っておにぃ?」
「……わーったよ」
湯を沸かして自分の分のコーヒーと我が妹の分のココアを作って持ってくと「ありがと。にへへ」と、笑って我が妹は受け取った。
「熱いから気をつけろよ?」
なんて言いつつ我が妹の真正面に腰掛ける。
「うんっ!」
どうやらいつもの調子に戻ってくれたみたいだな。
「……話ってのはな。あや……いや、おねーちゃんについてだ」
「綾瀬おねーちゃんだよね?うん。で?」
「……俺は綾瀬と仲良くなりたいと思ってる。でも、俺は前にあいつをいじめてただろ?」
「はーん。わかったよ。おにーちゃん。要するに綾瀬おねーちゃんと仲良くなりたいけど、昔にいじめてたから仲良くなんかしていいのわからないんでしょ?」
指をパチンと鳴らしてこのドヤ顔である。ええい。指さすんじゃありません。
「……ま、まあ、そういうことだ」
まあ、相談乗ってもらってるんだし、何も言わないけれど、なんだこいつ。理解すんの早すぎ。こんな高スペックな妹が俺には居たなんて。と、思いつつ自分用に作っておいたコーヒーをすする。
「そんなの大したことじゃないよ。おにいが本気で謝りたいって思ってるなら、とにかく謝るしかないよ。きっとおねーちゃんも許してくれるよ」
「……それがな。謝っても許してはくれないんだ」
「謝るだけで許されると思ってるおにぃが悪いね。誠意を見せないと!」
「……誠意?」
「そう!誠意!私も私をいじめてきた人達嫌いだったけど、今は……うーん。そんなにだし!」
ピースサイン片手にウインクする妹はこれ以上ないほどに可愛かったです。まる。
「そうか……そんなにか……」
「大丈夫?」
「あぁ……ありがとな」
そう言って頭を撫でてやると、妹は気持ちよさげに目を細めた。
妹はやっぱりデレが多めのネコ科らしい。
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