第4話
【思春期4】
(ファミレスで勉強会?)
予算さえあれば最低でも回らない寿司屋とかに連れて行ってる自信があったが、予算がなければ何も出来ない。こればかりはまだ働けない中学生にはどうしようもないね。
「ここなら安いし美味いからなんでも頼んでくれ!」
安定のサイゼリヤ。コスパでみれば俺史上これ以上のところはないと思う。
胸を叩いてそう言うと横に座ってる妹は嬉しそうに笑って「私、ドリア!」だなんて言ってる妹。対照的に正面に座ってる綾瀬は申し訳なさそうにチラチラとこちらを見て様子を伺っているようだった。
「どうした?綾瀬?」
「……本当にいいのかしら?帰りの時はちょっと……どうかしてたわ」
恐縮そうに体を縮めて、捨て犬のように周りを不安そうに見渡しながら震えていた。
「……明日の勉強会の前払いということにしておいてくれないか?それでも納得出来ないなら前の詫びも含めてだと思ってくれ。こうでもしないと俺が……いや、これだとなんか俺が勝手に許してもらいたがってるみたいだな。こんなところしか奢ってあげれないし、単なる自己満足でしかないけど、ダメかな?」
「……ダメ。許さない……けど、前払いってことなら」
いつものように即答ではなかったけれど、やっぱり許してはくれない。
まあ、食べてくれなかったらそれはそれで仕方なかったけど、よかった。お金はなくなるけれど少しばかり気分がいい。
これがお金では買えないものってやつか。
……よくよく考えてみるとお金なくなってるから買えてるのか?よくわからなくなるね。
「……ねね。おにぃ?」
俺を小さな声で呼ぶと、妹は顔を綾瀬に見えないようにメニュー表に隠して手招きする。
「ん?どうした?」
俺もメニュー表に入って耳を傾けてやると「まさかいじめてた人ってこの人?」と、訊いてきた。
なんて世間知らずな奴なんだ。普通そこは察しろよ。いや、察するな。知らない方がいいこともあると思うなお兄ちゃんは。例え察してしまったとしても聞くんじゃない。暗黙のルールって奴だろ?
「どうなの?」
答えを渋ってるとあのピンク色のエフェクトを出しながら、興味津々にニコニコしながら聞いてくる。なんであんな屈託のない笑顔で低い声が出るんですかね?黒豹というその前に腹黒とでもつけておけばいいか。
ということで新たなあだ名は腹黒豹ってことでいいかね?……なんかすげえ残念。
「……それ以上は聞くんじゃありません」
答えながら綾瀬を見やるとまだメニューを眺めていた。
「……綾瀬?決まったか?」
「ふぇ!?ええええ、えぇ。決まったわ。……まさか妹ちゃんとき、キス……」
何か言ってから顔を赤らめて、メニュー表を被るように隠れてしまった。
正確には決まったわ。までは聞こえたけどその後、は全く聞こえなかった。なんであんなにキョドってんだろ。
「そうか。じゃ、ピンポン押すね」
何も答えてくれないし、隠れたままだったが決まったなら問題ないね。
「ドリアでいいんだよな?我が妹よ」
「……本当にその呼び方やめてくれない?」
プクッと膨れて妹はそう言い、息をつく。
「なんでだよ?いいじゃん」
「それだとなんか妹みたいじゃん!」
「いや、妹じゃねえか!」
「妹だけど!違うの!」
女心ってのは東京駅並みに全くわからないな!なんであんなに複雑なのかね?比喩表現的にこれ以上はねえな。俺はそう確信するのであった。
「何がどう違うってんだ?」
「もういいバカにい!」
ふんっ!と、鼻を鳴らして腹黒豹はそっぽを向いてしまった。
本当に何考えてるんだか……
「あ、あの……」
「はい?」
声がしたので横を見やると、全く知らない奴が全く知らない声で全く知らない機械持って立ってた。
「ち、注文は……」
間違いない。店員だ。
「あ、ごめんなさい」
ガン飛ばしてしまったので頭を下げる。
怯えさせちまったけれど、まあ、注文できたのでよし。
「よし、我が妹よ!野球行こうぜ!(訳:ジュース取りに行こうぜ)」
「もういい!わかった!それでいいよもう!」
やっぱりご機嫌ななめではあるが、納得したようだし問題ない。我が妹は我が妹だ。
「綾瀬は何がいい?」
「そ、そうね……二人の方がいいわよね。じゃ、お茶で」
何かを呟いてから何度かうんうんと頷いて、遠慮するように彼女はそう言う。さっきから様子が変だ。どうしたんだろうか。
「おっけー。じゃ待っててくれ」
妹と共にドリンクバーまで向かったが、話どころか目も合わせてくれない。
一言も話してくれないまま、妹と席に戻る。まあ、席に戻っても横の妹からはブリザードを浴びさせられ、本当に納得してくれたのかは謎だけれど、個人的に「我が妹よ」がいいので、直したくない。
綾瀬も綾瀬で心ここに在らずって感じだ。さっきからお茶をちょびちょび飲みながら、ぼけーっとしていた。
なぜこうなったんだろうね?なにか間違えたかね?
それから暫くして、ドリア二つとたらこスパゲッティ一つを両手に抱えて店員さんが持ってきた。すげえなぁ。と、感心しつつそれぞれの場所に並べられる料理達。
「いただきます」
俺がそういうと綾瀬も続けて言った。でも、我が妹は何も言わずに熱々のドリアを大口で冷ますことなく食べる。すると、鯉がパンでも強請ってるかのように、あふあふ口を開けて言ってる。
「……我が妹ながら馬鹿なのか?」
思わず笑ってしまった。
「あ……あふい……」
「そりゃそうだろ。見りゃわかるわ」
「おふぃい……どふにふぁしふぇ?」
何言ってるかさっぱりだけど、涙目になってる妹を放っておくことは出来ない!
「ど、どうすればいい?」
笑うことも忘れて聞き耳を立てる。
「み、みふぅ……」
「水だな!わかった!」
無理矢理に自分のお茶を妹の口の中に入れ込んでやると、妹は細かく口を動かしてからごっくんし、口元をウエットティッシュで拭う。……なにとはいわないけど、なんだかえっちいね。
「ふふっ……ふはは……」
突然、綾瀬が笑った。
「ど、どうした?」
「だ、だって……二人して焦ってるんだもん。ふ、ふふっ……」
声を殺そうとして笑ってるが、ダメだ。どんどんボリュームが大きくなってやがる。
「は、恥ずかしいじゃんおにい……」
「ん?俺はそうでもないぞ?」
なんか周りからの視線が集まってるような気がする。なんか気持ちいいような……って、いかん!俺はMじゃないぞ!どちらかといえばSだ!だからいじめちまったんだろ!?
「もう!ばかにい!知らない!」
「なんでだ!」
あんなにうるさかったのに、なぜか急に静かになった。
「二人は仲いいよね。恋人みたい」
「……は?」
何言ってるのか全くわからなかった。
「そ、そそそそんなわけないでしょ!?」
フリーズした頭の中に妹の恥じらいや怒りが混ざったような声が飛んできて、ちょっとばかり冷静になれた。
「そうだぞ!妹とは仲良いと自分でも思うが、一線は越えないからな!」
「わ、わけわかんないし!ぶっ飛ばすよおにい!」
さっきからちょいちょい思ってたけれど、妹キャラ崩壊してない?いつもは余裕な感じなのに、今回は追い込まれてますね。どうしたんでしょうか?
「……さっきキスしてたのに?」
妹の状況をアナウンスしていると、原子爆弾並のが投下された。
「は、はぁ!?そんなわけないし!おにいとき、キスだなんて……」
人差し指と人差し指を付き合わせて遊んでこちらをチラチラと見る。
「え?昔はよくしてたろ?」
「それは小学校上がる前の話!馬鹿なの死ぬの!?」
「今も食べちゃいたいくらいだけどねぇー」
「本当にばかにい!いっぺん死んで三日後に生き返ってから別の方法で死んで死に方がなくなるまで繰り返せ!」
「おおう……すげえ要求だなぁ」
腹黒豹がカミツキガメにシフトチェンジしたね。黒カミツキガメだね!……なんか亜種っぽい!
「……その反応からしてキスしてたんじゃないの?」
綾瀬はストローでお茶をかき回しながら、唇を尖らせて言った。
「……なぜそう思ったか教えて欲しいね。妹とキスなんてするわけないだろ?」
「当たり前でしょ!ばかにい!」
そこまで必死に否定されるのは心が折れちゃうので、反抗しておく。
「俺はしてもいいんだぞ!」
「絶対無理!口臭クラーケン!」
「……嘘だろ?」
「ふんっ!」
俺の心に損傷甚大な深いダメージが負わされた。もう妹とキスする他に治せるものは無いみたいだ。ということで治るわけないね。さようなら僕のガラスハート。そしてこんにちはクラーケンハート。強くなった気がするね!
「そっか。じゃ、通報しなくて済みそうね」
だなんて、透き通った笑顔で彼女はそう言った。
「……通報する気だったの?」
「特別にね?」
彼女は小さな声で人差し指を立てて唇に押し当て、ウィンク。
「……しー。じゃねえよ!可愛いけど!」
……気がついて口を抑えたがもう時すでに遅し。思わず、本音がポロリしてしまった。女の子の水着以外のポロリは需要ないって本で読んだことあるでしょ!なんでこう俺は軽口なのだろう?
さっきまで仲良く黒カミツキガメやってた妹はブリザード光線を俺に向けて発射し、綾瀬は首元から上に向かってどんどんと顔が赤くなっていき、ぼんっ!と、噴火した。
真逆過ぎる反応のおかげで緩和されていい感じ……ということになってくれれば良かったのだが、妹は思いっきり足を踏んできた。
「痛った!な、なにすんだよ!」
「知らない!」
「やったことに責任持とうか?」
妹に言ってもそっぽを向かれて終了。
「ほ、ほんと。き、き急に何なのかしらね。こんな中身スカスカからっぽのゴミ屑に言われたところで、毛ほども嬉しくないわ」
「ちょっと?言い過ぎじゃありませんかね?」
二人はもうすっかり冷えてしまったご飯をそそくさと食べる。俺も二人に倣い飯をかきこむ。
これじゃ最初と何ら変わらないんだけど。
「あ、甘いもんでも食うか?」
「「要らない」」
二人の息が完璧にあった。そして、二人は同時に立ち上がる。シンクロ率いいですねぇ。
だが、俺が退かなければ妹は動けないのであった。理不尽にも席から蹴り出されたから百パーセントじゃないけど。
仕方なく二人について行き、会計を済ましてから自動ドアをくぐると、外はもう暗くなっていた。
先に二人は出て行っちまったけど、店の前で二人は仲良く談笑タイム。二人の仲はいいのかね?
「いくら日が長くなったっても七時ともなると流石に暗いよなぁ」
「そうね……夏前とはいえ夜は夜でしょ?」
「そうだな。お前ん家ここから遠いんだっけ?」
「ちっ!」
真横の妹が舌打ちをしたような気がした。いやまさかな。我が妹がそんなことするわけない。
「いえ。むしろ近いし問題ないわ」
「ね、おにぃ?小学五年生を一人置いて帰ったりしないよね?」
そうそう。気のせいに決まってる。ピンク色のエフェクトだして、こんなに可愛い妹が舌打ちなんてするわけがない。
「そんなことするわけないだろう?じゃ、俺らこっちだから。また明日学校で!」
「明日は図書室で勉強会するからね?覚えておきなさいよ?」
「了解です」
それから簡単に挨拶を済ませて、妹と一緒に帰った。
妹さえいなければ綾瀬の家まで送って、突然のゲリラ豪雨!仕方なく彼女の家のお世話になり、同じ屋根の下でのドッキドキのお泊まり会!ってのがテンプレじゃないか!
まあ、でもこんなに可愛い妹さえいればいいね。
矛盾しまくりで頭おかしくなりそう。
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