vs『七刀流』ハギ=シュウザエモン
二日目、日没。
『エルフ保護区』ディープ・グリーン。
『J陣営の『副業傭兵エシュ』と♦陣営の『『七刀流』ハギ=シュウザエモン』とのデュエルが成立しました』
緑男の前に、白髪の
相当お年を召しているだろう、細く尖った顎に彫りこまれたシワ。紺色袴に草履を履いている。腰からぶら下げている鞘の数は、七。全て抜刀済みだった。
「知ってるぞぉーお前もチートなんじゃろー」
傷の回復具合はまずまず。エシュは薬草をはがしながら首を捻った。知らない言葉だ。
「ちー、と?」
「ズルじゃズル! きっととんでもない能力とかちゃっかり持っとるんじゃろ!」
エシュはこれまでの対戦相手を思い返していた。どうやら、傭兵とは色々と常識が異なるみたいだった。で、老剣士を見る。
その上半身は異形だった。赤いサングラスのような複眼。肩から先がそれぞれ三本、さらに背中に一本、うねる触手が生えている。触手の先は三又に分かれ、それぞれ刀を掴んでいる。小柄な老人がそれほどの異形を足二本で支えている。しかもその重心は揺らがない。
「ご老人、相当の使い手と見える」
エシュが好むタイプの戦士だった。見た目はさておいて。
「うるさいチートが!」
七刀流vs双頭槍。
触手がうねうねと斬りつける。それでもその剣筋は鋭い。サイズの大きい双頭槍を縦に構えて連撃を受け流す。付け入る隙がない。骨の下でエシュが口角を上げた。
「しゃ――――!」
横一閃。大槍の薙ぎを老剣士は退避する。空いた隙に踏み込むも、エシュのリカバリーは速かった。大槍を器用に突き捌く。
「受けよ、七星一落!!」
目にも止まらない連続突き。しかし、槍のリーチが有利に働いた。六本の連続突きをそのリーチ内で全て弾ききる。そして、七本全てを活かしきってもエシュの首に届かない。
「だがこっちも攻めきれん、か」
「ワシの剣が、チートなんぞに負けるかぁ!」
もう一度横薙ぎ。今度は振り抜いて衝撃波を飛ばす。六本で凌がれ、残った一太刀が煌めく。側面からエシュが飛ばしたのは後ろ手の突き。
「なんとぉ!?」
「元の持ち主のようには行かんか」
剣先の中心を突いて、その触手から刀を弾き飛ばすつもりだった。だが、それだけでは及ばない。見ると、白色の持ち手が中程で刃方向へ直角に曲がっていた。持ち手が安定している。中々良い七振りのようだった。
「ベルは?」
エシュが右手のベルを見せつける。
「喰ったわ!」
露骨に傭兵の肩が落ちた。ならば殺すしかなくなる。それならば、そんなに難しい話ではなかった。
彼にとしては、是非とも技術と経験でもって打ち負かせたいところであったが。
「悪いな」
「ああ悪いさこのチートがあ!!」
下がるエシュを老剣士が追う。だが、単純なスピード勝負ならばエシュが圧倒的に上だ。追い付けない。そして、距離を取ったエシュが構えるのは、二メートル半もある巨剣。あの十一聖王の剣。それを投擲の構えで。
「ぬぅ――――っ!」
轟音。
これが回避できないのは、ここまでの打ち合いで分かっていた。そして、エシュの怪力で投げつけられれば七刀でも防げない。
「があ、ふ――――っ!!」
巨剣は老剣士のど真ん中、ちょうど胃の辺りに命中した。巨剣が突き刺さったまま老人の身体が転がり、白目を剥いて動かなくなった。血溜まりに沈む剣聖を見つめていると、勝利のアナウンスが鳴った。
エシュは、その刀に手を伸ばす。
◆
「日が落ちたな」
夜の闇が世界に落ちる。デュエル方式の戦争では闇夜の不意打ちのリスクは大分下がる。どの陣営の動きも大人しくなるだろう。エシュにとっては絶好のチャンスた。
夜闇を切り裂くような疾駆。右手に双頭槍、左手に七刀の束、背に巨剣を背負って。傭兵は走り続ける。
(ほとんどただの勘だが…………)
それでも、バカにできない。
死体同士の
副業傭兵エシュは走り続ける。
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